表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

+++第四十六話:混沌と花道――――セントレーネ攻防戦終結‼

 ・

 ・

 ・

 *

 

 

 

 「―――――やり・・・・やがった、、かァ」

 上空から消え去った異物を確認し、バット=ガット・シュルクはそう呟いた。

 

 それにしても――――。

 (――――ぎりぎりじゃねえかよ)

 

 本当に危なかった、しかし・・・・これで自分の役目も全うできただろう。

 「――――ゲホォア――――ッ!」

 

 民家の壁際まで追いやられる。ちょうどよくそこにもたれかかると、彼は口内に容赦なく登りくる血液を吐き出した。

 

 「・・・・・・さすがに、限界のようだ」

 ノバシャード大将位がそう発言した通り。まさか彼がここまでの実力を発揮するとは、王国側にとっても想定外。いまになってみれば、大将位の周りで無数の王国兵がともにシュルクを囲んでいる状態――――。

 

 「まだ終わってねえだろォ?俺はまだ、こうして息をしてんぜェ」

 (・・・・いまになって、とどめを刺しに来ない理由はなんとなくわかる)

 

 自爆でも警戒してんだろォが・・・・っはは。

 

 「情けねえなァ、腰抜け共がァ――――ッ‼」

 ――――――あいにく、俺にはもうそんな魔力は残ってねえよ。

 そう、しかしそのことは感知能力に秀でたノバシャードも当然理解していた。いまだに彼ら王国軍が動きを見せないのは、彼らが圧倒的優位にあることを自覚しているからこそである。

 

 (本体の撤退命令は取り消された――――残党の殲滅作戦は継続)

 焦ることはない、ものの数分でこの獣もようやくこと切れるだろう。あえてリスクを負うより、こっちの方が最善だ。

 

 だからこそ、この異様な光景が生まれた。

 

 ―――――ああ、もう十分かァ?目の前に迫った”死”。

 もちろん、そうなることも想定した作戦だった。いや、でも心の底では・・・・俺は死なねえと思ってた。

 

 【パータイス】も、不滅だってな。

 

 シー、アイズ・・・・シシナ。

 ずっと先の未来で、俺たちは笑っているはずだった。だからといって、後悔はねえよなァ?

 こうすることで――――こうしなけりゃ、変わんねえ。俺たちは、絶対に・・・・いつかどこか遠くできっと見られるだろう。

 

 理想の世界を――――――――――――。

 

 

 

 「――――――――ッハァ‼‼‼まだまだ足りねえよなァ‼‼‼」

 ちぎれそうな声を絞ると、シュルクは集団に向かって駆けだした。

 (魔力がなんだ?俺は戦えんぞ‼‼‼)

 

 お前ら人間族と違って、高貴な《《獣人族》》様だからな―――――――ァッ‼‼‼

 天性の授かりもの・・・・彼の鉤づめは結局、最後までこうして人間を赤く染め続けるのだろう。

 

 「―――――落ち着いてください。

 奴が近接戦に出たということは、もはや魔力はないということ―――――――――」

 「―――――――――その通りだぜェッ‼‼‼」

 

 ||||||||||||||||

 

 <ギイィィィンッ‼‼‼>

 

 ||||||||||||||||

 

 二つの刃物が火花を散らす。

 有象無象では、彼を止めることができなかった。

 シュルクは集められた兵士をなぎ倒し、ノバシャードまでたどり着く。

 

 (―――――ッ)

 だが無駄なことだ。大将位は想定外に多少動揺しながらも、シュルクをうまく受け流す。

 

 「終わりだよ――――――」

 「――――あァ」

 

 ノバシャードの剣がシュルクの首元をとらえようとした瞬間のこと。

 とはいえ、両者は決着で一致していた。もはやここからの逆転などは不可能・・・・しかしそれは、《《形勢が変わらなかった場合》》の話。

 

 「~~~~~~~~⁉」

 ノバシャードの剣が押し返された。

 

 (これは――――――――魔力―――――――――――――――⁇)

 頭がつぶれそうな感覚に襲われる。周囲に発せられた膨大な魔力塊によって、その場にいる者は魔力制御を阻害される。

 そしてそれは、魔力波への耐性が薄い兵たちの意識を容赦なく奪っていく。

 

 「――――――――さて」

 どこからともなく現れたその女性は、ノバシャード大将位との間に入り込むようにして気絶したエルク・ダンヴァードをかばった。

 

 「はじめまして。なかなか熱い戦いだねえ?ガキ共・・・・!!」

 「・・・・!」

 

 この体躯と、なにより圧倒的な実力。特徴が一致する。ノバシャードと面識はなかったが、王国軍一の嫌われ者。

 

 「ヤーマ・テラーリオ元太極位ですね?」

 「お、私を知ってるかぁ。なかなか、感心だ・・・・そして実力も。ちょうどいいや。悪いんだけどきみからも、上に言ってきてくんない?

