+++第四話:決着、襲撃者VS.ニホンジン。驚愕の正体
民家の隙間からこぼれ出る光に、思わず男は視線を東の空に移した。その隙を見て、クミシマは背後からの奇襲をかけるも難なくはじかれてしまう。
「ハア、ハア・・・・不気味な笑いだわ。よそ見は禁物って、習わなかったかしら?」
「もはや決着は一様なり・・・・そのひび割れた剣で、どう戦うと?」
(・・・・・・)
彼女が握る剣のさき――—―たしかに縦にひびが入っている。もう一度強い衝撃が加われば、間違いなく割れてしまうだろう。
「左様。であれば、しばし考察しようではないか。貴女、あれをどう見る?」
このように勝利を確信した男は、クミシマに向かって談笑を持ちかけた。
(・・・・)
「おしゃべりが好きなのね。さっきの光のことかしら?見当もつかないけれど・・・・どこか心地がいい。これがロロカの魔法なら、ハルガダナくんの傷は治っているかもしれない」
「―—――!あの少女が、魔法を⁇」
「ええ」
予想外の回答・・・・そしてそれに対してのゆるぎない心。それはまったくの虚勢には思えなかった。それゆえに、男はより興味を唆られる。
「なぜ、そう思う?」
「簡単な話。私はロロカのことをよく知っている、すくなくともあなたよりずっと」
(なるほど・・・・おもしろき回答なり)
「だから、私もここであなたを止めないといけないの」
そう前置くと、組島七瀬は持っていた木剣をに三回地面に打ち付けた。
「怪奇な行動なり―――。
武器を壊してどう戦う?」
「壊す?いいえ、このくらい細い刀が私にとっては扱いやすいのよ」
(―――—なに?)
「かたな―――――⁉」
「ええ、こうして構えて・・・・」
それから組島は力強く地面を蹴る。男の視界から上手く外れると、瞬く間に背後に移動し右手を振った。
(~~~~~~~~~速いッ‼)
男はかろうじて腕を盾にしたが、その痛みにうずくまった。
「うがァ!!!?」
「なぜか、すごく体の調子がいいの―—――」
あきらかに変化した!まるで人格が入れ替わったかのようだ。冷ややかな女の声に、思わず背筋が震える。いつからだ?考えるまでもない。あの光・・・・あれを彼女が認識してからだ!
(そして、間違いない)
この少女は身体強化を行っている――――!しかもこの魔法の練度―—――その素質。動きが視認できないほど速い!先刻まで魔法すら使えなかった人間が、こんなことがあるのか⁉
(肉弾戦では敵わぬ―――――――)
男は長髪を揺らし、前方に魔力を解放した。
「風魔法:リエン・グアルフ‼」
もはや私では有り余る。形勢は完全に逆転しただろう。であれば、彼女がまだ慣れきっていない魔法攻撃で隙を作るしかない!と、男は判断した。しかし、彼女の凛とした姿勢は、襲い来る凶風を前にしても変わらなかった。
「・・・・」
家屋はミシミシと音を立て、ところどころで鋭く傷がつく。しかしなぜだろうか、全然怖くない。
いまなら、どんなことでもできてしまう気分だった。
(風ごと切ってしまおうか)
彼女はそう結論付けると、強く刀を振り下ろした。
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【雷魔法:エデンシア=ウーヴァス】
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*
勇者たちが想定できないほどの覚醒を見せ、襲撃者との戦いは思いも寄らない展開を見せる。ロロカ・ミヤダイはセシル・ハルガダナを治療し、ナナセ・クミシマは強力な魔法剣士を撃退した。そして注目は、おのずともうひとつの戦線に移ることになった。
・
・
・
痛てえ・・・・。
腕の先から、ぽたぽたの血が垂れる。
いままでの人生で、こんなに出血したことはない。軽い傷だけじゃなく、打ち付けた頭部からも出血が続く。十七年間培ってきた概念、節理が根本から覆される。
