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+++第九話:解放戦線”ベクラマ”とセシル・ハルガダナの選択

 (――――!)

 目を覚ますと、俺の視界には見慣れない天井が映し出されていた。しかしまあ、ここ最近生活していた廃墟よりかは、はるかに贅沢な空間に寝ていたようだ。ベッドはふかふかで、三人は横になれるだろうし、視界の隅にある窓からは湖に臨む。森林に囲まれた、申し分ない景色である。

 

 (痛ッ!)

 体を起こすときに、脇腹の痛みで俺は自分になにがあったのかを思い出した。注意を凝らせば、なにやら頭にも包帯がまかれているようだった。

 それだけではない。治癒魔法や回復魔法で、止血とある程度の原状復帰離されている。すくなくとも自分で処置をした覚えはないので、誰かが治療してくれたんだろう。

 ずいぶんと好待遇だが、誰に助けられた?俺はすでに戦場で王国軍から「敵」とみなされていたはず。殺そうとした相手にわざわざ治療を施すなど、考えにられない。

 となれば・・・・俺にはもう一つの心当たりがあった。部屋の隅に取り付けられた扉から外に出ると、都合のいいことに、その彼らが集まっているらしい。

 

 「ああ、起きたんだ」

 部屋を出るたところで、銀髪の少女とまず目が合う。彼女は木製テーブルに着き、コーヒーカップを片手に新聞を読んでいる。俺を見てソーサーにカップを置くが、クールな表情を変えずない。

 髪色以外にも艶のあるウェーブ髪は特徴的で、加えて手には黒の手袋。これだけあれば覚えていそうだが、その女性に見覚えはなかった。

 

 「あ!」

 しかし俺は、彼女の前に座っているカジュアルな服装の少女や、そのさきのソファーに座っている群青色の長髪男には見覚えがある。

 

 (それから・・・・)

 俺が探している人物は、影になっていて見えなかったが、どうやらすぐ真横にいたらしい。

 

 「やあ、傷は痛まない?」

 巨大化していた時の野太い声とは違う、可愛気のある声でその生物は俺に問いかける。俺が「おかけまさまで」と伝えると、彼は少し驚いたように表情を変えた。

 

 「へえ、きみはマルコを見ても驚かないんだな。たいていは慣れるまで時間がかかるんだけど」

 どうやらこの生物、名をマルコ・マルコと言うそうだ。海坊主という魔獣族の一種らしいが、人の言葉をしゃべるらしい。


 「あ、自己紹介がまだだったな。私は【キャロット】。よろしく、セシル・ハルガダナ」

 黄緑髪の少女はそう言って、軽くお辞儀をして見せた。

 

 (キャロット・・・・?)

 にんじん、野菜の名前だが?ファストネームとラストネームの別れもない。そんな名前があるのだろうか?

 

 「それはコードネーム。まあ、あだ名みたいなものだよ」

 疑問に思った俺の心の中を読み取ったかのように、銀髪の少女が口を開いた。

 

 「あだ名?」

 「そう、解放戦線“ベクラマ”には、人間族もいれば、獣人族もいるし、魔人族も・・・・人じゃない種族さえいる」

 

 「私も、人間:三、エルフ:一のクオーターなんだぜ」

 このあいだの感じだと、人間族ではないということはそれだけで差別対象になる。しかしキャロットは、自慢げにそう答えた。

 

 「そう。だから外見は違っても、心の距離は感じないように、お互いコードネームで呼び合うようにしているんだ。ちなみに、私は【ホワイト・ピア】。あっちの竜人族は、【リアル・ジョー】。よろしくね」

 「・・・・セシル。なんで自分を助けったんだって顔をしている・・・・ゲホッ・・・・それはお前が俺たち、解放戦線と同じ考えを持っているからだ・・・・」

 

 積極的な性格ではないのだろう。

 ホワイト・ピアと名乗った彼女の紹介を受けると、それを待っていたかのように<ヌッ>と長身が立ち上がった。

 

 「同じ、考えですか?」

 「ああ。強きをくじき、弱きを助ける・・・・ゲホッ・・・・俺たちは王国を打倒し、人間族も亜人族も・・・・あらゆる種族が平等に暮らせる世の中を作るという・・・・熱い目標を持って活動している・・・・」

