+++第三十六・二話:天才の覚醒
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<ぶうん>
異変を感じつつ、ホワイト・ピアはそのまま剣を振り下げた。しかし。
(刃が、進まない)
力を込めているのに。まるで透明な壁でもあるかのように、さきに押せないのである。
「————????」
彼女はめずしく困惑しつつ、状況を俯瞰した。魔力の反応は、もうない。なにか物質がある感覚すら、存在しなかった。
経験のない、完全な未知。それは時間が進むにつれ次第に、解明されていく。
剣と彼女を隔てる”面”が揺らぎだしたのだ。大気に裂け目が入り、漆黒の異空間が覗かれた。
「なんだ、これは」
思わずそう口に出す。そして、異空間から現れた腕が剣を掴むと、彼女はようやく後方に飛び退いた。
「久々に現世とつながったと思ったら・・・・ああ、また戦いか」
「・・・・」
体躯は全長四メートル超、幅1.5メートルというところだろうか。どこからともなく現れた異形は、こん棒型の武器を持ち、圧倒的な覇気をまとっていた。
「お前が術者か。なんとか言え。おい」
「は、、、、あ?」
10メートルほどさきでは、そんなやり取りが繰り広げられる。
いまのところ、攻撃してくる様子はない。
ホワイト・ピアは冷静に分析を続けた。彼女の魔法、と考えるべきだろうか。現世・つながり・術者。しかし、当の本人たちも状況を理解できていないらしい。
協力されたら面倒だ。本能がそう告げる。
「【雷魔法】:ライジール」
地面の伝導性を高め、雷を流す。同時にホワイト・ピアは異形に向かって駆けだしていた。
「はあ・・・・面倒なことになってんなァ」
「!」
巨大な腕で簡単に魔法を振り払うと、異形はつづいて右こぶしを加速させた。
(速い――――し、なにより攻撃範囲が広い)
ホワイト・ピアがそう感じた理由。拳は近づくにつれて巨大化し、大きさは素手き彼女の身長を超えていたからだ。
(避けきれないか)
彼女はそう判断すると、手のひらを力強く重ねた。発生した突風が、彼女と巨大な拳の間を分かつ。
「上手いかわし方だ。でも、いきなり攻撃なんてな。俺は戦うなんて言ってないぜ?」
「だとしたら、どうなのかな?最初に私の剣を防いだのはきみだよ」
「不可抗力だろ。それにあれは俺じゃない。この女の魔法で、異界と現世がつながったせいだ」
「異界?」
意味は不明のまま。
(でもやはり、あの王国軍兵士の魔法か)
「そうだ。はじめて使ったんだろ?なにせ400年ぶりだ。無意識に俺を呼んでしまったらしいな、ミレイユ・エリクアッツェ」
「・・・・なッ!」
「魔法の性質だ。お互い最低限の情報は共有できる。まあ、いまは俺がお前側から勝手に奪ってる状態だけどな。
もうお前にも、俺が何者なのか・・・・なんとなく、わかっているはずだぜ?」
(・・・・)
ミレイユは思考を凝らす。たしかに、知らない記憶がそこに居座っていた。
「ガード・リ=ナーゼ」
「ああ、それが俺の名前だ。
で、どうする?偶然であれ、お前には才能があり、それが覚醒してしまった。こうなった以上、俺はお前と敵対はできない」
「【次元魔法】か。
いろいろ制約はあるみたいだな」
「ああ、それに前の術者との縁もある。
手伝ってやってもいいぜ?この場はとりあえず、お前のしたいように、な」
そうして、二者は同じようにホワイト・ピアに目を向けた。
(・・・・)
考えが一致すると、頭が一層クリアになるものだ。それだけではない。時間がたつにつれ、体の痛みも和らいだ。力が湧き出る感じ・・・・なんでもできるような全能感が、いまのミレイユを包んでいた。
「へえ、面白いね。いまのきみたちなら、私を殺せるのかな?」
ホワイト・ピアもまた、黙って待っていたわけではない。これまでにない洗練された魔力をまとっている。
「土水魔法:スワンプ・ホール!」
魔力が解放されると、ガード・リ=ナーゼの巨体を飲み込む巨大沼が出来上がった。地盤が緩み、家々が一斉に傾きだす。
「ちッ!
これは、抜け出すのに時間がかかりそうだ」
「抜け出す暇は、ないんじゃないかな?」
勢いのまま、ガード・リ=ナーゼの目線まで飛び上がったホワイト・ピア。彼女の手には、風の大剣が握られていた。
(質量は極めて小さいが、その分速く振れ、殺傷性は十分、か)
「便利だよな、魔法って」
そうして笑みを浮かべると、ガード・リ=ナーゼは体いっぱいに大気を吸い込んだ。
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『——―—わっ‼‼‼‼‼‼』
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「~~~~‼」
異形が吐き出したのは、意識が飛びそうなほどの轟音と、風圧。彼女は思わず魔法を解除し、地面に着地した。
「げほ、げほ・・・・」
はあ、スケールが違うね。
「これは、骨が折れそう」
「諦めろ、お前じゃ俺には勝てねえよ」
「ははは、それ・・・・私に言ってる?」
「————‼」
なんだというのか。
ガード・リ=ナーゼは、違和感を感じた。目の前の少女は、この状況ではじめて笑顔を見せたのだ。
それも、あきらめなどでは決してない。むしろ、本当に勝利を確信し、こちらが間違っていると感じさせるほどだ。
「まあ、せいぜい頑張ってみなよ」
「ほざけ、小娘が・・・・」
*第三十七話につづく。




