+++第四十九話:旧跡都市・アクタビアンクス
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「うお~~~~‼
すっごおおおお――――ッ」
セイヤッタは目の前の巨大な銅像に、感嘆の声を上げる。
高さ20メートル、横幅15メートルの聖神像だ。たしかに、かなりの迫力があるものである。
俺の浅い知識で言うと、あれは魔王が猛威を振るうよりも前。まだ文献もあまり残っていないような時期に作られたらしい。
当時最盛していた、この地の象徴。
セントレーネ攻防戦より、約三週間が経つ。
王都中南部【アクタビアンクス】。
それは、王都への帰路の途中にあった【王国軍第43番部隊】を惹き寄せるように招いたのだった。
「あ〜~~~」
「・・・・?」
少女は、引き込まれるように口を大きく開け立ち尽くす。
(そういえば)
忘れてたがあいつは、王都でも限られた存在。"高等校"に通う生徒なのだ。当然あの像についても授業があったはず。まあ、なにか思うところがあるのかもしれない。
「————————。
うむ、私たちはやはり同士ということか」
顎に手を置き、どこか楽しそうにも思える表情を浮かべる。
(同士ってなんだよ)
いったい、彼女の頭の中にはなにが浮かんでいるのはなんだ?悪いが、常人では想像もつかんぞ。どうやったらあの像を見て、そんな思考に至るんだ?ほら、周りの人たちも気味悪がってるじゃないか。
(・・・・。
あいつは、この場所の歴史的価値を本当に理解してるのだろうか?)
わざわざ時間を作って寄ったのに。
「・・・・はあ」
そういえば、年が明けたらしい。正直、全然意識してはいなかった。しかしまさか、ここまで忙しなく過ぎていくとは。
(どおりで寒いわけだよ)
手先の感覚が弱まったのを感じると同時に、俺は隣で小刻みに動く身体に気がついた。その背中に、そっと上着を掛ける。
「あ・・・・すまん、寒いだろ?それ、着ててくれ」
「え?」
するとフェルスは、不思議そうにこちらを見上げた。
「あ、ああ~っと。その、嫌だったらいいんだけど」
「ううん、ありがとう。へへ、温かいね、これ」
当然のことながら大きなサイズを、被るようにして肌をのぞかせる。彼女の綺麗な肌では、冷えた場所がピンクに染まりわかりやすい。
「なんなら、さきにどこか入ってたらどうだ?俺があとで、セイヤッタを連れて行くよ」
「え⁉そんな、大丈夫だよ」
「本当か?無理はしないでくれよ」
「・・・・うん。ありがと」
うーーーーん⁉??
うーん!やっぱりそうだ!!
(どうしよう―――――ッ)
フェーラルスは心のなかで、そう呟いた。
セシル君がなんか、すっごく優しくなった・・・・気がする!!⁉
(いや、間違いないよ!)
だってほら、いまこうしてるときも。私に風が当たらないように、微妙に座る位置をずらしてくれてるんだよ??
昨日起こったこともそうだ。
"
「い、いや〜。この辺と言ったらやっぱり、アクタビアンクスかな??」
「うんうん、人生で一度は行きたい名所だからねぇ」
夜も更けた頃。ガノーシャとノセアダの会話は、セシルにしっかりと届く。それもそのはず、彼女たちがいるのは彼の部屋の真ん前。
「「・・・・・・・」」
意図的な行動、二人はごくりとつばを飲み・・・・部屋からの応答を待つ。もともとここから王都まで直行便があるため、わざわざアクタビアンクスまで反れる必要はない。いわば、"回り道"である。
フェーラルスからの許可は済んでいる、あとはセシルが合意すれば言いわけだ。まあ、彼女たちにしてもダメ元だった。いまの彼なら、きっと一日でも早く仕事に戻るべきだと言うだろう。
そして、それが正しいのだ。
あの町で起こったこと。そして私たちの役割を考えれば、じっとしていられない。でも、"私たち"だって、すこしは休息が必要なはずだ。みんなと、ちょっと変わった思い出くらい作りたいよ。
「・・・・」
しばらく待つと、部屋からの応答があった。
「良いんじゃないか?そのへんは、お前らに任せる」
「・・・・・・?あー、やっぱりそうよね。じゃあ直帰ってことで????」
(あれ、良いんじゃないかって――――うん?)
