表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/55

+++第三十七話:王国軍太極位:マール・ヘンダーソンの戦い

 ここで、物語の舞台は激戦のセントレーネから、王都へと移る。ここでもまた、解放戦線との衝突余波を受け、いつもと違った光景が住民を心配させていた。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 同じ頃・・・・王都特別行政区(通称:第43地区)。

 

 「ええ、休みーーーーィ⁉」

 

 男は扉の張り紙に落胆の声を上げる。

 彼だけではない。今日この場所を訪れた者は、みな同じ行動を取っている。

 

 喫茶"マルグリット"は臨時休業、いつものように静かな時間を過ごすことができないようだ。

 第31地区で起こった、さきの襲撃。これを鑑み、王都は警戒態勢を強化しているからである。セントレーネ攻防戦に参加をしている兵力を補うため、本部は第43部隊にも臨時招集をかけ、他区の警備を命じた。

 

 *

 

 「————って、話らしいぜ。知ってたか??」

 「いや?しかし、あの狂人どもを、ねえ?そっちのほうが危険に思える」

 「がばば。言えてんな、それッ」

 

 中心部から離れた場所とはいえ、王都が襲撃された。もちろん王国軍はそれを重く受け止めたが、それは上層部や知識層の話。末端の兵たちは、特別な警戒感を持っているわけではなかった。

 

 「口を慎んでください!

 いまはセントレーネに戦力が割かれている。なにかある可能性は高まっているんです!」

 「おォ、優等生君がなんか言ってんぜ??すみませんね、大佐位様。俺たちは現場にいたわけじゃありませんので」

 

 (当たり前だ。あの場にいたら、お前ら死んでたよ)

 もし、そのせいで先輩に悪影響がでていたら、俺が殺してた。

 

 そのロッカ先輩とは別行動。

 

 (この能無しども――—―)

 年上とはいえ、同伴している適当な二人に、カーン大佐位はいい加減嫌気が差す。

 まあ、あの場にいなければわからないというのは・・・・ある意味で正しいのかもしれない。自爆という選択をいとわない彼らの精神。それを数重の規模で同時多発的に行う能力と計画性――――。

 

 そしてなによりも、あの女。一人だけ抜きんでた力と、とてつもない異質感。あれは、別格だった。

 カーンは、自分事気がどうにかできる次元ではないことを痛感しつつ、真剣に王国のことをも懸念していた。

 

 あのとき、奴はまだ本気ではなかった。いや、実力の半分も出していなかったかもしれない。その気になれば、もっと巨大なことをしでかしてもおかしくはないだろう。

 

 「・・・・あ」

 そんななか、彼らの集団は目の前に人影を見つける。第33地区。結界が薄いこの地区には、外出自粛例が出ている。

 ただでさえ、ひと気が少ない中・・・・あんな裏路地でなにを⁇

 

 「―――—気をつけてくださいよ」

 「いや、大丈夫だろ」

 「っちょ・・・・!」

 

 カーンの忠告を軽くあしらうと、ピック兵曹位は謎の二人組へと向かって行った。 

 「おい、あんたら。なにしてんだ⁇

 悪いがこの辺りは――――治安も、悪、、、いから・・・・・・⁇」

 

 (え――――――――?)

 なれなれしく肩に置かれた手を振り払うようにして、こちらを振り向く。彼女の顔面には無数の黒い《《ヒビ》》が入っており、なにより額からは二本の角がこちらをとらえる。

 

 亜人族―――――――――。 

 飛び退くようにして、とっさに距離を取る。

 

 「ひどくね、ひどくね⁇

 それって、もしかしなくても、俺たちが魔人族だからじゃね⁇」

 

 ひょうたん型の顔・・・・男は自分らの素性を暴露した。

 (こ、こいつら・・・・)

 

 「まぢ、最悪。

 おっさんに触られたんだけどォ・・・・」

 「な、なんだとゥ⁉」

 

 「ピックさん、どいて‼お前ら、いったいなんなんだ⁉」

 

 使えない部下を押しのけると、カーンは剣を構えそう質した。

 

 「・・・・まあ、こっちはそこそこイケメンだな。お前は、殺さないでおいてやってもいい」

 「姉ちゃん姉ちゃん、それ、おでたちの仕事と違くね⁇」

 

 「不快なごみを掃除するくらい、いいでしょう?

