+++第四十八話:和解
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「・・・・・・そう。
言っておくけど、私も、半端にきみを連れてきたわけじゃない。だからこそ、一週間の猶予を設けるよ。その間に、よく考えて」
テラーリオはそこまで言うと、なにかに気がついたように口ごもりる。
「・・・・・・あ゛あ゛あ゛ッ゙‼‼も゛うッ、辞めたければ辞めれば⁉あとは知らん、きみの人生だッ・・・・勝手にしろ‼私は、もう仕事に戻るッ‼」
綺麗なロングヘアをぐしゃぐしゃにして、立ち上がる。そのときの彼女は、いったいなにを思っていたか。
そして、俺は??
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「・・・・ウゼェなァ。
その顔、心残りがあるんだろォ??だったらさっさと戻っちまえやァ、ここにいても邪魔なだけだからなァ」
バッド=ガット・シュルクは、呆れた表情をこちらに向けた。
その通り・・・・未練がないかと言われれば、それは嘘だ。あの場所で、やっと心が通う人たちと出会えた気がしたから。
だが。だからこそ、これ以上の負担はかけられないはず。捨てると決めたらそれを、きっぱりと切やりきらなければ。
「――――ねぇよ。俺はもう、43部隊には戻らない。それに、どちらにせよ期限の一週間にはもう間に合わないからな」
(・・・・。
やっぱり、未練ダラダラじゃねェかァ?)
部外者の俺にもわかるレベルだろォ。
「まあ、いいさ。あとは勝手にやりやがれェ」
(これで、借りは返したからなァ)
シュルクはそういうと、キャロットを連れて扉の外へと向かった。
「・・・・?お、おいなんだよ??」
「いいから、来やがれェ」
(・・・・・・・)
まさか、な。
胸の奥でそう呟いた瞬間、セシルの視界に映ったのは、見間違えようもない少女たちの姿だった。
「――――はあ⁉」
乾いた替えが、喉から零れ落ちる。
「はは、良い顔。てか、そんなに驚く?」
一番に姿を現したノセアダが、いつも通りの口調でそう言った。
「ガノーシャまで・・・・」
「久しぶりね。元気そうでなによりよ。
ふうん、でもそう・・・・それがあんたの気持ちってわけか」
「まあまあ、そんなにセシル君を責め過ぎても可愛そうだよ。もちろん、ヘルルが一番心配してたのは知ってるけど」
「ばッ⁉心配なんて・・・・いや、したけど!!そんなに、泣くほどじゃないしッ」
彼女たちはこのとおり、思ったよりいつもと変わらない。だからこそ、怖かった。どうしてここにいる?最後に俺を責めに来たのか?それとも――――?
「なにをしにきたんだよ、俺は――――」
言い切る前に、勢いよく声が重なった。
「辞めちゃ嫌だよ、セシル!私!そんなの、寂しいよッ゙!!」
「な――――ッ!セイヤッタ、お前まで!」
”俺は、もう辞めたんだ!”
そう吐き出すつもりだった。彼女がそれを遮った。
「やめるなって、それは、どういういみだ?」
「そのままの意味!そもそもいきなりすぎて、意味わかんないし!」
「そうだよ、セシル君・・・・いくらホームシックで実家に戻ったからって、ねえ・・・・!!」
そう、ノセアダの言うとおりだ。俺の自分勝手な行動のせいで、こいつらに、迷惑を――――??⁉
(????)
「は?ノセアダ、いまなんて??」
「うん?
だから、突然両親に会いたくなったんでしょ?いやぁ、セシル君意外と繊細なんだねぇ」
(いや、俺の親はとっくに死んでるんだが・・・・)
いったいどうなってる??
「————みんなにはそう言っておいたのよ。そのほうが、あんたが戻りやすいと思ってね」
「な、なんで?」
「わからない?」
ガノーシャは本気で困惑している俺に対して、なかばあきれ顔である。
「はあ・・・・みんな、戻って来てほしいのよ。もちろんフェルスも含めて、ね」
その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
(あり得ない)
なぜなら俺は、彼女を"裏切った"。もはや、俺を仲間とは認めない。強い確信があった。
「————呼んだかな?」
「あ!フェルスやっと来た!」
ノセアダとセイヤッタが、待ちわびたように駆け寄る。
(本気かよ)
直接文句を言いに来た?いや、処分を言い渡す必要があるのだろうか?
