+++第五話:世間知らずたちは、どうなった⁉
あの襲撃から二日がたった。
一行に突如として襲い掛かった、あの集団がいったいなんだったのか。そしてニホンという、シバウラたちの故郷のことも、そして突如覚醒した彼らの魔法の才能のことも、まだなにひとつとして結論は出ていない。
しかし、一連の出来事が手掛かりになることはたしかだろう。幸いなことに、怪我人はあれど死者や重傷者は存在しない。彼らの目的であったエレナ・ハウンシュタッドもまた元気であることが、ポジティブに考えられる要因だろう。
おかげで彼らの絆は深まり、朝食の席も賑やかである。
「うーん!美味しい!!」
「ああ。一見ぽそぽそしていて微妙だが、食べてみるとイケるな」
目立って食料が手に入らず、数日たった食卓に並ぶのは廃街に残された保存食のようなものも多い。もちろん賞味期限などという概念は存在せず、シバウラのように敬遠する人物もいる。ニホンジンはそうなのかとも思えば、ミヤダイやキリヤはそうでもないらしい。エレナたちと一緒に、鮮度0の食材を美味しそうに頬張る。
「わーい!久しぶりにハルガダナお兄ちゃんと、ロロカお姉ちゃんが一緒だあ!」
「やったね、エレナ!私も嬉しいよう!」
「もう体はいいんですか」
「ああ。心配かけたな、トレイノル」
「いえいえ」
先日から、とくに負傷や体調変化が激しかった俺とミヤダイ。そのため、このようにみんなでそろうのは久しぶりである。
「なあ、ロロカ。病み上がりなんだからすこし控えたほうがいいんじゃないかな?」
「あ、ごめん・・・・たしかにみんなの前で、はしたないよね」
「いやそういうわけじゃないんだけど・・・・」
変色したパンももろともしない彼女に、シバウラは心配そうに声をかける。しかしそれが伝わっているかと言われれば、そうではないようだ。
「ゆっくり食べるね、ゆっくり!」
「・・・・」
おしとやかをテーマに、ふたたび手を動かすミヤダイを今度はクミシマが制止する。
「はあ、はあ・・・・見つけたわよ!ロロカ、あなたなんでここにいるのかしら?まだベットにいてって言ったはずよね」
「ご、ごめん!七瀬!どうしてもみんなに会いたくて」
扉から入ってきたクミシマは、焦っている様子も見られる。もしかすると、部屋にいなくなったミヤダイを探していたのかもしれない。
「はあ、あなたには栄養バランスを考えて新鮮な食事を用意していたはずよ。たしかに量はすくないけど、まずはそういうものから始めるべきでしょう?」
「うん、すみません・・・・」
彼女との会話で、ミヤダイ恥ずかしそうに反省した素振りを見せる。やはり、友人付き合いが長いと、お互いのことはよくわかるようだ。
「あなたもよ、ハルガダナ君。他人事のように振る舞っているけれど、私はあなたにも同じ事を言ったはず。なぜか治っているけれど、私はあなたが命に関わる傷を負うのをたしかに見たもの」
「それに関しては、俺もよくわからないんだ」
どちらにせよ、クミシマがシバウラやトレイノルと一緒に俺たちを看病してくれたのはたしかだ。それだけではなく、キリヤたちと食料の採集も行ってくれている。戦闘で自分の身体も傷ついたというのに、本当に頭が上がらない。
「なに!」
「い、いや。なにも」
ぼーっとあちらを眺めていると、鬼のような視線が飛んでくる。こちらに完全に非がある通り、彼女はもちろんご立腹だ。
「ま、宮代もハルガダナも、回復したならいいじゃねえか」
「桐谷くん、あなたは黙ってて」
「へいへい」
「・・・・」
そんなシーンを眺め、少女は違和感のないよう仲裁しつつ微笑んだ。フリナフット・エデリア少将位は、潜入という自身の任務をなお全うしている。
(最近の状況を見ているとよくわかる)
勇者一行は、現地で出会った私たちや、セシル・ハルガダナとの親交を深めつつ、順調かつ想像以上のペースで事を進めている。当面の懸案事項としては、ナナセ・クミシマがさきの戦闘から神経質になりすぎているということだ。彼女はあらゆる面で集団の支柱となっているが、それが崩れてしまう危険性もある。
個人の関係も、興味深い方向へ進展している。エデリアがそう考えると同時に、キリヤがふたたび口を挟む。
「安心しろ、ハルガダナ。回復したとしても、敵襲があったらちゃんと守ってやるからよ」
「そりゃどうも。逃げずにちゃんと有言実行してくれることを祈る。キリヤはこの前も、最後まで震えてたらしいからな」
「――――ッ!
