+++第三十四・一話:〖大将位〗対〖セシル〗、固有魔法のヴェールがはがされる戦い
【レニーノ・ビエラ】。
王国軍大将位は部下たちに近寄ると、健闘をねぎらった。
「よくやった、二人とも。十分だ。ペドロ、フィフナを連れて下がれ」
「ですが!」
「命令だ。ここにいてももはや、きみらにできることはない」
「―——―ッ‼わかりました」
彼女は実力差を悟り、仕方なく同意する。
「さて――――――ん――――⁇」
視線を戻すと、セシル・ハルガダナの姿は消えていた。
(なんだ?どうやって抜け出した?)
「ここだ‼」
完全に意表を突いている。
が、背後から延ばした腕は、不可視の力にはじかれる。
(――――ッ⁉)
なにをしたというのか。
男の周りに、なにか障害物があるようには見えない。結界も張られてはいないと、感じるが。
戸惑いをあざ笑うかのように、レニーノは丸い学者眼鏡を押し上げる。
「斥力魔法:ジ=アシェラ」
男が突き出した左手をこちらに向ける。つぎに、身体が後方に吹き飛んだ。
「~~~~~~~~ッ‼」
強烈な衝撃が加わったが、終わりではない。体がめり込み、民家の壁は音を立ててひび割れてゆく。
「はは、まさかこれほどまでに強いとは。私も正直驚いているんだ」
「俺も驚いていますよ。本当のファンだったら、もう少し手加減してくれるはずですよね?」
「冗談はやめてくれ。だってきみは、まだ本気を出していないじゃないか」
「なんのことだか、わかりませんよ」
セシル・ハルガダナの絶体絶命―――――状況はそのように思われる。しかし、この状況であってもレニーノ・ビエラは、とどめに向かわない。
なぜだろうか?
両者、探り合いを入れるように不気味な会話を続ける。
「まあいい。どうせ、本気を出さざるを得ないのだからな。
これできみが死んだなら、本当のことを言っていたんだと、私も納得しよう」
周囲の鉄骨や剣などが宙に浮き始めた。そして十以上を数えるそれらの凶器は、セシルに向かって加速する。
(くッ――――――‼‼‼‼)
避けなければ、死ぬ。
『・・・・・・・・・』
土煙が舞うなか、静寂があたりを包み込んだ。
「・・・・。
やはり、まだ戦えるじゃないか」
レニーノは心底嬉しそうだ。不気味に笑みを浮かべて、振り返る。まるで期待していた答えが、ようやく帰ってきたかのように。
「二度目だ。完全に動きを封じたはずが、きみはまた、音もなく姿を消した」
「――――はあ、はあ。偶然でしょう」
「いいや、必然だよ。あのとききみから、魔力を感じたからね」
「・・・・。ばれましたか」
おそらくは、そう。さきほどまで俺は、完全に掌の上だった。
「だから、どうだと言うんです?」
「ああ、続きか?
解放された魔力は、いつの間にか私の背後へと移動していたんだよ」
「はあ・・・・?」
セシル・ハルガダナ、まだ白を切るのか?
「きみには・・・・あるんだろう?
点と点を結ぶように、瞬間的な移動を可能とする魔法が」
やはり、男はそこにたどり着いた。こうなれば、切り札とすべき優位性は崩れた。だけど、だからってそう――――。
「――――なら、どう戦いますか――――――――――?」
(移動魔法:ストック・ダイブ!)
その影は、移動に対応して振り返った男の、さらに背後に移動する。今度は余分な魔力を練らず、探知の隙も与えない。
大将位の動きは、セシルにとってあまりにも遅かった。
拳が、後頭部へと叩きこまれる。
「――――ぐッ‼」
【クリーンヒット】。
たしかにそう思えたが、さすがのタフさ。投げ出された彼はすぐに持ち直し、こちらに腕を向ける。
「引力魔法:ジ=イシェラ!」
「!!!!」
すさまじい力で体が引き寄せられる。
だが引力である以上は、物体の移動に時間がかかる。
「速度では、議論にすらなりません!」
俺はその間にもう一度魔力を練り、一度民家の内部に退避した。
「・・・・。はあ、はあ」
居場所はまだ、掴まれていないはず。
聞こえない程度に深く呼吸をし、息を整える。
「・・・・・・便利な能力だな」
男の声が、外から響く。もちろん答えはしない。
「はは、本当に位置がつかめない。
器用なものだが、近くにはいるんだろう?きみの狙いは一人でも多くの王国兵を潰すこと。逃げ回っても仕方ない」
彼は気にせずに、そのまま語り続けた。
「ああそうだ、この間に魔法についてさらっておこうか?」
(・・・・?)
「魔法と言えば、基本七大属性だよ。もっとも簡易的であり、特別な才能がなくても習得が可能だと言われている。
そして汎用魔法――—―これは先ほどきみが見せた【物質】魔法を例としよう。素晴らしい練度だった」
男の言うことは、事実だ。
そして、俺はすでに手の内を明かし切ってしまったらしい。【幻妄】などの応用魔法、そして【氷】で希少魔法。
「きみはそのどれもを使いこなして見せた」
しかし――――。
大将位は、ここで逆接的に前置きを作る。
「移動魔法など聞いたことがないぞ?本当に希少魔法か?いや、だとしたらなにかしらの文献に載っていてもおかしくない。
私が目にしたことがないなんて、そんなことがあるだろうか?」
よほど魔法知識について自信があるらしい。なんの迷いもなく、そう言い放つ。
「――――固有魔法、なんだろう?
