表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

+++第十五・一話:私たち、幼馴染だよね?

 ヘルル・ガノーシャが茜莊に戻った。セシル・ハルガダナをくわえた新生第43部隊は、エルシア・フェーラルスの帰還を待つのみである。

 

 午前10時。

 この日は喫茶店での仕事はない。手持無沙汰となったセシルは、なんとなく一階のリビングに腰かけていた。最近は動いてばかりだったが、いざ暇な時間ができると困ってしまう。

 しばらくぼーっとしていると、二階から古い木材のこすれる音が響く。誰か起きた――――意識せずともそうわかってしまうほどに、この建物は古いのだろう。

 

 「・・・・おはよ」

 「お、おはよう」

 

 つい昨日、顔を合わせたばかりの少女と目を合わせる。寝起きだというのに、彼女の髪はしっかりと整えられ・・・・表情もどこかご機嫌に見える。

 よかった。昨日の第一印象は、あまり気持ちいいものではなかっただろうから。そわそわしながらも、俺の隣に座ったヘルル・ガノーシャに俺は安堵を得る。

 

 「――――紅茶、淹れようか⁇」

 「ありがと」

 彼女から好意的な返事を得ると、俺はおもむろに椅子を引いて立ち上がる。視線に多少緊張しつつも、手順を間違えることなく完成させた。

 

 「・・・・お待たせ」

 絶え間なく湯気を上げながら、まずは心地よい香りが二人に届く。

 

 (・・・・)

 自分のコーヒーは、すでに冷たくなってしまっている。紅茶はあまり得意ではないが、この香りが興味をそそるのもまた事実だ。

 種類は関係なく、やはり淹れたては格別なのだろう。

 

 (さて――――)

 これ以上は会話も続かないだろう。そう判断すると、俺は棚の学術書に手を伸ばした。

 

 (等速直線運動と、運動エネルギーに関する相関――――力学書、か)

 ガノーシャはセシルの横顔と、そのさきにある書物を垣間見る。

 変わらない、やはりセシル・ハルガダナ君だ。あの頃も、小難しい内容の本をよく見てたっけ・・・・わざわざ山を下りて、可愛くなにをねだっているのかと思えばそれだもんね。

 いつのまにかじっと見つめる視線にさえ、気づいてもいないだろう。それも、まるであの頃のまんまじゃない?

 

 (だからこそ・・・・)

 まじで・・・・なんで気づかないわけ⁇一日たったガノーシャの表情は、ほぼほぼにあきれ顔に代わっている。

 まあ、あんたにとってはその程度の思い出だったってことか。しばらくして、ため息をつくように思わず口を開く。

 

 「—―――それ、もしかして学術院関連で読んでる?」

 「・・・・?

 いや、ただたんに、おもしろそうだと思っただけだけど」

 「そう・・・・ちなみに今度王立の研究機関が、”真空環境での魔法”を実証実験するそうよ」

 「――――‼まじか‼」

 

 やっとこちらを向いて、子どものようにわかりやすく声調を上げる。懐かしさに心躍らせると、彼女の口角は自然と上がっていた。

 「まじ。ちなみに、それはかなり古いエディションだから――――加速度については、新しい定理が出ているわ」

 「・・・・!」

 

 (なんだ・・・・)

 チェスのこともそうだ。せっかく王都に来たっていうのに、小難しい話ができる相手がいなかった。

 

 「めっちゃ話し合うじゃん!」

 「そ、そうね・・・・まあ、なんでも聞くといいわ」

 

 胸を高ぶらせるセシル。一方のガノーシャも、十年前とは逆転した立場に自慢げである。二人は旧知の仲のように打ち解けあい・・・・嘘のように会話も弾みだした。

 

 (――――あれ?)

