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+++第一話:運命の出会い~ニホンの勇者との邂逅~

 ――――ファンタジーの物語には、決まった型がある。

 田舎を出た主人公は、旅の途中でヒロインと出会う。彼女は厄介な荒くれものたちに絡まれていて、彼はそれを救うだろう。

 

 王道で、ありふれていて、だからこそ。「まさか自分には起こらない」と思いながらも、誰もが一度は夢に見る。

 【セシル・ハルガダナ】も、きっと例外ではなかった。

 ただし、彼がおかれていた現実は、その’型’をなぞるには、あまりにも無力であった。

  

 *

 

 「――—―やめてください‼

 この人、もう三日なにも食べていないんです!」

 

 広大な草原。地面に倒れこむのは、俺。

 それを囲むのは三人の下衆たちである。そして、俺を守るようにその間に立つ少女。可愛らしいボブカットの少女【ロロカ・ミヤダイ】だ。

 

 (―—――逆、かなぁ)

 

 守るべきは、どう考えても俺のほうだ。

 

 「怖いよぅ・・・・」

 「大丈夫。ミヤダイさんとお姉ちゃんが、守るからね」

 泣きそうな声に、べつの少女が寄り添う。

 【マーシャ・トレイノル】と【エレナ・ハウンシュタッド】。彼女らは行き倒れていた俺に、食料を分けてくれていた。

 そう、すべては俺のせいだ。俺にかまっているときに彼女らは賊に見つかり、いまに至る。だからこそ、この状況は俺がなんとかしなくてはならない。

 

 「なんのこれしき・・・・うッ」

 体を起こそうとするが、力が入らない。視界が揺れる。

 

 「安心してください、ハルガダナさん。きっとなんとかなりますから」

 「・・・・」

 そういうトレイのるの声は、震えていた。相手は善人ではない。町からも遠いこの場所で、無力な女の子がどうなるのかなんて、想像するまでもない。

 

 「―—――へへへ。

 死にかけの野郎から金目の物でもと思ってたがよ。ついてるじゃねえか」

 男の視線が、ミヤダイをなめ回す。

 

 「お願いします・・・・なんでもしますから!」

 「なんでも?ふうん、なんでも、かあ・・・・」

 

 腕をつかまれた瞬間、ミヤダイの顔がこわばる。


 「―――――‼

 え、あ。その・・・・」

 「なんでもするって言ったよな?」

 

 (どーしよう⁉強がってるけど、ほんとはめちゃくちゃ怖いよぉ‼)

 くそッ。何もできない自分が、ただ情けない。

 

 「そ、それは困ります‼」

 振り払った腕が、男の頬を打った。

 「ッで‼」

 その後、一瞬の静寂。

 男は表情をゆがめ、赤くなった頬を押さえた。

 

 「てめえ」

 武器が抜かれる。

 「あ、ごめんなさい!」

 「バカか!ごめんで済むかよ!そっちがその気なら、徹底的に屈服させてから楽しんでやる」

 いよいよ、やばい雰囲気だ。いますぐ動かなければ。神経の中枢がそう判断し、全身に伝える。

 

 「二人とも、もっとエネルギーになりそうなものはないのか⁉」

 「え⁉ええと・・・・クッキーも、飴も渡しましたよね?」

 

 ポケットをまさぐってから、トレイノルは急いで周り見回し始める。それは俺も一緒だ。全神経を集中させ、養分を探す。

 そんなとき、エレナ・ハウンシュタッドが俺の目の前に両手を差し出した。

 「―――—ちょうちょ」

 

 そのなかには蝶と、それからいくつかの昆虫。

 (は―――――――⁇)

 よく見れば、彼女はかわいらしい立て耳を揺らしている。獣人族の少女だった。系統はオオカミのように見えるが、どうやら昆虫の採集が得意らしい。

 

 「エ、エレナ?それはちょっと・・・・」

 「いや、それでいい」

 迷っている暇はなかった。

 

 「はえ⁇ハルガダナさん⁉」 

 「うぐ⁉」

 苦く、硬く、最悪の味。いや、考えるな。これらは、’命’だ。胃が活発に動くと、体が熱くなるのがわかった。

 

 (動ける!)

 

 よし!