上等じゃねえか!すくなくともお前よりは役に立つことを証明してやるぜ!?表出ろよ!!」
「ちょ!二人とも、落ち着きなよ!」
こうしてシバウラが止めに入るように、セシル・ハルガダナとハヤト・キリヤの関係が緊張しつつある。端的に言えばライバルのようなものだろうが、ここまで意地になるのは理解できない。きっかけ自体はキリヤであると思われ、彼が魔法について自信をつけたことで、以前から知識をもつセシル・ハルガダナに対抗心を燃やしたと考えられる。ハルガダナもそこで大人な対応を取るのではなく、逆にキリヤを煽るような言動もある。
「面白いですねえ、本当に皆さんは見ていて飽きません」
エデリアは、筆を執り白紙に記録ををしたためる。そんな彼女の肩に、ため息をつきながらクミシマが手を置く。
「はあ。しっかり書いておいてよ、トレイノル。結局真剣に考えているのは私だけってことを、ね」
「もちろんです。私はクミシマさんの味方ですから!」
それに、これは軍への報告書。仕事でもありますからね。
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【聖王歴1877年10月4日】
負傷したセシル・ハルガダナ、ロロカ・ミヤダイが復帰。賑やかな朝食が過ぎると、おのおの業務にとりかかった。今日はとくにキリヤ・ハヤトに注目し、行動をともにすることにした。
「ついてきたのか、トレイノル」
「ええ、なにか手伝えればと思いまして」
「じゃあそれだな、運ぶのを手伝ってくれ」
そう言ってすこし自慢げに、彼は巨大な葉に包まれた肉塊を指さした。
「これって!」
「鹿・・・・っぽい動物の肉だ。正式な種類はわかんねえけど、まあ食えるだろ」
「すごいですね!この辺りの平原は大型動物もすくないのですが、よく仕留めてくれました」
「ま、こんなもんよ。これであいつらも力がつくだろ?」
「本当にそのとおりです!みんな喜ぶはずですよ」
「ああ、それから・・・・」
彼はそう繋げると、少女に向かって大きな木の実を差し出した。黄桃色に熟れたそれは、食欲をそそる香りを放つ。
「どうしたんですか?これ」
「すこし行った森で見つけた。ひとつしかねえから、お前にやるよ」
「うれしいですが、どうしてです?」
その質問に、キリヤは気恥ずかしそうにも、自分語りを始めた。
「俺にも妹がいてな。しっかり者のトレイノルに似てるってわけじゃないんだが、どちらかというと、エレナを世話するお前に共感したんだ」
「それは、そうだったんですね」
なるほど。彼の身の上はこれからを考えても重要だろう。であれば、さて。どう反応するべきか。
「嬉しいです。わたしも、ずっとお姉お姉ちゃんは疲れますから」
「ああ、わかるよ」
「これからも、なにかあったら頼っていいですか?」
そう言うと、キリヤは嬉しそうに頷いた。ああ、これが正解でよかった。
「ふふ!でもこれはみんなで食べましょう?私はその気持ちでお腹いっぱいです!」
「そうか、ま、好きにしろ」
しばらく沈黙が訪れる。トレイノルも彼が行う肉の下処理を手伝っていると、不意にキリヤが口を開く。
「病気なんだ」
(来た――――)
「――――え?」
「俺の妹は病気でな、それもかなり重い。だからこそ、あの状況で・・・・まだ死ねないって思えたんだ。妹を治す、金を稼がなきゃならねえ。
それまでは、ってな」
「・・・・」
「エレナは活発な性格だ。苦労に思うこともあるだろうが、姉貴分としてお前はよくやってると思う」
「ありがとうございます。私もキリヤさんのように気遣ってくださると、とても助かります」
そう言うとトレイノルは立ち上がり、荷物とともにさきほどの木の実を持ち上げた。
「これはやっぱりもらっておきます。内緒にしてくださいね?」
「はは、そうだよ。そうしろ」
満足げなハヤト・キリヤ。しかし、エデリアにとってはすべてがシナリオ通りの、打算的な行動である。
あの集団のなかで――――。
(強いて言えばキリヤ・ハヤトとの関係を深めなければと思っていましたが・・・・)
