+++第十九話:討伐作戦開始。第43部隊隊長:エルシア・フェーラルス
「いまのうちに説明しておく」
テラーリオはそう言って、馬車の先頭から顔を出した。王都を出発してから4時間ほど。彼女はまず、目的の町【シルレ】まであと1時間だと語った。
「今回の作戦に参加するのは、私ときみを含め四人」
「え?四人??」
「んあ、不満かね?」
「い、いや・・・・ただ、もっと大規模な作戦になると思ってました」
「セシルよ、作戦の規模は人数だけで決まるわけじゃないさ。とくに今回は標的が人間で、気づかれないような少人数行動が求められる」
「な、なるほど」
「そう。そして軍としては不本意だろうが、指揮権は私に頼るしかなかった。大陸中を行き来している私ほど、怪しい場所の目星がつく者はいないからね」
「すべて計画通りってことですか・・・・で、残りの二人はだれなんです?」
「人選も私に一任されているからね。もちろん私の信頼できる者たちだよ。一人目は――――」
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・
「———―おーい。こっちですよ、こっち」
シルレに到着後は、テラーリオの案内に従って歩く。しばらくしてスラっとスタイルの良い女性が、こちらに向かって合図を出しているのがわかった。おそらくあれが、一人目のメンバーである。
「マニエッタ、久しぶりだねぇ」
その証拠に、合流後テラーリオは笑顔で語り掛ける。【ラナ・マニエッタ】王国軍太極位。彼女は美しい顔立ちに、笑顔を貼り付けている。が、しかし・・・・。
「久しぶり~、じゃないですよ。いきなり本部から連絡があったと思えば、500キロ離れた場所で作戦?それも翌日??ふざけてます~?ヤーマ・テラーリオさん」
「いやあ、ごめんごめん。マニエッタが南西に拠点を構えているのは知ってたから、いけるかなって」
「はああ?南西って、アバウトすぎますねよえ?あまつさえ、定刻通りに来た私を待たせるとか・・・・普通に、殺しますよ?ヤーマ・テラーリオ、さん!」
「・・・・」
どうやら歓迎というわけではないらしい。
「あなたとは多少縁があるので、協力はしますが・・・・ただ、それだけです。
だいたい、この青年は?まだ若いようですね」
「彼はセシル・ハルガダナ。この間、私の部隊に来たんだ。まあ、きみには彼に、いろいろ教えてあげてほしくてね」
「ハルガダナ・・・・ああ、なるほど。あなたが接敵したという兵士ですか」
こちらを一瞥し、ふたたび優しい笑顔を見せる。
「よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彼女の上品でにこやかな雰囲気は、親しみやすさを感じさせる。太極位という立場にあるものとして、テラーリオとは対照的な人物かもしれない。
「・・・・それにしても、もう一人が現れませんね。この班は遅刻が許されているのでしょうか?ヤーマ・テラーリオさん?」
「う~ん、そんなつもりはないよ・・・・あ!ほら、来た来た!」
彼女が指さした方角からは、セミロングの少女が足早に現れる。彼女もまた整った顔立ちで、周囲の注目をさらう。そして澄んだ瞳をしたと、青みがかったセミロングはあのときのまま。【エルシア・フェーラルス】中将位は、申し訳なさそうに口を開いた。
「す、すみません。昨日指示を受けて、任務地から全速力で来たんですが・・・・」
「大丈夫、気にしてないですよ。あの人の無茶苦茶に、振り回されているのでしょうから。ほら、息を整えてください」
「ありがとうございます、マニエッタさん」
太極位は、彼女もまた700キロの大移動をしてきたと知ると、厳しい視線でテラーリオに圧をかけた。
そんななか、フェーラルス中将位はすこし急いだように顔を挙げる。
「挨拶が遅れちゃったけど、私はエルシア・フェーラルスです。セシル・ハルガダナ君、これからよろしくお願いします」
「は、はい。むしろそれは俺のセリフですよ」
俺は中将位のかしこまった態度に、多少困惑する。しかし、実際はこれが普通なのだと気づく。同じ部隊の三人が変だっただけで、見ず知らずの人間に対して、警戒する気持ちは自然だ。
「――――よっしゃ!じゃあ親睦を深める意味で、ゲームでもしようか」
「はい?」
「ゲーム、ですか?」
微妙な空気を察してだろう。テラーリオは、また突拍子も無いことを言い出した。
「このタイミングで?急いでるのでは?」
「まあまあ、セシル。これから任務をともにするんだ。お互いのことを知っておくのも重要さ」
「一理はあるが・・・・」
「形式はクイズ。問題はそうだな、自然科学から出すことにする。歴史や政治関連だとフェアじゃないしね」
(自然科学?クイズってことは、競うってことだろ?)
