+++第四十二話:ホワイト・ピアVS.ミレイユ・エリクアッツェ、決着
・
・
・
「伝雷魔法:ビス・ライダン」
最初の一手。地面に手を付き、ホワイト・ピアは雷を発生させた。
「なんだ、さっきと同じ手か?」
それはさっき、片手で払ってみせたはず。しかし、緑色の伝雷は、突如として形を変え、そこからホワイト・ピアが現れた。
「なッ!」
「炎魔法:ジャレンティア!」
極限までさきを鋭らせた炎槍が、巨体の肩口を突く。なおも炎上を続け、槍はやけどや裂傷の範囲を広げていく。
「あちちぢぢ!厄介な魔法だ」
初手の雷魔法のあとでは、あれが移動手段だとは思わないだろう。失敗は一瞬の隙であった。そして、傷と炎魔法に気を取られる巨体は、すでに隙の塊となった。
「風魔法:ダ・セルバ!」
「ちょ、ま――――」
<ズバ――――ッ!>
2撃目が容赦なく襲い掛かり、ガード・リ=ナーゼの腹部が広範囲に切り裂かれた。
(浅い・・・・仕留めきれない)
が、まあいいか。
つぎの魔法の準備が整えば、確実に仕留められる。
そうして、ホワイト・ピアが魔力を雷性質に変換させたとき。彼女の身体に力が加わり、右横に飛んでいった。
(あの巨体じゃない。これは・・・・!)
「私を忘れてただろ?」
「そうだね、ごめん」
「————!」
空中に緑色の伝雷が伝い、ホワイト・ピアの近くまで届いた。
「これは、さっきの――――」
「うん。いま相手をしてあげるよ」
「おもしろい。もう一度近接戦といこうか」
<ひゅッ>
ミレイユの腕が、ホワイト・ピアの顔面をかすめる。同時のモーションから、繰り出された蹴り技は、防御で受けきった。
「驚いた。腕、治ったのかな?」
「いいや?だが、そんなことは関係ないだろう」
常識を疑うが、たしかにそうなのかもしれない。体術はお互いに互角に繰り出され、明らかにさきほどよりもレベルが上がっている。
(覚醒、ね)
便利な言葉だ。
得たのはあの魔法だけじゃないってことか。
「噂をすれば・・・・魔法のほうが来た」
「待たせたな、ミレイユ・エリクアッツェ――――!」
巨体はようやく参加する気になったらしい。体を起こし、こちらに定める。
「2体1は面倒だからさ」
(もうすこし、寝ててもらえるかな)
「伝雷魔法:反重・転換!」
その瞬間、地面の伝雷と巨体とが引き合った。
「うお‼⁉」
<どうん!>
巨体が倒れ込み、土煙が上がる。
「これで、1対1。まずはきみから片付けることにしたから」
「ああ、構わないよ。だが、私は私なりにやらせてもらう」
そう言うと、ミレイユ・エリクアッツェの頭上が大きく揺らぎ始めた。
「はあ・・・・」
(そうきたか・・・・)
空間が裂け、新しく二体の異形が現れると、ホワイト・ピアは面倒くさそうにそう呟いた。
出現したのは、これまた巨大な生物。こっちの世界で言うなら、青大蛇と大熊と例えるのが最も近いだろうか?まさか、習得したての魔法をここまで使いこなすなんてね。それとも、こういう馬鹿げた魔法なのかな?いや、そんなことはないでしょ。
「な、なんだと・・・・?」
ミレイユ・エリクアッツェの行動には、ガード・リ=ナーゼも驚きを隠せないからだ。自分が、ここに居ることが信じられない。3体同時なんて、よほどのセンスがなければ不可能だ。とんでもない人間に能力が渡ってしまったかもしれない。状況を眺めつつ、そう考えた。
|||||||||||||||
「ジュアアアアアア―――—ッ‼」
|||||||||||||||
出現と同時に、青大蛇はホワイト・ピアに向かって加速していた。よほど空腹なのか、不必要に大口を開けている。
「きみはあとかな」
(炎魔法:レイズ=カーテン)
魔法が発動し、100メートル四方の炎壁が、青大蛇とホワイト・ピアを隔てた。青大蛇お構いなしに突っ込んだが、どうやら収穫は炎だけだったらしい。体をめいっぱいくねらせ、怒り、暴れ狂った。
「————!」
振り出された風剣に、ミレイユは一瞬戸惑った。
「あくまで私狙いか」
「それ、さっき言ったでしょ」
「勘違いするなよ。べつに、それでもいいさ」
体術はほぼ互角。そして、導き入れた異界の生物:【ロージャルダン】と、【ガゼルノックス】。彼らについての情報はすでに共有された。私がここで引き留めておけば、必ず勝利は訪れる。そう確信しているからな。
ミレイユ越しに、大熊が振りかぶる。
(うん?仲間割れ――――?)