 「おおおッ――――!」

 

 《―—――バシイッ‼》

 次の瞬間、乾いた音とともに空気が裂けた。

 

 「ぐはぁッ⁉」

 男の一人が武器を落とし、腕を押さえる。

 そこに立っていたのは、黒髪の剣士。すらっとしたシルエットに、日差しが映える。くわえて、見るものを引き込んでしまうような澄んだ瞳を持つ少女。

  

 「だ、誰だてめえは⁉」

 「私はナナセ・クミシマよ。これ以上怪我をしたくなければ引きなさい」

 

 どういう状況だろうか。俺が不思議に思っていると、ミヤダイの表情が緩んだ。

 「な、七瀬ぇ――――っ!」

 

 ヒーロー登場、その瞬間だ。

 

 *

 

 「剣術使いかァ?なめやがって!」

 大柄の男が吠え、力任せに武器を振り下ろす。だがクミシマは、一歩も引かずにそれを受け流した。

 

 「――—―⁉⁇」

 「な、何者だこいつ⁉」

 

 「三人とも少し待ってて。すぐに終わらせるわ」

 ナナセ・クミシマはそう言って、敵に向け剣を構える。

 

 「―――—お、おい。やべえんじゃねえか⁉」

 「あ、ああ。こいつ相当強いぞ」

 怪我をした二人が動揺する。だがつぎの瞬間、周囲に違和感が走る。

 

 視界の端を、なにかが高速で横切った。

 「な――――ッ⁉」

 どういうこと?クミシマの髪が、不自然な軌道で切れ落ちる。

 

 (・・・・魔法だな)

 俺にははっきりとわかった。だが彼女はそうではない。

 表情が揺れる。理解できない”何か”に対する、純粋な動揺。

 

 「ははは、めずらしいな!魔法ははじめてか?お嬢ちゃん」

 茶髪の男が、ナイフを弄びながら笑った。

 「・・・・!そんなわけないでしょう」

 「ははは、嘘をつけ。バレバレなんだよ、剣術は悪くねえがな」

 

 (なんだ?クミシマは――――)

 「魔法が使えないのか?」

 「う、うん・・・・というかはじめて見たのも最近なの」

 

 俺の問いに対して、ミヤダイが心配そうにそう答えた。

 見たこともなかった?たしかに彼女の反応には、あまりにも耐性がない。

 

 「ひゅ~。お前らわかってるな?女は殺すなよ?」

 「へへへ、わかってる」

 下衆な笑いである。彼らの視線が、彼女の足元へと落ちた。狙いはそこで、動きを奪うつもりだろうか。

 この期に及んでも、彼女は一歩も引かないつもりらしい。気力は十分。しかし剣術だけで魔法持ちを相手取るのは、危険すぎる。

 

 敵が振りかぶる。

 「いくぞ――――‼‼‼」

 「――――ッ‼」

 その瞬間、クミシマは世界が引き延ばされたように感じた。

 投げ出されたナイフが消えるように移動し、肉眼でとらえるのは難しい。これが、魔法。

 

 (そう。だからひとりじゃ対応できない)

 石を拾い、魔力を込める。理屈ではない。俺からしてみれば、昔から知っている”やり方”。

 

 空中を、もうひとつの影が舞った。

 <ガキンッ>

 なにかが衝突し、さきほどのナイフが力なく地面に落ちる。

 

 (小石・・・・?)

 なにが起こっているのか、クミシマは困惑を隠せないようだ。

 魔法について知っていれば、衝突するふたつの魔力を感じ取ることもできていたかもしれない。ちょうど、この男のように。

 

 「貴様、死にかけがッ――――!」

 目の前の余裕の笑みが、大きくゆがむ。

 

 「魔力で物を加速させるなんて、この程度なら死にかけでもできるってことだよ」

 「ハルガダナさん!これも追加です、拾ってきました!」

 (よし!)