 それに、これからいっぱい死ぬんだから・・・・関係ないわよ」

 

 頬を冷たい汗がつたる。

 (なんだ・・・・?気分が、気持ちが悪い。おかしくなりそうだ)

 原因はすぐにわかった。女の方が、上空を指さすと・・・・そこにはあのときと同じ魔法陣が展開されていた。

 

 (・・・・ッ‼)

 しかしその大きさは数倍では効かない。そこから現れるもののスケールを想像するだけで恐ろしくなった。

 

 「そこのお前」

 「な、なんだ⁉」

 

 「四つの災厄・・・・飢餓、炎、雷、そして水。それらをモチーフにした、厄魔神が存在することは知っているか⁇」

 「なんだと――—―⁇」

 

 「らはは、よく聞いておくと言い。

 今日、人間族を襲う天災・厄災の話だからな―――――――」

 

 *

 

 王都安全神話が崩れ去る。

 魔王の時代以降、王都には敵勢力の襲撃がない――――実に数百年という年月は、人々に安心と同時に慢心をも与えたのだ。

 王国軍の最高戦力たる、終極位はもはや王都に居ることはすくなく・・・・現状では常駐する戦力をもセントレーネに削がれている。

 

 したがって、王都に現存する大きな兵力は、太極位:二名、大将位:六名のみである。そのタイミングでの強襲は、王都をかつてない危機に陥れた。

 

 「・・・・‼

 ひどいな、、、、これ・・・・」

 第29地区の惨事を目にして、マール・ヘンダーソン太極位はそうこぼした。

 それもそのはずで、魔人族がこの場所で行っているのは、徹底的な放火である。建物が密集していることを考えれば、すでに人的な被害も考えなくてはいけないだろう。

 

 「―—――マール様ッ‼」

 「わかってる、悔しいよな」

 

 その場にいる人たちは、みな傷や泥が付けている。

 (人間の命が目的ではないのか?)

 目的が読めない。いくら奇襲が成功したとして、王都を落とすことは国家転覆を意味する。

 各地から派遣されつつある増援は、早い部隊で数十分後に到着する。その気になれば王国は、王のいるこの場所を守るために全兵力を結集させる。

 それらを相手にすることなど不可能でしょ?

 

 いやいや、それを考えるのは、いま私のするべきことじゃない。うん、どんな目的であれ――――。

 

 「――――私、もう激おこぷんぷん丸だよっ‼」

 

 ====

    ビリ・・・・

ビリビリッ・・・・・・・‼

                   ====

 

 

 空気中をつたる刺激的な魔力―――それは、周囲の魔人族が感じた殺気の正体である。

 

 (なるほど、本物が来たか―――—)

 しかし、だからといってなにができる⁇作戦に支障はない、ここで命を落としたとしても、この町には大きな爪痕が残るだろう。

 

 (いままで、お前らがさんざんやってきたことだ)

 

 魔人族の青年【ウィー】は、故郷を空に浮かべた。

 焼け消えたものは戻らない――――思い知れ、人間族ども‼

 

 「――――クソったれがッ‼」 

 憎しみとともに大きな魔力が、彼の体で練りあがる。

 

 魔人族は主に、緑色の肌をしたオーク種、大きな翼が特徴的な欧雅種、そのほかの雑種に分けられる。この地に集中的に投入されたのは、魔人族・欧雅種であり・・・・彼らは基本的に魔法を最も得意とするのだ。

 第29地区に、オレンジ色の火花が散った。

 

 (魔法の”魔”・・・・これがなにを意味するかわかるか⁇)

 この瞬間、彼はこの日最大の魔力を解放する。

 

 「炎魔法:エンダ=ラ=クアンテ――――ッ‼‼‼」

 

 こうして、甚大な業火が住民もろとも家々を飲み込む――――はずであった。

 オレンジの大波は、まるで巨大な壁にぶつかったように広がりを見せ、それ以上奥に進むことがない。

 

 (・・・・⁉)

 どういうことだ⁇

 

 見えない壁がある―――—というよりも、押し返されているのか⁇さきほどまでとは違うこと・・・・原因はわかりきっている。

 

 あの女か‼

 視線に答えるように彼女が腕を突きだすと、炎は移動のベクトルを変えた。

 

 (炎波がだんだんスピードを上げて、こっちに来ている‼)

 咄嗟の回避、ウィーは自分の魔法で焦がされる事態を避ける。

 

 「ハアハア・・・・⁉」

 すると今度は周囲で燃え盛る炎が遊離し、すべて空中に浮んでいく。

 

 (ふざけるなよ、俺の魔法だぞ―――—⁉)

 「なぜ、言うことを聞かないんだッ‼」

 

 「・・・・へえ?どうしたんだろ?さっきまでの、勢いは⁇」

 「うるせえ‼いまに全員殺しに行ってやるさ」

 

 (威勢だけ――——)

 「無理でしょ、だっていまも・・・・体制を維持するだけで精一杯のはずだもんね?」

 「・・・・!」

 マール太極位の言う通りだ。先ほどからウィーは上空への強い引力にさらされている。

 

 「そろそろわかってきたでしょ―—――私の能力ッ」

 彼女が散らばっていた木片を蹴り飛ばすと、それは男の体に向かって加速する。

 

 ――――――磁力。

 それは自然界で、最も支配的かつ根源的なな力のひとつである。

 

 マール・ヘンダーソン太極位の固有魔法【磁騨魔法】は、だからこそもっとも強力な魔法のひとつとして数えられている。現状彼女によって、ウィーの魔力には【S極因子】が付与されている。そして空中の【N極因子】にはいま、引き寄せられた彼の炎魔法が集まっていた。

 

 もしウィーが魔法を使おうとして、大きな魔力を練れば彼はあの小さな太陽に吸い込まれるだろう。しかしなにもしなければ――—―朽ちた木材に体を貫かれる。

 

 ようやく、彼も絶体絶命のピンチを理解した。

 

 「————ッ!うああああああッ‼」

 (こうなれば、死ぬ前に一人でも多くを道連れにしてやるッ!)

 ウィーはそう考えると、住民たちの方に駆け出した。

 

 (って―――—え、まだあがいてるの⁇)

 さっさと諦めたらいいのに。

 

 彼女は素直にそう考えた。

 すでに加速を強めた木槍は、彼の背中をいまにもとらえるだろう。

 もともと私とあなたは敵同士。しかしこうして出会ってしまったのは、あなたが悪いよね⁇勝手に私たちの町に攻撃を仕掛けて来て、私と相まみえた。

 その時点でもう―――—。

 

 (――——終わりってことだよ⁇)

 

 男の絶命する瞬間になど、みじんも興味のない彼女は、すでに考えをべつの場所へと移した。

 (―—――さて)

 このレベルであれば、何人いようとすぐに掃除できるなぁ。この場にいるのは私。でも、私じゃなくても、対処できることだ。

 

 「”王国兵たるもの、見て感じることだけで考えてはいけない”」

 優先するべきは、王国全体としての利益である――――そう叩き込まれてきた。

 

 燃え広がる炎が目に入る。きっと苦しんでいる人もいる。でも、うん。だとすれば、さきにあっちだよね。

 

 北西の空――—―あの下は第20地区の辺りだろう。魔法陣から顔をのぞかせるのは、赤黒く、巨大なドラゴン。まさか、あんなものまで出てくるなんて。

 

 体長が100メートル以上はあるだろうか?ここからだと正確な把握は難しいが・・・・どうであれ、あの巨体が暴れたらどうなるか?

 

 (―――—それをさせるとでも?)

 

 |||||||||||||||

 

 ―――――ドオッ――――――‼‼‼

 

 |||||||||||||||

 

 先ほどまでとは比べられないほどの、質と量。総じてはるかに高レベルな魔力が、辺りに漂った。

 青電を辺りに散らしつつ、彼女の手元には金属質の弾丸が生成される。その周りには、出力として巨大なエネルギーが放出され、結果として空間がゆがみ動く。

 

 波。

 まるで、なにもない平静の水だまりに雫が滴ったように。世界は新しい異物を認識し、そして受け入れたのだった。彼女の洗練された雷と、そして磁力の魔法が、弾丸の先に実質的な磁場と電磁伝導領域を形成する。

 

 彼女と巨体の間には、実に20キロほどの距離がある。これほど遠距離では、魔法の出力を保ったまま届けるのも困難だ。まして、相手への攻撃などほぼ不可能と言っていい。

 しかし世の中には不思議と、不可能を可能にしてしまう才能を持った人物が存在してしまう。

 

 溜め時間・その間の隙や、その後のインターバル・・・・。

 それらを考慮せずに、純粋な一撃の威力、そして射程に関して考える。

 

 たとえ終極位であっても、王国軍内に彼女の右に出る人材は存在しないだろう。

 

 「―――――電・磁騨魔法:エンド=コリオンカート=シス‼」

 彼女がさらなる魔力を押し出すと、弾丸はすさまじい勢いで加速し、空中を駆けた。青白い閃光。そして空気摩擦によるオレンジの火花が散り舞う。しかしながら、それを感知できたのはごく少数だったはずだ。

 なぜなら瞬く間にそれは、かの巨体に風穴を開けたからだ。

 

 「・・・・‼ご、おおおおおおッ‼」

 

 それは口元から血液が滴らせ、充血した目でマールをにらんだ。どうやら、魔力の出所を察したらしいが・・・・もはやそれでは遅すぎる。さきほどの攻撃は内臓までを正確に破壊しているため、もはや生命活動は維持できないからだ。

 

 「異物は一生眠ってなさいな・・・・」

 紫に光り輝く物質とともに、竜の体は空中に放散していく。これが魔神にとっての”死”―――—である。

 彼らは現存生物とのバランスを保つため、存在維持が不可能だと判断された時点で、世界アクセスを拒否されるように設定されているのだ。

 

 「さあて、つぎはどこだ~あ?」

 マール太極位は2、3度腕を回すと、部下の下へ向かった。

 

 

 *第三十八話につづく

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