+++第四十六話:混沌と花道――――セントレーネ攻防戦終結‼
・
・
・
*
「―――――やり・・・・やがった、、かァ」
上空から消え去った異物を確認し、バット=ガット・シュルクはそう呟いた。
それにしても――――。
(――――ぎりぎりじゃねえかよ)
本当に危なかった、しかし・・・・これで自分の役目も全うできただろう。
「――――ゲホォア――――ッ!」
民家の壁際まで追いやられる。ちょうどよくそこにもたれかかると、彼は口内に容赦なく登りくる血液を吐き出した。
「・・・・・・さすがに、限界のようだ」
ノバシャード大将位がそう発言した通り。まさか彼がここまでの実力を発揮するとは、王国側にとっても想定外。いまになってみれば、大将位の周りで無数の王国兵がともにシュルクを囲んでいる状態――――。
「まだ終わってねえだろォ?俺はまだ、こうして息をしてんぜェ」
(・・・・いまになって、とどめを刺しに来ない理由はなんとなくわかる)
自爆でも警戒してんだろォが・・・・っはは。
「情けねえなァ、腰抜け共がァ――――ッ‼」
――――――あいにく、俺にはもうそんな魔力は残ってねえよ。
そう、しかしそのことは感知能力に秀でたノバシャードも当然理解していた。いまだに彼ら王国軍が動きを見せないのは、彼らが圧倒的優位にあることを自覚しているからこそである。
(本体の撤退命令は取り消された――――残党の殲滅作戦は継続)
焦ることはない、ものの数分でこの獣もようやくこと切れるだろう。あえてリスクを負うより、こっちの方が最善だ。
だからこそ、この異様な光景が生まれた。
―――――ああ、もう十分かァ?目の前に迫った”死”。
もちろん、そうなることも想定した作戦だった。いや、でも心の底では・・・・俺は死なねえと思ってた。
【パータイス】も、不滅だってな。
シー、アイズ・・・・シシナ。
ずっと先の未来で、俺たちは笑っているはずだった。だからといって、後悔はねえよなァ?
こうすることで――――こうしなけりゃ、変わんねえ。俺たちは、絶対に・・・・いつかどこか遠くできっと見られるだろう。
理想の世界を――――――――――――。
「――――――――ッハァ‼‼‼まだまだ足りねえよなァ‼‼‼」
ちぎれそうな声を絞ると、シュルクは集団に向かって駆けだした。
(魔力がなんだ?俺は戦えんぞ‼‼‼)
お前ら人間族と違って、高貴な《《獣人族》》様だからな―――――――ァッ‼‼‼
天性の授かりもの・・・・彼の鉤づめは結局、最後までこうして人間を赤く染め続けるのだろう。
「―――――落ち着いてください。
奴が近接戦に出たということは、もはや魔力はないということ―――――――――」
「―――――――――その通りだぜェッ‼‼‼」
||||||||||||||||
<ギイィィィンッ‼‼‼>
||||||||||||||||
二つの刃物が火花を散らす。
有象無象では、彼を止めることができなかった。
シュルクは集められた兵士をなぎ倒し、ノバシャードまでたどり着く。
(―――――ッ)
だが無駄なことだ。大将位は想定外に多少動揺しながらも、シュルクをうまく受け流す。
「終わりだよ――――――」
「――――あァ」
ノバシャードの剣がシュルクの首元をとらえようとした瞬間のこと。
とはいえ、両者は決着で一致していた。もはやここからの逆転などは不可能・・・・しかしそれは、《《形勢が変わらなかった場合》》の話。
「~~~~~~~~⁉」
ノバシャードの剣が押し返された。
(これは――――――――魔力―――――――――――――――⁇)
頭がつぶれそうな感覚に襲われる。周囲に発せられた膨大な魔力塊によって、その場にいる者は魔力制御を阻害される。
そしてそれは、魔力波への耐性が薄い兵たちの意識を容赦なく奪っていく。
「――――――――さて」
どこからともなく現れたその女性は、ノバシャード大将位との間に入り込むようにして気絶したエルク・ダンヴァードをかばった。
「はじめまして。なかなか熱い戦いだねえ?ガキ共・・・・!!」
「・・・・!」
この体躯と、なにより圧倒的な実力。特徴が一致する。ノバシャードと面識はなかったが、王国軍一の嫌われ者。
「ヤーマ・テラーリオ元太極位ですね?」
「お、私を知ってるかぁ。なかなか、感心だ・・・・そして実力も。ちょうどいいや。悪いんだけどきみからも、上に言ってきてくんない?