「・・・・。
セシル君、まだごねてるんだ」
「本当に、すみませんでした」
頭を下げるが、彼女は不満を隠さない。こちらに目を合わせず、淡々と質問だけをぶつけてきた。
「うん?なにに対して?」
「それは、もちろん・・・・」
俺が、部隊の方針に反して行動したことだ。勝手な行動でで、彼女らの立場はいっそう危うくなったかもしれない。
「違うよ」
彼女はそれに、いっそうの不満を感じたように語調を暗くした。
「私が悲しいのはね、あなたが約束を破られたこと」
不思議と、胸が締め付けられた。
「あのとき、セシル君は言ってくれたよね?私にないものは、自分が補ってみせるって」
「あ――――」
覚えている。
”
「ええ。俺は、第43部隊ですから。あなたで足りない部分は俺が補います。地区のためにも、もうひと頑張りしましょう」
”
不思議なほど、しっかりと。
「実際そのとおりになったよね?あなたは私を助けてくれたし、理解してくれた」
フェルスは、言葉を噛みしめながら進める。
「でも・・・・だったら、だったらなんで、私にもそうさせてくれないの?」
「・・・・え?」
ふたりのあまりの真剣さに、着いていけてない人物が一名。
「え~っと、これって、なんの話だっけ?」
「ほらセイヤッタ。いまは黙ってこっちね」
「あ、うん・・・・?」
フェーラルスが続けるのは、感情の陳列ではない。彼女の言葉は、部隊そしてセシルと親しい地区の住民も、すくなからず感じていることだった。
「私たちなんかの助けは必要なかったかな?たしかに、あの場面でできることはなかったかもしれない。あなたを止めることしかできなくて、悲しい思いをさせたかも」
(結果はなにも、変わらなかったかもしれない)
それでも、さ。
「頼ってほしかったよ?セシル君」
その言葉に、逃げ場などなかった。実際、自分からは見返りを求めず、他人を気遣うだけの人間が、どれほど不気味だろうか?それが仲間や、ある程度気を許したものであればなおさらだ。
「————ごめん」
心の底からそう言った。
「わかれば、良いの」
《《フェルス》》が、ようやく微笑んだ。それを見て、最年長のノセアダがうまく場をまとめて見せた。
「さあ、じゃあ帰ろうか!どうせここから五日はかかるんだから」
「良いのか?俺は勝手に飛び出したんだぞ?」
「いつまでくよくよ言ってんの?」
ノセアダは数刻の間、視線をこちらとしっかり合わせた。
「みんな、もう気にしてない」
そして、全員が頷いた。
「それに私たちも、もうすこしセシル君に気を《《遣ってあげる》》べきだった。先輩なのに頼りすぎた部分もあったでしょ?ごめんなさい」
「そんなことは――――」
俺は否定する。しかしガノーシャはこちらに頭を下げると、辛気臭くなるのを嫌ったか・・・・いつもの口調で話し始めた。
「そ・れ・に!
あんたがいないと食生活が終わることに気が付いたわ。この間セイヤッタが担当したときなんて、もう――――」
「————わ、わあああっ‼
ヘルル、それは駄目だってぇ‼」
(・・・・・・)
「はは・・・・」
思わず、笑いが溢れる。
「帰ろう?私たちには、きみが必要だよ」
そう言ってフェルスは、セシルの方にゆっくりと手を伸ばした。
「・・・・」
どこまでも良いやつらだ。
俺を許してくれるだけじゃなく、戻りやすいよう口実まで作ってくれた。これを無碍にする事はできないし、その理由はもはや、俺の内にはなかった。
「ああ」
俺はシンプルにそう呟くと、彼女の体温が手のひらに伝わるのを感じた。
真冬。
枯れた木々と冷たい空気のなか、陽だけは穏やかに降り注いでいる。。
まるで、この出来事そのものを映すように。
聖王歴:1877年1月5日。
セシル・ハルガダナ、王国軍第43部隊残留。
*第四十九話へつづく




