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+++第二十四話:セシルとエルシア

 「・・・・あれ、ここは?」

 目を開けると、さきほどまでいた廊下は十メートルほど上に見える。直撃は避けたが、床が抜けたのか。背中に痛みを感じるが、これは最初の攻撃によるもの。落下ダメージは、フェーラルス中将位がカバーしてくれたと考えるのが自然だ。

 

 「ごめんなさい。治療しようと思ったんだけど、うまくできませんでした」

 「ありがたいです、止血できていれば十分ですから。どれくらいたちました?」

 「・・・・5分くらい」

 

 言葉をかわす彼女に、すこしまえの覇気はない。まるで別人のようである。

 「どこかお怪我を?」

 「いいえ、おかげさまで。ただ、状況に絶望しているだけです」

 「はい?どういうことでしょうか?いますぐここを出て、奴を追わないと」

 

 至極真っ当なことを言っているつもりだ。しかし、反応はよろしくない。

 「うって・・・・」

 「え?」

 

 「・・・・追うって、どうやって?かりにここから出られても、その身体で戦えるんですか?」

 「身体?って、はあ――――!!!!??」

 

 俺はやっと、自分自身の窮状に気がついた。身体が縮小し、5歳ほどの年齢まで戻ってしまっている。手が小さい、声が違う、そもそも視界が低すぎだ。

 

 「なッ!!なんでええ!?」

 「おそらく、あの魔人族の能力でしょう。私も魔力が精錬できず、魔法が使えなくなっている状況です」

 「・・・・な、なるほど」

 魔力や身体接触がトリガーの魔法だろうか?かなり厄介だ。俺は現状、そう結論づけるしかない。

 しかし・・・・もちろんそれも疑問だが、俺にはもうひとつ。なんで、中将位はそんなに冷静で、他人事のようなのか。

 

 「――――ッ!!だってしょうがないでしょう!?敵の能力は最大限警戒していた。私はいつだって、状況に対応できるように用意してきたんだよ!そうでなきゃ、私なんかリーダーになれっこないでしょ!?」

 「・・・・!あなたは、俺から見れば完璧なリーダーですよ」

 「ふふ。そんなの、まやかしだよ。私は、才能がないから、その分何百倍も準備してきたの。ねえ、ハルガダナくん。あなたは作戦を指揮することが決まったら、どうする?」

 「え?」

 

 「私はね、まず参加者のデータを一から読み直すかな?あとは、現地までのルートを確認して、作戦のシナリオを一から書き出します。もちろんそれが上手くいくわけじゃないので、何十通り、何百通りも・・・・そうしたら、みんなの前でうまくしゃべれるように特訓するの。それからね、みんなに認めてもらえるよう、誰よりも知識をつけておくんだ」

 (毎回・・・・うまくいかないんじゃないかって、途方もない重圧に耐えながら・・・・)

 

 「今回もそう。それが通用しないなら、私にはもう、無理だよッ!ねえ、どうしたらいいの?私たちがここで失敗すれば、管理人のおばあさんはまず殺されてしまう。それから、地区の皆にもおおきな迷惑がかかるんだよ。どうしよう、どうしよう!!!!」

 

 押しつぶされそうな表情で、フェーラルスは頭を抱える。完璧な人間などいないのだと、俺はそこで初めて気づかされた。これまでのことを考えれば、俺は中将位に頼ってばかりだ。勝手に彼女が正しいと決めつけ、責任まで押し付けていた。それでは、俺が作戦に参加している理由にはならない。

 

 「大丈夫ですよ」

 「無責任なこと言わないで。それとも、考えがあるの?」

 

 「あなたひとりに任せきりになってしまったことは、謝ります。ですが俺とは今日はじめて会ったんですから、正確な見積もりはできていないでしょう?あなたの計画以上に、俺が働けばいいだけの話ですよ」

 「ハルガダナ君が?」

 「ええ。俺は、第43部隊ですから。あなたで足りない部分は俺が補います。地区のためにも、もうひと頑張りしましょう」

 

 そこまで言うと、彼女はすこし黙って間を置いた。それから溜まっていた不満を吐き出すように、口を開く。

 

 「・・・・よく言うよ。あなたは結局、自分のために動いているだけじゃない。本当は、第43部隊にも疑問を感じているんじゃないかな?」

 「・・・・」

 

 「話していて、あなたの迷いが伝わってきたんだ。この際だからはっきり言っていいよ。私たちのやっていることが、無駄だって思うなら」

 彼女の言うことは、ある意味で正しい。そして、その観察眼も彼女をリーダーたらしめているのだろう。すべてを見透かしたような、澄んだ瞳をこちらに向ける。彼女にごまかしはきかないだろう。

 

 「たしかに・・・・俺は、この部隊がやっていることを疑問視したことはあります。地区の外では、たくさんの人が苦しんでいるのに、それを無視している気がしたからです」

 「へえ?それで、じゃあなんであんなこと言ったの?

