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+++第十話:王国の異端者、ヤーマ・テラーリオ

 「――――聞いたか?例の奴が捕まったらしい」

 「あー、あいつな。なんでも、逃げ切れないと思って自分から姿を現したって」

 

 「知ってる!

 その人、獣人・・・・それも小さな女の子に恋をした異常性欲者らしいわよ」

 「まじか!気持ち悪りぃ、死罪だよ死罪。間違いない」

 「人間の恥ね―――――――――」


 ・

 ・


 「――――って、感じで。もうボロクソだよ、お前。どうだ?みんなに嫌われながら、ただ死ぬのを待つ感覚っていうのは?」

 「そうだな・・・・あえて言うなら悪くないよ。なにもしなくても三食毎日くるし、牢屋って言ってもなかなかきれいだ。なにより、温かいからさ」

 「うぇぇ・・・・なんだよつまんない。もっと苦しめよ」

 

 「それに俺は、まだ死ぬとは思ってないし」

 「バーーーーカ!!お前は死ぬ、殺されるんだよ!死罪確定、何回も言ってんだろ!?」

 

 「はあ・・・・。っていうかあんた、俺の監視係ですよね?なにがなんでも当たり強くないですか??」

 「当たり前だあ⁉僕はあの日地獄を見た、お前のせいだ!!」

 

 「・・・・?」

 「これを見ろ!セシル・ハルガダナ!!お前にやられた左腕は、もう完全には治らない」

 

 そう言って金髪の男【ジョージ・クルークス】は、俺を拘束する鉄格子に近づいた。

 「ああ・・・・クルークスさん、あのときいたんですか」

 「今更気づいたのかよ⁉もう一週間立つぞ⁉⁉」

 

 気づいたっていうか。正直、まったく覚えてないとは口が裂けても言えなようだ。あのときは必死だったから、仕方がないと許しを請うか?

 「いや。そうだな、あのときのことは、一ミリも申し訳ないなんて思わない。あんたらのやったことに比べれば、軽いもんだろ」

 

 「―――――殺す!!」

 興奮してこちらを睨む彼だが、もちろんそんなこと出来やしないことはわかってる。


 「まあ、仲良くしようぜ。話し相手がいないと退屈なんですよ」

 「ふん!誰が」

 

 「別に、どうせ死ぬ運命ならいいだろ?今日の夕飯はなんですか?毎食、食べたことないものばかりで楽しいんだよな」

 「知るか!!」

 

 会話のなかで落ち着き直し、席に戻ったクルークスは新聞を広げた。俺と話しても時間の無駄だと判断したのかもしれない。

 

 (・・・・?)

 すると、俺の視界に人影が写った。地下牢の左端、地上とつながる部分である。セミロングの黒髪を揺らしながら階段を降りきると、女性は牢屋のセシル・ハルガダナに目を向けた。

 

 「なあんだ、元気そうじゃないか」

 大人びた風格で色気をまとう彼女は、淡々とそう呟くと少しだけ笑みをこぼした。

 「はあ!?あんた、何者だ??ここは関係者以外立ち入り禁止で――――!!!?」

 「――――青年!!」

 

 都合の悪いことを言いかけたクルークスに対して、彼女は<ずいっ>と顔を近づける。

 「うわ!!な、なんだよ⁉」

 柔らかな香水の香りと、つやのある唇が一気に近づくが・・・・ここで惑わされてはいけない。彼は監視役として、いま一度心構えを作った。


 「・・・・ふむ。その態度、おかしいな。きみは私を知らないのか?」

 「え、ええ?」

 侵入者の思いがけない発言に、困惑する。今日この時間に、セシル・ハルガダナとの接見予定などはないはずだが。

 

 「この顔に見覚えは?」

 「あ、ええと・・・・ですね」

 (やめろ、そう言われると心配になる)

 

 「私はヤーマ・テラーリオと言うが・・・・かさねて、本当に覚えはないか??」

 クルークスの葛藤をよそに女性は、見間違いでなければどこか楽しそうに尋問を続けた。

 

 (あーあ、これじゃ立場が逆だろう)

