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+++第四十七話:それぞれの新体制と、漂い続ける不穏な空気

 

 ――――またしても記憶が飛んだ。

 最近、こんなことばかりで本当に嫌になる。

 

 なにかを成し遂げたい・・・・でもそのためには、多くのものを捨てなければならない。俺のちっぽけな命などでは、到底足りないほどに。

 もちろん、誰かを助けたい気持ちは本当だ。だからこそ、もがき続けた。

 でも、本当に死ぬのはやはり怖くて・・・・目が覚めるとそのときに、どうしようもない絶望感に打たれる。

 きっとそれが人間、そして俺の選んだ道なのだろう。

 

 

 

 *

 

 

 

 「――――これよりッ!ダルウィン・エリクアッツェ元終極位の英没にともなう、エリミシア・グラディアーニェの終極位栄進式を執り行う‼‼」


 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 『ドォ――――ッ!ワアァァァッ!!!!!!』

 

 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 さきのセントレーネ攻防戦から約二週間がたった。こうして華々しく行われているのは、前日の行われた戦没者を悼む葬儀とは打って変わる。

 此度の戦で特別な功績を挙げた者たちへの、称賛と昇級のための式典である。

 そしてなかでも、ひと際の盛り上がりと、人々からの羨望の視線を集めたのが【エリミシア・グラディアーニェ】新終極位の就任式である。

 現在、王国には彼女を合わせて四人の終極位が存在する。

 その数は固定されているわけではないが、王国内外の厳しい情勢と、元終極位の急逝ということもあり、後任が素早く決まったという経緯があるのだ。

 

 国王の待つ壇上に、ゆっくりとした足取りで登ってゆく彼女。どこか不敵な雰囲気を醸しつつ、いつも通りの落ち着いた雰囲気を崩すことはない。

 決して媚びることのないような、しかし愛らしくもある彼女の表情。荘厳な国王の衣装と、オーラと相まって・・・・会場には文字通りの緊張が走る。

 

 男は長く伸びた髭を揺らし、小さく頷いた。

 と、同時に。グラディアーニェは壇上に膝をつき、国王への忠誠を示す。

 スポットライトが神々しく二者を照らし、ここに王国軍の歴史そのものが、また新しく誕生した。

 

 (・・・・)

 

 王から勲章と新しい位を授与された新終極。

 彼女は無駄なくきれいな仕草で所々完結すると、続けて集まった王国軍の兵士たちに向け語り掛ける。

 

 「――――王国は、私たちの母なる大地は、現在いまだかつてない脅威にさらされています」

 

 声を出す前から、先程までとはまた違った・・・・異様な感覚が漂ってい始めていた。

 そして新終極が話し始めると、エリクアッツェ旧終極とはまた違った"威圧感"が会場内を包み込んだのだ。

 

 「――――私たち、王国軍に求められることはなんでしょうか?それは、国王に忠誠を誓い・・・・その意に沿って、命を捧げ王国への忠義を全うすることです」


 多くがそれを消化できるよう、彼女は簡潔に・・・・そして淡々と話し続けた。

 「中途半端な覚悟では、私たちは王国軍足り得ません。

 まして、手段など選んでいる場合ではないでしょう?皆さんも、いま一度自分が何者であるかを確認してください。

 ――――――――。

 私は、いま、ここで。志半ばで逝かれた前任の意思を汲み、かならずや、王国の敵対勢力を駆逐することを誓います」

 

 (・・・・ッ!!!!!!)

 

 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 『『ーーーーー!!!!!!

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼!!!!‼』』


 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

 

 グラディアーニェ終極位が国王に向かってふたたび一礼すると、会場内からは叫び声に近い歓声が上がり、割れんばかりの拍手で包まれた。

 旧時代の終わりと、そして新たな潮流の芽生えを予感させる内容。

 男は周りに合わせ拍手を送りながらも、頭の中では冷静に事の成り行きを見守っていた。

 

 「そうか――――――――」

 

 ・

 ・

 ・

 

 「浮かない顔ですね、ロドリゴ大将位」 

 あの式典が終わった後のこと。

 外演習場でタバコをふかしている上司の姿を見つけると、ルーベン・アイサリーノ大将位はそう声をかけた。

  

 (・・・・ああ)

 「アイサリーノか・・・・お前も一本どうだ?」

 

 「いえ、僕はタバコはやりませんので」

 「はは、そうだったな・・・・」

 

 「で――――どうしたんです?いつにもまして老け顔ですが」

 「おいおい、俺はまだ三十八だぜ?

