私と看病
小松丸もとい小松をトイレに連れていくとひどく怯えられた。
「こ、これは一体何なんですか・・・!?」
「トイレ以外の何があるっていうの。最新じゃないけど一応ウォシュレットよ」
困惑している小松に簡単に操作を教えてみる。こわごわとトイレに触る小松。おまえはどこの外国人だ。
どうやら小松の暮らしていた家は典型的な日本家屋だったらしい。しかもトイレが外にあるような古い家屋。
年齢は満17歳だといってたからその長年の常識を変えられるのは苦痛なのだろうが、変えられてくれないとこれからの同居生活に支障が出る。
「ん、まあこれで流す、ってことだけ覚えてくれたらいいから」
「!!?え、水が勝手に!!?どうやって流れて・・・?まさかこの下は川・・・・?」
「んなわけないでしょーが」
下水管は流れているが。
「こっちが小でこっちが大ね」
「水の流れが性急に!!?」
何この子面白い。トイレにこんなリアクション起こす人は初めて見た。
だけど便器に顔を突っ込ませ掛けるのは止めようか。
私は小松の襟をつかみながらため息をついた。
トイレから生還した小松を布団の中に押し込んで私は粥を取りにキッチンまで戻る。
軽く温めてどろどろの状態に実家から送られてきた梅干し、ついでに雰囲気で緑茶も淹れてみた。
運んできたそれらを見て小松が嫌に感動していた。
「姫・・・!ついに一人で料理ができるようになったのですか・・・!」
「料理くらいできるよもう・・・」
姫が誰だか知らないが、彼女は料理ができない人だったらしい。さっきから何回も姫呼びを諫めてはいるのだけれどどうやら小松は私のことを姫だと思いこみたいようだ。訂正するのにも疲れたんで最後には放置することにした。
私はあきれながら小松の枕元に盆を置いて計らせた体温を見る。
37.5度。まだ熱はあるようだ。私を見る目も熱でうるんで顔も上気している。
「昔姫の作った料理を食べさせられた時のことを思い出します・・・。あのときは途中で意識が飛んでしまってすべて食べきることができませんでした・・・。それから何故かしばらくの間姫に近づくことができなかったり・・・」
「トラウマになってんじゃんそれ」
どうやら姫さんはものすごい料理を作成するようだ。
昔話に浸る小松に粥を載せたレンゲを近づける。堅苦しい子だから拒絶するかと思ったけれど小松は素直に口を開けた。私は小松の開けられた口の中にレンゲをつっこむ。
小松はもぐもぐと租借し、こくりと嚥下した。そのタイミングで適度に冷ました粥を近づける。
まるで小鳥に餌をやっているようで楽しい。
どうでもいいけど熱があるとはいえ顔を赤らめながらレンゲを口を開けて待つ小松の姿はなんだかむずむずする。
小松は一瞬女の子と間違えるような顔の持ち主なのだ。
つまり可愛い男の子を家に連れ込んで餌づけさせる私ははたから見たらいわゆるショタコンなのではないだろうか。・・・いっておくけど私の好みは頼りがいのある男だからね!
自分の内面にいいわけをしているうちに粥の器はカラになった。小松もおねむのようで目がトロンとしてきている。
あとは水分をとってあたたくしてよく寝ればいいだろう。
私は器をもって立ち上がり、水につけてから出かける準備をした。
小松が起きるまで買い物にもいけなかったから今日行こうと思ったのだ。私は病人を一人にするような人間じゃないし、見ず知らずの他人を一人家に残す常識もない。
私が出掛ける準備をしているのを感じたのか、小松が慌てて布団から抜け出して言いつのってきた。
「姫?何をしているのです?まさか外に出ようなんて・・・?」
「うん?買い出しに行くけど?」
「なりません!外は今敵ばかりで屋敷から一人で出ようなんて無謀にもほどがあります!せめて私が・・・!」
「それこそ病人を外に出すとか人間としてどうよ。いいから小松は布団で寝てなさい」
「でも・・・!」
よほど心配なのか小松は不安げに私を見る。小松呼びに反応しないあたりちょっと鈍いのか、それとも真剣に心配してくれているのか。後者だと思いたい。
私は安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、戦は結構前に終わったし、外に危険なんてそんなにないから」
「そうなんですか?」
ぽけん、とした顔で小松が言う。私が寝ている間に・・・と呟いているけれど日本の先の戦が終わったのは60年ほど前だ。
「なら・・・」
「そうそう、小松は枕元にある水を飲むのとトイレに行く以外は寝て回復するのが仕事。さあ布団に戻った戻った」
しぶしぶと布団に戻る小松の背を押して布団に入るのを見届けてから私はいってきますと家を出た。
いってらっしゃいの声が聞こえた気がしたけれどドアの閉まる音でまぎれちゃったからもしかしたら空耳かもしれない。