+++第三十四話:〖大将位〗対〖セシル〗、固有魔法のヴェールがはがされる戦い
【10時08分、セントレーネ中北部】
すでに町の奥へと分け入っていた王国軍特殊班。その一角:第5班が、空気のゆがみを察知した。肌にまとわりつく魔力の密度は、明らかに異常である。
「・・・・。レニーノ大将位」
「ああ。フィフナが対応しろ」
「了解しました!」
次の瞬間、地面を這うように氷が伸びた。建物の陰から、完全な奇襲である。
(土魔法――――)
「――――‼」
それはみっつの影をとらえるよりも早く、別系統の魔法に遮られ、砕け散った。
内心で覚悟を決める。この反応速度、この精度。
「出てきたまえ」
落ち着き払った声。
言葉を発したのは、中央に立つメガネの男だった。
ここまで読まれているなら、隠れている意味はない。セシルは民家の影から、姿を現した。
「人間・・・・⁉仮面なんてつけて、不気味な!解放戦線でしょうか?」
青髪の少女:【ペドロ=エルカザバリナス】は、警戒を隠さない。
「いや違う、やつらに氷魔法の使い手などいない」
男のほうは、即答である。
「それに、彼はいまもなお王国軍の兵士だ。
――――そうだろ?セシル・ハルガダナ君」
(・・・・‼)
ああ、やはりバレバレじゃないか‼
当たり前だ。希少魔法を使うともなれば、容易に特定できる。
「きみは勇者の覚醒という、名誉ある任務を任された。しかし、その途中で王国に歯向かった」
「ええ?そんな、どうして⁇」
桜髪の少女:【フィフリーナ・キルスタ】は、素直な困惑を声に乗せた。
「ふふ、なぜだろうな?おそらく我々には理解の及ばない次元の話だろう」
男は肩をすくめ、薄く笑う。
「しかし残念だ。私はきみの、おそらく最初のファンだったのだが」
「――――?ファン⁇」
「報告書を読んだ。希少魔法を使いこなし、ポテンシャルも申し分ない」
誰の話をしているのかわからない。
「俺は【ソシワターヌ・オヴレ】ですからね。現在、王国軍とは敵対関係にあります」
「そのようだ」
穏やかな笑みにも隙はない。
彼らが放つ威圧感は、この戦場でも異質なもの。ここで止めなければ、被害は大きく拡大する。
「どう感じるのも自由ですが、いまは敵同士。普通に倒しますよ」
「やはり、最高だ」
俺の言葉にも、まったく怯むことはない。そして直後、桜髪の少女が一気に距離を詰めた。
<ぐおうん――――――ッ>
剣が鳴り、頬をかすめた。
かなり速い。
それは力押しではなく、柔らかな体裁きから繰り出される、嫌な太刀筋である。後ろでは、メガネの男が楽しそうに戦況を観察している。
「犯罪に手を染めるなんて残念だな。一緒に王国軍で会えてたらよかったのに」
「空想ですよ」
しかし剣術は、とらえられれば魔法で凍結できる。俺は腕を伸ばした。
「――――ッ⁉⁇」
「あ~‼いまの、惜しかったな~!」
悔しそうに笑いながら、少女は剣を2、3回振った。
異様な高温から、不気味な音を立てる。触れていれば、手のひらを焼かれていた。
(すでに、対策済みだと⁉)
「――――土魔法:コール・ジ=エデン!」
今度は凛とした声とともに、地面が隆起する。
「ほら、早く動いて?このまま仕留めるよ!」
「おっけ~、任せたっ!」
やがて四方の土壁が隆起し、槍を形作った。壁ごと全部破壊をするしかない。そう判断した。
しかし。
「・・・・‼」
思わず両手をのぞき込む。
(魔力が練れない・・・・)
これも彼女の魔法の影響か?考える暇もなく、槍は俺に向かって加速する。
「―――――ッ‼」
轟音。
土煙が街路を覆い尽くした。
「やりました!」
「なんだぁ。大したことなかったねぇ」
二人の女性は自慢げに上官の方を向いた。
それでも彼は、表情を崩さない。メガネの淵に手を当てると、瞳はそのさきに像を結んだ。
「いいや?」
「「~~~~⁉」」
瓦礫を突き破り、セシルが躍り出る。狙いは、青髪の女。上段の蹴り命中し、彼女は大きく吹き飛ばされる。
余計なことを!彼は心の中で叫んだ。
指揮官の一言がなければ、確実に意識を奪えていたからだ。
「ペトロ‼
ちッ!この、よくもッ・・・・!!」
怒りを込めてこちらを向き直る、桜髪の少女。彼女は厄介で、俺の能力は熱に弱すぎる・・・・が、それも数日前までの話。
地中から氷塊を生成し、斬撃を受け止める。
「溶かし切ってやる‼」
剣がオレンジに変色した。ここからでもわかる通り、かなりの高温である。氷では、もちろん防御不能。
じりじりと剣身が割り入って、蒸気が上がる。
<ギイン>
すると鈍い音が響いた。
剣がはじき返され、火花が散る。
「は⁉なにこれ!!??」
開放された魔力によって、氷は内部から性質を変え、玄武岩へと変貌。未知・想定外————動揺。それを見逃さない。
「幻妄魔法:アローン・ホワイト」
世界が、白く染まった。
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********
・ ・
「――――あれ?どこ、ここ?」
気が付けば、キルスタ少将位は、なにもない城の空間に一人で立っていた。
地平線のように、どこまでも続いてゆく白。
自分以外に、なにも存在していない。
(私・・・・は、そう、セシル・ハルガダナはどこ⁇)
彼と戦っているときに、急に意識が。感覚がおかしくなった。歩いても、歩いても、景色すら変わらない。
「レニーノ大将位?ペトロ??誰か、誰かいませんか⁉」
胸が締め付けられる。
吐き気、恐怖。
頭に流れ込む、両親との記憶。
(嫌・・・・待って)
「お願い、私をひとりにしないで‼捨てないで‼」
心が軋み、崩壊は静かに進んだ。
*
跪いた彼女は、次の瞬間、涙を流して倒れこむ。
「・・・・すみません」
幻妄魔法。
精神に直接干渉し、破壊する危険な禁術。
「でも、いまの状況じゃ、そんなこと言ってられないので!」
「・・・・⁉なに?どうしたの、フィフリーナ⁉」
ペドロ=エルカザバリナス。
困惑して仲間を眺めた彼女は一転、セシルを睨みつけた。
つぎはお前だ。セシルもまた視線に強烈なメッセージを込める。
しかし次の瞬間の出来事。強烈な圧力が、上方から突き付けられた。
「――――――‼」
なんだ、これは⁇
「ぐ、う・・・・ッ⁉」
手を動かそうにも、上がらない。拘束されたのか?だが、周りにはないはず。疑問の答えは、明らかだった。
ブロンドウェイでも歩くように、彼は颯爽と舞台に上がる。
*第三十四・一話につづく