 

 なるほど、それで彼らはあそこにいたのか。そしてあのタイミングでの襲撃――――たしかに王国軍の隙をつくにはベストだったかもしれない。


 (まあ、別に俺は王国を打倒しようなんて思ってないんだけど・・・・)

 

 「とにかく助かりました」

 「ゲホッ・・・・これからどうするつもりだ?」

 「どうするって、軍に戻るしかないと思います。懲罰があるでしょうが、なんとかするしかありません」

 

 「――――はあ⁉」

 俺の返事を聞いて、まずキャロットが大きくそう反応した。

 「王国軍に戻るって、あの虐殺に加担するつもりか⁉」

 「勘違いしないでください。俺は軍の方針には反対です。なのでそれを変るために、努力するしかないということです」

 「はーん!それこそ馬鹿げてるぜ?きみはあれだろ、王国の中でも超田舎の出身だろ?じゃないとこんなに世間知らずなはずがないもんな」

 (また、それか・・・・)

 「まあ、そうですね」

 

 「図星だろ?ほら、だからそんなことが言えるんだ!軍を変えるということは、王国を変えるということ・・・・そんなこと、できっこない!」

 「その通りだ。ゲホッ・・・・ハルガダナ・・・・“ベクラマ”に入れ。俺たちと一緒に理想を追った方が賢明だ。実力も申し分ない・・・・ゲホッゲホッ」

 

 「待ってください」

 なんだか話が急に進みすぎている。彼らの意図は理解できるが、そもそも前提がおかしい。

 

 「一応まだ俺は国王軍の兵士候補生なんですよ。そう言ってくれるのはありがたいんですけど―――――」

 「――――でも聞くところによると、きみは戦場で魔人族の家族を助けたんだってね。王国軍の仲間に逆らってまで・・・・あっちにいるよりよほど向いていると思うけど」

 さえぎるようにして、ホワイト・ピアがそう言った。まるで、俺には選択肢が残っていないかのような口ぶりだ。

 

 「そこまで頑なに、私たちに協力できない理由でもあるのかな」

 彼女は想像以上に鋭いようだった。たしかに、俺には少し引っかかることがある。ただこの“ベクラマ”なる組織の本拠地で、それを大っぴらにするのはどうかと思っていたのだ。しかし、これ以上隠し通せるとは思えない。

 

 「じゃあこの際、言わせてもらいます。俺が引っかかっているのは、あなたたちのやり方です」

 「や、やりかたぁ⁇」

 キャロットの間の抜けた声は、彼女が俺を言いくるめることに絶対の自信を持っていたことをうかがわせた。

 

 「はい。あの時、撤退を始めた王国軍を執拗に攻撃しましたね?戦闘が長引くほど、民間人の死傷者は増えるはずです」

 しかも最後には数人の兵士のために、家屋を破壊し、町を再起不能な状態までにした。あのなかに民間人がいなかった、という保証はない。

 

 「――――違いますか??」

 「理想論だ・・・・ゲホッ・・・・大きな目標のためには、犠牲があって当たり前だ。俺たちだって、心が痛まないわけでは・・・・ゲホッ・・・・ない」

 「そういう考えもわかります。だから否定はしませんでした」

 

 「「・・・・・・」」

 

 一瞬、俺たちはお互い沈黙した。

 間違いなく、この時間はお互いに主張を消化しあう時間。そしてお互いに、失敗した。


 「――――ッ!君はバカ、さもなきゃアホなのか⁉⁉君のやり方で成功するわけがないし、なにかを成し遂げられるはずもないだろ⁉⁉現実を知らなすぎる、無知なんだよきみは!!!!」

 「そのとおり。王国軍に戻ればその瞬間、きみは牢にいれられるだろう。そしてそれから、数週間〜数ヶ月で確実に殺される」

 

 それは、合理的な指摘なのかもしれない。

 「ですが、このまま俺が軍と敵対すれば、彼らはますます騒ぎ湧くだろう。亜人族が今度は王国兵を誑かしたから、一刻も早くなんとかするべきだと」

 

 まくしたてるようなキャロットと、冷静なホワイト・ピア。彼女らの意見にも、俺は一歩も引くことはしない。それほどに俺の中で決心は固かった。

 

