+++第二十二話:太極位VS.強敵、必中魔法の脅威
「これは、私が一番正解に近いのでしょうか?」
「・・・・」
部屋の奥で"正座"。ほかに人もいないのに、律儀なものである。それは異質かつ強力な魔力を帯びるが、マニエッタ太極位の問いに答えることはない。
「貴様、名をなんと言う?」
(――――!問い返し)
「名乗るつもりはない、と言いたいところですが。それでは話が進みそうもありませんね。ラナ・マニエッタと申します」
「そうか・・・・私は、【デューク=エレムルス】。さて、王国軍が私になんの用か?」
「もともと、あなたが目的ではありません。【ベルセベルデ】という魔人族をご存じでしょうか?」
冷静ながらも、マニエッタは動揺していた。なぜなら男は、一度も振り返っていないからだ。
(それなのに、なぜ私が王国軍だと確信している?)
「ベルセベルデ――――懐かしい名だ」
「――――!」
「三百年も前の話。私は、奴と力を高め合った。なるほど、私がこうして復活したのは、あの女の策略だと言うことか」
「策略・・・・どうやら、あなたも放って置くことはできないようです」
「殺すか?」
「いえ、連行します」
彼女がそう宣言し、魔力を練る。すると、男は乾いた笑いを発しながら、はじめて力を込めた。
「――――!!!?」
「そうか、それならお前も相応の覚悟が必要だ」
男の向く方の壁に、巨大な眼球が現れる。なるほど、こうして視野を確保していたのである。振り返った男の顔は、いたるところにヒビが入って、片目を閉じているらしい。背中からは大きな翼が生え出て、一気に戦闘態勢を取った。
(角、肌色・・・・体躯。どれも魔人族の特徴に当てはまる)
「炎ま――――」
「風魔法:ルクシアルセガ」
(――――!!)
速い!!!!完全に発動速度で後手になった!
マニエッタに向けて、風の強靭が何刃も迫りくる。
「・・・・」
しかし、王国軍太極位はさすがの機転で、即座に魔力系統を土に変換する。土魔法:テックレーザ。彼女は身を守る術として、前方に硬質な壁を用意した。
(魔族とはいえ、魔力を練ってから魔法の発動までが、あそこまで洗練されているとは)
「やはり、強敵のようで――――ッ!!??」
(――――血?)
痛みとともに、肩口を流れる液体。それは、まぎれもなく想像通りだった。なぜだろうか?射線は切っていたはず。
「カラクリがありそうですね」
「ふむ。お前も、ただの兵士ではないらしい。回復魔法か?それもかなりの練度。あの深手を治療するとは・・・・」
「当たり前ですよ。放置すれば私など、すぐに失血死してしまいます」
「簡単に言う。魔人の再生とは違う。それは純粋な高度魔法による回復。人間でそれができるのは、いったい何人だ?」
「さあ?ともあれ、私の話はここまでです。あなたの方はどうなんでしょうか?」
「私、私か――――お前が聞きたいのは、魔法特性の話だろう」
(特性・・・・)
まさか、あちらから手の内を明かすようなことをするとは。太極位の駄目元の質問が、功を奏した形である。
「魔法には、自然法則に反した独自の効果がまれに発現する。基本的にそれは、術者独自のものであることが多い」
「ご丁寧にどうも。それで、あなたの魔法は必中だとでも?」
「・・・・信じるかは、お前次第だ」
男はすこし渋く表情を変えた。
(情報を与えすぎた、と後悔でしょうか?)
