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+++第三十話:ねじれ

 物語の時系列は、ふたたび過去にさかのぼる。

 

 第31地区で起こった魔人族によるテロ事件。

 そして十二月八日、音信不通となった王国軍北西支部:【第十七臨時中隊】をめぐる議論。

 王国軍を揺るがす事態に対応するべく、本部でも対策部署が作られた。

 

 それが、”ギャラス亜人族蜂起事件特別対策会議”である。

 三人の大将位、【アラン・フェバス】・【サナバラ・ノバシャード】・【レニーノ・ビエラ】を中心に据えた。一刻も早い中隊の救出と、解放戦線系武装集団”パータイス”への対処が目的である。

 

 ・

 ・

 

 「ふむ・・・・しかし皮肉なものだ。 救出などと書かずに、最初から殲滅作戦に切り替えれば楽なのにな」

 フェバス大将は議事要旨を冷ややかに眺めた。

 こんな文言に意味などない。なぜなら作戦地は、彼らが消えた【ギャラス】ではないからだ。

 都市の名は【セントレーネ】。最近活発に動きを見せているテロ集団の活動拠点。そして、亜人族と人間族の共生の象徴である。

 

 お偉いさん方にとっては、気が狂いそうになるような存在なわけで――――つまりはあの町を消してしまいたいのだろう?

 本意では消えた中隊のことなど、どうでもいいのだ。それはうまい具合に出てきた動機にすぎない。

 

 「まあまあ、そう言わないでください。上も難しい判断なんですよ。彼らが生きている可能性を、捨てるわけにはいきませんからね」

 唯一ビエラ大将が場を和ませようとする。しかし、同じく大将の地位にあるノバシャードもあまり気分は良くないようだ。

 

 「だとしても、こちらにしわ寄せがくるような作戦威容はどうかと思いますけど。無駄な犠牲が増えるだけだ」

 「はは・・・・たしかに、その通りではありますねえ」

 

 ああ、じつに無駄な議論だ。アラン・フェバスは考える。

 (そこのところは正直どうでもいい)

 大切なのは作戦の本質である。

 「――――――それで、その亜人・・・・それも中将位を凌ぐとなると、解放戦線、あるいは”ベクラマ”であるという可能性は?」

 

 フェバスは分析班にそう問うた。質だけではない、量もだ。中隊であれば個人での臨戦は難しい。そもそも町を占拠されている以上、単独犯ではほぼ不可能だ。

 このような組織的なケースでは、"彼ら"が関わっている可能性が高い。

 

 「フェバス大将位のおっしゃることは、よくわかります」

 しかし、王国の情報部はその考えには否定的らしい。

 「いまのところ通告はないため、すくなくともベクラマは動いていないでしょう。我々との密約は有効のはずです。彼らが王国軍への通告なしに先制攻撃を行えば、報復はまぬかれないですから」

 「なるほど・・・・」

 

 (で、あればベクラマとは縁の遠い派生形の解放戦線・・・・)

 新手。

 

 「やっかいなことになりましたねぇ」

 「ええ。このことが震源となり、波及的に暴動が進む可能性も十分に考えられます」

 

 真剣な表情の両者。しかし、フェバスだけはそうではなかった。もはや戦闘になるのは避けられない。そうであるならば彼女にとって、相手は些細な問題にすぎないのだ。

 

 「ふふ、でもおかげで意見は割れなくて済むだろう?私からすれば、それが一番面倒で厄介・・・・」

 彼女はきれいに赤く塗られた唇から白い歯をのぞかせ、にっこりと笑った。

 

 「――――奴らは殲滅で決定だ。最初から全力で、町ごと破壊しても異議はないだろうから」

 

 こうして会議は後の巨大な戦闘へののろしを上げた。そしてその波は、後に43地区にも届くことになる。

 

 

 *

 

 

 ――――一方、コーヒーショップ”マルグリット”。

 二週間ほど休業状態だった店は、めでたく営業を再開した。

 が、しかし。

  

 「――――暇だな」

 「ですね」

 フェーラルスは隣に立っている巨体と顔を見合わせた。彼は【ベルノイ・ガルダー】といい、クマの獣人である。

 

 「仕方ないですね。いまはみんな、祭りの準備にかられてますから・・・・」

 「だがぎゃくに、夜になれば一気に混みそうだ」

 

 ガルダーは、なにもかも見通したプロのようだ。それもそのはず。彼は第四十三部隊でもテラーリオに次ぐ古株。もちろん、獣人族であるから正式な団員ではないとしてもだ。

 