なんとかこの局面を切り抜けたとして、果たして俺はこんな世界で生き延びられるのか?ネガティブな雑念が、ふつふつと心に湧いては彼の心を揺れ動かす。そのうち、ゴーレムが再び腕を振り下ろし、桐谷のすぐ近くが粉塵を上げた。
「―――—ぐあ‼⁉」
あれの攻撃は、モーションこそ大きいが、効果範囲も広い。なんとか直撃を避けるが、衝撃で飛ばされる。さっきからずっとこの繰り返しだ。
そしてついに、その時が来てしまった。
(足が・・・・動かねえ)
「クソ!クソクソッ‼」
ここまでなのか?俺は、俺にはまだ――――。
「――――ッアアアアアアァァ‼‼まだ、死ねねえぇぇ‼‼‼」
(まだ死ねないんだッ―――――――――――‼‼‼)
「・・・・!なかなか、タフだね」
ここまでしても桐谷の心が折れないのは、老婆にとっても驚きであった。彼は命の危機にさらされていて、助かるにはただ一人の少女を差し出すだけでよいのだ。
「まあでも・・・・それならそれで、あんたを打ちのめしてしまえばいいだけだよ」
「うるせえ!俺は負けねええええええ!!!!!!うおおおおおおおおお!!!!!!」
桐谷のその叫びに呼応するように、ゴーレムが縦ふたつに切り崩れた。
「――——はあ⁉なんだあ!?」
「間に合ったか‼」
目の前で土埃を上げるそれは、もはやガラクタとも言えないただの土塊である。誰の仕業かと言えば、それは桐谷にとってなじみの深い人物だった。
「芝浦!ってことは―――—」
「ああ、エレナに起こしてもらったよ。いまはあっちに隠れている」
数刻ぶりにそろったふたりの影。彼らの姿に、百戦錬磨の老婆さえ舌を巻く。
(なるほど。でかい方だけじゃなく、あっちの小僧もなかなかしぶといねえ)
それに、ツトロミッカちゃんを両断するとなると、いよいよ舐めてかかれない。
「―—――でも、まだまだだよッ!」
空中に舞った砂埃。そこに移った影は、そう言って二人の会話に割って入った。そこから現れた女性が、これで終わりではないということを思い知らせる。
「・・・・これを」
しかし、芝浦はもはや怯むことはなかった。彼は隣の友人に、斧状の鈍器を手渡す。それは強大なオーラとエネルギーを放ち、古めかしくはあるがしっかりとした強度を誇っているようだ。
「なんだよ、これ」
「向こうの家にあったんだ。武器はあった方がいいし、なんかすごく力が湧いてくるんだよ。
――――――あ、俺がこっちの剣でいいかな」
「そりゃ、別にいいが・・・・」
聞けば彼はその剣で、さきほどの攻撃を行ったという。毅然とした彼の態度は、日本でのそれと相違ない。不正を許容することのない、信頼できる人物だ。
安心しつつも、芝浦の雰囲気の変化に桐谷はすこし戸惑う。
(いつものお前に戻ってくれたのならそれでいいけどな・・・・)
その考えに答えるように、芝浦は口を開く。
「すまない、さっきまでの俺はまだ覚悟が足りてなかった」
「—―――は?」
「そのせいで隼人にけがをさせたし、エレナを危険に晒しただろ?」
(・・・・)
「別に・・・・俺は気にしてねえよ」
桐谷がそう返すと、彼は力強い視線を目の前の人物に送った。
「・・・・もう、迷わないつもりだ」
「ほほ!覚悟が決まったのかい?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「・・・・!」
やはり。戻ってきたときから、小僧の雰囲気が変わった。
(口調は柔らかいままだが、多少の芯が出てきたみたいだね)
「どれ、試してみようか」
老婆はそう言うと、手のひらを合わせ重ねる。
それから、練り上げた魔力を一気に解放してみせた。
「炎魔法:デマス=トビ!」
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「~~~~~ッ⁉~~~~~~~~」
(熱い!だけじゃない)
視界が、オレンジで染まってしまいそうだ。
桐谷・芝浦両名の視点からは、広範囲の炎がめらめらと音を立て揺れ動き、どうにかなってしまいそうな熱風を発しながらこちらに近づく。