これ以上、面倒くさいこと増やすなってさ」
ここで彼女は、ようやく語気を尖らせた。
「ほらほら、私が行ったら戦争になっちゃうでしょ?」
(それは、そうだろう)
ヤーマ・テラーリオ、彼女の目的は知っている。亜人族を助けたいのであれば、ここでそうするのももっともだ。
この場合、王国軍大将位として適切な選択は?
「――――――お?行ってくれる??いや悪いねぇ―――――ッテ、ハア⁉」
「領域魔法―――――」
洗練させた魔気をまとい、中枢神経を極限に展開する。
「――――ジバンル=デストマイル‼」
そして彼が魔力を開放すると、空間が《《歪み》》を作った。
「あちゃー。きみ、本気??殺すつもりはないって、私言ったよね?」
「はい。ですが、それは外での話。ここなら、僕のほうが強い」
そう。いつの間にかテラーリオは、ノバシャードとともにどこまでも続く空間に存在していた。
(暗い・・・・いや、黒いのか??)
周囲は漆黒色なのに、不思議と辺りはしっかりと視認できる。
「かなり強気のようだけど。私とタイマンで勝てるわけないっしょ」
「いまにわかります」
そう言うと大将位は、力強く地面を蹴り出す。
(―――――‼)
そしてつぎの刹那には、彼が言った通り、テラーリオはすぐに異変に気がついた。斬撃に対して一歩引いた彼女の足は、いつまでも空中でおぼつかない。
なるほど、そういうことか。
私だけ地面がない。いや、正確にはこの空間が私を認識していないのか?異物は引き込まれた段階から、世界の《《バグ》》であるらしい。
(つまり、私はここから動けない)
「へえ、いい魔法じゃん」
でもさ――――――――。
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
《ミシッ・・・・メキパキ・・・・・バギャッ‼‼》
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
空間内を、異音が走る。するとそれに合わせて漆黒に白線が、うねり始めた。
(ッ⁉)
領域が押し曲げられているッ⁉
見れば、彼女は実に余裕そうな表情でこちらを眺めているようだ。ノバシャードの頬を冷や汗が伝わる。
馬鹿な!ここは僕の魔法空間。それを内側から押し壊すなど、不可能だ!!術者すらまったくの想定外で、しかしそれ以上考える暇さえなく、彼の魔法は破られた。
空間がふたたび曲がり切れ、二人は強制的にもとの世界へと落とされる。
最初と同じだ、ヤーマ・テラーリオは単純な魔力だけで、魔法が存続できないほどの"飽和"を起こした。それでも戦意をそがれることなく構えだした剣は、むなしくも二つに割れ折れ―――――テラーリオの拳がノバシャードの腹部を突く。
「〜〜〜〜〜〜〜ッガァ!!!!⁉」
あーあ、もう少し冷静だと助かったね。
これではもうだめだ、地面に叩きつけられた彼はすでに気を失ってしまっている。
「・・・・。
うーむ。まあ、これは仕方ないとする」
(結構暴れたし、伝わらないことはないでしょ)
このことは、じきに数人から報告がなされるはず。そして隕石。あの魔法は厄介だ。かりにもし、これ以上のことになるようなら――――私が、直接行くしかない。
テラーリオは表情を引き締め、近くの瓦礫に腰掛けた。
・
・
・
・
場所は代わり、王国軍後方支援基地。そこにいるだれもが、《《それ》》を見ていたはずだ。
作戦の行方を。そして悪の温床が崩壊し、散り消える様を。そのはずだった。
「――――――――――ッ⁉
な、なにが起こった~~~~ッ⁉」
「わ、私の目がたしかならば・・・・隕石が町に到達することなく、どこか別の場所へと落下したようです‼⁉」
その状況に、感知兵さえもが自らの感覚を疑う。そして同時に大勢の視線が、グラディアーニェ太極位の方へと集まる。それはそうだ、この魔法の術者は彼女。彼女に説明を求めるというのが筋だろうし、もはやそれしかない。
当の本人は長髪の男の生首を右手でつかみながら、起こったことの一部始終を興味深そうに眺めていた。
「太極位・・・・?」
「・・・・」
(まさか―――――――あんな風に対処されるのははじめてです)
おそらくは固有魔法。文献にもないまったく新しいものか。
「ふふふ・・・・」
口角を上げ、うつむき顔で不気味な笑みを浮かべる。
では、もうすこし興じてみましょうか?その魔法、どのようなものか見せていただきたいのです。
(知りたい)
この感情は抑えられません。ぜひ楽しみましょう。
「二発目、三発目・・・・私はまだ魔力を余らせていますよ?」
めずらしく周りを忘れ、自分の世界に入り込んだような彼女。冷や汗を垂らしながら、ロドリゴはその肩に背後から手を置いた。
「た・・・・太極位・・・・」
「ロドリゴ大将位?・・・・これは??」
「・・・・」
(これは、セクハラじゃないよな・・・・?)