この感じだと、彼の信頼も得られていると考えていい。その日はキリヤ・ハヤトのもたらした食料で、夕食もおおいに盛り上がった。作戦は順調である。
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【聖王歴1877年10月5日】
「あ!待て〜エレナ〜!」
「わー!」
草陰に隠れている少女を見つけると、ふたたび彼女らの追いかけっこが始まった。ロロカ・ミヤダイの体力は、ほぼ完全に回復したとみていいのかもしれない。しかし王国軍としては、大切な転移者に無理はしてほしくない。
「ミヤダイさんすみません。エレナの世話を任せてしまって。そろそろ代わりますよ」
「ううん、大丈夫!むしろ体を動かしたいから!力が有り余ってる感じがして」
「そう、ですか?じゃあ、お願いします」
「任せてよ!」
そう言って、ミヤダイは少女の背中を追って視界から外れた。
彼女のとてつもない回復力には、驚かされる。
先日セシル・ハルガダナを復活させた魔法は、信じられないものだった。倒れたのは、転移直後でまだ魔力を効率的に操作できていなかったためだ。純粋な資質なら現状、四人の中でロロカ・ミヤダイが圧倒的だと言っていい。そんな彼女を子守に使うなんて、贅沢な話である。
「トレイノル、ロロカは大丈夫なんだろうか」
隣でシバウラがそうつぶやいたのを聞く。彼や、クミシマが心配するのも無理はない。あのときのミヤダイは魔力欠乏症が酷かった。それこそ、このまま永遠に目を覚まさないのではないかというくらいに。
「・・・・。本人が言うので、信じるしかないですよ。私も特別魔法に詳しいわけではないですが、彼女のようなケースは稀だと思います」
「そうか・・・・」
マモル・シバウラ。彼には本来、集団をまとめ上げる資質がある。現状、クミシマにリーダー役を任せきりなのはなぜか?彼はナルノルカ中将位との戦闘で、能力を覚醒した。一時的に覚悟を決めたようにも、見えた。しかしやはり一方では、心のなかで困惑や戸惑い、そのほかの負の感情に答えを出せていないのだろう。ほかの三人とのちがいは、そこだろう。
「きっと大丈夫です!ニホンのことも、すべてうまくいきますよ!」
「ありがとう」
「はい!」
この場はマーシャ・トレイノルらしく、笑顔で励ます。やはり煮え切らないところを見れば、彼のことは注視する必要がある。
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【聖王歴1877年10月6日】
そろそろ計画段階を進めるときだろう。
死に近い体験で、転移者たちは能力を覚醒した。つぎは、この世界について知らなければならない。ガラムバトで王国軍がその準備をしているが、このままでは、彼らはあと数週間はここに留まりそうだ。
想像以上の能力と、彼らの適応力がぎゃくに不利作用した形であるが、そうなれば私が適当に導くしかない。フリナフット・エデリア少将位はそう判断し、この日はナナセ・クミシマに関わることとした。
「ほら、ちゃんと動きなさい。私は休んでろって言ったのに、それでも付いてきたのなら相応の働きはしてもらいます」
「わかってるよ」
セシル・ハルガダナも一緒らしいが、支障はないだろう。ふたりは一緒に、食べ物の採集を行っているようだ。
「どうですか、ハルガダナさん」
「ああ、トレイノルか」
まずは世間話程度に話しかけると、ハルガダナは隠さず現状を話しだす。
「正直、あまり良いとはいえないな。この辺りの草原に、めぼしいものはほとんどないらしい。さきの森林地帯ならいろいろあるだろうが、道中誰かに見つかれば不要な戦闘が起こるかもしれない」
「そうですか・・・・」
「しかし心配はいらないさ。まだ廃街には保存食も残っている」
心配そうに声を出すと、ハルガダナからそのように励まされる。
この男はどこまで楽観的なのか、それとも適当なのか。保存食はあるが、それを好まないシバウラやクミシマもいる。そうなれば食料は課題であることに違いはない。
