九尾の狐と子狐と琥珀
俺はその日ようやく実をつけた、ジャガイモを見て、テンションが上がっていた。
なぜこの世界にジャガイモがあるかというと、俺が持ってきたからだ。俺は来るときは身一つで来たが、実際にはいろいろな物を持ってきている。どうやって持ってきたかは、もちろん魔術だ。【無属性】の【三階級】に位置する魔術で亜空間を作り出し、一日で用意できるだけのものを詰めてきた。亜空間では時間という概念が存在しないので、いくらしまっていても痛むことはないから便利だ。ただ、三階級魔術のくせに膨大な魔力を必要とするから、作り出すのが大変だというデメリットが存在する。ちなみに、土属性魔術で土を良くしたり、成長を早くしたりしてようやくできた。やはり、世界が違うと適応するのにそれ相応な時間がかかるのが分かった。
ほかにもさまざまな地球産の植物を植えてある。森にいる動物や作っておいた川を泳ぐ魚があるので品目は困らないが、ただ、足りない物もある。生きたものからとれる食べ物だ。つまりは乳製品などが、足りない。そもそも、どんな生き物がどんな食材になるのかがまだわからないことが多すぎる。二か月ちょっとじゃ、とてもじゃないが知り切れない。そのため、俺は植物の水やりなどを終えた俺は毎日のように森の散策をしている。今日は森の北側の奧を調べて見る予定だ。
俺は索敵魔術を使いながら、森を散策している。もう、二か月以上、森の中を散策しているので、頭のいい獣たちは俺にかなわないと知っているのか、あまり襲ってこないようになった。
俺が今日の夕食の食材を探していると、俺の索敵範囲に大きな魔力をとらえた。今までの索敵じゃ反応しなかったのがおかしいぐらいの魔力量だ。俺は一応様子を見るために魔力もとに向かった。
魔力もとまで数百メートルの位置まで来た俺は、魔術で視力を高め、さらに透視の魔術で索敵に反応した魔力を持った動物を見た。
「わぁお」
俺は思わず、声を出してしまった。数百メートル先には巨大な狐がいたのだ。しかし、ただ巨大なだけではない。とても美しいのだ。銀色の体毛をなびかせ、尻尾は九本ある。尻尾のそれぞれの先の色が違うところが、また美しい。実を言うと俺は狐が大好きなのだ。
『そこにいる者、隠れてないで出てくるのじゃ』
俺がしばらく狐に見とれていたら、気配を感じ取られたのか、こちらに向かって喋りかけてきた。こっちの動物って喋れるんだ。と思ったところで、俺は大きく跳びあがって九尾の狐の前に降り立った。
「やあ、こんにちは」
とりあえず挨拶はしておく。挨拶は大切だ。
『ふむ、こんにちはじゃ。しかし、わしを見て怯えないとは変わった人間じゃの』
「? なんで、おびえるんだ。あんたはこんなにも綺麗じゃないか?」
『!?』
九尾の狐は目を見開いたが、それは一瞬のことですぐに凛々しい顔つきに戻る。
『し、しかし、人の子よ。こんな秘境で何をしておったのだ?』
あ、話を変えた。
「俺は、この森に住んでいるんだ」
『ほう、久しぶりに森に帰ってきたから、森の魔物たちがおとなしいと思ったらお主の仕業じゃったのか』
「へえ、この世界の動物は魔物っていうのか」
『ん? お主、魔物も知らんのか?』
「ああ、知らない」
『なるほど、じゃから、わしのことを見ても怯えなかったのじゃな』
「ん? どういうことだ?」
『わしは人からはランクEXの魔物といわれておる』
「と、言われても……」
『お主、本当にこの世界の人間か? 普通、人の間ではランクEXの魔物には近づくなといわれておるものじゃと言うのに』
「だって、俺はこの世界の人間じゃないからな」
『へ? どういうことじゃ?』
「それは――」
俺はこの世界の人間じゃなく、地球という異世界から来たということを掻い摘んで話した。
『なるほどな。それなら、魔物を知らなくても当然じゃ』
「へえー。こんな話信じるんだな」
『それはそうじゃ。お主からはあり得ないほどの魔力が溢れ出して居る。初めはこの世界の人間でもあり得るほどじゃったが、だんだんと溢れる魔力が増大しておるからな』
「へ? マジ?」
『ああ、マジじゃ』
「あちゃー。油断した」
確認してみると、普段より魔力が抑え切れてなった。どうやら、油断をして、魔力コントロールを誤ったようだ。俺はすぐに溢れ出る魔力抑えた。
『ほう、その歳で魔力を完全に操るか』
「まあね、いろいろ特訓とかしたし」
まあ、特訓といってもすでに魔力を操るすべは知っていたので、ひたすら技術を高めるだけだった。
『あ、これ、出てくるんじゃない』
突然、九尾の狐の尻尾がもぞもぞし始めると、そこから、何かが出てきて、俺に飛びついてきた。敵意みたいのがないので、弾き飛ばずわけにもいかず、そのまま、受け止めると、そこには小さい銀色の狐がいた。九尾の狐と同じ体毛だが、大きさと尻尾が一本だけという違いがあった。
「この子は?」
『我の子供じゃ』
「くぅくぅ!」
「お、どうした?」
子狐は一生懸命俺の顔をなめてきた。
『どうやら、おぬしのことを気に入った様じゃ』
「お、そうなのか?」
子狐を目の前に持ち上げて問いかける。
「くぅ! くぅ!」
子狐は肯定するように元気よく鳴いた。
「可愛いやつだな~」
俺は子狐をモフる。
「くぅ~!」
子狐は嬉しそうに鳴いてくれた。
『これ、もう戻ってくるのじゃ』
「くぅー!」
子狐はまだ離れたくないというようにすり寄ってくる。俺はそれを優しく離すと地面に下した。
「また、来るから。行きな」
「くぅ? ……くぅ!」
子狐は俺の言ったことが分かったようで、すぐに親の九尾の狐のもとに行った。
「じゃあ、俺は行くぞ」
『うむ。あ、その前にそちの名前を教えてくれ』
「俺? 俺は琥珀。神月琥珀だ」
『琥珀……いい名じゃ』
「ああ、お前は?」
『わし? わしはファランじゃ。この子はファロン』
「ファランにファロンか……じゃあ、ファラン、ファロンまたな」
『うむ。またじゃ』
「くぅ!」
俺はファランとファロンに別れを告げてその場を立ち去った。
それから三か月たった。
俺はよくファランとファロンに会いに行ったり、一緒に遊んだりした。
そしてついに俺は彼女と出会うことになった。
ようやく主人公の名前を出すことができました。