「————ッ!!やったー!」
ガノーシャとノセアダは、両掌を重ね会って喜んだ。
"
前までなら絶対拒否してたはず。フェーラルスはそう考えた。
(やっぱり気にしてるのかな??)
ううん、それはそうとして・・・・・・重要なのはそこじゃない。彼女は現状を確認し、鼓動が速まるのを覚える。
「・・・・。
やっぱりきついんじゃないか?顔がさっきより赤いような気がするけどな??」
セシルは、そう言って彼女に顔を近づけた。
(〜〜〜〜〜〜ッ)
ちょっと待って、そんなに近づかれたら、どうしても意識しちゃうよ。それでなくても、頼りになるし、優しいのに。
セシル君のことは頼りにしてるし、大好きだ。でもそれは部下として、仲間としての話。だから、いまこうしてドキドキ熱くなってるのも・・・・・・なにか理由があるんだ。
・・・・・・・・ええっと・・・・・・なんで、なんだろ??
「————⁉と、とにかく大丈夫だからッ」
「そ、そうか。なんか、すまない」
逃げるようにして視線をそらし、逆側にうつむくフェルス。
(もう、違うのに!)
(俺、なんかしたか??)
両者の思考はまったくかみ合っていなかった。セシル・ハルガダナは、無意識に彼女を困惑させていたのだ。
エルシア・フェーラルス。彼女もまた特殊な人物で、自立したしっかり者である一方、誰かに頼ることが苦手。セシルがもたらした、安心感と受容性が彼女のなかで膨らんでいく。
(落ち着け、私————)
鼓動を抑えるんだ。
(「セシル君は仲間、セシル君は部下・・・・」)
「・・・・?」
つまるところ彼女は純粋だった。はじめて心が許せる異性に出会い、困惑しているのである。
「ちょっと、あっちむいててほしいかも」
顔を隠したまま戻ってこない彼女を尻目に、仕方なく俺はもう一度銅像を眺める。
(ていうか)
あれ、なんだっけ。
なにか・・・・忘れて、る?
「あー‼」
セイヤッタだ!!フェルスに気を取られて、すっかり忘れていた。あいつ、どこ行きやがった――――ッ⁉
どこにも見当たらない。
勘弁してくれ・・・・あいつ、たしかにこの町ははじめてだって言ってたよな⁉
(それって、迷子確定なんじゃ)
「やばい」
急いで立ち上がると、背後から肩に手がかかる。
(・・・・?)
「なんだ、ガノーシャか」
「なんだってなによ。私じゃ不満なわけ??」
「い、いや・・・・そういうわけじゃなくてさ」
「そっか」
一瞬表情を曇らせたガノーシャ。しかしいまのところ、それ以上悪くなるわけではないようだ。彼女は嬉しそうに微笑みかけると、話し始める。
「ねえねえ、セシル!あっちにすごくいい感じの古本屋があったの!これから、一緒に行ってみない??」
(本屋??)