 私たちのために、っていうのは嘘?」

 

 彼女は、俺の思考を本当にわかっているかのようだ。だからこそ、そう言って保険を残したのだろう。俺が完全に地区を見限っているわけではないと、一方でそうわかっているのだ。

 

 「————俺はここ数日だけですが、あの地区で過ごしました。ノセアダたちはもちろん、住民たちともたくさん関わりました」

 

 俺はいつの間にか、毎日、開店の時間が楽しみになっていた。

 

 "

 「・・・・!やれやれ、もう居たんですか?寒かったでしょう」

 

 「なんの、これしき余裕だぜ」

 「強がるなよ!あーさみー!セシル、コーヒー淹れてくれ」

 「はいはい。

 皆さんも、どうぞ」

 

 「おう、セシル。調子はどうだい―――—?」

 「ぼちぼちですね」

 

 「————セシルお兄ちゃん、算数教えてよ」

 「よし、じゃあそこ座れ、フトー」

 

 「ちくしょー!なんでお前のコーヒーはこんなにうまいんだ――――!?」

 「特別仕様ですからねえ」

 

 「よおし、今日セシル歓迎会パート2をやるわよ――――!」

 「って!そりゃ、飲みたいだけでは!?」

 "

 

 きっと俺は、話すのが楽しいんだろう。あの人たちは、安心感をくれる。もちろん、苦しんでいる人を助けたい気持ちは変わらない。しかし、打算的な話ではないのだ。俺は――――。

 

 「俺は、あの場所を守りたいんですよ」

 あえて小細工せず、素直な考えを伝える。彼女なら、すくなくともそれは本心であると、わかってくれるだろう。すると中将位は納得したように表情を変えると、いつぶりかの笑みも浮かべた。

 

 「・・・・・・・・そっか」

 「はい。ですから――――」

 「――――ううん、もう大丈夫。ハルガダナ君がいい人だっていうことは、よくわかったよ」

 

 彼女はそう言うと、大きく手を伸ばし、体を上空に伸ばした。

 「うーーーーーーんっ!すっきりした!

 うじうじしたり、疑ったりしててごめんなさい。

 もう大丈夫。一緒にここから脱出して、作戦を続行しよう!」

 

 彼女はそう宣言し、小さくなった俺の身体を抱きかかえた。

 「いや、ちょっと――――!?なにをする気ですか」

 「なにって、登るしかないよね?」

 

 「いや、それならもっといい方法がありますよ」

 「いい方法?」

 「そうです。森林魔法:トラヴェラーズ!」

 

 魔力の解放とともに、俺たちの真下から一本の大木が現れ出る。それは彼女の身体をうまく拾い上げると、一気に穴の外まで担ぎ上げた。

 

 「便利な魔法・・・・!」

 「俺ほうは、魔力に減退はないようです」

 「そっか。大丈夫、できるよ!私が注意を引くから、その隙をついて!」

 「わかりました!」

 

 幸いなことに、魔人族はその場から動いていなかった。勝利を確信して油断していたのか、フェーラルス中将位の魔法から回復していたのか、定かではないがとにかくチャンスである。

 

 「ぐッ!?貴様ら、生きていたのか。いや、だとしてその状態で戦えるとでも――――?」

 「できるよ。それが私たちの覚悟だからね」

 中将位は大胆にも男に近づくと、戦闘態勢をとった。

 

 「傲慢だな。魔法を使えない状態で、あまつさえ力の差がある俺に対して、近接戦を挑むと?」

 「勝てるからね」

 

 「――――!!」

 魔人族の男は、フェーラルスの風格を感じ取った。なんだ?人間族の女とは思えない、強者の存在感。やはりこちらから対処して正解だったか。

 

 (風魔法:一太刀ッ!!!!)