広義で【人】が生を受けるとき、天文学的な確率でランダムに振り分けられる。世界でもほんの一握りの者たちしか有していない、稀有な能力」
「・・・・・・・・・・。
はあ、はあ・・・・ふう・・・・・・・・」
準備は、整いつつある。この独白には、終止符が打たれるべきだ。
「それをいままで、使わなかった。偶然じゃないな、おそらく、その魔法を完成させたのはここ数週間の話。運用面に問題があるのはわかる。まだ身体も、感覚も、慣れていないはずだ」
およそ1分と30秒。
「ははは・・・・どうした?なぜ攻撃してこない?俺はここにいるぞ、瞬間移動で殴ればいいじゃないか。
もしかして、図星なのか?」
レニーノ大将位は、ほとんど確信していた。
「――――だとしたらこの勝負、私の勝ちだ」
たしかに彼の言うことは正しい。俺はいま、非常に分が悪いといえる。移動魔法を連発できない以上、一撃ごとに決定打を狙うしかない。
しかし魔力を練って出ていけば、感知されてしまう。
(まだ、死ねない)
この戦いで終わりではない。やるべきことは無数にあり、こんなところで時間をとられている場合ではないんだ。
覚悟を決める。と同時に、大将位が動く。
レニーノは両手のひらを重ね合わせると、膨大な魔力を解放した。
「斥力魔法:ジ=ウシェラ‼」
「―――――‼」
爆風が周囲を薙ぎ払った。木造家屋は粉砕され、煉瓦すら崩れ落ちる。半径10メートルが瓦礫の山と化した。
「やあ、意外と近くにいたもんだ。
ということは効果範囲も限られてるんだろうな」
「ええ、その通りですよ。
そろそろ――――戦いを終わらせましょうか」
王国軍の大将位。簡単に倒せる相手ではない。
「――――氷魔法:アイシス・チェーン!」
だからこそ、最初はこの魔法だ。
触れた場所から、小さな氷の山脈が連なり迫る。
「・・・・?この程度か」
呆れたようにつぶやく。レニーノは向かってくる氷から距離をとると、俺に向かって腕を伸ばした。
「ぐ――――‼」
「これくらいで、私を殺せるとでも――――⁇」
力強く体が引き寄せられる。
「でも俺は、近接戦闘が苦手なわけじゃないですよ!」
「――――!」
なるほど、洗練された剣戟だ。引力魔法で態勢が崩されても、しぶとく攻撃ができる。だが決定打に欠けんじゃないか?
「焦っているだろう?こうしている間にも、王国軍の作戦は進んでいるからな」
なにもかも、お見通し。セシルは結果を急いでいた。物質魔法による毒霧が辺りに充満する。
「こうもバレバレではな」
「バレバレでも、いいんですよ!」
(隙ができれば・・・・!)
この間に、魔法を展開した。
「森林魔法:ツリード=コンバット・ドール!!」
思考、運動パターン。この魔法は、俺の【分身】を作ることができる。
(行くぞ――――ッ)
当然のように、呼吸が合った。人形の動きに合わせて、敵に突撃する。
「面白い・・・・攻撃パターンの豊富さは認めるさ」
「――――だが」
忘れたか?そんなもの、俺の前では意味をなさない。レニーノ・ビエラは、両手を組み合わせる。
「斥力魔法:ジ=ウシェラ‼」
「――――――――ッ――――――――――‼‼‼」
*
数10秒後、吹き荒れた爆風が晴れた。そこにあるのは、勝敗の構図である。倒れこんでいるセシル・ハルガダナはピクリとも動かない。
「惜しい人材だったがな」
ビエラ大将位はしっかりと、剣を彼の胸に差し込む。これで確実に勝利した――――はずだった。
「――――しまった」
感触が違う。骨や肉ではなく、木材だ。
(油断した‼どうしてもっとよく見なかった⁇)
方向だけで倒れているのが本体であると確信していた――――過去の自分を責めるが、もはや後の祭りである。
背後に現れたセシルが、氷の剣を薙ぎ払った。
防御の術はない。鋭い痛みが背中に走った。
(~~~~~~~~~~~~~~~ッ‼)
早く魔力を練らなければ!
いや駄目だ、力が入らない。あれだけの間隔を置いて、狙いすました一撃を食らったんだ。敗北を受け入れるしかない。
しかし――――。
「――――ゲホッ!
はあ、はあ――――ならばどうして、急所を外したんだ?」
「さあ、また分析でもしてみたらどうでしょう?」
セシルは戦闘不能状態の敵に、もはや興味を残していない。レニーノもすぐに頭を回すが、彼が自分を助ける理由など思い当たる節がないのである。
「不思議な奴だ」
このときに疑問は晴れないまま、レニーノの意識は途絶えた。
*第三十五話につづく