「ちょっと待て、自然科学は俺の得意分野だ。それこそフェアじゃないように思える」
「はは、大丈夫だよね?エルシア」
「まあ、そこに問題はないけど・・・・そもそもこんなのいきなり過ぎ・・・・」
「————さあ!第一問‼」
「おい、強引すぎるだろ!?」
『3の4乗×8の5乗は?』
どうやら、なにがなんでもやるらしい。まずは計算問題、答えは————。
(32,849)
「32,849」
「・・・・あれ?」
俺が脳内で答えを出したのとほぼ同じタイミングで、フェーラルス中将位はそれを口にした。彼女はいたってまじめな表情で、さきほどまでの戸惑った感じとは対照的だ。
「エルシア正解!1ポイントね?セシルもほら、ちゃんとやらないと負けちゃうぞ~?」
「はあ」
『第二問!気温摂氏0度・天候快晴の条件下で、炎魔法:ミラ=フレイムの発動時間を答えよ。その際、ランゲニック指数を用いて計算すること』
第二問はランゲニック実験について。もっとも基本的な炎魔法を、平均的な技量を持つ兵士がいったい何秒で発動できるか計測した実験だ。計算のためには、気温・天候の条件に沿った”ランゲニック係数”を把握していなくてはならない。まあ、まじめに答えるか。
「「0.7163秒」」
(まじで?)
またしても回答が被った。どうやら彼女は豊富な知識を持っているらしい。
『じゃあ第三問・・・・質量mの小球が、半径Rの滑らかな球面の上を滑っている』とき・・・・答えは・・・・』
「「48度」」
「おおすごい。また一緒だねえ」
(・・・・)
「どんどん出してください。つぎはもっと難しくても構いません」
「おお、セシルもやる気が出たみたいだね。第四問は――――」
「————はいはい、そこまでにしてくださーい」
どこまでの続いていきそうなレクリエーションを、マニエッタ太極位はたまらず制止した。
「ほら、ハルガダナ君はこっち。私と聞き込みに行きますよ〜?」
「あ、ちょ!」
「お二人はそちらから、別で情報収集をお願いします」
そう指示を出すと、俺を引っ張りながら街の方へ進んだ。
「あとちょっとで、勝てそうだったんですけどね」
「あれ?ハルガダナ君、負けてませんでした?」
「それは、そうですが。もうすこし難易度が高ければ俺のほうが速いはずです」
「ははー、そうですかー。あいにく私は、まったく興味がなくてですね。どうでもいいですが目的を忘れないでください?私たちはなにをしに来たんでしたっけ?」
「――――!」
ここで、俺の右肩がミシッと音を立てた。背の高い彼女なら、俺を相手にそうすることも可能。ようやく、彼女の表情が作り笑いであることに気がついた。これ以上言えば、俺の肩骨は太極位の手で粉砕されるだろう。
「も、もちろん。ベルセベルデの討伐です。一刻を争うので、急ぎましょう」
「そうですね、早くしないと逃げられてしまいますね。遊んでいる暇はないのです」
「・・・・はい」
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・
「あーあ、マニエッタ太極位怒ってたよ?それに、ハルガダナ君がかわいそう。なんであんなことしたの?自信を無くしちゃうんじゃないかな」
「ん~?どっちも心配いらないよ。叶うなら、セシルには完璧に負けてほしかったけどね」
(・・・・?)
「どういうこと?さっきのこと、私は事前に知らされていたよね?あんな茶番に、なにか意味があるの?」
「はは、いい子ぶってるけど・・・・きみも本気だったじゃん」
「それは!負けたくなかっただけで・・・・!」
図星を突かれると、彼女はすこし怒ったように表情を変えた。
「それから、私がきみに伝えていたのは、自然科学の勉強をしておくと良い、ってことだけだ。そこからはきみの努力の問題。よくもまあ、一ヶ月であそこまで突き詰めたね」
「いずれにしても、意図がわからないよ」
「意図、ね。つまりきみたちには、仲良くしてほしいんだ。天才型のセシルと努力型のエルシアは、わかり合うのが難しいかもしれない。でもリーダーである以上、最初にある程度上下関係を示しておくべきだ」
「・・・・それで、嫌われたら元も子もないんじゃないかな」
「うーん。てか、エルシアはどうするの?きみはセシルを部隊に加入させるのに反対だったよね?
じゃあ、嫌われてもいいんじゃない?」
また、この人は小馬鹿にするような表情をこちらに向けた。しかし、言っていることが的確である以上、無碍にもできない。そう、エルシア・フェーラルスは、セシル・ハルガダナの加入に反対である。
「そうは言っても、最終決定権はテラーリオにあるでしょう?私が反対しようが、変わらないじゃない!」
「そっか〜」
そうして、多少なにかを考えたのか、数秒後にテラーリオはふたたび口を開いた。
「じゃあ今回はきみに任せるよ。エルシア、セシルと関わったうえで、部隊に不要だと判断したなら・・・・私はそれに賛成しよう」
「――――!!本当、ですか?」
「ああ。二言はない」
フェーラルスは、表情からテラーリオが本気であると悟る。彼女は適当な部分もあるが、根本では一貫している。
「わかりました。この作戦が終わるまでに、結論を出します」
こうして・・・・討伐作戦の裏側では、第43部隊に関する重要な判断が下されようとしていた。
*第二十話に続く