・・・・。
いやいや、違う。その前に、いまこの女を下手に刺激すれば殺される。そんな不気味ささえを、内包しているのだ。
「本部からの連絡だ。"セントレーネに展開する全部隊は、即時撤退するように"、と」
「――――‼」
このとき、彼女は我に返ったように、その無表情を動かした。
「そう、ですか」
「ああ。どうやら、ヤーマ・テラーリオ元王国軍太極位が動いたらしい」
(・・・・!)
なるほど、上はそういう判断をするのですね。
「ごねてもいいですか?」
「よせ。個人の考えはどうあれ、まずは王国の利益を考えろ」
(ふう・・・・)
段々人間らしくなってきたな、機械姫。まあ、ここではじめてそう表情に出すというのも、おかしな話だが?
「脅迫に屈するのは癪だが、奴とぶつれば・・・・下手すりゃ全滅だ。上としても終極位を失ったうえ、これ以上のゴタゴタは避けたいんだろう」
(そしてすまんな、テラーリオ。これは今回はこの前の貸しで精算。どうだ?)
そんな風に言い訳を作りつつ、すこし間を置くと、ロドリゴは少女の表情を伺うように視線を送る。まったく、まだまだ二十代のガキなんか据えるからこうなるんだっつーの!
心臓が高鳴りを覚える。
正直、これ以上大事にしたくないぞ。この女も実力は折り紙付き。それがテラーリオとぶつかりでもすれば・・・・そう考えるだけでも恐ろしい。
頼むから、ここは大人しく引いてくれ――――ッ!!⁉
「・・・・・・」
そんな深慮もよそに、彼女はまるで沈黙を好むようだ。そして、やっとのことで口を開くとこのさきに言及した。
「ええ、そうですね。
では、死力は尽くした、ということにしておきましょう。ここまでやって駄目ならば・・・・一度体勢を立て直す必要がある」
そう言って、彼女は生首を投げ捨る。振り返ると自らの口で、兵士たちに対して撤退の指示を出し始めた。
「はあああ。なんとか、収まったか」
ロドリゴ大将位はそう胸をなでおろすが、解放戦線のメンバーはもちろんそうもいかない。目の前で仲間を弄ばれたのだ。
「くそったれがあああああ、なんや、なんなんやお前、絶対許さへんからなあああ‼‼」
町が無事だったことよりも、その侮辱的な行為に頭を沸かる。ブラッディ・シャークは大声で彼女の方へと切りかかった。
「――――よせ‼」
しかしそれを止めたのもまた、ロドリゴ大将位だった。彼女のところまで行けば間違いなく殺されていたが、彼は男を説得する。
「もういいだろう、お互いに、痛み分けということだ」
「――――――――!!⁉
ッあ゛ァ゛―――――ぐあ゛あ゛あ゛ッ゙!!
ぐ、そぁぁぁぁぁぁァァァッ゙ッ゙ッ゙‼‼」
彼としてもそれをわかっていないはずがなく、その大将位と無意味な戦闘をすることはなかった。
『ウグッ――――――がぁァァァァァ――――――――――ッ‼‼‼』
乾いた空気に、彼らの叫び声はよく通って聞こえたことだろう。彼らはそして、自分たちの醜態をさらしてようやく、冷静さを取り戻したのだった。
そう、これはそれほどまでに大きな戦いであったということ。
「・・・・。
すまなかった」
しばらくして、魔獣を指笛で呼び戻す。絶望の表情を浮かべつつも、カーペンター・スリーは一応の礼儀は通しておいた。仲間を殺されもしたが、一応救われもした形である。
「ああ・・・・きみたちは人間族。戦いは終わったんだ。これ以上、こちらとしても犠牲は増やしたくない」
「・・・・」
強く風が吹きつけ、目を閉じると生暖かい液体が溢れた。恩師を殺され、敵に情けまでかけられて。俺は一体、なにをしに来たというのか。
「クソが・・・・‼」
カーペンター・スリーはそう呟いて、自らを強く殴った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・セントレーネ攻防戦(データの人間とは、広義の人間とする)
死者:1056人(うち民間人:901人)
負傷者:1321人(うち民間人:556人)
主な戦死者:ダルウィン・エリクアッツェ(終極位)アラン・フェバス(大将位)リアル・ジョー(解放戦線)シンバー・ベアード「本名:ジャレッグソン・ピグレット」(解放戦線)ラリー・ファージ(解放戦線)エステベス・ポーカー(解放戦線)
以上
*第四十七話につづく




