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VS鋏屋(シザー)4

四章 襲撃者こそ背後の悪意を悟らねばならない。

とある施設の廊下、とある報告を受けた女が一人、人知れず笑みを浮かべていた。

「…っ!?あぁ…ふふっ。そうか。そうなんだぁ。」


その施設は普通に外を出歩いているだけでは絶対に見つけることが出来ない場所にある。それはよくある悪の巨大組織の城、というよりハイクラスなビジネスホテルに近かった。エントランスもあり、各部屋もかなり広めでその女の部屋も一応は存在するが、フラフラと出歩くことが多いためあまり使用はされていない。


「あれれ?なにしてるの?キズ姉ちゃん。」

近づいてきたのはピンク色の髪を白のリボンでツインテールにし、黒いレースがあしらわれたドレスの少女。

「んー?別に♪」

「うっそだぁ。今まで見たことないくらい笑顔だったよ?」

「ふふ。やっぱりキミには隠せないか。アン。」

「ふっふっふ。キズ姉のことならお目汚しなんだから!」

「…お見通しと言いたいのかな。」

「そゆこと!もしかしてその情報って…好きな人絡みだったりする?」

「ふふっ。アンにはまだ早いよ。」

「あー!はぐらかした!もー。アンも早く大人になりたーい!」


そんな内容だけ聞けば自然体のガールズトークを他所に、仮面を付けた男が近づいてきた。


「埋葬傷奈様。アンセム様。ボスがお呼びです。大幹部の方々全員に召集がかかっておりますので地下二階の会食場までお越しください。」









コンテナが並ぶ施設、そこではコンテナが動いてはぶつかっていく音が連続していた。


「くっそー!ぜんっぜんあたらないぞ…くの、わたしもうつかれたよー。」

「もう少しだけ時間を作ってもらえますかモグコさん。…くっやはりレンズさんのインカムに繋がらない。いったい何が…。」


クノが珍しく、冷や汗をかいていた。

レンズが戦闘から離脱したとすると、こちらの数の優位と相手へのプレッシャーの相乗効果を活かせなくなってしまう。モグコの火力だけで眼前の二人を封じ込められるかはかなり怪しい。クノがキャップの方の様子を伺うと、二降澪奈になんとか背中を取られないように立ち回っているようだ。リーダーであるだけにクノやモグコにも視線を時折飛ばし、こちらとの位置取りにも気を配っている。


「(キャップさんの、勇士の心得ダイヤモンドハートは自分の前方180度のあらゆる被害を防ぐ異能ミステル。自分と相手との距離が近づくほどその防御力は上がりますがその分、効果範囲外の背中を取られる危険がある、文字通りリスクと背中合わせのピーキーさが売り。ですが、ギミックが割れたらこの戦局は崩れる。その前に天札詠を潰します!)」


「よーし、くのがもどってきた!わたしもがんばっちゃうぞー!」

モグコは地面に両手を付くと、近くの巨大なコンテナが詠に向かって回転しながら滑っていく。


「まずいっ!天札君は足のケガがっ!天札君っ!」



が、そのコンテナはまるで急ブレーキでもかけたようにキリキリと甲高い音を立てながら、止まった。


「えぇっ!なんでっ!?ふぬぬ~!ふーん!うごかない~~。」

「天札君…あなたまさかまた!?」


「絆絆絆(ジョイナス!)咀嚼チューイング。悪い。その異能ミステル、美味しく頂いたよ。」

「一体何が…?あなたは、あなたの異能ミステルは一体何なのですか!?」

「全部は言えないけど、簡単に言うと人と向き合う、人を知ることで自分が成長する異能ミステル。かな。」


「…は?」

「その着ぐるみさんの異能ミステル、多分発動条件は接していることかな。自分が触れた対象に触れている、もしくは接しているものを動かしたりできる。ってところじゃないか?さっきは地面に触れて、それに触れているコンテナを動かしてるし。でも射程は10mが限界だと思うんだけど、どう?合ってる?」


「ど、どうしよ~!くの、なにかかんがえないと!あたしのみすてるじゃもう」

「悪いね」


ドッ!