違う、なにか狙いがあるんだ。ホワイト・ピアは防御を作るが、次の瞬間にはとてつもない圧力にさらされていた。
ガゼルノックスの攻撃は、味方と認識した生命体に影響を及ぼさない。
ホワイト・ピアはそれでも意識を保ち、体勢を立て直す。
「・・・・。
ああ、今度はきみか」
待ち構えていたロージャルダン(青大蛇)の鱗は、攻撃を与えれば与えるほど固くなる。
<ギインッ!>
金属音とともに、ホワイト・ピアがはじき飛んだ。
(これは・・・・まずいね)
まさかそれぞれがここまでの能力を持ってるとは。それに加えて――――さ。
「悪いな、俺も戻るぞ」
「ああ。すまない」
(・・・・)
あのでか物まで復帰したか。いつの間にか、あの王国軍兵士が統率を取ってる。もともと統才があったのかもしれないけど。
これでは本格的な対列とそん色ない。実質的にも、4対1だ。
「すみません、聞いてもいいですか?」
シンバーさん。
【あれ】を使わずに切り抜けられると思いますか?
”
「いいか、ホワイト・ピアよ。今後の計画・そして解放戦線の未来の一部は、おぬしの力に大きくゆだねられている」
”
(そうだ、この力は)
この力はこの作戦だけじゃない。解放戦線の未来にとって重要な力。
”
「だが、気負う必要はない。なにより大事なのは、おぬしの命じゃ。これから強敵と戦うこともあるだろう。自分が危ないと思ったら、遠慮せず使いなさい。わしは、きみたちのことがなにより――――」
”
(————大切だから、ですよね)
ホワイト・ピアはその瞬間、この上なく嬉しそうに微笑んだ。何度も聞いたけど、聞くたびに胸が熱くなった。
<ズジャッ!>
切断音とともに、大量の血しぶきが上がる。
「な、なんだァ⁉」
(:「落ち着け、ガード・リ=ナーゼ」:)
(:「ガゼルノックス・・・・だ、だってよ。あの血の量は・・・・」:)
不思議と、人語でない二人の会話を感じ取れる。ミレイユも、ガード・リ=ナーゼと同じ推論であった。向こうには、ホワイト・ピアと、そして向かって行ったロージャルダン。どちらかの血であるのか、もはや考えるまでもない。
ゆっくりと。冷静にこちらに向かって来る影は、洗練された魔力を纏う。そして、どこか新鮮そうだった。
「嘘だろ!?破ったのか?ロージャルダンの鱗だぞ!?」
(:「まずい」:)
(:「どうして」:)
(:「なんてことだ」:)
「――――ッ」
ここで、負の感情が脳内に一気に流れ込んだ。二体の思考が、意図せず漏れ出した形だろう。
「だい、大丈夫、だ!落ち着け‼」
それはすくなからず、ミレイユ本人にも影響を与える。
彼女は三体が、いづれも異界の"生物"であることを軽視すべきではなかった。
「炎魔法――――」
「ッ!まずい!」
この機をホワイト・ピアが逃すはずがない。彼女は入念に練り上げた魔力を、炎に変換した。
「エレンバレシア!」
そうして彼女が作り上げた炎塊は、太陽のように熱く、そして周りを引き寄せる。家屋を燃やし、または小さな木片にしながら進んだ。
「ガード・リ=ナーゼ!」
まずい。このままでは、直撃する。
「避けろ‼」
(:「無理だ」:)
「ガード・リ=ナーゼ――――ッ‼」
「あ、ああああ・・・・!」
巨大な重力にさらされる。
避け遅れた巨体は、業火に引き込まれ、やがて声を上げなくなった。
「・・・・」
圧倒的な戦闘のなかで、ミレイユとホワイト・ピアは視線を交わしあう。前者は言わずもがな、後者もまた、能力を大幅に拡張していた。
「流れが有利なのは私のほうかな。でも、もう魔力がないな」
(でもとりあえず、あれは殺しきらないと)
ホワイト・ピアはガゼルノックスに目を移す。
「(:「うッ!?」:)」
「炎魔法:ジャレンティア!」
「(:「うわああああ!」:)」
「逃げろ!ガゼルノックス――――ッ!」
ミレイユの叫びは、届かない。
本来、こうなるはずではなかった。
次元魔法による呼び出しは、召喚魔法とは性質が異なる。呼び出された生物は、いつでも自律的に異界へ戻ることができるのだ。
原因はお互いの経験値不足。後悔する間もなく、炎槍が生物を絶命に導いた。
「これで、ようやく1対1だね」
「さあ、どうかな」
ミレイユが魔力を練り上げるのを感じる。
(うそ・・・・)
まさか、まだ・・・・?そうなれば、こちらも・・・・使わざるを得ない。
お互いの間に探り合う緊張が高まるなか、それを打ち破ったのは、両者どちらでもなかった。
「撤退だ――――ァ!!!!」
それは、突然耳に届いた。もしかしたら、ずっと前からしていたのかもしれないが、ふたりには聞こえていなかったのだ。
(撤退?)