 

 「ナナセ・クミシマ!魔法は俺がカバーする!」

 唐突な叫びに、彼女は一瞬きょとんとした。

 「・・・・!・・・・⁉え?あ、はあ⁇あなたは・・・・⁇」

 困惑しながらも、彼女は剣を握りなおした。

 警戒を解く様子はない。むしろこちらを値踏みするような冷たい視線だった。

 

 「安心しろ。俺は・・・・さすらいの魔法士だッ!」

 「はあ・・・・?」

 (あ・・・・信じてないな)

 

 どこか、野良犬のような目をしている。

 協力のまえに、彼女を信じさせる必要がある。しかしつぎの刹那、俺の懸念は解消された。

 

 「七瀬!ハルガダナくんは信じて大丈夫だよ!」

 クミシマの表情が、はっきりと変わる。

 「―――—!よろしく、ハルガダナくん」

 そう。彼女はミヤダイの言葉を信用し、俺を受け入れたのだ。

 

 「ナイスだミヤダイ、って・・・・」

 言い終わる前に、彼女はもう駆け出していた。

 

 ♦


 「は、速―――――ッ」

 前方に現れたシルエットに、男は思わず身を引く。

 

 「――—―安心して。誰も殺すつもりはない」

 「え―――――⁉」

 風を裂くような一閃。

 ひとり目が崩れ落ちると、彼女はしなやかに伸び、背後の敵にも剣撃を浴びせた。

 

 「お、お前ら――—―ッ⁉」

 一瞬の出来事。茶髪のリーダーは魔法を発動する隙すら与えられなかった。

 

 「あなたで最後よ、どうかしら?彼らを運んで帰ったら?」

 「~~~~~~~~~~ッ!

 クソッ、馬鹿にすんなよ‼⁉こうなりゃ、俺の最強の技を食らわしてやる!風魔法:ピクロスエンダス‼」

 

 「え?うそ―――—!」

 動揺。彼女はひとつ、ミスを犯した。

 

 「しまった!」

 魔法はそれぞれ発動時間が異なる。クミシマはすこしずつ魔法を理解してきたからこそ、速度の変化に反応が遅れたのだ。

 

 「―――――うおおおおおおおおおおお‼これで、終わりだァ!」

 男の周りに乱気流が発生し、裂くような音を立て始める。乱暴な魔力で作られた、初級魔法と言ったところ。

 

 「お、おおおお!???なんで!!!?」

 彼が驚いている通り、魔法は次第に勢力を弱めていく。誰の仕業かは言うまでもない。あれくらい単調なら、同じものをぶつけて相殺できる。

 魔力はほぼ底をついたが、これで彼女との約束は果たした。

 

 「――—―お兄ちゃん、すごーい!」

 「ははは、そうだろ?」

 誇らしげに笑いながら、こちらからも撤退を勧告しておく。

 

 「おまえさ、諦めろよ。死にかけの方がいい魔法作るんだから、もう無理だと思うぞ?」

 

 「・・・・ハルガダナくん、結構根に持つタイプ?」

 「当たり前だ」

 

 だが引き際を誤ったのだろう。茶髪男はナイフを握りクミシマに突進していく。

 

 「く、クソったれがァ――――‼‼‼」

 「はあ・・・・どうしようもないわね」

 クミシマはため息ひとつ。

 つぎに容赦なく彼の脇腹を打ち抜いた。

 

 「これくらいで済んだことを喜びなさい。あなたは、どうしようもない悪人だわ」

 

 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 「お姉ちゃん、か、かっこいい~‼‼‼」

 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

 

 ハウンシュタッドの羨望のまなざしも、当然のことだろう。

 俺だって、幼少期にこんなヒーローが現れたらあこがれてしまうに違いない。

 

 (・・・・。完敗だ)

 

 って、あれ?

 急に頭がくらつき、視界がぼやけ始める。

 

 「ハルガダナくん⁉」

 「大丈夫だ、心配いらない」

 魔力の使い過ぎだろう。状況を考えれば、生きているだけ上出来だ。

 

 「・・・・?」

 ふと、影が落ちる。顔を上げると、ナナセ・クミシマが手を差し出していた。


 「ありがとう、助かったわ」

 「・・・・これはどうも」

 一応、認めてもらえただろうか。

 

 「ねえねえ!はやく帰ってご飯あげないと!このお兄ちゃん、ビスケットと虫しか食べてないよ!」

 「・・・・嘘でしょう⁇」

 

 一転、ハウンシュタッドの心配そうな報告にクミシマがそう小さくつぶやいた。

 「ほんとうです、バッタと蝶と・・・・」

 トレイノルもつづいて焦ったように表情を変えた。 心配してくれるのはありがたいんだが―――――。

 

 「うっ、バッタって言うな」

 

 

 *第二話に続く

 

 

 

 

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