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影法師ー月影のグリモワールー  作者: あさゆー
第一部 月影のグリモワール
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第1章 アルテミスの日常Ⅰ

気が付いたら、僕は自宅の地下室にいた。

地下室には無数の本棚があり、その中には父さんが蒐集した本が大量にある。

父さんが何を仕事にしていたのかはよく分からないままだったが、無数に鎮座している本の内容を見るに医療関係だったと推測する。


本人に聞くのが一番手っ取り早いのだけど、生憎父さんも母さんも既に病死している、なんでも身体を蝕む正体不明の病だとか。


そんな記憶にもあまり残っていない両親のことを考えながら、僕は床に散らばる無数の本を踏まないように気を付けながら進む。

何故進むのかは自分でもよく分からないけど、僕はこの地下室でやり残したことがある、そう確信している。

何故確信していると言い切れるのか、それは先程から聞こえる


『誰……か……私を……』


この女性の声のおかげだろう。

まさか誰かがこの地下室で本の生き埋めになっているのだろうかと考えたが、本はそこまで散らかっていない。

というわけで僕は手当たり次第に声の出所を求めて辺りを歩き回るが、一向に見つからない。

半ば諦めかけた僕は、本棚に寄り掛かるように背を預けて一息吐いた。


その時聞こえたのだ、あの声が、耳元に。

僕はハッとして横を見るが、そこにあるのは本棚に立てかけてある無数の本。

一瞬幻聴という考えが頭を過ったが、立てかけてある本の内の一冊が異様な雰囲気を醸し出していたことからその考えは一蹴した。


紐できつく縛られた金の刺繍が施された黒い本、間違いない、これだ。

僕はそれを手に取ろうと手を伸ばす。

もう少しで……


『リン!起きろ!』


あともう少し……爪先に触れたその瞬間に、僕の意識は親友の声によって現実世界に引き戻された。





「……んぅ?」

「起きろ、リン。依頼受けたぞ」


目を覚ました僕の目の前には親友であり仕事のパートナーでもあるイルド・フェンサーの顔が。

彼の銀色の短い髪が日光で反射して眩しい、寝起きにこの眩しさは目に悪い。

まだ頭が寝ぼけている僕は、とりあえず状況を整理しようと頭を働かせる。


えーと確か……あぁ、そうだ。

イルドが仕事の依頼を受けてくるから待ってろと言ったから、僕は行きつけのカフェテラスで一眠りしていたのだ。

窓から差し込む日光と心地よい温かさが味方して、僕が眠り込むのにそう時間はかからなかった、心地よすぎて熟睡の域に達していたが。


「ったく、寝ぼけてないで目ぇ覚ませよ。何せ今日の相手はサイクロプスなんだからな」

「分かってるよ、それじゃあ行こっか」


欠伸をしながら僕は立ち上がり、勘定を済ましてカフェテラスを後にした。

身体に降り注ぐ陽光が暖かく心地良い、今なら……


「今ならもう一眠りできる……とか考えてるだろ、リン」

「うん、今日は最高のお昼寝日和だよねー」

「ちょっとは否定してくれねえかなぁっ!?」


そうこう話してる間に、街の外へ通じる巨大な門の前までやってきた。

その巨大で堅牢な門は、魔物と呼ばれる人に害をもたらす獣の侵入を阻むのに一役買っている。この門があるからこそ人々は安心して街の中で暮らせていると言っても過言ではないだろう。


門の警備をしている衛兵の人と軽く会話をして、僕たちは門を通り抜けて街の外へと足を踏み出した。


「それでイルド、まさかサイクロプスに真正面からぶつかるわけじゃないよね?」

「当たり前だ、さすがの俺でも腕力勝負であんな巨人と渡り合えるとは思っちゃいねえよ」


僕とイルドは傭兵として生計を立てている。

仕事内容は街の清掃から凶悪な魔物の討伐まで種類様々、とどのつまり何でも屋だ。

そして今回の依頼は、最近この王都イルフォール周辺に住み着いているという巨人型の魔物、サイクロプスの討伐だ。


魔物にも危険度が存在しており、上からSS,S,A,B,C,Dとなっている。

Dは言わずもがな危険は少なく、Cはそれなりに危険、Bがまあまあ危険といった感じ。


問題はAランク以上の魔物の場合だが、これ以上は話が長くなりそうだから置いておこう。

ちなみにサイクロプスのランクはCランク、つまり下から二番目だ。

その理由は、これから明らかになるだろう。


「おい、リン」

「うん、いたね」


僕とイルドは互いに頷き、視線を正面に向ける。

そこには歩くたびにずしんずしんと重苦しい足音を響かせながら歩く巨人、サイクロプスの姿があった。

茶色く濁った肌に不気味な一つ目、極めつけは右手に持つ巨大な棍棒だろう。

あんな馬鹿でかい棍棒で叩かれたら、悲惨な目に合うこと間違いなしだろう。


「んじゃ、サポート頼むわ。リン」

「イルドも気を付けて、一回でも攻撃を受けたら終わりだよ」

「分かってるって」


自分よりも頭一つ分長身の親友は快活な笑みを自分に向け、サイクロプスに向けて駆け出した。

その後を追いかけるように、僕も背の鞘から剣を引き抜いて走り出した。


サイクロプスもこちらに気付いたらしい、獣のように荒々しい咆哮を上げながら棍棒を振り上げた。

簡単な用語を載せていこうと思います。

【魔物】

武技世界アルテミスに蔓延る獣。

その力は強大で、その力は人間にのみ振るわれる。

目的は不明だが、人間の殲滅が存在理由だと結論付けられている。


【傭兵】

職業の一つで、リンクとイルドがそれに該当する。

簡単に言えば何でも屋で、街の清掃から魔物の討伐まで幅広くこなす。

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