 近寄らせまいと放たれたいくつもの迅刃を、フェーラルスは効率よくかわしてすすむ。

 「貴様――――ッ!」

 「正々堂々、組手で戦おうよ」

 

 彼女はもはや目の前に現れる。焦った男が二度三度手を出すが、それも有効ではなかった。わずかにできた隙をつき、フェーラルスの手背が顔面を叩く。

 

 「ヅア!!!?」

 そこからは、相手の行動を読み切ったような、流れる連撃が魔人族を襲う。

 (この女――――!)

 

 魔法の練度は確かだった。まさか武術まで一級品だとは、想定外だ。あっちの男よりも、こっちの身体能力を封じなければならなかったのか!!??

 

 「ハルガダナ君!」

 「ああ!ナイスだ、フェーラルス中将位!」

 

 セシルが合図に反応すると、周囲を冷気が包んだ。

 「氷魔法:ゼウドラル!」

 「な、なに!?」

 

 男は氷に包まれた両手足を見て、驚愕する。これは俺の新魔法。同時に首も凍らせることで、体温低下による能力減退が見込める。締めつけを厳しくすれば、次第に意識を奪うことができるだろう。

 

 「ここで捕獲する!」

 「う、ぐぬう・・・・!!!!させるか、俺は魔人族だ!!貴様らのような低俗種に、負けてたまるかああああああ!!!!!!」

 

 (――――!)

 「あ、待て!」

 フェーラルスは一瞬目を離した隙に、男は走り出した。身体の動きはうまく効かないはず。悪あがきのようなものだろう。

 

 「気をつけてください、中将位!隠し手があるかもしれません」

 「うん、でもどうしようか」

 「そのうち、身動きは取れなくなるはずですが」

 

 (放っておけば、平気だろうか?)

 いや、待て。あの日、ベルセベルデとともに現れたやつらは、いったいどうなった?自らの命さえ、厭わない連中だった。それが、いま敗北がほぼ確定した状態で、どうする?

 

 「――――!氷魔法:アリアージュ!」

 「な、、、、!?おい、おいおい、やめろ!」

 セシルの魔法が、魔人族と地面を固定した。それから、上半身、顔面までを凍らせていく。

 

 「お前ら、俺を捕まえたいんじゃないのか!?わかった、ほら、もう抵抗しないから!」

 「それどころじゃなくなったんだよ」

 「はあ!?だって、そんな、ごどじだら゛・・・・息ができなくて、、、、死――――」

 「ああ、死んだらすまない」

 「――――ッ!!」

 

 文句はなしにしてほしい。一応、これ以上できないほど緻密に操作しているのだ。俺だって、死んでほしいとまでは思わない。ぎゃくに、命を助ける操作でもあるのだ。ベルセベルデ、奴が配下の魔人族になんらかの保険を作っていると考えることもできるからな。

 

 「すごい・・・・」

 フェーラルスが見るさきに、見事な氷塊ができあがる。こうなれば、氷のなかの生物は仮死状態だ。

 「これで、爆発も、自死もできない。はは、よし。成功だ」

 「こんなことができるなんて」

 「あとは、慎重に運ぶだけです。王国軍基地についたら、吐いてもらいましょう。ベルセベルデという魔人族、、、、のことを、、、、」

 (やばい、視界がぼやける)

 

 セシル・ハルガダナはふらふらと揺れると、バランスを失った。それを見て中将位が手を伸ばすが、届かない。

 

 「よっと・・・・」

 彼の体を受け止めたのは、ヤーマ・テラーリオだった。

 

 「やっぱり、こっちも接敵していたか」

 「うん。それより、ハルガダナ君は?」

 「ああ、大丈夫。過度な集中と、魔力を一度に使いすぎたせいだ。そのうち起きるでしょ」

 そう言って、テラーリオはセシルを地面に寝かせた。

 (それにしても、驚くべき成長スピード)

 

 ほんの二日の間に、氷魔法を一段とレベルアップさせたらしい。

 「おかげで、助かったね。私とマニエッタは、殺してしまったから」

 「この魔人族は、ベルセベルデと繋がりがありますよ」

 

 「ああ。じっくりと調べよう。本人には会えなかったが、いつかはたどり着いて、かならず仕留めてやるさ。

 悪名高い女王様ってやつをね」

 

 

 *第二十五話につづく

 

 

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