 ああ・・・・まあそれでも、二十台のお前からしたら、そう見えちまうかもしれんがな・・・・」

 

 言うように、彼の表情は重たい。任務時の引き締まったものとは、もはや別物。かりに街の中ですれ違えば、そうと気づかない可能性すらある。

 

 「・・・・」

 しかし、それは仕方のないことなのかもしれない。

 今回の作戦で、一体いくつ失くなった?

 若手だけではない。

 もちろんベテランでさえ、多くの命が日々消えているのだ。そう――――。

 

 「僕ももはや、そんなに若くはありませんね。いつ部下からおじさん呼ばわりされるか」

 「はは、そりゃいい。お前も"アラベバ"辺りになら、そう呼ばれても・・・・って、ああ。そうだったな、あいつは・・・・」

 「ええ・・・・立派に」

 

 「すまない」

 死んだ者たちを軽視しているわけではない。しかし、いつの間にか、こうなる。誰が、誰で、どうなったのか?こんがらがって仕方ない。仕方が、ないんだ。

 

 いつだってそうだからな。

 ならいっそ、おっさんやおじさん・・・・ジジイでもなんでもいい。死ぬには早すぎるんだ。

 

 「・・・・俺はよ、若大将。王国の未来を真剣に危惧してんのさ・・・・」

 

 (・・・・!)

 アイサリーノは彼からなにかを受け取った気がした。それもそのはず、もともと慎重な性格のロドリゴ大将位だが、今回はそれに切迫の雰囲気を感じる。

 

 「それは、内外に問題を抱え込んでいる今の状況のことでしょうか?」

 「それもある。だが俺が最も危険視しているのは・・・・あの女だよ」

 

 (あの・・・・女・・・・?)

 

 この場で抽象的な表現。

 無論、彼らの間で《《あの》》、と表現できるような異性は存在しない。しかし、上司の性格や王国軍の実情をふまえ、アイサリーノが彼女にたどり着くのは容易いことだった。

 

 「――――グラディアーニェ終極位ですか?」

 「・・・・・・。

 ああ、今回の作戦を共にして、間近で感じたよ。あれは、危うい。王国にとってだけじゃない、世界にとって、彼女を終極位にすることはリスクでしかない」

 

 (終極位が持つ権力を考えれば、もっともだ)

 「俺はよ、アイサリーノ。エリクアッツェさんのことは信頼していたんだ。あの人は強引なところもあったが、一方で地に足がついていた。しかし、あの女は違う。

 かりに、国内外すべての紛争・戦争が、我々の勝利で終結したとして・・・・それで?この国に、国王や一部の既得権益だけが残って・・・・そんなことに意味があるか?」

 

 疑義ではない――――もはや、ロドリゴ大将位が抱いているのは不満の域に達しているだろう。

 

 「・・・・つまり新終極位は侵略的で、高姿勢だ、と?はあ、こんなこと、間違っても僕意外には話さないでくださいよ?」

 「ああ・・・・すまない。

 俺には家族もいる・・・・しかしだからこそ、考えちまうんだ」


 (家族ですか・・・・)

 本当は、誰もが幸せに暮らせるのが理想なんだ。

 しかし、そんなことは不可能で、王国という共同体の幸せのために、他人の不幸を呼び寄せる――――。

 

 王国軍とはそういう存在だ。そして彼によれば、それはもはや王国のためでなく、既得権益のための組織になりつつある、と。

 

 (僕も・・・・そう思う・・・・)

 「・・・・・・いろいろ考えると、僕らのやってることって、正しいんですかね・・・・?

 ああッ!すみません、大将位!

 ・・・・・・一本、もらってもいいですか?」

 

 

 *

 

 

 【同じころ:王国南東のとある場所】

 

 「よう、もう体調は大丈夫か?」

 「ああ、だいぶ体も動くようになってきた」

 

 あの攻防戦から早、二週間。

 魔力欠乏症に陥った俺は、セントレーネにほど近い廃墟に身を寄せていた。

 なぜか、【キャロット】という解放戦線メンバーとともに。

 

 (・・・・・)

 (・・・・?)