「おい、芝浦⁉」
「・・・・逃げるのはなしだ」
「お前、なに言って!?このままじゃ焼かれて終わりだ!」
「はああああああッ‼」
全速力で逃げれば、あるいはなんとかなったかもしれない。しかし、きっちり固まった芝浦護の決意は揺るがない。危険を顧みず彼は炎に向かい、意識を集中させた。すると芝浦護の周りを、不思議なエネルギーが覆う。
「この炎は俺がなんとかする。隼人はその後に、あのおばあさんを頼めるか?」
「おい!なんとかって、だからお前―――――!!!!」
(・・・・)
そこまで言うと、桐谷は少し考えるように沈黙を作る。
「・・・・・・・?」
「・・・・いや、わかった。あっちは任せろ」
考えても仕方がない。どのみち必要なのは覚悟だけだ。桐谷はそう判断した。彼の考えが伝わったか、芝浦はかすかに笑みを浮かべる。力を込めて握られた剣が、呼応するかのように神々しい光を放ち始めた。
(俺がこの炎を消さなければ、自分が焼かれるだけじゃない)
芝浦護は思考を深める。間違いなく、隼人も一緒に死んでしまうだろう。その後あのおばあさんは、町にいるみんなにも危害を加えるだろう。
そんなこと、させてたまるか‼
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「光魔法:一・閃‼‼‼」
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「――――!なんて規模だい!!」
彼の魔法により一瞬にして、まばゆい光が視界に広がった。まるでなにもない・・・・ただただ光の世界に取り残されているような感覚。
「私の魔法は?どこに行った??」
消えた、いやかき消されたのか!このレベルの光魔法!あの小僧、ここまでとは――――。
「―—――!」
(魔力!右からだね!!)
視界が奪われるなかでも、老婆はそれにしっかりと反応した。桐谷隼人は老婆の意識がこちらに向いたことに気が付くと、武器を大きく構える。
「うおおおおおおおお‼」
(馬鹿な!)
そんな敵意を丸出しにして、感知して防げない私じゃないよ!?老婆は至って真剣にそう分析する。どうやらさきほどの芝浦の魔法は、老婆を本気にさせるのに十分だった。
(魔力系統からして、雷系統なのはバレバレだ。であれば、わたしの土壁で防げる)
計算し尽くした、最善の策。普通であればまったく非の打ち所がない。しかしどんどんと大きくなり続ける桐谷隼の魔力に、老婆の額を汗が伝う。
おいおい嘘だろう?そんなことが?私は化け物でも相手にしているのね!?
(なんて、巨大な魔力なんだい)
はじめての魔力開放で、こんなこと・・・・あり得ないね。感嘆している暇は、老婆に残されていなかった。
「ここはああああ、通さんんん‼‼‼」
気合のこもった大声とともに、桐谷が槌を降り出した。
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【雷魔法:ルアッグラン・ボレーノ‼‼‼】
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桐谷隼人、渾身の一撃。
放出された雷のエネルギーによって、周囲を包んでいた光はすっかり消え去る。晴天の平野には、青白い巨大な電雷がどこまでも走った。はじめての魔力解放と、これだけの出力。ハンマー武器を振り切ったキリヤが、力尽きてそのまま地面に倒れこむ。
そして、数刻が経過した。
「・・・・まったく最近の若いのは、遠慮を知らないね」
状況恨めしそうに眺めつつ、老婆はそうつぶやいた。あとすこし、すこしでもなにかが狂っていたら・・・・あたしゃ死んでただろう。
(もっとも電流を避るために、こっちも魔力を使い果たしはしたけどねぇ)
「―――—まだ、にらんでやがる。まあ、ここら辺は経験だ。堪忍しなよ」
頬にできた傷口を押さえながら、老婆はつづけて、地形を変えてしまうほどの巨大魔法の使い手を見下ろす。
