+++第三十一話:解放戦線
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「銀髪の女ァ?」
「はい、探しているんですが」
俺がそう言うと、緑黒い髭を生やした中年男性はピザを口に運ぶ手を休めた。麦とわらで編まれたハットをかぶり、肩にはタオル・・・・農作業の休憩中だろう。
じっと探るような視線が届き、彼はおもむろに口を開く。
「ああ、昔の女でも探してんのか?やめとけやめとけ。そういうことしても、いいことないぜ?」
(・・・・まあいい)
「彼女じゃなくても、長髪でよく咳き込む男・・・・もしくはベレー帽の女でもいい」
「はあ・・・・にわかに複雑な関係になってきたな」
(言わなきゃわからのんのか、ジジイめ)
エデリア中将位が現れてから、三日。彼女は結局、書類を森のなかに残して消えてしまった。なにをしたかったのかわからないが、内容はある程度信頼できるものだった。
そこにあったのは、"解放戦線"という名前。ガラムバトで俺を救った、あの組織である。
「あの、そういう変な関係ではないですから。まあ複雑ではありますが」
俺が真剣な表情を崩さないため、彼はあきらめたように表情を緩めた。
「がはは、冗談だよ。だが兄ちゃん・・・・物を尋ねるときには、それなりの誠意が必要なんじゃないか?」
「・・・・銅貨一枚でいいですか?」
「おう、まいど」
俺はバッグから巾着袋を取り出すと、彼にコイン一枚手渡す。北西の町、グリンフッド・・・・ここに来る列車代と宿泊費、もろもろ雑費。
加えて情報料もかかるとなると、俺の予算はすぐに底をつきそうだ。
「――――で、見合った情報はあるですよね?」
「んん――――?どうだったっけな。ああ、ベレー帽被った女・・・・か。それなら数日前に見かけたぞ。それもちょうど、長髪の男と一緒に歩いているところをな」
「・・・・‼」
やっと目撃情報が出た!セントレーネで戦うつもりなら、必ず拠点となる町を探すはずだからな。周辺のどこであるのかは、正直掛けでもあったが。
「それ、どこですか⁉」
「俺の畑・・・その前にある通りだよ。この店からだと、北に300メートルもない」
(よしッ!)
「助かりました!ありがとう、おじさん」
――――解放戦線“ベクラマ"。彼らとはすくなくとも敵対する関係ではない。むしろ、情報を共有し、なんとか犠牲無く済ませるために協力するべきだ。
「はあ、はあ・・・・!」
急いで目撃された現場に向かう。作戦予定日まで、もう時間がない。
(―――――!)
そこで、視線の先を見覚えのある顔が通った。なるほど帽子を深くかぶってはいるが、日光を反射する真っ白い肌は、さすがに隠せない。
用水路を挟んでいたので距離はあったが、俺は走って彼女に追いついた。
「はあ、はあ・・・・待ってくれ!」
「誰かと思えば。なんだ、きみか」
彼女は俺が呼び止めても、一切動じずに表情すら変えることはない。
「久しぶりだな、ホワイト・ピア・・・・だったか」
「合ってるよ。で、なんの用かな」
淡々と――――息をつく暇もくれないか。
「ああ、単刀直入に、そう。協力しようじゃないか。今回の件、お前らはどう動くつもりなのか、教えてくれないか?」
「・・・・!」
ここで初めて表情が変わった。なにを驚いたのだろうか?目の前の少女は、俺の言葉にほんのすこし雰囲気を変える。
「――――ってことは、仲間になる気になったの?」
(・・・?そういえば、そんな話もあったな)
「いいや、あいにく俺はもうフリーじゃないんだ。それに、まだ考え方を変えてはいないから――――」
「――――へえ、それで、私が教えるとでも思った?」
かぶせるような話し方は不満を表すという。しかし彼女は先ほどと一転して、退屈そうに腕を上空に伸ばした。
「・・・・・・・利害はある程度、一致していると思うんだが」
「そうかもしれないね。でもきみが一人で戦場に行って、いったいなにができるの?」
「は?」
「私たちは、あなたとは違う。言ったでしょう?より大きな目的のためには、多少の犠牲は必要なんだ」
「・・・・。
すくなくとも、犠牲を減らすことはできるさ」
「井の中の蛙って知ってる?相当自信があるようだけど、きみが死ぬよ」
「・・・・俺は、それでもやってみせるさ」
「話にならないね。断言するよ、きみはなにもできず、死ぬ。そういう戦いなんだ――――だから、仲間にならないのなら、情報を教えることはできない」
「待てよ」
「話がそれだけなら、私は帰るから」
「あ!っちょ、待てって・・・・‼」
俺は急いで彼女を追いかけた。しかし不思議と路地を曲がったところで、彼女は気配までが完全に消え去った。
これも、彼女の魔法だろうか?
「はあ、はあ・・・・くそッ!」
これじゃあ振り出しどころか、後ずさりだ。
(・・・・・・・・ん?)
もう少し辺りを探そうと振り返った俺は、洋服のポケットになにか入っていることに気が付いた。
メモ用紙のようだ。
(かなり荒くちぎられているようだが)
俺は慎重に、その内容を確認する。
「――――じゅうがつ、にじゅうににち、たたかい」
このような文章で始まった紙には、暗号のように図形が並べられていた。
なんだこれ?
十二月・・・・二十二日、か?
セントレーネでの戦闘の日である。偶然だろうか?
まさか――――!
俺は急いで王国軍の資料と照らし合わせる。やはりだ。この図はセントレーネの町を示している。つまり、この赤い◯印は、解放戦線の配置場所といったところだろうか?
「これで、奴らのおおよその動きが想像できる」
ホワイト・ピアが書いてくれたのか?だとしたら、ダミーという可能性もあるが・・・・?
いやまて!俺は折れて隠れていた部分にも文字を見つける。
「まるこ・・・・まるこ!」
俺は少し迷って、あの黒い円柱形の生物を思い出した。
(――――あいつか!)
どういう考えなのかはわからないが、おかげで助かった。なにしろ集まるのは解放戦線と王国軍・・・・良い出来事が起こるとは思えない。奴らが民間人を巻き込むつもりなら、俺は全力で食い止める。
―――――なにがなんでも、俺が王国軍であろうと関係ない。
あいつら第43部隊のことは、もう忘れるべきだ。
*第三十二話につづく