可愛いところもあるようですが、能力が能力。ひさしぶりに全力を出さなくては、勝てなさそうですね。
マニエッタはすうっと息を吸うと、目を閉じ、魔力の流れに集中した。
「炎魔法――――」
「風魔法――――」
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ぐ
わ
ん
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「!!!!」
瞬間、おおきな魔力衝突が起こった。初期効果としてエネルギー波が届き、つづけて周囲に不規則な感覚が走る。両者はそれに揺れ動かされることなく、ただ静かに対峙していた。
(同時だった――――)
エレムルスはそう回顧した。マニエッタがエレムルスと同時に魔力を解放したことで、それを相殺したのだ。魔法が発動する前の不安定な時間を突いた、実に巧妙な魔力技法。
「たしかに、魔法が発動しなければ、必中にもならない・・・・」
この女はそれを見越して、私にタイミングを合わせたのだ。そうなれば、単純な発動速度は私より速い!!!???
「・・・・王国軍太極位か。三百年前よりも明らかにレベルが上がった」
「炎魔法――――」
「雷魔法――――」
「――――イシレンダ!」
今度は、まったく別の二魔力が、正常に広がった。
《バヂイ゛》
(――――ッ!)
「これは!」
地面を這う流電。男は素手でそれを払うと、状況に困惑した。これは私を狙った、兵士の魔法。
なるほど、今回は魔力相殺しなかったということか?
「想像以上に勘が鋭い」
「土魔法:テックレーザ。今度は防御できました・・・・炎に必中はないようですね。まあ、すべてが必中なんて、さすがにデタラメ過ぎますよ」
「・・・・よくわかった。小細工は通用しない、そのレベルの相手だ」
(たしかに強い。が、勝敗を分ける決定的な要素がまだあるだろう)
「ッ!」
マニエッタは、男が魔力が洗練されるを感じる。そして、それは最初の必中魔法に近いことを理解した。しかし、、、、。
(それは対応済です)
「風魔法――――」
「炎魔法――――」
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ドア――――――――ッ!!!!!!
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またしても、完璧なタイミングで魔力が衝突しあった。しかし、それらはすべてが相殺しあったわけではない。
「・・・・・・・・!!!!」
マニエッタの腹部に、深い切り傷ができる。彼女は即座にそれを回復するが、当然、男はその邪魔に入った。
腹部に手を当て、回復に意識を割く。そうしつつも、マニエッタは接近してきたエレムルスの対応も強いられる。
「感じ取ったか?お前の魔力は、俺の魔力よりもいくぶん小さかった」
「ええ、そうでしたね」
「・・・・魔力の総出力というものがある。たとえ魔法にせずとも、お前では俺の全力には及ばない」
「もしかして、人間族の限界とでもいいますか?残念。なら最初にしたように、解決策を考えるだけです」
「せいぜい、やってみるといい・・・・」
エレムルスと名乗った魔人族。彼の声色が変わらないのは、余裕だからだろうか?脳内で測って、およそ30秒。男はふたたび腕を構え、魔法を発動する。
「風魔法――――」
「炎魔法――――」
――――ルクシアルセガ!
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巨大な風圧が発生し、風の刃がよっつ、暴れ狂う。腹部の治療に当てていた分、マニエッタの魔法は不完全だった。逆に男の魔法は、今度は半分ほど完成する。それは残酷にも、彼女の腕と足を切りつけた。
(ッ゙!!)
しかし、致命傷は避けられる。一度当たれば必中効果も消えるのだから、必殺でもない。
「だとして、いつまで耐えられる?」
「どちらかといえば、それはこっちのセリフですかね」
煙から出ると、落ち着くことなく強く地面を蹴る。
「なに――――!?」
(治療は後回しか!?)
