+++第二十一話:ふたつの戦局!奇想天外、ヤーマ・テラーリオの戦闘
セシル・ハルガダナの父親は生前、集落の村長を務めていた。彼は無口な人間だったが、人望も厚かった。なにか問題が起これば、誰からでも頼りにされる。そして、つねに的確な指示を出す。彼は、幼いセシルにとって憧れであった。
”
「それは無理だ。お前はリーダーには向かない」
「え?」
「リーダーとは、つねに人を見て、誰にでも納得できるような判断を迅速にくださなくてはならない。セシル、お前にその才能はない」
「父さん・・・・」
「与えられた運命に沿って慎ましく暮らすんだ。幸い、お前には魔法の力がある」
”
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・
「水魔法:エーラ=スネイク!」
「————!」
流水による巨大な蛇型が、魔人族を飲み込んだ。もちろんこれは俺の魔法ではない。
「ハルガダナ君!後ろ、あなたはそっちに集中して!」
「――――ッ!氷魔法:テラバイト!」
こちらは氷で、すっかり魔獣の動きを封じる。危なかった。加勢がなければ、俺もおばあさんもやられていただろう。
「はあ、はあ・・・・」
「大丈夫ですか?」
「はい、助かりました」
彼女は、俺とは比べものにならない。状況判断、魔法選択、指示。そのすべてが完璧であった。
(明らかに俺と違う、リーダーの才)
エルシア・フェーラルスは老人を避難させると、今度はこちらを気遣った。
「はじめて見たけど、氷ってすごい魔法ですね」
「すみません。とっさに全身固めてしまいましたので、情報は得られなくなってしまいました」
「あ、ぜんぜん・・・・責めているわけじゃないんですよ?」
(そうとしか聞こえなかった)
対して、彼女の水魔法は襲撃者を拘束している。魔法を解けば、すぐにでも話が聞けるだろう。
「途中で変な魔力を感じて・・・・一応戻って来て良かった。遺跡には二人も太極位がいるから、私たちはここで待機しましょう」
「・・・・・・・・わかりました」
彼女の判断通り、施設に戻り薄暗い廊下を歩く。このさきで、とらえた魔人族を尋問するようだ。
「えっと、ハルガダナ君?」
「・・・・。はい?」
「えっと、大丈夫ですか?ぼーっとしていたので」
「あ・・・・すみません、問題ないです」
失敗ばかりだ。勇ん参加したはいいものの、俺はこの作戦でなにも役に立っていないじゃないか。
”
「そうだ、わかっただろう?お前の行動は害しか生まない。お前はなにも考えなくていい。ただ、俺の指示通りに動くことを考えろ」
”
(俺なら、リスクを考えて一度奴の意識を奪っておくが)
それもこれも、俺には才能がないから駄目だ。中将位の判断が優先・・・・だって、彼女は完ぺきじゃないか。俺は、彼女の才能に嫉妬していたのだ。得意分野でもさきを行かれ、自分にないものも持ち合わせている。理想的な存在に。
だからこそ、彼女の魔法から目が離せなかったし、その”異変”にもすぐ気が付くことができた。
「魔法が・・・・崩れてる」
いやしかし、中将位のことだからなにか意図があってのことだろう。俺はとくに言わなかったが、横の彼女がわかりやすく動揺していくのがわかった。
「なんで・・・・?魔法が維持できない。魔力がうまく扱えない」
顔色がみるみる青ざめていき、横顔を汗が伝わるのが見える。
<バシャッ>
ついに水塊はその原型を完全に崩した。魔人族の男が解放される、と同時にこちらに向けてスピードを上げた。
(これは、まずいんじゃ・・・・)
「危ないんじゃないか⁉」
「きゃあ!」
咄嗟の判断で彼女を押し倒すと、俺の背中には本日二度目の攻撃が降りかかる。今度は刃のように長い爪が、深い切り傷を形成した。
「ケシシシ・・・・」
「させるかよ!」
不気味な声を上げ、ほほ笑む男はつづけて魔力を解放した。それは正反対から俺が繰り出した魔法とぶつかり合い、エネルギーの放出を起こす。
(————ッ)
セシルは目の前がフラッシュで、白く染まるのを感じた。
・
・
場所は変わり――――シルレ遺跡内部。
「うーん、まるで迷路。二手に分かれて、しらみつぶしに探すしかないね。エルシアがいればもっと楽だったのになあ」
「彼女の判断であれば、私は尊重します。まあ、そもそもあなたと一緒に行く必要もないので、いいじゃないですか。では、お達者で」
そう言い残すと、なんの心残りもない様子でマニエッタは一番右の道へ進んだ。