冗談かと思う内容だ。しかしつぎの瞬間、ふたりはそれを現実ととらえる。
「撤退だ、ミレイユ!」
「ヤッキ?なぜだ?なにがあった」
ヤッキ・フェンシュターン中将位。ミレイユと同期の彼が身につけるワッペンは、間違いなく王国軍のものだ。
「・・・・。とにかく、撤退だ。ついてこい」
「待て、理由を説明しろ!作戦はまだ――――!」
||||||||||
「〜〜〜〜ッ!!!!!???」
||||||||||
一瞬、電気が走ったように空気が揺らいだ。異変の正体はホワイト・ピアだ。彼女は別人のように顔色を変え、地面を蹴った。
「おい!待て!まだ戦いは終わってない!」
「馬鹿!撤退だって言ってんだろ!ったく、いつまで脳筋やってんだ」
「はあ?お前!奴は大罪人だぞ!ここで逃がせば王国の被害は増える一方だ!」
「だからって、お前が死んだら意味ないだろ!すこしは考えろ!終極位だって――――ッ」
中将位はあからさまに言葉を詰まらせた。
「――――なんだ?父がどうした?
さっきからお前、一体なんの話をしてる?」
「ああ、くそッ!そうかよ!ここまで来てわからねえなら、いっそ俺から言ってやる‼いいか、ついさきほど、ダルウィン・エリクアッツェ終極位がなァ――――‼」
・
・
嫌な予感はしていた。
シンバーさん、あなたのことだから。考えなしに作戦を変えたりしないでしょう?きっと、私たちにないことまで見通せてる。
「こっちだ!早く進めー!」
兵士たちは一斉に町の外へと進んでいく。ホワイト・ピアは、逆行するように中心へと走った。
でも、思うんだ。あなたの考えのとおりに行って、そのさきであなたは、私たちと一緒にいるんですか?
「急げ!終極位の亡骸はかならず回収しろ!」
「――――!」
そう言った兵士を見て、踵を返す。きっとそっちにいるんだ。
答えてもらいますよ、シンバーさん!
――――――――――――
――――――――――――
――――――――――――
ふっ、と。一瞬だけ厚い雲の間から、光が差した。
そこには厳しい戦いの跡が残され、まるで広場のように開けている。こうなれば、彼女が彼を捜索するのは、容易なこと。
「――――あ。し、シンバー、、、、さん?」
「・・・・」
「え、、、、と。すでに王国軍は撤退を始めたようです。やりましたね!シンバーさんのおかげで・・・・流石です」
「・・・・」
「作戦は変わりましたが、目的は達成できました。
このまま私たちもいったん外組と合流しましょう」
「・・・・」
「・・・・いや、な、、、、なんで?」
「・・・・」
「なにか言ってください!起きてくださいよ!ここは危険です‼」
「・・・・」
「・・・・」
彼女はそのあとも必死に問いかけるが、応答はない。シンバー・ベアードが、もはや命を失っていることは、誰にでも明らかだった。
いまになって彼女も、ようやくそれを受け入れなければならないと理解した。さきほどから届く信号を、仕方なく受理する。
「―――――――――。
こちら・・・・・・・・・・・ホワイト・ピア」
いつもの冷静な雰囲気を欠き、少し震えた声調が少女の脳内に届いた。
「あ!こちら、キャロット!」
彼女はそれには気づいたものの、あえていつも通りの対応を試みるのだ。
「お前、やっと連絡をよこしたな‼死んだかと思って、ひやひやしたぞ。で?状況は?」
(・・・・)
「・・・・?」
「――――ッ!!」
吐き出すのをためらうようだ。
彼女は喉の奥にずっとしまっておきたい言葉は、なかなか口に出すことができない。
「ああん?なんだよ?」
(怪我でもしたのか⁇)
このとき、本心からキャロットはそう考察した。通信ができているとはいえ、ホワイト・ピアが取り乱すほどの大けがを⁇考えにくいが、だったら応援に。
「早く場所を言えよ、そのままじゃ――――――――――」
「――――違う、私は大丈夫だから」
(・・・・?)
