部活動で
2-部活のあの人
手を伸ばし、部室の扉を開ける。部室には誰もいなかった。
イラストコンクールが終わったせいか、最近部活にくる人が少ない。少ない方が、気を使わなくて済むから私にとっては有難いんだけど。
鞄からタブレットとタッチペンを取り出す。
「今は梅雨だから、雨に関するイラストを描きたいな〜」
そんな事を一人で呟いていたら
「赤音さん、今度はどんなイラストを描こうとしているの?僕、赤音さんのイラストが好きなんだよね」
先輩の青木すぐるだ。金賞を取ってから、よく喋りかけてくるようになった。彼は私より絵が上手く、毎回賞を取るくらいの実力がある。噂では、専門学校へ進学するのを目標にしているらしい。
なぜ、そんな彼が私の絵を好きになるのだろう。特に私から得られる技術は無いだろうし、参考になることなんて何一つない。私は彼がこんなにも話し掛けてくることに少し驚いている。
「次は雨に関するイラストを描こうとしています。ただ、作品の全体像が思い浮かばなくて、今は何枚か下書きをしようとしているところです。青木先輩は何を描こうとしているのですか」
「敬語はやめてよ。同じ部員なんだから。まあ、次は絵を描いている人を描こうとしているよ」
「いいですね。誰をモデルに描くんですか」
「それが、決まってなくて…」
「そうなんですか」
これで話が終わると思っていた。その時だった。
「嫌じゃなければ、赤音さんが、モデルをやってくれない」
唐突すぎて一瞬思考が止まった。先輩の返答を待つ顔を見て我に帰る。
「なんで私なんですか」
素直に質問した。
「最近部活に来る人少なくなってるし、いつも来てくれるのが赤音さんだけだからちょうどいいかなって」
そう言って青木先輩は返答を待っている。確かに最近は私しか部活に顔を出していない。描く機会の回数を考えれば私が一番なのは分かる。
「分かりました。ただし条件があります。」
「何かな」
「まず他の人がいる時には描かない。極力顔は詳しく描かない。この二つが条件です。この条件を守ってくれるなら部活動中に描いていいです」
どうせ、黒子のようにすぐこの条件を破るだろう。そうしたら私は青木先輩と関わることは無くなるだろう。
「分かった。それだけでいいんだね。早速描いていいかな」
「お好きにどうぞ」
そう言って白い光を放つタブレットの画面に目を落とす。話をしている間にある程度描きたい構図が湧いてきた。眼鏡を外し、ペンを持つ。目は良くないが、絵を描く時は眼鏡を外すようにしている。その方が、本来の色に気付ける気がするからだ。
「眼鏡外しちゃうんだね」
「はい。絵を描く時はいつもこうしているので」
「そうなんだー」
呑気な返事が返ってくる。どうして、喋るのが嫌いな私がこんなにも喋っているのだろう。青木先輩のふわふわした性格に興味があるから。この部活を安心して3年間やり遂げたいから。絵が好きだから。分からない。
だけど唯一分かることは、青木先輩が私のイラストを褒めてくれることに何処か嬉しく思う私がいることだ。