 「先輩がいると頼もしいですよ」

 「うはは、その役目はとっくに譲ったろう?隊長、どうだい?新人は」

 

 「あ、はい。セシル君はすごくいい子でしたよ」

 「まあ人手が増えたおかげで、俺も少し研究に専念できた。そういう意味で、俺も感謝しているがな」


 (・・・・)

 「ええ。きっと先輩とも話が合うと思っていたのですが」

 フェーラルスはあらためて店を見渡すと、一度ため息をついた。今日は顔合わせを含めた勤務の予定だったが、その姿はない。

 

 「サボりだな、こりゃ」

 「うう、やっぱりそうですかねえ・・・・。最近は準備の手伝いもあって、忙しかったというのもあると思うのですが」

 「そのうち戻ってくるだろ。きつくも感じるさ。うはは!最初の一週間が、ノセアダとセイヤッタと聞いたときは、さすがに俺も気の毒だと思ったよ」

 

 「手伝ってあげてくれればよかったのに」

 「あ、怒ってるの。俺にね?悪かったよ」

 「反省してくださーい」

 

 不貞腐れたような彼女の態度も、理解できる。このように、”マルグリット”に関してはガルダーが一番詳しい。教え方もうまいうえ、経験豊富で科学の話題など話も合うだろう。

 素直に先輩として慕えるだけに、セシル君の最初に指導役となってほしかった、というのが率直な感想である。

 

 「なあフェルスよ。それにしても、暇だな」

 (――――振り出しに戻りましたね)

 

 「・・・・!」

 すると豆の下準備をしていたガルダーは、思い立ったように手を止めた。

 

 「いやなに、一発ギャグでもどうだ⁇」

 (――――はい?)

 「え?なんで?なに、言ってるんですか?」

 フェルスは冷静に反応するが、店のなかからは盛り上げるような雰囲気が舞い起こる。彼らとしても、このまま微妙な空気感では居づらいのだろう。

 

 「おーガルダー!やれやれ~い!」

 「まってたぞ~」

 ふふんっ。

 そんな感じに鼻を鳴らすと、ガルダーはカウンター席を並べ臨時のステージを形成した。彼女には止める暇などなかった。

 

 「ちょっと――――」

 (うわ――――本当に――――⁇)

 

 「――――では行きます。

 ・・・・・・ウッホホウッホホ、ウホホホホホ――――――ッ‼

 ウホウホウホッ‼

 ウホ、ウッホウィッ‼‼‼

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・・・どうも、キリンです」

 

 そこで彼が見せたのは、勢い任せのゴリ押しギャグだった。そもそも熊獣人の彼が、ゴリラを演じることにまず違和感を感じる。

 

 「・・・・・・」

 フェルスはとくに反応することないまま、しかし無意識に分析はしてしまう。完全に沈黙した場だが、助け舟を出すことはできる。

 (でも、仲間だと思われたくはない)

 

 そんなとき、ただひとり【アンソニー・メイザ】だけが必死に笑いをこらえていたらしい。

 

 「ギャハハハ、ガルダーくん、それ最ッ高――――‼」

 昔から変わらないなあ、メイザさんは。ついに耐えきれなくなったらしい。第四十三地区では昼から酒を嗜む彼女は、元は由緒ある王国貴族らしい。現状からは到底想像できない。

 

 「ギャハハハハッ!まじ、腹筋ねじれそ―――ッ!」

 「ありがとうございます、貴婦人」

 

 そんなこんなで、緩く時間が過ぎていく。すると そのうちに扉が開いた。

 

 「――――んだよ、今日もダルい酔っ払いがいるじゃねえか」

 「ご挨拶ねェ。月曜の昼間なんてこんなもんよ」

 

 そっけない会話を続けながらも、無精髭の男は彼女の近くに座った。

 「お!ひさしぶりだなァ!ガルダー!それにフェルスも!」

 「おう、相変わらずで安心したぜ。今日は来ねえから、ついに死んだのかと」

 「おいおい辞めてくれ。これでも最近はちゃんと管理して飲んでたんだぜ?」

 

 「信用できませーん」

 「フェルス〜。そんな、ゴミを見るような目で見ないでくれよぅ・・・・本当に、今日はたまたまなんだ」

 

 彼は、うつ向いてそう言った。

 (・・・・?)