「あ…」

「峰打ち。ってこれで合ってるっけ。」


モグコは眠ったように気を失っている。


「っ!!モグコさん!」

クノは懐から鉄製のクナイを取り出して臨戦態勢に入り、詠の元に走り出す。

そして詠にクナイを振りかざしたとき




「俺はこっちだよ。」

クノの背中には詠の氷の刀が向けられている。



「現れぬ待ちラビリンスラヴァー咀嚼チューイング。ちょっとした影分身だな。俺、今撃たれた足が半端なく痛いからさ。近づいてきてくれて助かった。」


「…くっ。そんな…まだ私の異能ミステルはあなたには使っていないはずです。なぜ割れているのですか?」

「あぁ。これだよ。ごめんなちょっとアンタを知るためにちょっとズルしちゃってさ。」

詠のポケットにはスマホが入っており、二降澪奈との通話画面になっていた。


「戦闘中に、悟られないように情報交換とは…はぁ、完敗ですね。」




そしてその少し前、キャップは二降澪奈に背中を見せないように神経を尖らせていた。

「(あの少年が倒れるまで、なんとかボクが時間を稼ぐ!)」


「(妙ね…。これだけ冷気を振りまいているのに、彼女の周りには特に凍った痕跡はない。にも関わらず私とは一定の距離を保ちつつ防御に徹して、何も攻めに転じない。まさか…!なるほど。これは詰将棋ね。)」


すると、二降は辺り一面に冷気を振り撒き始めた。バキバキと音を立てて氷の柱が次々と立っていく。

キャップはぶつからないようにしながら距離を保ち続ける。

「(一体何を…これでボクの移動を制限したつもりなら)」


「終わりよ」

「!?」


キャップの足元がツルツルに凍っており、思わず後ろ向きに転倒しかける。

その拍子に思い切り、後ろにあった巨大な氷の柱に後頭部を強打した。


「痛っ!うわっ!?」

そしてバランスを崩して転倒。二降澪奈の能力で背中と地面が凍って接着した。



「盤上では孤立無援になった者から順に弾かれる。だったかしら。これでチェックメイトよ。そして天札君も終わったようね。」

「ボクたちの負け…か。」


キャップは奥で倒れているモグコ、ぺたんと力なく膝を付いているクノを見ながら言った。

それと同時に詠のスマホが鳴る。


「もしもし!芥丸か?無事なのか!」

[ヨミか!?悪い!スナイパーの女は倒したけどよ。俺の方も少し意識を失っちまって…そんなに無事ではないけどな…。ひのりも無事だ。]

[天札君!二降先輩も大丈夫!?あたしも無事だよ!でもちょっとお腹がすいたかなぁ。あはは~。]


「悪いな…結構二人とも無茶しただろ。声で分かるよ。でも今回のMVPは間違いなくお前らだよ。本当にありがとうな。」

[ははっ。いいんだよヨミ当然だろ!漢たるものダチのピンチの一つや二つ救わねえとな。]

[うんっ!芥丸君の言う通り。今度はあたしたちが二人を助けるんだって、決めたから。]


「ちょっと電話を替わってもらえるかしら…。」

「ぇえっ」

「お願い。」

二降澪奈の氷のような視線が詠に刺さる。思わず声が裏返ってしまった。



「貴方達…」

[ひいっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!!あたしもうしませんからぁ!]

[二降先輩!俺が悪いんだ!責任は俺にあるんだ!ひのりは悪くねえ。俺が一人でもスナイパー女を倒せてりゃ]



「本当に、助かったわ…。」



[……えっ…?]


「貴方達が鋏屋シザーの狙撃手を攻略していなかったら、天札君や私もダメだったかもしれない。電話越しでごめんなさい。これだけは早急に伝えたかったの。貴方達にはまだ謝罪もできていなかったから。また直接お礼を伝えさせてちょうだい。今回のことで大切なことを学んだ気がするわ。仲間って…いいものね。」



それだけ言うと二降澪奈は電話を切った。



「え、二降先輩。オレまだ話とかあったんですけど…」

「あっ…。」

「……。」

「……。」


顔を真っ赤にした二降澪奈は、再度芥丸とひのりにかけ直した。


「ま、まぁいいわ。というかそろそろ彼女たちの処遇を決めましょうか。」

「処遇…ですか。警察に突き出すとか?

「まぁ一番現実的ではあるわね。でもそれで彼らを本当の意味で裁くことは難しいわね。そもそも異能ミステル自体を知らない人間は異能ミステルが原因で起こった出来事の多くを認識できない。」

[えっ?どういうことですか?]


