+++第四十一話:激戦の中盤譜、王国軍終極位の決断
「「――――はあ、はあ」」
荒廃した地に立つ、二つの影。
それらはどちらも肩を揺らし、まずは呼吸を整える。
解放戦線トップ:シンバー・ベアードと、王国軍終極位:ダルウィン・エリクアッツェである。言うまでもなく、相手がお互いでなかったら・・・・こう苦戦することはなかっただろう。
「ゼエ、ゼエ。
お互い、火力では決着がつかねえな」
「ああ。
そのようだ、ハア、ハア・・・・」
(やはり、俺が対峙してきたどんな敵よりも。あんたは《《強い》》)
「・・・・」
さっきの魔法に、魔力を裂きすぎた。多少休む必要があるが、それはシンバーとて同じこと。ただ息を整えるのもつまらん。
「―――—実に、無意味だと思わないか。
こんな戦い、もうやめたらどうだ。百年近く続けて、なにか変わったか?」
(————!)
なにを言い出すかと思えば、変わらんのう。
「ああ、すぐにでもやめてやるさ。国王の方針が変われば、すぐにな」
「それは不可能だ‼」
王国軍終極位。ましてこれだけの実力を持った人物の、即答。これほど説得力のある回答は、得られないだろう。
(こんなこと、考えるべきではないのだろうが――――)
わしも、そう思う。
ここ最近、王国の方針はますます強まるばかり。解放戦線についても、強硬派はかなりの勢いをつけている。分断は深まるが、埋まることはないのだ。
しかし、だからこそ・・・・だ。
「だから、こうして戦っていたんじゃなかったか?」
「――――ッ‼
ぐはははは‼‼
その通りだ、シンバー。本当に、世の中ってのはよくできてるよなァ‼
思い返せば、昔、俺はお前に殺されかけた――――だが今回はどうだ?互角に戦えているぞッ⁇」
「ああ、そうだな」
解放戦線の、あの兵どもが慕うほどの人物。彼もまた、人間。すくなくとも生物である。
「それはお前が老いたからだ、シンバー。俺は今日、それを強く感じた。
そろそろ楽になれ。お前が死ねば解放戦線は終わり、王国はまた一歩理想に近づく。だがそれでいいじゃないか」
「老い、か・・・・そうだな。おおむね、お前の言う通りじゃ。わしはもはやかつてのように強くない。が、ふたつほど訂正しておくよ」
「なに?」
「わしが死ぬとしたら、それは諦めたからではない。期待しているからだ」
「わからんな。お前のいない解放戦線に未来などあると思うか?」
「ほほほ、そのうちわかるさ」
老人は不気味に笑う。
「それからもうひとつ」
――――。
「おぬし、日光浴は好きかな?」
(————は?)
なんだこのジジイ。いきなりなにを?
「ボケるのは死んでからにしてくれ。俺はこれでも、あんたの強さは尊敬してんだ」
「ボケてなどいないさ。わしは正常だ。バードウォッチングは、ああ、座禅なんてどうだ?年老いるとどうも、これらの類が好ましくなってね」
「・・・・・・・・。だったら家で寝てろよ」
「いいや?そうもいかん。
わしは年老いた。だが年老いたからこそ新たに気づき、手に入れたものもある」
なんだなんだ?
「いい加減にしろ。
なにを言っているのかわからんぞ」
「まあ見ておれ。
これは、そのうちの《《ひとつ》》じゃ」
老人は大きく深呼吸をして、目をつむった。
「おいおい、戦闘中に!殺せと言っているのだな!?」
振り下ろされた巨大な薙刀は、しかし。
シンバーをとらえることなく地面に突き刺さった。
(かわした?)
それも、いとも簡単に。
「おお、よしよし」
めでるように老人が声を出すと、行き場のない小鳥が二羽、彼の頭上に止まった。
「なにを遊んで――――‼⁉??」
「ん?どうした」
「シンバー、貴様。魔力はどうした」
奴の体から魔力が感じられない。変化は一瞬のうちに起きた。
「魔力ならほら、これじゃよ」
「ふざけるな。お前の周りに濃い魔力があるのはわかる。が、それはさきほどまでのお前の魔力とは違う」
「そう。じゃが、これがいまのわしの魔力じゃよ。違うと感じるのはそう、わしの魔力のほとんどが、自然魔力によって希釈されているからだろう」
「自然魔力・・・・だと?」
自然魔力。自然が持つ本来のエネルギーを、人間の魔力に並置させてこう呼ぶ。シンバー・ベアードは本来人間に依拠すべき魔力を、自然魔力と混合したのだ。
「馬鹿げた試みだな。それに、そうしたからといって、どうなる?」
「さっきも言ったろう?これは、わしが老いることで手に入れた、新たな力、じゃよ」
魔力が結合すること、それはすなわち、世界を直接変更するための道を得たということ。これよりシンバーベアードが行うのは、自然による直接の自己改変。人知を超えた、離れ業である。
「自然魔法・・・・」
シンバーがそう口にすると、終極位の足元から巨大な木がいくつもうねり出た。
「う、うおおおおお????」
(これは、森林魔法か?)