 これ以上、面倒くさいこと増やすなってさ」

 

 ここで彼女は、ようやく語気を尖らせた。

 「ほらほら、私が行ったら戦争になっちゃうでしょ?」

 

 (それは、そうだろう)

 ヤーマ・テラーリオ、彼女の目的は知っている。亜人族を助けたいのであれば、ここでそうするのももっともだ。

 この場合、王国軍大将位として適切な選択は?

 

 「――――――お?行ってくれる??いや悪いねぇ―――――ッテ、ハア⁉」

 「領域魔法―――――」

 

 洗練させた魔気をまとい、中枢神経を極限に展開する。

 「――――ジバンル=デストマイル‼」

 

 そして彼が魔力を開放すると、空間が《《歪み》》を作った。

 

 「あちゃー。きみ、本気??殺すつもりはないって、私言ったよね?」

 「はい。ですが、それは外での話。ここなら、僕のほうが強い」

 

 そう。いつの間にかテラーリオは、ノバシャードとともにどこまでも続く空間に存在していた。

 

 (暗い・・・・いや、黒いのか??)

 周囲は漆黒色なのに、不思議と辺りはしっかりと視認できる。

 

 「かなり強気のようだけど。私とタイマンで勝てるわけないっしょ」

 「いまにわかります」

 そう言うと大将位は、力強く地面を蹴り出す。

 

 (―――――‼)

 そしてつぎの刹那には、彼が言った通り、テラーリオはすぐに異変に気がついた。斬撃に対して一歩引いた彼女の足は、いつまでも空中でおぼつかない。

 

 なるほど、そういうことか。

 私だけ地面がない。いや、正確にはこの空間が私を認識していないのか?異物は引き込まれた段階から、世界の《《バグ》》であるらしい。

 

 (つまり、私はここから動けない)

 

 「へえ、いい魔法じゃん」

 でもさ――――――――。

 

 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 《ミシッ・・・・メキパキ・・・・・バギャッ‼‼》

 ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 

 空間内を、異音が走る。するとそれに合わせて漆黒に白線が、うねり始めた。

 

 (ッ⁉)

 領域が押し曲げられているッ⁉

 見れば、彼女は実に余裕そうな表情でこちらを眺めているようだ。ノバシャードの頬を冷や汗が伝わる。

 馬鹿な!ここは僕の魔法空間。それを内側から押し壊すなど、不可能だ!!術者すらまったくの想定外で、しかしそれ以上考える暇さえなく、彼の魔法は破られた。

 

 空間がふたたび曲がり切れ、二人は強制的にもとの世界へと落とされる。

 最初と同じだ、ヤーマ・テラーリオは単純な魔力だけで、魔法が存続できないほどの"飽和"を起こした。それでも戦意をそがれることなく構えだした剣は、むなしくも二つに割れ折れ―――――テラーリオの拳がノバシャードの腹部を突く。

 

 「〜〜〜〜〜〜〜ッガァ!!!!⁉」

 あーあ、もう少し冷静だと助かったね。

 これではもうだめだ、地面に叩きつけられた彼はすでに気を失ってしまっている。

 

 「・・・・。

 うーむ。まあ、これは仕方ないとする」

 (結構暴れたし、伝わらないことはないでしょ)

 

 このことは、じきに数人から報告がなされるはず。そして隕石。あの魔法は厄介だ。かりにもし、これ以上のことになるようなら――――私が、直接行くしかない。

 テラーリオは表情を引き締め、近くの瓦礫に腰掛けた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 

 場所は代わり、王国軍後方支援基地。そこにいるだれもが、《《それ》》を見ていたはずだ。

 作戦の行方を。そして悪の温床が崩壊し、散り消える様を。そのはずだった。

 

 「――――――――――ッ⁉

 な、なにが起こった~~~~ッ⁉」

 「わ、私の目がたしかならば・・・・隕石が町に到達することなく、どこか別の場所へと落下したようです‼⁉」

 

 その状況に、感知兵さえもが自らの感覚を疑う。そして同時に大勢の視線が、グラディアーニェ太極位の方へと集まる。それはそうだ、この魔法の術者は彼女。彼女に説明を求めるというのが筋だろうし、もはやそれしかない。

 当の本人は長髪の男の生首を右手でつかみながら、起こったことの一部始終を興味深そうに眺めていた。

 

 「太極位・・・・?」

 「・・・・」

 

 (まさか―――――――あんな風に対処されるのははじめてです)

 おそらくは固有魔法。文献にもないまったく新しいものか。

 

 「ふふふ・・・・」

 口角を上げ、うつむき顔で不気味な笑みを浮かべる。

 では、もうすこし興じてみましょうか?その魔法、どのようなものか見せていただきたいのです。

 

 (知りたい)

 この感情は抑えられません。ぜひ楽しみましょう。

 

 「二発目、三発目・・・・私はまだ魔力を余らせていますよ?」

 めずらしく周りを忘れ、自分の世界に入り込んだような彼女。冷や汗を垂らしながら、ロドリゴはその肩に背後から手を置いた。

 

 「た・・・・太極位・・・・」

 「ロドリゴ大将位?・・・・これは??」

 「・・・・」

 

 (これは、セクハラじゃないよな・・・・?)