だったらなんで―――――⁇
あの彼女が心を大きく動かされる事象。
(うん?ほかに、思い浮かばねぇぞ?)
彼女を始め誰にも―――――――《《そんなこと》》片隅にも存在しない。
「――――――――――シンバー先生が・・・・せ、、、、戦死した・・・・」
「――――は?」
一瞬、世界が止まった。
なにも聞こえなくなり、なにも考えられなくなったからだ。
(死んだ―――――シンバー、さんって――――――)
―――—誰だっけ⁇
じゃないだろ‼‼‼
「おい、似合わない冗談言ってんじゃねえぞ⁉時と場合を考えろよッ‼」
「・・・・・・」
だんだんと状況を理解する。
これは、自分の仲間が、人生で初めてのジョークを・・・・あろうことか不謹慎にも戦場で披露しているわけではない。
彼女はただ、苦しそうに呼吸をするだけ。キャロットの言葉に、なにも反応しない。
(なんとか言えって‼)
「だ、だ、だいたいィ!普段全然しゃべんねーくせにさァ・・・・‼」
「おい、キャロット‼言葉に気をつけろ‼‼」
そこまで聞いたところで、近くにいた男が通信に割って入った。彼女の言動もそうだが、これ以上、ゆがんでいく表情を見ていられなかったのだろう。
「あー、あー・・・・聞こえるか?
俺だ、カーペンター・スリー。状況は分かった、可能であればご遺体を回収してポイントFに戻れ。撤収、するぞ」
「――—―ブツン―—――」
キャロットとは変わって、カーペンター・スリーは手早く通信を切った。
「あいつにも、時間は必要だ」
その配慮は正しい。
ついさきほどから降り出した雨が、ホワイト・ピア髪や服をぐしゃぐしゃに濡らし・・・・途切れることなく顔を伝っていく。
「――—―くッ‼
ううう・・・・ううッ・・・・・・・・・‼‼‼」
(どうして・・・・私、作戦は・・・・どうしたんですか)
シンバーさんッ‼‼‼
ホワイト・ピアは通信が切れたのを確認すると、地面に崩れ落ちた。
「貴様、ホワイト・ピアだな!」
「・・・・‼」
すこしして、終極位の遺体を回収し終わった兵士がそう叫んだ。リーダーを失った怒りを、ぶつけなくては気がすまないのだろう。
彼女はそれまで、めずらしくも警戒していなかった。しかし、恩師に向けていた注意を、そちらに集中せざるを得ない。
「言っておくが、そのクソ犬はこちらが回収するからな!大罪人をォ!王都で晒し首にしてやる!」
「へえ・・・・そう!
だったら私は、ここにいる全員を!殺さないといけないねッ!」
「な、な、、、、ッ!?」
(なんだ?この女は?)
王国軍に囲まれている状況だぞ?なぜそんなに強がれる?さきほどまでの威勢とは変わり、男は恐怖に包まれた。
「――――!
よせ!これ以上戦ってはお互いに不毛だろう。こちらにも交戦の意思はない!」
「・・・・」
徐々に近づくホワイト・ピアと、震える兵士らの間に、論理的な意見が割って入った。
「われわれは、故人をどうこうするつもりもない」
「ッちょ!ロドリゴさん⁉」
大将位と呼ばれていたその人物は、いたって淡々と伝える。いまの彼女には、それくらいしないといけないと感じたのだ。
「そう、か」
「ああ・・・・つらい戦いになったな」
「さあ!撤退だ!」
「は――――はい!」
すると王国軍一行は、終極位:エリクアッツェの遺体を回収。足早に南西方向へ去っていった。
(戦い――――私は、なぜ――――?)
あなたがいないなら、もう、戦いたくありません。
ホワイト・ピアはしばらくそのままだった。しかし通り過ぎる王国兵は誰も、彼女を攻撃することはなかった。
*第四十三話につづく