「少し複雑な話をするわ。異能ミステルは世界の理や物理法則などに一時的にメスを入れるようなものなの。そのメスを抜いてしまえば世界は自ら形を元に戻そうとする。世界の修正が働くの。だからメスの存在すら知らない人間は世界が修復したことにすら気がつかない。


[なるほど…とにかく異能ミステル使うと世界がぐにゃぐにゃして不思議なことが起きているということは分かったぜ。]


「…まぁ芥丸君はその認識でいいわ。とはいえ今後の更生のことも考えて司法に委ねたいのも事実。彼女を連れて警察署に向かうのがよさそうかしら。」


「いや、ボクが連れていくよ。」

キャップが声を上げた。

「何ですって?」


「さっきまで戦っていた相手からそんな身勝手な申し出、信じてもらえないことは重々承知だ。だがもうボクたちに戦う術は残っていない。だから自分たちの罪を償うために…自首するよ。」


「ふざけないで!貴方達、蠍會は…血の通わない人間が血の通う人間を食い物にする鬼畜の集まりよ!異能ミステルに魅入られて自分が特別な人間だと錯覚して…思い上がるのもいい加減にしなさいっ!!」


「…ボクたち鋏屋シザーは全員孤児で、蠍會に拾われたんだ。」

「!?」


「いや、蠍會じゃなくその前身、さそり園の頃からだね。その日暮らしで命を繋いで身を寄せ合って生きていた身寄りもない私たちを、さそり園は暖かく迎えてくれたんだ。小さな校舎に大きな庭。そこが私たちの世界のすべてだった。」


「何を…言っているの…?」

「蠍會は初めからあのような組織だったわけじゃない。ボクたちもすべては知らないが、あの日の」



そこまで言いかけた瞬間、凄まじい勢いで白のワンボックスカーが飛び込んできた。

「うわっ!」

詠と二降は辛うじて避けたが、車が通った道を見ると鋏屋シザーの姿が見えなかった。


「しまった…っ」

[ど、どうしたんだ??ってうわっ!]

[こっちにも大きい車が上ってきてスナイパーの女の人がっ!]

「~っ!逃げられたっ!」





夜、しばらく誰もいないガラガラの道路を白いワンボックスカーが走行し、そしてレンズを乗せた黒のワンボックスカーがすれ違いざまに停車した。


「レンズ!」

「うーん…あぁみんなおかえり。」

「心配しましたよ…。インカムが通じないから万が一のことまで考えてしまいました。」

「れんずううう!よかったよおおおお!」

モグコが半泣きでレンズを着ぐるみ姿のまま抱きしめる。かなりの力で締めているため

傷に凄まじく響いた。


「~っ!!!!いたたたたたた…。」

「おいおい、モグコ!ストップストップ!感動の再会が永遠の別れになるっ。」

キャップが制止するも体格差で吹き飛ばされ、クノがようやく止めた。


「しかし、この車は一体?誰だか知らないけれど、ありが…えっ。」


「どうかしたのキャップ?」


「誰も…いないんだ。キミの乗ってきた黒いワンボックスカーにもね。」

キャップの言う通り、どちらの車にも運転席に人間は乗っていない。いや、さっきまでは乗っていたのに。が正しいだろう。


その疑問が解消されないまま、キャップのインカムに通信が入った。

「はい、こちらキャップ。」

[はいはい、ご苦労さんやで。鋏屋シザーご一行。]

「足の手配、痛み入ります。失礼ですがあなたは?」



[上司や上司。劇毒アドベノムって言えば分かるやろ?]



「……っ!?!?!?」

「何…ですって!?」

「蠍會大幹部、通称・劇毒アドベノム。それが私たちに何を…?」

すごいびっぐねーむ。たしかぼすををのぞいて、さそりかいでいちばんえらいごにんだったよね?」



「そやそや。俺はその一人¨致死毒¨のデッドライン。キミら風に言うなら¨剪定¨しに来たんや。キミら全員をな。」

「!?」


突然の処刑宣告が聞こえたのは建物の上。通話していた男がいたのは蠍會本部ではなく、自分たちのすぐ上にいた。その青年は肩まである薄くオレンジがかった髪に細く編んだ三つ編みが一本垂れており、着ているコートのファーに少し届いていた。


「はははははっ!なんやねん自分らその顔ぉ。でもマックスにサプライズだったやろ?」

「埋葬傷奈と同じ大幹部とは…。次に剪定されるのは私達自身ということですか…。とんだ皮肉ですね。」

「馬鹿と鋏は使いようってことや。でもキミらの今回の失敗までは別にえぇ。水に流そうと思ってたんやけどあれはダメやろキャップちