+++第三十七話:王国軍太極位:マール・ヘンダーソンの戦い
ここで、物語の舞台は激戦のセントレーネから、王都へと移る。ここでもまた、解放戦線との衝突余波を受け、いつもと違った光景が住民を心配させていた。
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同じ頃・・・・王都特別行政区(通称:第43地区)。
「ええ、休みーーーーィ⁉」
男は扉の張り紙に落胆の声を上げる。
彼だけではない。今日この場所を訪れた者は、みな同じ行動を取っている。
喫茶"マルグリット"は臨時休業、いつものように静かな時間を過ごすことができないようだ。
第31地区で起こった、さきの襲撃。これを鑑み、王都は警戒態勢を強化しているからである。セントレーネ攻防戦に参加をしている兵力を補うため、本部は第43部隊にも臨時招集をかけ、他区の警備を命じた。
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「————って、話らしいぜ。知ってたか??」
「いや?しかし、あの狂人どもを、ねえ?そっちのほうが危険に思える」
「がばば。言えてんな、それッ」
中心部から離れた場所とはいえ、王都が襲撃された。もちろん王国軍はそれを重く受け止めたが、それは上層部や知識層の話。末端の兵たちは、特別な警戒感を持っているわけではなかった。
「口を慎んでください!
いまはセントレーネに戦力が割かれている。なにかある可能性は高まっているんです!」
「おォ、優等生君がなんか言ってんぜ??すみませんね、大佐位様。俺たちは現場にいたわけじゃありませんので」
(当たり前だ。あの場にいたら、お前ら死んでたよ)
もし、そのせいで先輩に悪影響がでていたら、俺が殺してた。
そのロッカ先輩とは別行動。
(この能無しども――—―)
年上とはいえ、同伴している適当な二人に、カーン大佐位はいい加減嫌気が差す。
まあ、あの場にいなければわからないというのは・・・・ある意味で正しいのかもしれない。自爆という選択をいとわない彼らの精神。それを数重の規模で同時多発的に行う能力と計画性――――。
そしてなによりも、あの女。一人だけ抜きんでた力と、とてつもない異質感。あれは、別格だった。
カーンは、自分事気がどうにかできる次元ではないことを痛感しつつ、真剣に王国のことをも懸念していた。
あのとき、奴はまだ本気ではなかった。いや、実力の半分も出していなかったかもしれない。その気になれば、もっと巨大なことをしでかしてもおかしくはないだろう。
「・・・・あ」
そんななか、彼らの集団は目の前に人影を見つける。第33地区。結界が薄いこの地区には、外出自粛例が出ている。
ただでさえ、ひと気が少ない中・・・・あんな裏路地でなにを⁇
「―――—気をつけてくださいよ」
「いや、大丈夫だろ」
「っちょ・・・・!」
カーンの忠告を軽くあしらうと、ピック兵曹位は謎の二人組へと向かって行った。
「おい、あんたら。なにしてんだ⁇
悪いがこの辺りは――――治安も、悪、、、いから・・・・・・⁇」
(え――――――――?)
なれなれしく肩に置かれた手を振り払うようにして、こちらを振り向く。彼女の顔面には無数の黒い《《ヒビ》》が入っており、なにより額からは二本の角がこちらをとらえる。
亜人族―――――――――。
飛び退くようにして、とっさに距離を取る。
「ひどくね、ひどくね⁇
それって、もしかしなくても、俺たちが魔人族だからじゃね⁇」
ひょうたん型の顔・・・・男は自分らの素性を暴露した。
(こ、こいつら・・・・)
「まぢ、最悪。
おっさんに触られたんだけどォ・・・・」
「な、なんだとゥ⁉」
「ピックさん、どいて‼お前ら、いったいなんなんだ⁉」
使えない部下を押しのけると、カーンは剣を構えそう質した。
「・・・・まあ、こっちはそこそこイケメンだな。お前は、殺さないでおいてやってもいい」
「姉ちゃん姉ちゃん、それ、おでたちの仕事と違くね⁇」
「不快なごみを掃除するくらい、いいでしょう?
それに、これからいっぱい死ぬんだから・・・・関係ないわよ」
頬を冷たい汗がつたる。
(なんだ・・・・?気分が、気持ちが悪い。おかしくなりそうだ)
原因はすぐにわかった。女の方が、上空を指さすと・・・・そこにはあのときと同じ魔法陣が展開されていた。
(・・・・ッ‼)
しかしその大きさは数倍では効かない。そこから現れるもののスケールを想像するだけで恐ろしくなった。
「そこのお前」
「な、なんだ⁉」
「四つの災厄・・・・飢餓、炎、雷、そして水。それらをモチーフにした、厄魔神が存在することは知っているか⁇」
「なんだと――—―⁇」
「らはは、よく聞いておくと言い。
今日、人間族を襲う天災・厄災の話だからな―――――――」
*
王都安全神話が崩れ去る。
魔王の時代以降、王都には敵勢力の襲撃がない――――実に数百年という年月は、人々に安心と同時に慢心をも与えたのだ。
王国軍の最高戦力たる、終極位はもはや王都に居ることはすくなく・・・・現状では常駐する戦力をもセントレーネに削がれている。
したがって、王都に現存する大きな兵力は、太極位:二名、大将位:六名のみである。そのタイミングでの強襲は、王都をかつてない危機に陥れた。
「・・・・‼
ひどいな、、、、これ・・・・」
第29地区の惨事を目にして、マール・ヘンダーソン太極位はそうこぼした。
それもそのはずで、魔人族がこの場所で行っているのは、徹底的な放火である。建物が密集していることを考えれば、すでに人的な被害も考えなくてはいけないだろう。
「―—――マール様ッ‼」
「わかってる、悔しいよな」
その場にいる人たちは、みな傷や泥が付けている。
(人間の命が目的ではないのか?)
目的が読めない。いくら奇襲が成功したとして、王都を落とすことは国家転覆を意味する。
各地から派遣されつつある増援は、早い部隊で数十分後に到着する。その気になれば王国は、王のいるこの場所を守るために全兵力を結集させる。
それらを相手にすることなど不可能でしょ?
いやいや、それを考えるのは、いま私のするべきことじゃない。うん、どんな目的であれ――――。
「――――私、もう激おこぷんぷん丸だよっ‼」
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ビリ・・・・
ビリビリッ・・・・・・・‼
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空気中をつたる刺激的な魔力―――それは、周囲の魔人族が感じた殺気の正体である。
(なるほど、本物が来たか―――—)
しかし、だからといってなにができる⁇作戦に支障はない、ここで命を落としたとしても、この町には大きな爪痕が残るだろう。
(いままで、お前らがさんざんやってきたことだ)
魔人族の青年【ウィー】は、故郷を空に浮かべた。
焼け消えたものは戻らない――――思い知れ、人間族ども‼
「――――クソったれがッ‼」
憎しみとともに大きな魔力が、彼の体で練りあがる。
魔人族は主に、緑色の肌をしたオーク種、大きな翼が特徴的な欧雅種、そのほかの雑種に分けられる。この地に集中的に投入されたのは、魔人族・欧雅種であり・・・・彼らは基本的に魔法を最も得意とするのだ。
第29地区に、オレンジ色の火花が散った。
(魔法の”魔”・・・・これがなにを意味するかわかるか⁇)
この瞬間、彼はこの日最大の魔力を解放する。
「炎魔法:エンダ=ラ=クアンテ――――ッ‼‼‼」
こうして、甚大な業火が住民もろとも家々を飲み込む――――はずであった。
オレンジの大波は、まるで巨大な壁にぶつかったように広がりを見せ、それ以上奥に進むことがない。
(・・・・⁉)
どういうことだ⁇
見えない壁がある―――—というよりも、押し返されているのか⁇さきほどまでとは違うこと・・・・原因はわかりきっている。
あの女か‼
視線に答えるように彼女が腕を突きだすと、炎は移動のベクトルを変えた。
(炎波がだんだんスピードを上げて、こっちに来ている‼)
咄嗟の回避、ウィーは自分の魔法で焦がされる事態を避ける。
「ハアハア・・・・⁉」
すると今度は周囲で燃え盛る炎が遊離し、すべて空中に浮んでいく。
(ふざけるなよ、俺の魔法だぞ―――—⁉)
「なぜ、言うことを聞かないんだッ‼」
「・・・・へえ?どうしたんだろ?さっきまでの、勢いは⁇」
「うるせえ‼いまに全員殺しに行ってやるさ」
(威勢だけ――——)
「無理でしょ、だっていまも・・・・体制を維持するだけで精一杯のはずだもんね?」
「・・・・!」
マール太極位の言う通りだ。先ほどからウィーは上空への強い引力にさらされている。
「そろそろわかってきたでしょ―—――私の能力ッ」
彼女が散らばっていた木片を蹴り飛ばすと、それは男の体に向かって加速する。
――――――磁力。
それは自然界で、最も支配的かつ根源的なな力のひとつである。
マール・ヘンダーソン太極位の固有魔法【磁騨魔法】は、だからこそもっとも強力な魔法のひとつとして数えられている。現状彼女によって、ウィーの魔力には【S極因子】が付与されている。そして空中の【N極因子】にはいま、引き寄せられた彼の炎魔法が集まっていた。
もしウィーが魔法を使おうとして、大きな魔力を練れば彼はあの小さな太陽に吸い込まれるだろう。しかしなにもしなければ――—―朽ちた木材に体を貫かれる。
ようやく、彼も絶体絶命のピンチを理解した。
「————ッ!うああああああッ‼」
(こうなれば、死ぬ前に一人でも多くを道連れにしてやるッ!)
ウィーはそう考えると、住民たちの方に駆け出した。
(って―――—え、まだあがいてるの⁇)
さっさと諦めたらいいのに。
彼女は素直にそう考えた。
すでに加速を強めた木槍は、彼の背中をいまにもとらえるだろう。
もともと私とあなたは敵同士。しかしこうして出会ってしまったのは、あなたが悪いよね⁇勝手に私たちの町に攻撃を仕掛けて来て、私と相まみえた。
その時点でもう―――—。
(――——終わりってことだよ⁇)
男の絶命する瞬間になど、みじんも興味のない彼女は、すでに考えをべつの場所へと移した。
(―—――さて)
このレベルであれば、何人いようとすぐに掃除できるなぁ。この場にいるのは私。でも、私じゃなくても、対処できることだ。
「”王国兵たるもの、見て感じることだけで考えてはいけない”」
優先するべきは、王国全体としての利益である――――そう叩き込まれてきた。
燃え広がる炎が目に入る。きっと苦しんでいる人もいる。でも、うん。だとすれば、さきにあっちだよね。
北西の空――—―あの下は第20地区の辺りだろう。魔法陣から顔をのぞかせるのは、赤黒く、巨大な竜。まさか、あんなものまで出てくるなんて。
体長が100メートル以上はあるだろうか?ここからだと正確な把握は難しいが・・・・どうであれ、あの巨体が暴れたらどうなるか?
(―――—それをさせるとでも?)
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―――――ドオッ――――――‼‼‼
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先ほどまでとは比べられないほどの、質と量。総じてはるかに高レベルな魔力が、辺りに漂った。
青電を辺りに散らしつつ、彼女の手元には金属質の弾丸が生成される。その周りには、出力として巨大なエネルギーが放出され、結果として空間がゆがみ動く。
波。
まるで、なにもない平静の水だまりに雫が滴ったように。世界は新しい異物を認識し、そして受け入れたのだった。彼女の洗練された雷と、そして磁力の魔法が、弾丸の先に実質的な磁場と電磁伝導領域を形成する。
彼女と巨体の間には、実に20キロほどの距離がある。これほど遠距離では、魔法の出力を保ったまま届けるのも困難だ。まして、相手への攻撃などほぼ不可能と言っていい。
しかし世の中には不思議と、不可能を可能にしてしまう才能を持った人物が存在してしまう。
溜め時間・その間の隙や、その後のインターバル・・・・。
それらを考慮せずに、純粋な一撃の威力、そして射程に関して考える。
たとえ終極位であっても、王国軍内に彼女の右に出る人材は存在しないだろう。
「―――――電・磁騨魔法:エンド=コリオンカート=シス‼」
彼女がさらなる魔力を押し出すと、弾丸はすさまじい勢いで加速し、空中を駆けた。青白い閃光。そして空気摩擦によるオレンジの火花が散り舞う。しかしながら、それを感知できたのはごく少数だったはずだ。
なぜなら瞬く間にそれは、かの巨体に風穴を開けたからだ。
「・・・・‼ご、おおおおおおッ‼」
それは口元から血液が滴らせ、充血した目でマールをにらんだ。どうやら、魔力の出所を察したらしいが・・・・もはやそれでは遅すぎる。さきほどの攻撃は内臓までを正確に破壊しているため、もはや生命活動は維持できないからだ。
「異物は一生眠ってなさいな・・・・」
紫に光り輝く物質とともに、竜の体は空中に放散していく。これが魔神にとっての”死”―――—である。
彼らは現存生物とのバランスを保つため、存在維持が不可能だと判断された時点で、世界アクセスを拒否されるように設定されているのだ。
「さあて、つぎはどこだ~あ?」
マール太極位は2、3度腕を回すと、部下の下へ向かった。
*第三十八話につづく




