+++第三話:再生魔法!国家戦略級の魔法
「どうしよう!こんなに血が・・・・!!!?」
現実として、初めて見るような光景に完全に動揺している宮代ロロカ。彼女は近くにいる敵の存在など見向きもせず、セシルの傷口を押さえた。しかしどういうわけか、男は彼女に興味を示すことなく横を通り過ぎる。
「・・・・」
それは組島七瀬が、この状況でなんとか冷静さを保っている理由でもあった。
「ロ、ロロカ――――‼」
そんな彼女とは対照的に、芝浦護は表情をゆがめる。クラスメイトを心配していまにも駆けだそうとしていた彼の腕を引き、桐谷隼人は逆方向へと向かって行った。もちろん、片腕には小さな獣人少女を抱えてのことである。
「――——ッ⁉
なんでだ‼ふたりがまだ―—――」
芝浦隼人は混乱した様子で、桐谷の腕を振りほどいた。
「お前、クミシマの話聞いてなかったのか⁉あの面長の目的はこのガキだ!ここはあいつの言う通り、距離を取るぞ!」
「それはそうだけど‼‼‼ロロカ達を放って行くなんて、本気か隼人⁉ていうか、それならいっそのこと――――」
(――——ッ‼)
「おい‼
お前こそ冷静になれよ‼⁉らしくないぞ、芝浦!」
彼が感情に任せて言おうとしたことを、咄嗟に制止した。もはや世間体裁もない以上、桐谷隼の本心だった。
「・・・・!あ、ああ。すまな、い・・・・いまのは、違う。たしかに俺の本心じゃなかった」
額を覆うように手のひらで押さえ、彼は申し訳なさそうにそう言った。ここは慣れない異世界の地、気持ちが不安定になるのは仕方のないことなのかもしれない。
そうは言っても状況が状況だ。
「頼むぜ、生徒会長・・・・!」
(生徒会長?そんなもの・・・・ここではなにも役に立たない)
言い訳は、後だ。
「・・・・やみくもに走ってもしょうがない。とりあえず、街の出口まで行こう。トレイノルもそこに居る」
*
【200m後方】
そこでは、組島七瀬が新手の相手をすることになっていた。彼女は動転する気持ちを落ち着けながら、自分のすべきことを整理把握していた。
「――—―そこを通してはくれまいか?」
「お断りするわ」
「ふむう・・・・では、押し通り其れ達するなり。風魔法:リエン=グアルフ!」
「!!」
(やっぱり、この人も魔法を‼)
考えろ。風、ということはまた速攻ということ⁇だとしたら、なにか遮蔽物を――――。
「遅し」
「――—―え?」
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空中で頭が激しく揺れ動き、一瞬意識を失う。自分の体が大きな力で吹き飛ばされた・・・・間違いなく組島がいままでに感じたことのない体験。
気が付けば、彼女はがれきの中で横たわっていた。
「五体満足か。はた幸運なり」
「‼⁉」
現れた気配に、すぐさま剣を振り出す。受け身さえ取れなかったが、これを離さなかったのは幸運だ。
(体中が痛い。でも――—―)
「負けない、食らいついてでも止めてやる」
*
べつになにをしたわけでもない。帰れるのならいますぐにでも、日本に帰ってやる。俺たちがいったい、なにをしたというのか?
「残念、ここまで。止まりなガキども」
「・・・・ハア、ハア」
肩を揺らしながら、状況を考える。もうすこしで、トレイノルの居る民家までたどり着くというところだというのに。目の前には小柄なシルエットが立ちふさがる。
「ばあさん・・・・まさか、あんたも」
「年寄り扱いするんじゃないよ。あたしゃ、まだまだ現役さ」
(嘘だろ・・・・?)
三人の行く手をふさいだ老人。白髪でしわも多い。歳は70は確実に過ぎているように思える。
「とても戦うようには見えない。おばあさん、争う必要はないと思うんです。どうか道を開けてくれませんか?」
「まあ、それでもいいけどね。でもその娘はもらうよ」
「だからなァ――――‼」
ここで強引に話を進めようとしたキリヤを、いったんシバウラは制止する。
「この子は渡せません」
「困ったね・・・・あんたらに、その子を守る必要でもあるのかい?」
「・・・・はあ」
老婆の言葉が心に響く。そう。自分たちの明日さえなんの保証がない状況で、危険を顧みず他者を助ける。非合理的だ。自分や友達の身を優先するほうが賢いのだろう。
「いや。なにを言われても、この子は渡さない」
「ほう。理由を聞いてもいいかな」
「簡単なことで、僕らの故郷ではすくなくとも・・・・これが普通です」
その言葉に、老婆は顔をしかめる。
「ご苦労なこった。しかしなんにせよ――――
――――交渉決裂だね」
老人がそう呟くと、周囲の空気がピリ付いた。
それは肩に重くのしかかり、感じたことのないプレッシャーになる。
「・・・・地震か⁉」
桐谷が思わずそう呟くように、体が小刻みに揺れ動き、鈍い耳鳴りも生起する。
(なん―――――――――――――――――――――――――だぁぁぁ?あれ?)