 セシルはその時間に、既知感を覚えた。

 彼の興味は少し変わっている。もともと人口が極端に少ない地域の育ちということもあるが・・・・それゆえ同世代と、こういった会話をした記憶はあまりないのだ。

 

 (いたっけな、昔――――)

 同じような感覚を共有できた女の子。

 

 「・・・・?なあ、ガノーシャってどこの出身なんだ⁇」

 「――――ッ!」

 

 (気づいてほしい)

 そう思っていたとはいえ、突然の状況に彼女は困惑する。寝起きでまだ白かった肌は、すっかり健康的に紅潮した。

 

 「えっと、それは――――」

 核心に迫る回答。結果的に、彼女の心が緊張し、少しそれを戸惑ったことで・・・・状況はまた振り出しに戻るのだった。

 

 「―――――――ふあああああ。おはよう、二人とも」

 

 「「―――――――‼‼‼」」

 やましいことがあるわけではない。

 しかし二階から降りてきたノセアダの姿を見ると、二人はとっさに距離を取った。

 

 (あれ、なんでだ・・・・⁇)

 

 「うんうん、ふたりとも仲良くなれてよかったよ」

 そう言うと、彼女は目の前の席に座り、あくびをしながら手を挙げた。

 

 「セシル君、ごはんお願いしますっ!」

 (まったく・・・・)

 「もう昼が近いんだ、自分でやってくれ」

 「え~~〜~」

 

 思い通りに行かなかったノセアダは、頬を膨らませ、足をばたつかせる。

 (痛てっ・・・・まったく、子どもかよ)

 

 「――――だいたい、今日は会議じゃなかったか⁇」

 「ギクッ――――――――いや、あはは。なんていうか、私が居ても変わらないしねえ。いっかなぁって・・・・」

 

 (仕事だろ・・・・)

 「・・・・。あーッ‼セシル君いま、私をろくでなしって思ったでしょ!きみは大切なお姉ちゃんに、お堅いおじさんたちにいじめられに行けっていうのかな⁉」

 「ああ、悪かったよ・・・・」

 

 俺が軽くあしらうと、彼女は恨めしそうに立ち上がりシンクに向かう。

 「――――段ボール」

 「それはやめてくれ・・・・」

 

 (――――はは、段ボールね)

 ガノーシャも、セシルの話は昨日だいたい聞いている。あらためて、人間を郵便で送る”自分の上司”の無茶苦茶さを思い知ったわけだが。

 

 「でも、それはあんたも変わらないんじゃない?王国軍に狙われてるのをわかってて、戻ってくるなんてさ」

 「・・・・」

 (まあそれに関しては、たしかに考えが足りていなかった)

 

 「だけどな、お前ら俺を馬鹿みたいに言うが。まったくの考えなしにやったわけじゃない。もしかしたら、頭の隅ではそう思ったんだよ」

 「・・・・どういうこと?」

 

 ソースをかけたパンを片手に、戻ってきたノセアダは彼に問う。もしかしたら、彼女に備わるセンサーのようなものが発動したのかもしれない。

 ここから、セシルは興味深い昔話を始めた。

 

 「――――居たんだよなあ。俺が小さいころに、頭が良くて、可愛い女の子が。負けず嫌いで、チェスで負ければいつも大泣きするような子だったんだが・・・・誰よりも優しかった」

 「・・・・ふう~ん、それでそれで?」

 

 頬杖を突きながら、にやにやと俺の顔をのぞき込む。ここでセシルは、自分がからかいの対象となっていることに気が付いた。彼は純粋に思い出を語っていたが、ここの住人にとってはゴシップに違いない。

 

 「たいしたことない。そいつは結局王都に引っ越して、いつの間にか疎遠になったんだ。はい、終わりー」

 「へええ~、じゃあセシル君は、その子が助けに来てくれるんじゃないかって。そんな淡い気持ちをもってたんだねぇ・・・・くぅ、可愛いじゃんんん!」

 

 (こうなると思った)

 「――――ねえねえ、もっとお姉ちゃんに話聞かせてみ⁇」

 「やだね、俺はもう部屋に戻る。ガノーシャ、俺の分のカップも洗っておいてくれ――――――って―――――なんだよ、ぼーっとして?」

 「――――え?」

 二人の視線で我に帰される。

 

 「もしかして、体調悪い?」

 ノセアダの心配の声・・・・しかしうまく否定ができない。

 口角が上がっちゃって、どうしよ、表情が上手く作れない~。

 

 「・・・・。大丈夫、そうだね」

 ノセアダは変顔のような感じになったガノーシャを見て、逆に心配になりながらもそう言った。

 「――――ッ‼あ、えっと!私、とりあえずこれ洗ってくるからっ‼」

 (結構、うれしいや――――)

 そっか、セシル君も覚えてたんだ。あんたの言ってる女の子は、すぐ近くにいるわよ?

 いつか会えるといいわね。

 

 「ふふっ」

 よし、また明日頑張るぞーーーーっ!

 

 

 *第十六話に続く

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