プロローグ
学校の帰りに書店やゲームショップによって時間を潰すのが俺にとっての日課だ。辺りが少し暗くなるまで、時間を潰す。それで、時間をずらすのだ。なんでずらすかというとそれはおいおい。
その日も、書店で新しい本がないか見て、ゲームショップで新作のゲームを見てから、帰ろうとした。ゲームショップの近くの信号で青信号待ちをしていると、ちょうど、反対側で信号待ちをしている小学校入りたてぐらいの少女が目に入った。
何かうずうずしているので、不思議に思ったが、少し離れたところに少女を見る女性がいた。どうやら、母親のようだ。少女は軽い荷物を持っているので、お使いをしてきたんだろう。俗にいう初めてのお使いというやつ(初めてかはわからないが)。
やがて、信号が青になって、少女は走って横断歩道を渡っていく。そこに猛スピードでトラックが迫ってきていた。運転席を見ると、なんと運転手が居眠りをしているではないか。
そこで、不運は重なった。なんと少女が転んでしまったのだ。
「ダメ! 小春!」
このままでは少女は確実に引かれる。居眠りしている運転手は気づくすべを持たない。しかも、周りに人は俺以外いない。そう思った時にはすでに身体は動いていた。
鞄を投げ捨て、地面を蹴る。その瞬間、アスファルトの地面が蹴った部分だけ砕けた感触が伝わる。
すでに、トラックは少女の数メートルまで来ている。少女はトラックを見て固まっている。たぶん恐怖で固まっているのだろう。俺は数メートルの距離を一瞬で埋め、少女の隣に着いた。すぐに少女を抱きかかえ、飛び去る。その一瞬後にトラックが過ぎていく。
俺は少女を抱えたまま、少女がもといた場所へと到着した。そこでゆっくりと、少女を下す。そこで、少女と目線を合わせてなるべく優しく言った。
「もう大丈夫だね?」
「う、うん。ありがとう。お姉ちゃん!」
まあ、お姉ちゃんではないけど。加えると俺、男だけど、それを言うとややこしくなるので、言わない。
「今度は、左右をしっかりと見てゆっくり渡ろうな?」
「うん!」
俺は改めてトラックを見ると、ちょっと遠くにまだ猛スピードでふらふらしている。このままでは、確実に事故を起こして誰かを巻き込む。
「じゃあ、俺は行くからな」
「うん。ありがとう。お姉ちゃん!」
元気のいい返事を聞いて俺はトラックを追った。普通では人間の足でトラックに追いつくことはできない。まあ、俺は普通ではないが。
女の子と結構離れて、小さくなると、俺は思いっきりダッシュする。するとまたもや地面が砕ける感触が。まるで地面を滑るように跳ぶ。数秒もすると、トラックに追いついた。運がよく、周りに人はいない。
俺はトラックに追いつくと後ろの扉にある取っ手に手をかけた。次の瞬間、足を踏ん張って、手に力を入れる。トラックは俺の力によって急停止する。トラックが急停止すると俺は光に包まれた。
◇◇◇◇◇
「どこだ、ここ?」
俺はよくわからない空間にいた。床は雲のようにふわふわしているし、周りは空みたいに蒼。まるで雲の上にいるようだ。ちょっと、行ったところに宮殿みたいな豪華な建物もある。なんか不思議なところ。
「なんで、こんなところにいるんだ?」
「それは私が呼んだからです」
急に後ろに気配が。びっくり、いきなり現れたように気配がした。俺は振り返ると、そこには一人の女性がいた。白い服を着て、優雅な白銀の髪を持っていた。しかし、なんか申し訳なさそうにしている。
「あんた、誰?」
「私はこの世界及び複数の世界を管理するものです」
「ふーん。神様みたいなもの?」
「そう思ってくれて、良いです」
「で、その神様が俺になんの用?」
そこで、彼女はさらに顔を申し訳なさそうにした。
「えっと、あなたにはほかの世界に行ってほしいんです」
「は?」
「すいません! すいません!」
「だから、理由を言って」
「あ、はい。実はつい最近あなたの異常さに気づいてあなたの魂を調べたんですけど……」
彼女の顔にはさらに申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。なぜ、神とも言われる人物が俺みたいな人間にそんな顔するんだ?
てか、そんな顔するってことはなんか悪いことが俺にあったってことか?
「良いよ、続けて」
俺は彼女に先を促した。
「はい。わからないんです」
「わからないって何が?」
「あなたの魂がです」
「どういうことだ?」
「えっと、私たちには人の魂の性質を見ること許されているんです。でも、私ではあなたの魂の性質が見えなかったんです」
「え? あんた神様じゃないのか?」
「私は最近この世界を任されたものですから、階位は低いんです。上司にも調べてもらったんですけど、それでもあなたの魂の性質はわからなかったんです」
へぇー。神様にも順位とかがあるんだ。でも、魂の性質が分からないことと異世界に行くこととが何の関係があるんだ? とりあえず聞いてみよう。
「それで、俺の魂の性質が分からないことと異世界に行くことはどんな関係があるんだ?」
「それは、魂は肉体にも作用するんですが、あなたは異常な力があるため、魂も異常な力を持っていると思います。それで、地球ではその力はあってはいけないと判断して、異世界に行ってもらいたいんです」
「異世界だと俺はどうなの?」
「えっと、世界最強ぐらいで済むと思いたいと思います」
「なんだそれ?」
「私にもわからないんです。あなたの魂の性質が分からないことにはどんな力を持って、どんな風に成長するかもわからないんです。普通は大体の形が分かるんですが……」
「ふーん」
「それで、行ってもらえませんか?」
「いいぞ」
「ですよねー。そんな急に言われても……って、いいんですか!?」
「ん? ああ、いってもいいぞ」
「そうなんですか!? では早速召喚の準備をするので、明日の夜中に家の屋根に上っておいてください!」
なんか、すごいテンションが上がったな。そんなに俺に行ってほしかったのか?
「これで、私の肩の荷も下りました。それでは、とりあえずあなたを地球に転送します」
転送されたのは家の前だった。なぜか鞄も足元に落ちている。どうやあ、彼女が贈ってくれたらしい。俺は明日の準備をするため、家に入った。
もともと、時間をずらしていたのは両親と会わないためだったが、この時は功を奏した。俺の両親は俺の異常な力を恐れて、近寄って来やしない。それどころか、世話もろくにしなかった。それが十年以上続いていればこっちも親嫌いになる。俺は準備を済ませて、さっさと寝た。
◇◇◇◇◇
俺が神様にあった翌日の真夜中。今日は新月だ。月がない分星が綺麗に見えるかと思ったが、街の明かりであまり見えない。そんな、空を見ながら俺は屋根で待っていた。
両親には軽く置手紙をしてきた。内容な失踪するってことだけだが。学校のクラスメイトにも言ってきた。まあ、あまり関わってこなかったが。
「来たか」
俺は彼女の独特の力を感じて、振り向いた。そこには現れかけている神様が。
「準備はできましたか?」
「ああ」
「それじゃあ、送りますね」
「頼む」
俺は彼女が放った光に包まれて、この世界に別れを告げた。
「じゃあな」
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