 そう。一方でなにか事情があるようにも感じられたのだ。

 

 「なになに、失恋か・・・?それとも仕事がいやになったとか⁇」

 「メイザ・・・・こっちはまだシラフだっつの」

 「いいでしょ、狭い世間なんだし。白状しろ~‼」

 

 「いでで!ギブだ、ギブ!」

 彼は肘がためを受けると、たまらず降伏を宣告する。

 

 「ったく、なんてことねえよ。ただ、その狭い世間から・・・・気の毒だと思っただけだ」

 「なんの話?良い年して中二病か?」


 「ちっげーよッ!!解放戦線!外の話だ!北西の町で近く、王国軍による殲滅作戦があるらしい。それも、民間人の多い市街地でな」

 

 「――――――!!」


 瞬間、フェーラルスの顔が強張る。隣では先程までふざけていたガルダーも、なぜなんだ?という感じに額を抑えた。

 

 「ミリンガル、それをどこで聞いた??」

 (その情報は、一般に流れていい話じゃない。ましてや、なぜ第43地区にまで?)

 ガルダーは数日前を回想した。

 

 "

 

 「やあやあガルダー!ひさしぶりだね、もうすぐセシルとフェルスを帰すから、頼んだよ?」

 通信を始めるやいなや、テラーリオはそう伝えてきた。

 

 「ちょいちょい、もうすこしなにかあってもいいだろ?要件人間」

 「ん?ああ。きみの研究だよね、もちろん読んださ。最高!でもきみには、それ以上を期待してしまうのは、わがままかな?」

 

 「はいはい。もちろん、期待に沿って見せるとも。で?あの新人の話だったか?」

 「セシル・ハルガダナね。よろしくな」

 「話を聞く限りは、なかなか出来そうな男じゃないか」

 

 その言葉にテラーリオは珍しく、素直に嬉しそうだったのを覚えている。

 「この前の作戦も、彼は想像以上に大人だった。当然といえばそうだ・・・セシルはIQも高いし、先を考えて行動できる」

 「なるほどな。

 で?それを言いにかけてきたのか?心配しなくてもちゃんと見てやるよ」

 

 「はは、クマっちの仕事にケチを付けるつもりはないさ。すこし懸念材料があってね、それだけ伝えとく」

 

 ――――ギャラス、そしてセントレーネ。テラーリオから出たのは地名のようだが、ガルダーはこのとき、それがどこなのかも知らなかった――――。

 

 「厄介なのが数人いる。解放戦線とはべつのようだが、軍はすでに動いてるだろう。そうなれば、民間人を巻き込んだ大規模な作戦になる」

 「・・・・またか」

 

 ここのところ、情勢は悪化する一方だ。王国側で反亜人論が急速に拡大しつつあるのも、一因だろうが。

 

 (・・・・)

 「ああ、まただよ。そしてここから大事。それは、セシル・ハルガダナにとってトラウマと呼べるべき事柄だ」

 

 (――――トラウマ?)

 「どういうことだ?」

 「前に、彼を拾ったときの状況は言ったよね?ガラムバトでの出来事も。彼の中で、民間人の犠牲は一つのボーダー。植え付けられた、苦い思い出なんだ―――――」

 

 "

 

 (秘匿情報だろうに――――!)


 「んあ?フェルス?ガルダー?急にどうした??まあ俺も、さっき女の子が話してるのを聞いただけだから・・・・そんなに詳しくないんだわ」

 

 (・・・・。)

 「ガルダー先輩は、なにかご存知ですか?」

 「いや、なにも」

 マルグリットにいる手前、二人は冷静さを保つ。しかし危機感は共有していた。

 

 (まずいな)

 ガルダーは最終的にそう感じた。女の子、つまり情報源がわからない以上、止めようがない。それが新人に伝わったらどうなる?聞く限り、自制の利くような若造じゃないだろう。

 

 「私はいったん離れます」

 「ああ。頼んだぞ」

 

 「ちょ、おいフェルス!このディストピアで唯一の救いが!」

 「はいはい、急用なんだ。仕方ないだろう?」

 「だってえ!」

 「うるさいわねえ!ほら、飲むわよ」

 「ああ・・・・」

 ミリンガルの切ない声とともに、ガルダーはフェルスを送り出す。

 

 (頼むから、何事もなく済んでくれよ)

 しかし、物事はすでに取り返しのつかない方向へと動き出していた。

 

 *

 