 「腹を割って話そう、ハルガダナ。わかってるはずだ、懲罰程度では済まないということくらい・・・・ゲホッゲホッ!!」

 「はい。それでも、俺のせいで人が死ぬよりマシです!!」

 

 『「「「・・・・」」」』

 

 「はあ、そう・・・・」

 そのまま再びの沈黙が訪れ、俺はなにも言わないでいた。すると、張り詰めた空気のなかホワイト・ピアがそれを破ったのだった。

 

 「なら、いますぐここから出ていった方がいいと思うよ。あまつさえ王国軍に戻るつもりなら、将来的となる可能性も十分に考えられる。私たちが、きみを殺していないうちに」

 

 (――――――‼)

 威嚇程度に・・・・そのつもりなのだろうが、俺が彼女から殺気を感じるには十分だった。町にいた王国軍とは、比較にならないほどの鋭利な魔力。ホワイト・ピアは相当な実力者らしく、一歩外せば俺は確かに死ぬのかもしれない。

 

 「治療は助かりました、ありがとうございます」

 「はあ⁉おいおい、本当に行くのかよ⁉ちょ、ちょっと待てよ!!!!」

 「・・・・」

 

 彼らが俺を思ってくれるのはありがたい。しかし、幸運にも俺は生き延びた・・・・このことをよく考えるべきだ。このまま王国軍と対立すれば、確実に事態はよくない方向へ向かう。

 そう考え、俺は歩き出した。ホワイト・ピアを一瞬警戒したが、彼女はもはやこちらへの興味をなくした様子で新聞へと視線を落とす。

 

 「――――――――――ッ‼後悔するぞ、絶対!」

 

 キャロットは以前こちらに言葉を浴びせるが、立ち止まるわけにもいかない。俺は足早にこの建物を後にした。

 

 *

 

 “ベクラマ”の拠点らしき建物があったのは、王都から南西に位置する地域。いわゆる魔人族や獣人族などの、非人間族(亜人族)が多く暮らす場所だった。この辺りの地域では、オークや犬などの完全に人間と離れた種族も、人間族と協力して生活している。その点では、俺が育った地域と似ているかもしれないと、ふと思った。

 

 「でも俺は、故郷には帰れないだろうな」

 王国軍に出頭すれば、"ベクラマ"が言っていたようなことが起こる。これが最後の景色になるかもしれないとすれば、幸運だったのかもしれない。

 王国南部の主食である、コメの畑である田園風景。そこから、だんだんと変わりゆく景色を、馬車の荷台から眺める。

 「なんだ?兄ちゃん、ずーっと外ばっか眺めてるけど、なんか見っけたか?」

 「いえ。でもこれが俺の仕事ですから」

 「くくく、お前さんほど真面目な守護者もめずらしいな。まあくつろいでくれや」

 

 馬車を操縦するのは、実に気前の良いおっさんだ。移動手段がなく、右往左往していた俺を拾ってくれた。契約は簡単で、途中馬車が襲われることがないように、俺はそれを護衛するのだ。

 お互いに干渉しすぎず、一週間近い時間があっという間に過ぎた。俺たちは、目的地に着いたのだ。王国南西部の都市:【サビレルカ】。ここ場所には、王国軍の駐留がある。

 

 「――――本当にここまででいいのか?どうだ、せっかくだから町で一杯やらないか?」

 「いえ、この辺でやることがあるので」

 「そうか」

 

 彼は残念そうに言葉を出した。

 「じゃあまた今度の機会に、だな。お礼も込めておごらせてくれよ」

 「ええ、もちろんです」

 

 そのときまで、俺が生きていたら。

 

 こうして、建物がだんだんと密集していく中心部へと向かって行く馬車を、俺は静かに見送った。

 「さて」

 ここはまだ厳密には町の外。中心部に入るには、関所を超えなければならない。俺は小さな喫茶店で一服してから、そこに向かって歩いた。

 

 多くの人が行き交う時間帯。忙しいそうに動き回る兵士に構わず、男は現れた。

 

 「俺はセシル・ハルガダナ。報告してください、謀反人が現れたと」

 

 

 *第十話に続く

 

 

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