 ま、俺はどっちでもいいか。どうせ、いたずらかなにかだろう。だいぶ嫌われてるようだしな。

 

 「ほら、どうなんだね⁉」 

 「――――!!そう言えば、その名前聞いたことがあるような⁉」

 「そうだ、それだよ!私はその――――ヤーマ・テラーリオ!では、きみは少し席を外しなさい。私は彼と話がある」

 「は――――!了解しました!!」

 

 どうやら決着がついたらしい。慌ただしく階段を駆け上がるクルークスを尻目に、女性は椅子を引きずって俺の前に現れた。

 「よ、いしょっと・・・・。ははは、見た?あ、ほ。」

 テラーリオと名乗った彼女は後方を指さして、勝ち誇ったような笑顔を見せる。

 

 「・・・・何者です?あなた」

 子どもっぽくからかうような仕草だが、女性にはやはり何処か大人びて落ち着いた雰囲気も感じる。

 

 「くわえてこんな場所に、いったいなんの――――――」

 「――――ちょっと、待った!」

 「はい?」

 

 「話す前に教えておこう。第43部隊の掟についてだ」

 「はあ?第43部隊?いったい、なんの話ですか」

 「ああ、だから待ちなって。女の話を聞けない男はモテないんだよ」

 

 「・・・・」

 「うん、なかなか聞き分けの良い」

 頬杖を突きながら俺の顔を眺め、歯を見せ満面の笑顔を作る。

 

 「じゃあ始めよう。まず一つ目、無断外泊は禁止とする。理由は、なにかあったとき面倒くさいから」

 

 (なんの話だよ・・・・)

 ガキの世話か、なにかの話か⁇いずれにせよ、いまの状況とはなんの関係もないはずだ。

 

 「二つ目に、私の前でエガルットゥは食べないこと。理由は、臭いから」

 「なんで!!エガルットゥうまいだろ!?」

 

 「理由を話したでしょ?そして三つ目だ・・・私をおばさんと呼ばないこと。理由はうざいから」

 (もう、意味がわからん)

 

 途中、思わずこちらもツッコミを入れてしまった。しかし、またとんでもない狂人が来てしまった。これは、さっきクルークスさんの味方をしておいたほうが良かったらしい。こちらの冷ややかな視線も気にせず、女性はなぜか自慢げに話を進める。

 

 「後はなにしてもいいんだよ。お酒を飲もうが、風呂場で歌おうが、第43部隊では全部自由。そう。私は亜人族を助けたって、なにも言わない」

 「あー、はいはい。たぶんもうすぐ警備が戻るんで、それまでおとなしくしておいてくださいよ?」

 (・・・・??)

 「ん・・・・‼⁇」

 

 半ば聞き流していたが、彼女はいま、重要なことを言ったような気がする。目を見開き、俺は顔を上げてふたたび彼女の方を見た。

 

 「あ、もちろんだけど、法律とか社会的責任のことは知らないよ?その場合、なにかあっても正当な理由がなかったら私は助けないからね〜」 

 この人・・・・ふざけているようで、真剣な感じもある。わざわざ俺に話に来たのは、ガラムバトでの出来事についてだろうか?

 「いったい、なにが言いたいんですか?そもそもまず、あなたは誰なのか教えてくださいよ」

 「私は、【ヤーマ・テラーリオ】。元王国軍太極位で、いまは第43部隊を指揮してる。非公式だけどね。まあ――――つまりさ、そう。きみをスカウトしに来たのよ」

 相変わらず無茶苦茶だが、状況を知ったような口ぶり。これは真剣に相手をした方がいい。そう本能が告げてくる。

 

 「スカウト・・・・その、43部隊にですか?」

 「その通り、正式名称:王国軍直下第43特殊部隊は、人間族と亜人族の調和を模索するため部隊だ」

 (調和⁇)

 

 「さっきからあなたは、仮にも王国軍関係者が亜人を助けるだなんだって、戯言にもほどがあるんじゃないですか?」

 そう、俺はあの町で惨劇を見たんだ。簡単に、もう人なんて信じられない。結構強めに詰めたつもりが、テラーリオという女性は毅然と続ける。

 

 「それがそうとも言えないんだよ」

 「――――!」

 

 「王都郊外にある第43地区では、ロワーヌ王国で唯一亜人族の存在が許可されているからね。黙認や諦めではなく、許可だ。さて、この意味が分かるかな?セシル・ハルガダナ君」

 

 王国軍が、亜人族を――――?