 ・・・・。

 いやいや、違う。その前に、いまこの女を下手に刺激すれば殺される。そんな不気味ささえを、内包しているのだ。

 

 「本部からの連絡だ。"セントレーネに展開する全部隊は、即時撤退するように"、と」

 「――――‼」

 このとき、彼女は我に返ったように、その無表情を動かした。

 

 「そう、ですか」

 「ああ。どうやら、ヤーマ・テラーリオ元王国軍太極位が動いたらしい」

 

 (・・・・!)

 なるほど、上はそういう判断をするのですね。

 

 「ごねてもいいですか?」

 「よせ。個人の考えはどうあれ、まずは王国の利益を考えろ」

 

 (ふう・・・・)

 段々人間らしくなってきたな、機械姫。まあ、ここではじめてそう表情に出すというのも、おかしな話だが?

 

 「脅迫に屈するのは癪だが、奴とぶつれば・・・・下手すりゃ全滅だ。上としても終極位を失ったうえ、これ以上のゴタゴタは避けたいんだろう」

 (そしてすまんな、テラーリオ。これは今回はこの前の貸しで精算。どうだ?)

 

 そんな風に言い訳を作りつつ、すこし間を置くと、ロドリゴは少女の表情を伺うように視線を送る。まったく、まだまだ二十代のガキなんか据えるからこうなるんだっつーの!

 

 心臓が高鳴りを覚える。

 正直、これ以上大事にしたくないぞ。この女も実力は折り紙付き。それがテラーリオとぶつかりでもすれば・・・・そう考えるだけでも恐ろしい。 

 頼むから、ここは大人しく引いてくれ――――ッ!!⁉

 

 「・・・・・・」

 そんな深慮もよそに、彼女はまるで沈黙を好むようだ。そして、やっとのことで口を開くとこのさきに言及した。

 

 「ええ、そうですね。

 では、死力は尽くした、ということにしておきましょう。ここまでやって駄目ならば・・・・一度体勢を立て直す必要がある」


 そう言って、彼女は生首を投げ捨る。振り返ると自らの口で、兵士たちに対して撤退の指示を出し始めた。

 

 「はあああ。なんとか、収まったか」

 

 ロドリゴ大将位はそう胸をなでおろすが、解放戦線のメンバーはもちろんそうもいかない。目の前で仲間を弄ばれたのだ。

 

 「くそったれがあああああ、なんや、なんなんやお前、絶対許さへんからなあああ‼‼」

 町が無事だったことよりも、その侮辱的な行為に頭を沸かる。ブラッディ・シャークは大声で彼女の方へと切りかかった。

 

 「――――よせ‼」

 しかしそれを止めたのもまた、ロドリゴ大将位だった。彼女のところまで行けば間違いなく殺されていたが、彼は男を説得する。

 

 「もういいだろう、お互いに、痛み分けということだ」

 「――――――――!!⁉

 ッあ゛ァ゛―――――ぐあ゛あ゛あ゛ッ゙!!

 ぐ、そぁぁぁぁぁぁァァァッ゙ッ゙ッ゙‼‼」

 

 彼としてもそれをわかっていないはずがなく、その大将位と無意味な戦闘をすることはなかった。

 

 『ウグッ――――――がぁァァァァァ――――――――――ッ‼‼‼』

 

 乾いた空気に、彼らの叫び声はよく通って聞こえたことだろう。彼らはそして、自分たちの醜態をさらしてようやく、冷静さを取り戻したのだった。

 そう、これはそれほどまでに大きな戦いであったということ。

 

 「・・・・。

 すまなかった」

 

 しばらくして、魔獣を指笛で呼び戻す。絶望の表情を浮かべつつも、カーペンター・スリーは一応の礼儀は通しておいた。仲間を殺されもしたが、一応救われもした形である。

 

 「ああ・・・・きみたちは人間族。戦いは終わったんだ。これ以上、こちらとしても犠牲は増やしたくない」

 「・・・・」

 

 強く風が吹きつけ、目を閉じると生暖かい液体が溢れた。恩師を殺され、敵に情けまでかけられて。俺は一体、なにをしに来たというのか。

 

 「クソが・・・・‼」

 

 カーペンター・スリーはそう呟いて、自らを強く殴った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ・セントレーネ攻防戦(データの人間とは、広義の人間とする)


 死者:1056人(うち民間人:901人)


 負傷者:1321人(うち民間人:556人)


 主な戦死者:ダルウィン・エリクアッツェ(終極位)アラン・フェバス(大将位)リアル・ジョー(解放戦線)シンバー・ベアード「本名:ジャレッグソン・ピグレット」(解放戦線)ラリー・ファージ(解放戦線)エステベス・ポーカー(解放戦線)


 以上

 

 

 *第四十七話につづく

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