ああ、さっきから姿が見えなかったのはそれか。たしかに興味深いし、そもそも今日はそういう日だ。しかし、タイミングが悪すぎる。
「悪いな、一人で行ってくれ」
(まずはあいつを探さないといけない)
「・・・・」
断ったことで、多少嫌味は言われると思った。しかしガノーシャはそうではなく、ただ悲しそうに顔を変えた。
「そうだよね。あんたも、私と本なんて見たくないか・・・・」
「は―――—?そういうわけじゃなくて」
「いいの、ごめん。それより!やることがあるんでしょ?またトラブルなの?」
彼女はそう言い、気丈に振る舞う。セシルはいったん安堵し、目の前の問題を優先した。
「ああ、そうなんだよ。
セイヤッタが――――」
*
————。
一時間。あのあと、三人でなんとかセイヤッタを見つけ出すためにかけた時間だ。
「やあやあ、セシル君。
・・・・遅かったねぇ」
「今度はお前か」
俺が街の本屋に立ち寄ると、店の前で待ち構えるようにして彼女は手を振っていた。こちとら、やっと自由時間が訪れたところなんだけどな。
「遅いってなんだよ」
「う、うん⁉あ、ははは・・・・いや別に??きみならここに来ると思ってさ」
(・・・・??)
俺の問に、彼女ははぐらかすように答えた。しかしまあ、それでもいい。とにかくだ。
「悪いな、これから俺は重要な仕事が残ってるんだ。お前にかまってる暇はないぞ」
「ふうん・・・・?きみも言うようになったねぇ」
興味があるとは思えないが、彼女は俺を追うようにして学術書のコーナーへ。しばらく放っておく。どうやら、口をすぼめながらそれらを眺めているらしい。
「ねえ、セシル君?」
「・・・・なんだ?」
「いや、大したことじゃないんだけど・・・・・・・・それ、まさかガノーシャへの贈り物とかじゃ、ないよね??」
「————!」
完全に想定を外れて放たれた、彼女の一言。俺はそれに驚愕し、思わず丸い目で彼女を見たことだろう。
「ああ、そうだよ。よくわかったな」
「え、まじ??」
「「・・・・・・・」」
そして、沈黙。
なんだ?
なにか変なこと言ったか??
「・・・・まじだが?」
「はあ、まじだったかぁ。
うんうん、ここまでとはね。でも、お姉ちゃんが付いてるから大丈夫」
やれやれといった感じ。彼女は額を抑えため息つくと、軽く頭を横にふることまでしてみせた。
「おい、なんのため息だよ。
ま、この際ノセアダには言っちまうが、プレゼントでもしようと思ってな。お前ら四人には、世話になってる」
「そりゃ、ありがとう・・・・でもね、セシル君‼」
グイッと、ノセアダの気が強まる。
「ガノーシャへのプレゼントなら、もっと別のものが良いと思うなっ!」
「ふふふ、なにを言うかと思えば。
知らないかもしれないが、あいつはこういう系を結構好んで読む」
「あ~!たしかに、あの子は学術書も読むけど・・・・でもそれじゃない」
(伝われやッ!)
「それじゃないの!」
このときノセアダは、目の前にいるこの"恋愛経験ほぼゼロの鈍感世間知らず"を、どう説得するか悩んでいた。
「ち、ちなみに他の人のは選んだの??」
「いや、決まってるのはフェルスのだけだ。これも、かなり自信があってだな・・・・」
そう言うとセシル・ハルガダナは、ピンク色の可愛らしいキャラクターが付いた【キーホルダー】を取り出した。
「・・・・・⁉」
あ、ピレノッタちゃんじゃん。私も《《昔》》好きだったっけ。
あれ?プレゼントって、それ?
(え?は??)
自信って、本当に??
(てか、五歳児とかが買うやつじゃん?)
あらゆる指摘が止まらない。
まあフェルスはなんでも喜ぶんだろうけどさ。
「はあ〜〜〜~」
それでも。ここでもう一度、彼女は深くため息を付いた。
(こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ)
「・・・・。
私へのプレゼントなんだけど、じゃあセシル君、私の買い物に付き合ってよ。その代わり、ついでに三人への贈り物も一緒に選んであげる」
「いや、それは悪いだろ。それに、かりにお前がそれでいいのなら、決まってないのはセイヤッタだけだ」
(まだ言うか)
「まあまあ、お店周るうちにもっと良いのが見つかるかもしれないしさ」
「でもそれじゃお前の買い物が――――」
「————遠慮すんなって、私がきみと一緒にいたいのは本当だから」
「・・・・??」
(一緒にいたい、だと――――?)