しかし、この規模と強度、発動速度は、文献の比ではないぞ!?しきりに体に絡みつくそれをうっとおしく思いつつ、考えを進める。
「雷魔法:ジエン雷‼‼‼」
天空から降り注いだ凶大な雷は、巨木を裂き、真っ黒に焦がした。
「ほほほ・・・・なにか、言いたげだな」
「ハア、ハア。貴様、この力は!?」
「無論、わしは森林魔法など使えん。これは自然の力《《そのもの》》じゃよ」
「だから、あの規模も可能だと?」
ジエン雷は、俺の雷魔法のなかでも最高の魔法。
ジジイの説明は空想的だが、変に現実味を帯びるのは見ちまったからだ。
(奴の魔法を――――)
「自然魔法:ジロック=タイ」
「~~~~ッゥ‼」
地面が大規模にひび割れ、足元が揺れ動く。たまらず飛び上がったダルウィンに向かって、隆起した地面が四方から向かって来る。
(これは、地殻魔法————!)
これほどまでの大地の改変を、土魔法で成立させられるわけがない。まただ。奴はまた、これまでにない希少魔法を使いこなしている。
<ズウン・・・・>
<ガズン!>
<ドッ・・・・ズガッ!!!!>
数刻前までいた場所が、大地によって容赦なくつぶされていく。と、おもえば・・・・。
「今度は下か!」
巨大な地割れが、男を飲み込む。
「なめるなよ、シンバアアアアア!!!!」
(————!)
とりわけ大きな振動音が響くと、シンバー・ベアードはそちらに集中した。
ばらばらと破片が散るなか、巨大な魔力を身に付けた終極位が姿を現す。
(まさか、地面ごと粉々にしてしまうとは)
「ああ。ぶっ壊すだけなら都合がいい」
しかし、背後にはもう一方の岩盤がある。
いましかない。
そう判断すると、シンバーは体内の魔法を一気に炎に変えた。その近くからは風・雷・光のエネルギーが、それぞれ高出力で放射される。
「炎・自然合同魔法:ジエンブ!!!!」
シンバー・ベアードの出力と、さらに同規模の3エネルギーが、容赦なく終極位に襲い掛かる。
=========ゴオ
========オオ
========オオ
=========オオ‼‼‼‼‼
「・・・・。
終わった、かのう?」
あの業火のなかでは、生命を維持することは極めて困難だ。それに、生命反応も感知できない。
「普通なら、そう判断する」
「馬鹿言え。俺は王国軍終極位だぞ?」
「・・・・」
正直、想定を大きく超える強さ。老いによって強さを失ったとは思わない。つまり目の前のこの男が、以前よりずっと強くなったということだ。
「————深淵魔法:クロニクル=ラーゼ」
「それがおぬしの虎の子かい?」
「まあな」
男の周りを漂う黒い影。あれは、ただの闇じゃない。すべてを引き込む無限そのものか!
「だから、感知できなかったのだな?」
(まずいな。そろそろ戻って作戦を継続できるはずだったんだが・・・・)
さすがは王国軍終極位なだけある。ダルウィン・エリクアッツェ、底が見えん。
「そろそろ決着をつけよう。偉くなって、忙しいだろうからのう」
「ああ、そのつもりだ。解放戦線“ベクラマ”:シンバー・ベアード‼」
(深淵魔法:クロニクル=テーゼ‼‼‼)
するとシンバーの周りに、漆黒の微粒子が湧いて出た。
「これは・・・・?」
「深淵はすべてを飲み込むだけじゃねえ。エネルギーの発散まで、自在なんだよ」
(・・・・!)
離れたほうがよさそうだ。
「って、考えるよなあ?」
「な――――ッ!」
飛び上がったシンバーのすぐ横に、ダルウィンは見透かしたかのように移動した。
「思えば、あの日。俺はあんたの手のひらの上だった。今度はぎゃくだ。
なんの意図もなく俺が情報を渡すと思ったか?シンバー‼お前はもう、終わったんだ」
「しまった!」
「深淵魔法:クロニクル・エッジ‼‼‼」
深淵をまとった拳は、空間を捻じ曲げる。シンバー・ベアードの顔面に届くころには、それはとてつもないエネルギーを含み、それを発散した。
(~~~~~~~~ッ‼)
空間はそれに耐え切れず、空中に黒くヒビが形成された。
ああ。なんて、威力だ。意識が、保てない!
まずいな、わしは、どうなった?落ちていくんだ、体が・・・・どこまでも。
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・
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視界が、暗い。
でもやっとか、動きが止まった。
「ここは?」
薄れゆく意識のなかで、シンバー・ベアードは扉の前に立っていた。表札はもちろん、“死”である。
*第四十一・一話につづく