 「おい、なんだその顔?

 木の上で気絶したきみを回収したのは、私なんだが?大変だったんだぞ?やっとの思いできみのところまで這い上ってみれば、突然腐って崩れだしたじゃないか!」

 

 (そういえば、移動魔法のために森林魔法には最低限の魔力しか使っていなかった)


 とはいえ、彼女が居なければ俺は地上まで真っ逆さま。間違いなく死んでいただろうから、命を助けてもらったことは事実だ。


 「べつに、そのことには感謝しているよ。

 だがなおさら、ここで俺を治療する理由にはならんだろ。解放戦線、だったか?仲間のところに行けばいい」 

 「・・・・・・」

 

 しかし・・・・俺の言葉でなにか思い出したらしい。キャロットはしゅんと口を閉じ、うつむいてしまう。

 

 (そして・・・・)

 あいにくに、俺にはその考えが手に取るようにわかってしまう。

 「その、なんだ・・・・ラリーだっけ?あいつが居なきゃ、間違いなく多くの市民が死んでたよ」

 「ああ、解放戦線ときみ・・・・みんなで、守ったんだ!」

 「そうだな」

 

 「――――だからこそ」

 彼女は俺の応答に、また少し溜めを作ってから口を開いた。

 

 「だからこそ、私はカーペンター・スリーのやり方には納得できないんだ‼」

 一転、彼女は語気を強め、俺にぐっと顔を近づける。

 

 「・・・・はあ?」

 なにやら、彼女が頑なに居座る理由の一端が見えた気がした。

 (仲間内のことを、俺に言われても仕方ないんだが)

 カーペンター・スリー。どうやらその男が、解放戦線“ベクラマ”の新しいリーダーらしい。

 まあ、俺はどんなやつかも知らない。死んだっていう元トップが、あの獣人の爺さんだったなんて、それこそ思いもしなかった。

 

 「そうだ!!

 あいつは、いままでシンバーさんが貫いてきた、"守りの戦い"を変えようとしている!こっちからどんどん攻めて、王国を完全に壊そうだなんて。そんなの、ベクラマの戦い方じゃないだろ‼⁉」

 「はあ」

 

 どうやら、そこそこ深刻な揉め事らしい。

 おそらくあの爺さんは、メンバーから絶対的な信頼を得ていたんだろうな。どんな集まりであっても、リーダーがいなくなっり・・・・それがきっかけでグループが空中分離状態になることは珍しくない。


 (それに・・・・)

 この問題はメンバーでもない俺には関係のない話。と簡単に割り切ってよい話題ではないのだ。解放戦線からの情報は重要だし、なにより、過激派が台頭すれば争いはさらに激化する一方だ。

 

 どうしたものか。

 俺がふと窓の外を覗くと、灰色の巨体が扉の方へ向かってくるのを視認した。

  

 「んなこったろうと、思ったぜェ??」

 「ッハア⁉

 シュルク、お前盗み聞きしやがって!!」

 「――――してねえよ。

 てめぇのデケェ声だろ」

 

 「・・・・」

 聞いての通り。

 バッド=ガット・シュルクが姿を現したと思えば、早速口喧嘩が始まった。

 彼もまた、一時的にこの廃墟街に身を寄せているようだ。もっとも、俺が直接顔を合わせるのは初めてだ。

 

 「セシル・ハルガダナァ。

 お前も同じだァ・・・・回復したなら手伝いやがれェ」

 「・・・・手伝う?」

 「あァ・・・・」

 

 聞けば・・・・彼はいま魚や果実などを乾燥させ、食料としてセントレーネに届けているらしい。

 

 (・・・・)

 戦地で一時は敵として退治した人間の変貌に、俺は多少戸惑う。パータイス・・・・そしてこの男。

 あの戦闘を引き起こした張本人が、どんな凶人かと思えば、根はブレずに俺たちと変わらないのかもしれない。むろん、彼の行動は極端で、正当化できるものではないけどな。

 

 「わかった。

 そういうことなら、協力するさ」

 俺の判断に、男は"当然だ"とばかりに視線をそらした。しかしそれに納得できない人物もまた、ひとり・・・・。

 

 「うえぇ⁉

 またあれをやんのか??