「ふう・・・・じゃ、私も行きますか。どれにしようか、な!うーん、左か」
テラーリオが進んだのは、左から二つ目の一番細い道であった。暗い通路だが、奥には光が見える。ダンジョンや遺跡にはよくあることで、魔力が湧き出る源泉では、そのエネルギーが光エネルギーに変換されているようだ。
「よっ!到着————でも、なにもなさそうだねえ」
苔の生えたアンティークな石壁に囲まれて、景色はさきほどとまったく変わらない。開けた空間ではあるが、さきに続く道はない。
「あるのは祭壇のようなものと、石柱くらいか?」
その刹那。
「————はッ‼なんだ、雑魚か‼」
「うん――――?」
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〈ズガ――――ッ‼‼‼〉
加速したテラーリオの身体がぶつかると、石塊は音を立ててばらばらに崩れた。
「俺はしっかりと出してたぜ?おぞましく強い、魔人族の魔力をな!それに気が付かないのなら、話にならん。ベルセベルデ様の言いつけ通り、侵入者は排除するが、こうも噛み応えがないとつまらない」
男の風貌は鳥に近い。もちろん、鋭い牙を生やし、褐色で赤色の外見は"魔"を感じさせる。
「――――きみはあれだな、ポケモンのオノノクスに似ている」
「!?」
「あれ、知ってる?ポケモンって、王都で爆発的に流行ってるんだよね」
「お前、なぜ生きて・・・・いや、傷ひとつないんだ?」
「ごめんねえ、もっと強力な敵を予想してたから。後回しにしちゃった」
「強力??はは。お前、所詮は人間族だろう?俺が生まれて百数十年。王国軍大将位とは、4度敵としてぶつかった。どうなったと思う?」
「さあね。百年前のことなんて、私にわかるわけないでしょ」
「カカカ!怖くなってきたか。いいだろう、4度ともだ。どれも俺が殺し、勝利した」
「・・・・へえ」
テラーリオは奥深い表情でそうつぶやく。すると魔人族は、一層の魔力を放出して威嚇した。
(なぜだ?この女、なぜ怯まない)
「王国軍大将位といえば、王国最高の戦力だろう?つまり人間族の軍隊など、数だけの寄せ集めに過ぎないということだ」
「うーん、正直私にとっては他人だからね。どうでもいいんだけどさ・・・・最高の戦力というのは正しいだろうね。終極位や太極位となると、母数がすくなくて自由に動かせないから」
「終極――――?なんの話だ?」
「へえ、知らないの。ちなみに私は大将位のひとつ上、王国軍太極位だよ。元!だけどね!!」
「――――ッ!?」
(速い!!!!!!!!!!)
と言うよりも、消えた!?身体強化魔法を使っているとはいえ、この速度はなんだ!?
驚愕した様子の魔人族。その顔面に、強力な一撃が届いた。
「ドゥベシ――――ッ!!!?????」
彼女の攻撃で男の体が吹き飛ぶ。それは後方の石塊を貫通し、石壁をも破壊した。最初の攻撃の、数倍規模で粉塵と破片が飛び散る。
「ゼエ、ゼエ・・・・どうなっている」
(この人間族。魔力操作と純粋な身体能力、どちらをとっても一級品)
「なるほど、嘘を言っていたわけではないということだな」
「その、とおり」
「いつの間に!!!???」
「そりゃ、さっきだよ」
(この男、いまの攻撃でも無事なのか)
警戒していた魔人族の背後に回り込み、テラーリオはまた思考した。もともとこの場で殺すつもりはないけど、実力はたしかだねえ。
「黙って捕まってくんない?」
「そんなことできるわけがないだろう!!」
「えー、こっちに付けば最低限の待遇は保証するよ?三食付き、部屋も寒くない」
「ばかばかしい!」
誘惑に負けることなく、魔人族は魔法の連撃を浴びせる。しかし、テラーリオはそのすべてをかわすのである。
「ベルセベルデってのは、そんなに尊敬されてんのかね」
「なぜだ、なぜ当たらない!!??」
「なぜって、雑魚魔法闇雲に打っても、感知されて終わりでしょ。まあ、たとえ当たったとしても、どうなると思う?」
そう前置きをしたあと、彼女に炎魔法が直撃した。動きを見せず、あえて当たったとも考えられるが・・・・現場は煙が立ちこめ、とても無事とは思えない。
「フイヤッホーッ!どうだ、調子に乗っているからこうなるんだよ」
「うーんと、さ」
「――――!!」
「こうなるんだ。効かないんだよね、きみの魔法程度じゃ」
「はあ!?これで何度目だ!?なぜ攻撃が効かない!?」
「魔力壁。私は、体の周りに何重もの壁を張っている。それに防がれてんだよ」
(なにを?)