―—――は?
「芝浦―――――?」
気が付くとそこに居るはずの彼の姿は消え、はるか後方で爆発に近い衝撃音が響いた。
「雷魔法:電磁式碌伝年再法」
(・・・・‼)
ババアか?
いま、なんて言ったんだ?
・・・・魔法?
頭の整理がつかないうちに、いつの間にか隣まで来ていた老婆が口を開く。
「あだだだ・・・・相変わらず、腰に障るねぇ」
「なにをした⁉」
「なぁに、簡単な話。高出力のエネルギーで、ちょっと躾けてやったのさ」
「て、てめえ・・・・!」
彼からすれば、恐怖でしかない。魔法・・・・しかしそれはここ数日目にしたもののどれよりも、格段にレベルが高い――――。
(————殺す気の魔法だった)
「ふざけやがって・・・・!!」
「あらまあ、口が悪いわよ。あなたにも躾けが必要かしらねぇ?」
「ッ―――‼」
全身が恐怖に支配され、桐谷隼人の身体が硬直した。それを感じ取ると、老婆は静かに若人を諭し始めるのだった。
「まあ、言うことを聞くなら特別に許してあげましょうか」
「・・・・・・・・・・渡すわけねえだろ、クソババア」
「残念・・・・生意気なガキは嫌いだよ」
そう言って、老人は地面に手を突いた。
「土魔法:ツトロミッカ=レアノ」
(―――—!)
直接的な攻撃ではなかったが、その魔法の正体はすぐに判明した。地面が変形し、四メートル以上ある巨大なゴーレムへと変貌していく。
「・・・・マジかよ」
「さあ、ツトロミッカちゃん。私に代わって、このガキを調教してくれるかしら」
*
「――――どうしよう、ど、どうしようどうしよう‼⁉⁇⁇」
知識の限りを尽くし、懸命に処置を続ける。しかしながら、セシル・ハルガダナの腹部を貫いた巨大な傷が治ることはもちろんない。そもそも、これだけ大きい裂け傷である。あふれるように流れ出た血液は、すでに取り返しのつかない量に達してしまっていること。そのことは彼女も、うすうすわかっている。
しかし・・・・それだけで納得が付くほど、彼女は熟した人物ではなかった。
(なにもできない!このままじゃ本当に、死んでしまう)
「ダメダメダメダメ・・・・・・・・・・ダメだよ!!!!」
広い世界で、生まれる人がいればそれだけ死ぬ人も存在する。戦争があれば、治安が良くない場所もある。平和がなければ、若い人だってたくさん死んでしまう。
そんなことはわかっている。
(お願いします、お願い・・・・止まって)
一生忘れられないような、生暖かい液体の感覚。でも私にできるのは、こうして祈ることだけ。
(いや・・・・違う?)
本当に、それだけなの⁇
ここが本当に異世界なんだとしたら、私にだってまだできることはあるでしょ?
そこでミヤダイは、決意したように目を見開いた。ここに来てから、いろいろな人に出会った。魔法を使って人を傷付ける人・・・・逆に、守ってくれた人もいる。
私は・・・・どうするの?
「――――ッ‼
治れ、治れぇ‼」
魔法というものがなんなのかはわからないし、もちろん使ったこともない。でも、それがあきらめる理由にはならない。そうしてミヤダイは、力を振り絞るように念じ続けた。
「—―――治れ治れ治れ治れ治れ治れ!はああああああああッ‼‼‼」
するとそのとき、彼女は経験したことのないものを感じた。全身からなにかが出ていくような、不思議な感覚である。
「ッ・・・・!」
意識が飛んでしまいそうだ。このまま続ければ、私も無事では済まないかもしれない。
(・・・・それでも、いいよね)
ハルガダナ君が助かるなら、いまはそれ以外のことは考えなくていい。決意とともに、彼女は生まれて初めて魔法を発動した。宮代とセシルの周りを、淡くも力強い緑光が包む。地面には巨大な魔法陣が展開され、その光からはきれいな蛍火が分裂して飛んでいくのがわかった。
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【―――――再生魔法:リジェイット=ミダストラーフォン】
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*第四話につづく