もっと危機感を持たせなければ。私がもっと行動を起こすか?でも、集団内で余計な軋轢は生みたくない。アプローチを変えるべきだ。ある程度の窮地であるほうが、私にとっては都合がいい。
「この辺りももう時期冬ですから、これからどんどん環境は厳しくなりますよね」
「そうか?俺にはまだ暖かいくらいだが」
「ハルガダナさんは北の生まれだからですよ。私も、エレナが風邪を引かないように注意はしているのですが・・・・」
「冬の備えがない場所にいるのは危険、か」
「ええ。そうなると、ガラムバトに向かうのを急いだほうがいいかもしれません。幸い、皆さん回復されていますし」
ハルガダナとの会話を土台に、自然な提案ができるのは願ったりかなったり。その証拠として、これまでなんとなく聞いている感じだったリーダー、クミシマもこちらの会話に参加してきた。
おそらく彼女のなかでも、どうするべきなのか確固たる考えはないのだろう。
「移動するということね?本当は、もうすこし様子を見たいのだけど」
「気持ちはわかります。ですが・・・・全員が動ける状況なら、王国軍の駐留がある町に向かう方がはるかに安全でもあるはずです」
「まあ、またいつ襲撃があるかも、わからないからな」
ハルガダナは自然に、エデリアの意見を支持する。ほら、どちらにせよ彼は自分の意見を持っていない。他人を気遣い、周りに合わせる性質は、このように簡単に操作できる。
ナナセ・クミシマにしても、移動の必要性に気づかないのは不自然だ。それでも、リーダーとして彼女がこの場に留まろうとする理由は、ミヤダイをはじめ怪我人や療養者の状況を気遣ってのこと。
「移動中に襲われる可能性もあるはずよ。それに、ついた町が安全であるとも限らない」
語気を強めて、クミシマは反対意見を変えない。あくまで冷静な意見を、ハルガダナ、エデリア両者にぶつける。
「とくにハルガダナ君、あなたは私に賛成すると思ってた」
(・・・・ん?)
「たしかに。なんでだ?まあ、俺はどちらも理解できるからな。感情的にはここに留まるのがいいかもしれない。だがリスクと天秤にかけても、ここを出る方が賢い選択であるんだろう」
「そう・・・・トレイノルも同じ意見ということよね?」
「はい。くどいようですが私たちは現状、かなり危険な状態です」
彼女の考えを変えるためには、現状の危険性と、移動のメリットをあらためて理解させる必要がある。エデリアはくわえて論理的に、彼女を説得した。
「はあ・・・・」
そして、おそらく自分たちよりよほどこの世界に詳しいであろう両者の意見を聞くと、さすがに意見を変えずにはいられない。すこし考えてから、クミシマは今後の方針を口にした。
「わかった。じゃあ私とキリヤ君、それからトレイノルでさきに町に向かう。道中とそのさきの安全を確保したら、残ったあなたたちを呼びに行くことにする」
「折衷案ですね?」
「ええ。これ以上の譲歩はできない。とくにロロカのことを考えればね」
「わかりました、ではそうしましょう。出発は明後日の朝でいかがですか?」
「そうね、決まったなら早い方がいい。ありがとうトレイノル、ハルガダナ君。私一人では考えが固まってしまうから、こうして助言してくれると助かるわ」
「ああ」
「もちろんです。私たちも、クミシマさんに助けられていますから!」
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結論が出たところで、当日のうちにクミシマは全員にそれを伝えた。反対意見なく、すんなりと受け入れられたのは彼女が信頼されている証だろう。こうして作戦は無事、第二段階へと進んだ。そうなれば、マーシャ・トレイノルとは正式に決別しなければならない。彼らとの間に築いた関係は、破壊してこそ王国にとって真の価値を生み出すのだ。
本日の成果:ガラムバトへの移動決定
新たなタスク:転移者の移送
*第六話につづく