 「そんなことありえるんですか?」

 「いやあ、まあ。疑う気持ちはわかるよ?」

 しかしそれが本当だとすれば、俺の考えはすでに実践されていることになる。亜人族と人間族が対立していては、意味がない。戦うのではなく、共生の道を模索するべきだ。その考えを共有できるだけで、安心感が浮かんでくる。

 

 「だとしたら、俺は、協力したい!」

 「はは、威勢がいいね。嫌いじゃないぜ」

 (目に光が戻った。期待通り、面白いやつだ)

 

 「第43部隊の仕事は多岐にわたる。第43地区の治安維持、通常の王国兵としての職務に加えて、各種雑務も多い。誰にでも務まる役じゃないけからね。私はほかでもない、きみが欲しい」

 「俺があのとき亜人族を守ったからか?」

 「うん、と。それもあるんだけど・・・・きみ、頭おかしいから」


 「・・・・は、はあ⁉」

 ちょっと下手に出れば、こうだ。やはりいたずらか⁉

 

 「いや、ごめんごめん。まじめな話なんだよ?でもさ・・・・兵士候補で、王国軍に歯向かうまではギリギリわかるんだけど・・・・ッ、わざわざ死ぬために戻ってくるとか・・・・うはははッ、いやごめッ・・・・でもまじ、頭おかしいでしょッ!!」


 堪えきれなくなった女は、腹を抱えて笑い出した。

 

 "「―――――絶対後悔するぞっ!!」"

 "ベクラマ"という組織のあいつにも、同じようなことを言われた。黙っていると彼女は、目尻の涙を拭い、ふたたび俺に目を合わせる。

 「まあ、そういうやつを求めてるってこと」

 「俺は、世間から見れば、おかしいのかもしれないですね」

 「でしょ?はー・・・・じゃっ、決まりね」


 「なにが決まりなんです?」

 「だから、きみは私の部下ってことで。最初の約束、守ってよ?」

 

 「ちょ!でも、まだいろいろ聞きたいことがあります」

 「ああ。そういうのは、あとにしてくれる?このままだとどうせ死ぬんだから、いいでしょ?」

 

 「まだ死ぬとは思っていません」

 「ははは、死ぬよ?死ぬ死ぬ、決まってんじゃん」

 

 (―――ッ!)

 見透かしたみたいに言ってくれるじゃないか!

 

 「ですが!部下って言っても、俺は絶賛拘束されています。あなたも結局、王国軍ではないんですよね?じゃあどうにもならないのでは?」

 「どうだろうね〜」

 

 《ガ、、、、ヂャン!!!!》

 「なんで!!??」

 う、嘘だろ??

 テラーリオという女性が鍵に手をかざすと、鈍い音を立ててそれが壊れ落ちた。

 

 「はーい、これで自由の身だねえ」

 「まじかよ。一応体裁上は、犯罪者を野に放っていることになるんですが?」

 「ああ、それは平気。きみがそういう人間じゃないことはわかるし。もし暴走しても大丈夫。私の方が、百倍くらいは強い」

 

 (・・・・!)

 時間がないのか、最後は駆け足に会話を進め俺を黙らせた。反論はない。圧倒的な実力差がわかるからだ。この人、何者なんだ?

 「ごめんごめん。この後は、外せない用事を作っちゃったからね。急いでるんだ。勘違いしてほしくないのは、きみはまだ自由じゃないってこと」

 

 「・・・・⁇そこは、あなたがなんとかしてくれたから、いまこうなっているのでは?」

 「いやいや〜。そんな都合のいい話、あるわけないでしょうが」

 呆れたように表情を作ってから、今度は笑顔で語りかける。

 「まずは、それを取り戻しに行かないとね」


 

 *第十一話に続く

 

 

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