+++第二十七話:第43地区のこと
「はあ、はあ・・・・ぐあッ!」
俺は、ついに力尽きて地面に座った。
「休憩、休憩だ」
重たい角材を運び続けて、すでに何時間だろうか?もはや辺りは、日が暮れ始めている。
「――――うおおおおおお!いくぞ、サントス!」
「おうよ、ゴーリー!」
しかしとなりを見れば、まったく疲れのない風で二人の大人がはしゃいでいる。やぐらの頂上にいるサントスさんに、ゴーリーさんが地上から角材を投げつける。なんて効率的な工事だろうか?もっとも、この工程にはフィジカルモンスターが必須なわけだが。
「ギャハハ、どこに投げている??見ろ、森に突っ込んだぞ」
「んあ?どーも肩の調子がなあ。うははは、流石に疲れか」
「よし、交代だゴーリー!俺が投げる」
「おうよ兄弟」
そろそろ休憩するかと思えば、彼らはまだまだ続けそうである。
(帰っていいかな?)
「おいおいセシル。困るぞ、働いてくれないと。お前が資材を運び、俺らが組み立てる。今日中に櫓を完成させたいんだ」
「あ、あなたがたは、俺をなんだと思ってるんですか。お二人と同じタスクを振られたら、体力なんて残りませんよ」
「ん〜〜〜〜?だってお前には、その力があるだろう?」
(・・・・あれ?)
サントスさんは、まったく疑いのない表情をこちらに向けた。
「俺はわかってるぜ。お前はすごいやつだ。でも、自分で限界を決めちまってるんだろ?」
「いや、そういうわけでは――――」
「――――ストーーーーップ!またそれだ。言い訳を作るなセシルよ。俺たちならできる。それでいいんだ」
「・・・・」
彼らは、本当に俺を認めてくれているのだろう。だからこそ、この場に呼んでくれたんだろうしな。
「それは素直に、嬉しいですよ」
「おうよ!頼むぜ?俺たちならできる、俺たちならできる!!」
「いや、しかしですね・・・・」
「そうか・・・・じゃあ仕方ないな。俺たちが諦めれば、子どもたちは悲しむだろうけどな・・・・」
「わかった!わかりましたよ!!」
「よおし、その意気だ!俺たちならできる!」
「俺たちなら――――よおし!」
・
・
(逃げよう)
原木を取りに入った森のなかで、俺はそう決意した。このままじゃ、やばい。身体がまじで壊れる。あの人たちには悪気がないから、逆に厄介だ。
「どうせなら、フェーラルスたちと同じ、玩具づくりや屋台準備が良かった」
スーパー・キャンプファイヤーの準備?いやいや、俺はそれでも十分やっただろ。
開けた場所で、切り株に腰を落とした。ここでしばらく休んでから戻るか。迷ったってことにすればいいだろう。
「大丈夫、誰も来ないはずだからな」
「なにやってんの、セシル」
「――――ッ!!??」
(・・・・)
「なんだ、子どもたちか」
「子どもたち、じゃねえぞ!俺はテレ!」
「私はレン」
「僕は、ラジ」
「テレに、レン・・・・ラジ?お前ら、本当の名前は?」
「秘密だよ!セシルはまだ来たばかりだからね!コード・ネームで呼んで」
「はあ、わかったよ。で?こんなところでなにしてる?もう暗くなるぞ」
「キノコを探していたんだけど、なかなか見つからないの」
「なんだって?キノコ??」
(なんて平和なんだ)
「わかった、俺も手伝うから。さっさと切り上げて家に帰るぞ」
「おお、やったぜ!」
「僕たちが探しているのは、こげ茶色で、太い柄のある――――」
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ドガ――――ッ!!!!
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そのとき、轟音とともに木々がつぎつぎになぎ倒された。
『セー!シー!ルー!どこだあー!!!!』
「な、なんだあ!?」
暗闇から現れた影は、間違いない。ゴーリーさんである。
(まじかよ)
「なんだ、ここにいたのか」
「え、ええ。子どもたちがキノコを探してるみたいで、手伝ってたんですよ。そ、そうだよな。お前たち」
「えー!べつに手伝ってもらってないけどな――――モゴゴッ!」
「(余計なことを言うんじゃない)」
「(嘘は良くないぞ、セシル)」
しかし、テレの口をふさぐだけでは不十分だった。ついには、レンが核心に迫る。
「セシルは、すこしサボろうって言ってたよ!」
「あ!馬鹿!そんなこと言うんじゃない」
ときすでに遅し。ゴーリーさんの魔力が大きくなるのを感じた。
「なんだ、ゴーリー。セシルは居たのか?」
「ああ。サントス、どうやらセシルはサボりだったらしい」
「やっぱりか。セシルよ、どうやら徹底的に根性を叩き直す必要がありそうだなあ」
「ちょ、まじですか!?」
「大マジだ――――ッ!」
ふたりの巨体から、エネルギーがあふれ出る。獲物を見つけたときのように、目がキラリと光った。
(ああ、逃げよう)
三人ははほぼ同時に地面を蹴った。
「待てーい!」
「嫌ですよ!待ったら捕まるでしょうが!」
「ははは、やるなァ!セシル」
「でもお前のスタミナで、いつまで持ちこたえられるかな?」
「くッ!」
二人の眼はまた光を反射し、薄暗い辺りで不気味に光る。そうして全速力で森を抜け、セシルを先頭に街並に飛び込んだ。
(良し、すこし離したぞ!)