「つねにだと?それにはとてつもない魔力量が必要なはず。人間族の貴様にそんなことできるはずがない!」
「信じる信じないは別。とにかくこのままじゃ、私に傷ひとつつけられないぜ?」
その言葉で、テラーリオが意図したのは"勧告"。投降しろ。私には勝てない、と。
しかし、目の前の魔人族は違うふうにとらえた。彼のプライド。百十数年を生きてきた、優れた種族としての感覚が、男を駆り立てる。
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「のぼせ上がるなよ人間族風情が!!!!!!魔法で、俺に勝てるわけがないだろう!!!!!!」
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額の血管が、いくつか切れてしまっているだろう。男は怒声を上げると、ため込んだ巨大な魔力を放出した。
「うおっ、と!」
(すこしたまげたね、これは)
お相手も馬鹿ではないらしい。彼は会話の最中も、体内で魔力を合成しつづけていたのだ。たしかに、これは人間族に出来る芸当じゃないねえ。
「牙刃魔法:ゼッダノウ!!!!」
魔法が展開されると、テラーリオを巨大な刃が取り囲んだ。それらはつねに動きつづけ、彼女の動きを封じる。
(危険度はかなり高い。これでは並の人間族は対抗できないだろう)
人間族は、敵と比較して魔力量が劣る場合も多い。王国軍では、そのような場合の対処法をネチネチと叩き込まれたものだ。と、考えつつ。テラーリオは自身を中心に、巨大な風圧を発生させた。それは爆発的な威力を持ち、牙刃を周囲の壁まで吹き飛ばした。一瞬の出来事である。
「風魔法:リラ=テンペスト」
「は・・・・?」
(どういうことだ?俺はもう魔力を残していないぞ)
「つまり、大切なのは魔力効率ってことだね。魔力量はほぼ同じだろう。でも私は、きみの1/10の魔力で同規模の魔法が生成できる」
「あ、ああ・・・・そんな」
「観念したかな?さあ、こっちに来たまえ」
「やめ、やめてください!ベルセベルデ様ッ!」
「――――?」
男の顔が引きつるが、それは勝負に敗北したということよりも、ほかのことが原因に思える。
「ッ!きみ、そこを動かないで!」
(補助魔法――――)
テラーリオは急いで準備するが、もはや間に合わなかった。男は吐血し、地面に倒れ込む。
「許して、お許しを・・・・!ベルセ、ベル、デ、、、様、、、、、、」
「〜〜〜〜!」
(やらかした)
もはや、魔人族に息はない。私は重要参考人を、みすみす死なせてしまったらしい。
「最善は尽くしたはずだけどね」
実力の差を見せつけてもなお、向かってくる敵。王都の事件から、男が自爆する可能性が考えられた。なのでせめて、魔力を空にしてから確保するというプランは成功していた。
「ベルセベルデ・・・・」
奴はそれも見越し、残ったわずかな魔力でも発動する、自死の魔法を組み込んでいたのだろう。
「・・・・・・・・まあ、しょうがないか。おそらく死体に魔力因子くらいは残ってる。それに、セシルたちの状況も把握しないとね」
一戦目は私の負けかもしれない。素直にそう判断すると、テラーリオは扉に向かって歩いた。
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