「あ~っと」
私、いまなんて言った??
「————ッ!も、もちろん・・・43部隊の長男長女同士、話し合おうってことだよ?ほらほら、みんな結構わがままで世話が焼けるっていうか、さ」
「・・・・」
セシルはめずしく動揺した様子のノセアダを、黙って見つめた。
(あれは、疑ってる目だよね)
なにやってるんだ、私。セシル君といると楽しいから。嘘なくそれでいいじゃんか。
「ノセアダ、お前」
「え?なにかな、セシル君?」
「お前————俺に荷物持ちさせる気だろ。加湿器でも買うのか?」
「————!
あ、そ・・・・そうなんだよねえ・・・・・・どうしても男手が欲しくて、さ・・・・」
(まあ、そうだよね。セシル君だもん)
ノセアダは、彼がどういう人間なのかを思い出した。
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「もうっ、あのふたりどこ行ったんだろ??」
ふたりとは、もちろんノセアダとセシルのことである。
こじんまりとしたカフェの席。ここで待ち合わせのはずであるが、時間はとっくに過ぎている。セイヤッタを始め、ガノーシャとフェーラルスも待ちくたびれてしまった。
「まったくね、うちには自由人が三人もいるんだから。敵わないわ」
「・・・・・・?
いち、にー、、、、、"さん"・・・????あれ、"さん"ってだれだろ?」
指折り数えると、彼女はガノーシャの指摘に違和感を覚えた。
「もちろん・・・あんたのことに決まってるでしょう?」
「え、ええええっ⁉??
なんでなんで??私はちゃんと銅像まで戻ったじゃん‼」
(そこまでも自覚なしか・・・・)
それに関してセイヤッタの勢いはすごい。一歩間違えば、食って掛かりそうである。
「はいはい、悪かったわ。でも、たしかによくあそこまで戻ってこれたわね?」
「あ――――。う、うんっ!当然だよッ」
(な~んて、本当は――――――)
"
【二時間前】
「うーん、ここどこだあ?
いつの間にかみんなのはぐれちゃったし・・・・よく考えてみれば、私この町はじめてだったっけ」
事の次第に気が付き、途方に暮れる彼女。その横からするりと現れる影は、いたって自然に彼女へ声をかけたのだ。
「失礼、お嬢さん。あなたは、王国軍第43番部隊の人間であっていましたでしょうか」
「・・・・??」
(怪しいひと?)
瞬間、セイヤッタの脳裏にはテラーリオの教えがよぎる。
”
知らない人に声をかけられてもついて行っちゃだめだよ?
うんうん、そうだねぇ。セイヤッタは可愛いからね。
”
(わかってますともッ!)
「あの、私は――――」
「あ、すみませんつい。すごく強力な、【オーラ】だったので」
(オーラ‼)
「そうですともッ。なにせ私は、部隊のヒーロー担当ッ‼セイヤッタ・ミーナルスですから‼」
「ああ、やはり・・・・」
(つまり、彼が《《そう》》か)
「「・・・・・・・」」
んん?それにしても。
私を探してた→つまり・・・・。
「・・・・!なにかお困りですかッ」
「あー、いやいや。もう大丈夫。ちなみになんだけど・・・・」
そう前置くと、彼はどこからか黄緑色の小鳥を出現させた。
「・・・・?」
「この子についていくと良い。きっときみを正しく導いてくれるだろう」
「え――――??」
(あれ、なんで私が迷ってたこと知ってるんだろ)
「あの、あなたはいったい・・・・?」
セイヤッタが視線を戻すと、そこに男の姿は映らなかった。
(あれれ?)
なんだったんだぁ~~~~??
"
*第五十話へつづく