「なにしてんだあ、セシル」
「――――ッ!エダルクさんに、ベッカンフォードさん!助けてくださいよ!」
「ああ。あなたがなにをいっているのか、理解しましたよ。しかしセシル君は、お二人と相性がいいと思ったのですが」
「相性以前の問題でしょう!このままじゃやばいです」
「わかりました。私のほうからも明日、伝えておきます」
「あ、ありがとうござ――――って、明日??」
「そうです」
ベッカンフォードさんは、いつも通り淡々とした口調で答える。
「すみませんが、今日はこれから飲みの予定があるので。失礼しますね」
「あ゛!ちょっと!!」
「じゃーな!頑張れよ大将」
ガーナードさんも、助けてくれるつもりはないないらしい。
「そんな。ち、ちくしょおおおおお!」
ふたたび走り出すが、このままでは追いつかれる。こうなれば、どこか家にお邪魔して隠れるしかない。
・
・
「失礼します!!」
「は、はい。どうぞ・・・・?」
多少乱暴にドアを開けたが、家主は怒る様子もない。
「助かります」
「いえ、ずいぶんと切羽詰まった様子だったので。どうかされたのですか?」
「はあ、はあ。ええ。実は、常識の通じない怪物二人に追われていまして」
「まあ!それは災難でしたね。私にできることであれば協力します!」
「では、すこしの間ここにいさせてください」
「もちろんです。まさか、第43地区不審者なんて。でも、夫が来れば安心ですよ。すごく力強い人で」
「そうなんですね。それは心強い」
俺はそう答えると、窓の外を警戒した。それにしても、あんなに若くてきれいな人にも伴侶がいるのか。
思わず、彼女のほうに目をやってしまう。ブロンドの長髪が似合う、素敵な人だ。
「ういー!カレン、いるか?」
「あ、ちょうど夫が帰ってきたみたい!」
「え?あ、はい」
玄関に向かう彼女の背中。それよりも、さっきの声って、聞き覚えがあるような。
「――――そうなの――――うん、不審者に追われてるみたいで――――」
「ああそうか!あとは任せてくれ!」
(――――!!)
聞き耳を立てていると、大きな雄声が届く。
「不審者に追われるなんて、不運だなあ。セシルよ」
「ゴーリーさん!!??ってことはあの女の人は!」
「んあ?俺の妻だが?」
(・・・・。)
なんてことだ。
「不公平だあ!」
「おいおい、そっちは行き止まりだぜぇ?セシルぅ!」
思考が停止したまま、階段を2段飛ばしで駆け上がる。やばい、捕まる。どこか、逃げられる場所はないか!?
一心不乱に探していると、バルコニーに続くであろう大窓を見つけた。
「しめた!」
ここから飛び降りれば、また外に逃げられる。
「お邪魔しましたぁ!」
扉を開け、外に出る。
すべてがスローモーションのように俯瞰して見え、このままなら逃げ切れてしまいそうである。
〈ドウン、ドウン――――ッ!〉
その瞬間、大きな花火が夜空に舞い上がった。本番のテストだろうか?見とれている場合ではない。
しかしその光景に、思わず俺は足を止めていた。
「あ・・・・」
どうやらこの家は高台にあるようだ。花火からの光と相まって、第43地区をよく見通せる。
(あれが、俺たちが作業をしていた森)
その手前には、集まってなにかを作っている軍団が見える。ひときわはしゃいでいるのは、セイヤッタだろう。やっとフェーラルスに会えたようだ。
ここが、俺たちの居場所。あれが、仲間たちか。
ここ最近戦ってばかりだったが、ひさしぶりに心が安らぐ気がした。
「良いもんですね」
「ああ、そうだろう?」
いつの間にか、ゴーリーさんも隣でそれを眺めていたらしい。彼は優しげに笑みを浮かべると、それは虹色の光に照らされた。
「ビール飲むか?」
「いや、まだ飲めねえっす」
「そうか」
ハッピーエンド。そう言っていいだろう。こうして、俺はひさしぶりに第43地区で過ごした。
ちなみに、このあと夜通し働いた。
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