+++第四十三話:撤退はしない?混沌とする戦局、セントレーネ
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場面は変わって、町の境に移る。ここではまだ、王国軍と解放戦線の間で断続的な戦闘が続いていた。しかし、引き返してくる大量の兵士に押されるように・・・・彼らは町をあとにしていく。
「—―――終わった、のか?」
撤退する王国軍を屋根から眺め、ブラッディ・シャークは思わずそう漏らす。あれだけ大規模な人と装備の移動、おそらく南西のクレムーノを目指しているのだろう。
これがフェイクであるとは思えない。
<ドゴッ!>
こちらに一区切りついても、感情に区切りがつくことはいまだなかった。強い拳が、シャークの顔面に届く。
「ハアハア・・・・てめえサメ野郎‼
ゲホゲホゲホッ・・・・・・・・!!!!!!」
行動のぬしはさっきまで協力して戦っていた、リアル・ジョーである。彼は男の胸ぐらをつかみ、強制的に議論に巻き込んだ。
「なぜ止めなかった⁉
・・・・ゲホッ・・・・なぜ、止めなかったァ⁉」
「・・・・」
ただの喧嘩ではない。一方的な攻撃にも、シャークは黙ってそれを受け止めた。
「やめなよ、ジョー君‼みんな悔しいんだ。
でも一番は・・・・シャーク君が一番悔しいんだよッ‼」
「てめえマルコ・・・・ゲホッ・・・・・・ずいぶん冷静じゃねえか‼」
両者の間に止めに入った魔獣は、すこしためらってから再び口を開いた。
「うん。
こんなこと、考えたくなかったけど・・・・ちょっと前から思ってたんだ。シンバーさんは、なにかを決心していたような顔をしていた。
いまではこれが、あの人の望んだ結果なんじゃないかって。そう、思うんだよ、、、、」
(これがあの人の、望んだこと、だと―――――――⁇)
「くそったれ・・・・いい加減なこと言ってんじゃねえぞ‼ゲホッ・・・・‼‼‼」
なお興奮の収まらないリアル・ジョーは、八つ当たりのようにマルコにも振りかぶる。
(・・・・)
「おい、ジョー」
「――――ああ⁉なんだお前も殺されてえか⁉」
「いいや?」
その光景。しばらく冷静に見ていたポーカーだったが、彼の不意を突いて意識を奪った。
「・・・・すまないって言ったんだ。
いろいろ、失いすぎた。すこし休んでろ・・・・ああ、神様・・・・・・・・」
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『撤退だァ‼作戦中止‼退避しろォォ‼』
「・・・・?撤退⁇退避????」
後方支援部隊にも告げられた。それにエリミシア・グラディアーニェ太極位は耳を疑う。
「どういうことですか?」
「え、ええ。エリクアッツェ終極位が戦死された影響と・・・・解放戦線によるそのほかの被害も甚大だということで、撤退の判断に至ったそうです」
「・・・・・・はあ」
その言葉に、太極位はあきれてものも言えない。彼女はただ、じっと状況を見つめた。きたる《《敗走》》のときに向け、続々と兵士たちがこちら側に逃げ去ってくるのである。
(終極位の死―――—そして、撤退ですか)
彼女は感情のない人形のように、無表情で考えると口を開いた。
「そこのあなた・・・・さきほど、町中で結界の張られた聖堂があったと言いましたね?」
「は、はい‼ですが、わたくし共ではどうしようもなく」
突然の問いに戸惑いを隠せないながらも、町から戻ってきた兵士はそう伝える。
「場所は町のほぼ中心です。かなり強靭な――――」
「—―――そこまでで結構です」
太極位は視線をそらした。一挙手一投足に、まるで無駄がない。
「皆、聞いてください。おそらくその結界には、あの町の獣共が集められているのでしょう」
彼女の凛と澄んだ声は、そこまで大きくはない。しかしながら、障害物をも透き通るようにして遠くまで届き、自然と人々の注意を奪う。
「――――なんだ?」
(兵たちが固まっている)
可及的速やかに、隊ごとの撤退を指示したはず。
「あいつら、なにやってんだ⁇」
「ロドリゴ大将位‼それが、グラディアーニェ太極位がなにやら兵士に指示を出してい折るようでッ」
(――――‼あの厄介者が、か⁉)
部下の報告を聞くと、大将位は顔色を変えた。
「すこし行ってくる」
「はい!」
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「―――――――わが軍の兵士が撤退したいま、なにも枷となることはありません。いまこそ絶好のチャンスなのです」
悠然と語りを続ける彼女。周りは引き込まれるようにして傾倒している。まるでこの場を、一瞬で彼女を中心とした支配体制に変えたようだ。
「し、しかし太極位、いまは撤退を急いだほうがよろしいのではないでしょうか⁉ここで町に攻撃を仕掛ければ、解放戦線も黙っていません。必ずこちらになにかしらのアクションを見せてきます・・・・‼」
階級の高い兵はまだ、しかし完全に飲まれるに至ってはいないようだ。そう反論を挟むが、彼女はまったく表情を変えない。
「はい、そうでしょうね」
「・・・・・・⁇」
「いえ、それでよいのではないでしょうか?この作戦の目的は、悪の温床“セントレーネ"の壊滅だったはずでしょう?まだ打てる手が残っているのに、みずから失敗と決めつけるなんて・・・・ばかばかしい考えだとは思いませんか?」
(たしかに――――――)
いや、違う・・・・状況が変わったんだ。だから撤退が必要で・・・・?
頭が、こんがらがる。
俺たちはいったい仲間同士で、なんの議論を⁇
次の言葉に詰まる兵たち。そこに新たに暫定指揮官が到着する。
「―――――何事です⁉」
「ああ、ロドリゴ大将位。撤退の指示はあなたが?」
「ええ、このままでは不要な犠牲が増えます。いますぐに、、、、ッ⁉」
この人物を相手に、議論をするのは避けたいと思ったのかもしれない。彼女は黙ったまま大将位の前に出た。
「王国軍太極位:エリミシア・グラディアーニェとして、命令します。本隊はこのまま、向かってくる敵を討ちなさい」
グラディアーニェ太極位は懐から取り出した短剣を、彼の首元に突きつけた。
「・・・・・・・・・・了、解」
(くそッ、だから俺は反対だったんだ・・・・)
こうなれば最終指揮権は、彼女に移ってしまったも同然。ましてここで反対できるほど、俺は愚かじゃないぞ。
「良し、ではそちらはロドリゴ大将位にお任せします」
そう言うと、グラディアーニェは魔力をち密に練り上げた。悔しいが、こんなにきれいな結式ははじめて見る。
「星式魔法:天文翔破・落」
*第四十四話につづく