 ちょうどその頃、セシルは北の広場で櫓を組んでいた。指示に違わず、ただ一心不乱に積み上げる。その姿はゴーリーらに頼もしく映った。

 

 「――――しかし、感心だな。今日は休みだと伝えたのに」

 「ええ。まあ」

 それを言うなら、彼らの方はどうなるのだろうか?平気な顔で、毎日遅くまで働いているのだ。

 

 「今日はお二人のおかげで助かりましたよ」

 「がはは、ついに働く楽しさに気づいたか。よしよし!」

 

 「・・・・」

 (すこし違う)

 こうしていれば、ほかになにも考える必要がないからだ。あのとき、マニエッタ太極位が俺に言ったこととは、真逆。

 

 "

 「なぜ、そんなことを俺に言うのですか?」

 困惑の末に絞り出した問いに、彼女はすこし考えて、こう答えた。

 

 

 

 「――――迷って、欲しいからでしょうか?」

 "

 

 迷う?最初からそんなことに意味はないはずだ。俺はもう第43部隊の一員だ。そしてその仕事は、外で起こっていることの処理じゃない。それをすれば、間違いなく地区に不利益が出る。

 

 (・・・・)

 この人たちに、迷惑はかけられないだろ。

 

 「ん?どうしたよ、セシル」

 「いえ。今日はずいぶんと人手が多いなと、喜んでいたんですよ」

 

 「はは、たしかにな。みんな今日仕事の合間にも来てくれてるんだ」

 

 「そうだぞ、サボりじゃねーぞーう!」

 「よっしゃあ!今日中に完成させるぜ!」

 「気合入れてけよ!新入り〜!」

 全員、顔と名前も一致する。すっかり俺はここの人間だ。

 

 「はは、もちろんです」

 そう答え、材木のほうに歩み寄る。そのとき。

 

 「ええと、これを運べばいいんですかね」

 華奢な身体の少女が、どこからともなく現れた。

 

 「あ、助かり、、、、ます?」

 言葉が詰まる。そこにいた人物の風貌は、忘れられるわけもない。肩口まで伸びた黒髪の少女。どこまでも不敵な表情と、右手人差し指にはめた黒いリング。そのすべてが、吐き気を催すほどに邪悪に思えた。

 

 「なんでここにいる」

 「やだなぁ。心配で様子を見に来てあげたんじゃないですかあ」

 

 フリナフット・エデリア。

 ガラムバトで俺や勇者たちに地獄を見せた張本人――――もっとも、ニホンジンにとっては良い経験になったのだろうか?

 俺はそんなことにまで思考を回しながら、目の前の切り株に腰掛けた彼女をじっと見つめていた。

 

 「そっけないですね。もっと、大げさにしてくれると思ってましたが」

 「ここでなにを言っても変わらないだろ」

 

 「・・・・!あ、ふふふ」

 彼女は口元を抑え、クスクスと笑った。

 

 「かわいそう、もう忘れられちゃったよ。結構仲良しそうでしたけど、所詮は数週間行動をともにした程度。やはり、処分してしまえばそれで終わりですね」

 「――――ッ!」

 (堪えろ)

 誰のことを言っているのか――――俺にはすぐにわかった。しかし、いったいなんのつもりだ?それはわからないのだ。

 

 「あ~、良かった。その程度なら大丈夫ですね。私、ハルガダナさんたちのこと結構好きなので。嫌われたくなかったんですよお」

 

 (・・・・)

 彼女は無秩序のまま、一方的に話し続ける。

 

 「あ、そういえば、ゴーナルさんたちをワンパンって本当ですかあ??やっぱり強いんですね・・・・でも、正直ここまでとは思いませんでしたけど」

 

 (いや――――)

 言わせたままにしておくべきか?俺は急ごしらえの簡易机に、手のひらを叩きつける。

 

 【ダンッ゙!】

 乾いた音が、穏やかな夕方の空に響いた。

 

 「勘違いするなよ。俺はお前が嫌いだし、会話もしたくない」

 

 「・・・・ハルガダナ?」

 「なんだなんだあ?」

 「なにか問題か?」

 

 ゴーリーさんらの視線が、こちらに集まる。彼らはただならぬ雰囲気を察したらしい。それから、俺を守るようにして割って入った。そんな光景を・・・・一通り見渡すと、少女は興を削がれたように態度を変える。

 

 「あ~。すっかり、愉快なみんなの仲間入りですかぁ」

 

 (心配・・・・配慮・・・・)

 ハルガダナさんに向いている感情は、どれもそんなところでしょう。

 

 ――――反吐が出る。

 

 「王国軍の方ですね?」

 「今日は非番ですけど・・・・はい、そうですよ?