「正気の沙汰ではないな。その状態で接近戦とは・・・・」
「ふふ、私は魔法士であるとともに、武術家ですからね。いつどんな状況でも、全力を尽くします」
彼女はそう宣言しつつ、強い拳を男の顔面に当てた。
「〜〜〜〜〜〜!!!?」
エレムルスの視界が揺れ、足元がもたつく。しかし休む暇はない。続いてガードをお構い無しに、左回し蹴りが上段に届く。
「ぐはッ!!!!」
まさか!?半分ちぎれているような腕と、足。それでこの私を圧倒するだと?信じられんが、このまま続けてはまずい。明らかに敗北は目に見えているからだ。しかし・・・・中途半端に魔力を消費すれば、つぎの魔法が疎かになり、相殺される。つまり毎回30秒間、私は相手の土俵に上がらなくてはならない。
「女だから、近接戦は問題ないと思いましたか?」
「・・・・いや。肉体が洗練されていたのは、わかっていた。過小評価していたつもりはない」
(29・・・・30・・・・)
「くッ」
押しきれなかった。
完全に有利な場だったが、発動を躊躇させるような決定打に欠けた。マニエッタの視線のさきでは、ふたたび魔力が解放される。
「風魔法:ルクシアルセガ!」
ここでついに、エレムルスの必中魔法が完全発動する。やっつの刃が強力なまま、マニエッタに襲いかかった。
終わりだ。もはや彼女に、これを堪えることはできないだろう。そのはずだが・・・・エレムルスは直感で感じ取る。
「・・・・まだ殺しきれんか」
「ええ。私は手の内を出し切ったとは、言っていませんから!」
「なに!!!?」
想定外で、背後からの声に驚愕する。彼女は、一刻前まで真逆の場所にいたはず。瞬間移動??いや、簡易的な召喚魔法か!!
「そのとおり。私は護獣との契約で、相互に召喚し合えるんですよ」
「護獣・・・・たしかに、さきほどお前がいた場所に生命反応があるな。気づかなかった。お前の魔力があまりにも強すぎたのだ」
「それで、どうしますか?避けたとはいえ、あの魔法は未だに有効」
「――――!」
彼女の言う通り、エレムルスの発動した風魔法は威力を保ったまま、ふたたび対象に向かい始める。
「あの魔法は、必中なだけであり、私のみを攻撃するものではない。それが私の結論です」
「そうか・・・・」
「逃がしませんよ!」
逃走を防ぐように、マニエッタはまた近接戦に持ち込む。やはり、仮説は正しいのだろう。あからさまに自分から離れようとする男。
(必中魔法が消えた!)
「はあ、はあ・・・・やはり、自分も被弾するのは避けたいですか」
「・・・・勘違いするな。魔法ならもう一度展開すればよい。貴様の連れてきた羊は、すでに殺した」
「できれば!ですかね!!」
言う通りだ。
(また不利な接近戦。さきほどと違うのは、彼女が武器を手にしていること)
・・・・剣である。
あれも護獣が携えていたのだろう。どちらにせよ、あと10秒弱。耐えきれば私の勝ちだ。
「炎魔法:インセレ――――ッ!」
「〜〜〜〜〜!!!!??」
その見積もりは、甘かった。男の左手足が、流れる剣技によって切り離される。
(ッ!)
「だが、魔人なら・・・・!欠損部位も、再生できる!」
「ならば首を切るまで、です!」
(もうひとつ!もうひとつ浴びせれば、絶対に勝てる!)
当たり前だが、魔力を使ってしまったこの状況で、つぎをいなすのは不可能。であれば、このまま相手の魔力を再生に回し、削り続けるしかない!
「炎魔法:トレイニ!」
(まずは、その右手も落とす!)
』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《』『》《
(――――!)
「ッア゛ア゛!!・・・・ハアハア、いい剣技だ。ガフッ・・・・!!ゲホ、俺の右肺を切り裂いた・・・・そして、お前の負けだ」
「まさか――――!」
(左半身が、再生していない)
ここで、マニエッタは致命的なミスに気がついた。再生に魔力を割いていないということは、男は全力の魔法に余力を残している。
「――――風魔法:ルクシアルセガ!!」
終焉の魔力が、周囲に発せられた。回復途中の傷が痛む。同時に、過去の思い出が頭によぎった。"死"とは、こういうことなのだろう。なぜ、私はいまここで死ぬのか?
私は、なぜ王国軍の兵士として、戦っているのだろうか?
*第二十六話に続く