「安心しな、もう帰るよ。友達も、獣人の娘も無事だ。あっちでぶっ倒れてるみたいだけどね。そんなことより、今日は素晴らしいものが手に入った」
白髪を伸ばした猫背の背中は、そう呟くと草原へ消えていった。彼女の言う"素晴らしいもの"がなんなのかは、のちに桐谷たちも知ることになる。
*
【その夜】
「―—――すみませーん先輩方、お待たせしました~!」
少女はやや小走りで、指定された拠点に足を踏み入れた。拠点と言ってもただの小屋であり、これに彼女ら王国軍の施設という肩書を張り付けるのはあまりに酷な話だろう。
「お疲れ、夜道には迷わなかった?」
「はい!明かりのおかげでスムーズに・・・・というかマキバロ先輩、いらしたんですね?」
彼女はからかうように、そこにいた細めの男性に声をかけた。言う通り、アーザーポック・マキバロ少将位は今回の襲撃に直接関わることはなかった。
「お、おいおい。冗談きついよ」
「ははは、すみませんでした」
彼女は普段通りにこやかにふるまい、その笑顔をほか二人にも向けた。
「しかしあんた、難しい役をうまく立ち回ったよ」
「うむ。その通り、稀な才能なり」
大きめの木箱を囲む二つの背中も、彼女の仕事ぶりを惜しむことなく称賛する。
「ありがとうございます。ゴーナル少将位、ナルノルカ中将位・・・・おふたりとも怪我は大丈夫ですか?」
「ああ。でもさすがは勇者というべきか、なかなか元気なやつらだったねぇ」
「いぶせし。かの選ばれし者たちはあの後、どうなった?」
想定以上――――彼らを表す言葉はそれしかないだろう。今回の襲撃、予定では適当なタイミングで引くはずだった。まさか王国軍兵士が撃退されるとは・・・・その実力が、ふたりの興味を引くのも当然だ。
「ええと、キリヤさんは少し前に起きました。ミヤダイさんは魔力欠乏で、少し時間がかかりそうですかね。
・・・・・・なにせ、ハルガダナさんをあの状態から復活させたんですから、それももっともですが」
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「――――‼‼‼⁉⁇」
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電撃が走ったかのように、その場の三人の表情が変わる。異質な沈黙が訪れる。それほどまでに彼女の言葉はおかしなものだった。
「馬鹿な・・・・よもや聞き間違いか?私は、間違いなく急所を突いたのだぞ?」
「はい。私も正直冷や汗が出ましたが、間違いなく生きています」
「まさか・・・・」
「奇絶、理解に苦しむなり」
ゴーナル少将位は考え込むようにして、顎に手を置く。当たり前だ、誰であってもそれを単純に理解することはできないだろう。致命傷を負った人間を、回復させるなど不可能だからだ。反対に、マキバロ少将位は驚きを隠さずに、その場をポジティブにまとめようと試みた。
「―—――まあ、いいじゃないか。作戦は想定を超えているようだが、勇者たちの実力はどれもいい方向に予想を裏切っている」
「そうだね、これでまず第一段階は突破。良かっただろう?
あとすこしで【フリナフット・エデリア】に戻れるじゃないか」
キリヤ・シバウラ両名に追い込まれた、ナルノルカ中将位も同じ考えだ。彼女は、そうして潜入任務を任される少女に話題を変えた。
(・・・・・・・・・。)
「肩の荷は下りますが、私はあの役も結構気に入ってましたよ?」
間を開けてから、少女は本心からそう告げる。その姿を称えほほ笑みつつ、ナルノルカは静かに目を閉じた。
「・・・・へえ、そうかい」
みんな、すごかったなぁ・・・・。
夜空を見上げ、少女は"仲間"たちを思い浮かべた。
(彼らには驚かされてばかりだ)
「でもだからこそ、楽しみなんです。
マーシャ・トレイノルの正体に、みんながどんな反応をするのか―――――――。
あふふ、いまから楽しみなんですよ」
*第五話へ続く