 あふふ。皆さん視線が苦しいです。私がここにいたら、そんなに不都合ですか?種族寛容とは、名ばかりですね」

 

 もちろん、それらはエデリア中将位にとって心地いいものではない。わかったうえで、ゴーリーは代表して口を開く。

 

 「すみません、我々も忙しいもので。世間話に付き合っている暇はないんですよ。もちろん、なにか用があるならお聞きしますが」

 「残念です。本当に、ハルガダナさんとお話がしたかっただけなのですが」

 

 「悪いが、うちのセシルは話したくないらしい」

 「ふうん?そうですかねえ?ハルガダナさん、私は今日大事なことを、わざわざ教えに来てあげたのに」

 (・・・・?)

 大事なこと?

 セシルの頭に、その言葉が引っかかる。このまま追い返せばいいのに、なぜかそうできない。

 

 「セントレーネという町のことか?」

 「――――!なんだ、知っていたんですね」

 「おいセシル、もういいだろう。こんな奴の言葉をこれ以上聞く必要はない」

 

 「え、ええ」

 そのはずだ。

 「あ、ふふ・・・・わかった、わかりましたよお!ハルガダナさん、あなたがそれでいいのなら、もうこれ以上は口出ししません。色々、大変なんでしょうね」

 彼女は横髪を耳にかけると、再びニヤッとした表情を見せた。

 

 「口ではどうとでも言えますが、結局はこんなところでごっこ遊びをしている。外を見て、考えることをやめ始めて・・・・それもそれで可愛いですけどね」

 「――――ッ、なにが言いたい!はっきり言えよ‼」

 

 俺はすでに、ゴーリーさんや周りの制止を振り切っていた。

 (俺だって、色々考えているんだ)

 

 「いいですねえ、ハルガダナさん。わかっているんでしょう?私としてはもっと話してもいいですが、時間がありませんよ?これを受け取るのか、どうなのか。いま、決めてください」

 「なんだよ、その紙束は」

 「来たる作戦の情報を記した、機密書です」

 

 (――――!!??)

 「これを元にあなたが行動を起こせば、いくつか命が救われるでしょうね」

 「・・・・じゃあ、よこせよ」

 「やだなあ、簡単にあげるわけないでしょ」

 

 そう言って、彼女は強く地面を蹴った。

 「とりあえず、私に追いつけたら考えてあげますよ」

 「くそッ!どこまでもふざけやがって!」

 

 『――――待て!セシル!!』

 

 緊迫した空気は、すでに俺と彼らの間にも流れていた。

 「サントスさん・・・・すみません、俺は行かないと」

 セシル・ハルガダナは”43”と刺繍された手製のワッペンをはずすと、ポケットにしまう。

 

 「おいおい、行くって⁉どこにだ⁉」

 「・・・・」

 

 決断のときだ。こうしている間にも、エデリア中将位との距離はどんどん離れていく。俺はただ、黙っていることしかできない。

 

 「あのときの追いかけっことは違う。戻れなくなるぞ!」

 「ええ。それでもやらないといけないんです」

 

 「・・・・。

 ああそうか。じゃあ俺たちも、本気で捕まえに行く」

 「そうだな、サントス。覚悟しろよ、セシル!」

 「行かせるかよ!セシル!お前はもう、俺たちの仲間だ!」

 

 『うおおおおおお!』

 

 場が一気に盛り上がる。

 (ゴーリーさん、サントスさん・・・・それに、みんなも)

 彼らは強力に魔力を練るが、そのすべてに思いやりが感じられた。俺は、ここに居たい。でも、居てはいけないんだ。俺だけ幸せになるなんて、そんな都合のいいことが許されるはずもない。

 

 「・・・・ありがとう、ございました」

 (――――魔法)

 そのとき、周囲に未知の魔力が解放された。

 

 「おいセシル、、、、!!!???」

 ゴーリーがそう口を開いたとき、セシル・ハルガダナはもうどこにもいなかった。

 

 「き、消えた・・・・」

 「そんな馬鹿な」

 「セシルーゥ!戻ってォこい!」

 動揺とともに、悲痛な叫びだけがその場に響く。しかし、そこに彼が戻ることは、なかった。

 

 *第三十一話につづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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