 ハルガダナ、お前は知らないかもしれないが、生魚を捌くのって結構――――さ」

 「黙って従えェ。どんくせェお前より、俺が採ったほうが効率的だろうがァ!」

 

 「だとしても、あんな一片に!大変なんだぞッ⁉こっちの身も考えろよ!」

 「だったらお前も、セントレーネに何人残ってんのか、考えてみろやァ。文句があんなら、出てけェ・・・・ダラダラと動かれるほうが気に障るんだよォ!」

 

 「「ぎゃー、ぎゃー!!!!」」

 

 (・・・・)

 またしても始まった口論。しかし、俺はリングの外から眺めることしかできない。 

 さっきもそうだが、こいつら、長いこと解放戦線で仲間だったんじゃないのか?通信魔法を使うキャロットは、そのたびに毎回こんな感じだったのだろうか?

 

 そうこう考えるうちに、またしてもキャロットは食い下がるようである。

 「だいたい、なに威張ってんだよ!ここはお前ん家じゃねえぞっ!」

 

 (それを言えば、《《お前の》》家でもないがな)

 きりのない口論、俺は心でそうツッコミをいれるとそれに割り込んだ。

 

 「まあ、俺も手伝うんだから、以前よりは楽になるだろ」

 「・・・・そりゃ、そうだけどよお」

 「あんたもそれでいいだろ?

 どうせ、俺はしばらくここにいるからな」

 

 だから少しの間、三人で臨機応変にやろう。

 そう伝えたつもりだったが、バッド=ガット・シュルクの表情は少し悩ましげだった。

 

 (・・・・・・?)

 

 「いやァ?

 だが、《《お前は》》いいのか?

 いつの間にか、消えてやがるがァ・・・・俺達が生きてんのは、あの女の力だ。

 ・・・・・・察するに、なにかあったんじゃねェのかァ??」

 

 彼はそう言うと、俺が回答を躊躇うのを見越してか、椅子に勢いよく腰掛けた。

 

 (・・・・・・)

 

 

 "

 

 【五日前】

 

 「・・・・!!

 ・・・・・・・・ッ!!!!!!」

 

 そう、ちょうど俺が気絶から覚めたときのこと。

 

 「あ。目、覚めた??」

 「・・・・!」

 朽ちかけたベッドをお構いなしに体を乗り出し、俺の顔を覗き込む女。よく見る顔のようで、実はたまにしか目にすることのない。だからこそ主張の強い存在である。

 

 「テラーリオ・・・・」

 「うん?なにかな」

 

 (負傷中、寝起きにこの人か)

 正直、あまり理想とは言い難い。

 

 「おい、いま史上最悪の起き抜けって思ったろ」

 「いやいや、そんなことは!」

 

 なんでわかるんだよ。

 (でも本当に、そこまでは思ってない)

 

 「ホントかねぇ・・・・(ジィィ~~~」

 「は、はは・・・・」

 彼女はしばらく疑惑の視線を向けていたが、突然思い出したかのように体を起こした。 

 

 「あ!そうそう・・・・・・・この子ね、キャロット」

 ――――は?

 そう言って指さしたさきに、見覚えのある少女の姿。

 

 「キャロットだ。

 久しぶり・・・・に、なるよな?セシル・ハルガダナ」

 「ああ。で?なんでいるの?」

 

 「なんだよ、迷惑みたいな顔しやがって!!

 居ていいって言われたんだから、いいだろ⁉」

 「・・・・」

 

 別にそりゃ構わないが。名目上は敵のはずなんだけどな。

 なにか言いずらい事情でもあるのだろうか?俺は目線を彼女から、テラーリオの方へと移す。

 

 「・・・・なんでいるんです?」

 「え、面白いからかなあ・・・・」

 

 (まあ、この人の行動にいちいち意味を考えても仕方ないか)

 真面目に答えているのか、からかっているのか。おそらくは両方なのだろうが、彼女は笑みを浮かべつつそう答えた。

 

 「ち・な・みに、狼獣人の子も居るよ?死にかけてたから、連れてきた。

 でも、あっちは愛想悪くってねぇ!」

 

 渋い顔をしながら立ち上がると、彼女はこちらに手を差し伸べる。

 

 「立てる?」

 「・・・・??

 あ、ああ・・・・」

 されるがまま彼女の手を取り、俺も立ち上がる。

 

 「なんかあるのか?

 まだ全然起き抜けだし、すまんが、ちょっとふらついて――――――ッ゙!!!!!!!!⁉??」

 

 瞬間、彼女の拳が高速に加速した。そして俺の腹部を強烈に突いた。

 

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッァ!!??

 エエエエェェッ⁉エ、オエエッ゙⁉??」

 

 なにが、どうなっているのか?一瞬思考が停止し、俺は転がりうずくまる。

 

 「――――⁉??、??????!??!!!?

 え、ッちょ‼なにするんだよ、彼はまだ病人だぞ⁉」

 「あ〜、ちょっと静かにしていてくれる??これは、私と彼の、身内の問題だからさ」

 「は、はあ⁉」

 

 当然の反応だ。逆に、こいつは正常のようでよかった。キャロットは俺に駆け寄り、心配そうな表情を浮かべた。

 しかし、そんなことはお構いなしとばかりに、テラーリオは俺達を見下ろす。

 

 「・・・・。

 すまん、大丈夫だ」

 「――――!?お、おいっ‼」

 

 俺はキャロットを押し退け、ふたたび彼女の前に立つ。

 

 「たしかに、これは俺達の問題だ」

 「うん、そうだよね。

 以前、私はなにをしても良いって言った。一番最初に、だ。でも、ルールは作ったはずだよ??」

 「・・・・」

 

 まるで子どもを叱る親のよう。

 黙って視線を送る俺に、彼女は容赦なく言葉を浴びせ続ける。 

 「――――無断外泊の禁止。

 今回のは、まさにそうでしょ?それに、私はあのとき、最低限のみっつしかきみに言わなかった。きみを縛らず、最大限その力を活かしてもらうためさ」

 

 (・・・・!)

 そうだったのか。

 

 「つまり、あれは適当に言ったんじゃないってことか?」

 「ま、そう思われても仕方ないと思うけど・・・・一応私なりに考えてるんだな、これが。

 部隊では、ノセアダと並んで、きみが一番自由になるようにしておいた。それもこれも、きみと、その能力を信用してのこと。

 だからこそ今回の件は、重大な裏切り行為だよ」

 

 これがロジック。だから、殴られても文句は言わせない。そんな風に言っているのだろう。

 

 (・・・・)

 なるほど、相変わらず無茶苦茶だが筋は通る。

 はたから見ればそうはならないだろうが、俺は、ほかでもない俺自身だからこそ・・・・彼女の言うことが理論づいているとわかるのだ。

 

 (なぜなら、俺はそれを自覚していたから)

 彼女は、間違えたのではなく・・・・あえてしたことに怒っている。

 そうわかれば、なにも理不尽なことはない。

 

 「俺が、悪いんだからな」

 「・・・・うん、わかってくれたようで良かった」

 

 彼女は、飾らなくほっとしたような笑顔で言った。ああ・・・・この人でもこんな顔をするのか。 

 そう思った俺は、まだどこか心の底をうろつく《《それ》》を片付けるべきだと確信した。

 

 「・・・・」

 「あ、言っておくけどさ。

 いまのは私の分。あの子達は知らないよ??誠心誠意謝ればきっと――――」

 

 

 

 「――――辞めます」

 

 彼女がそこまで言いかけた途中で、俺は限界を感じてとっさにそうこぼした。

 

 「・・・・・・・・・・・・は??」

 

 ヤーマ・テラーリオ。

 俺の命の恩人であり、上司・上官。王国軍元太極位らしく、おそらくは、とてつもなく強い。

 普段は適当だが、節々ではしっかりと仕事をこなす。俺の、いままでの彼女に対する評価は、こんなところだろう。 

 

 あらためて、そんなテラーリオの表情が、ここまで本心になるのを見るのはおそらく二度目だ。しかし今度は安堵ではない。失望と葛藤に満ちた、実に苦しそうな表情である。

 

 "

 

 

 *四十八話につづく

 

 

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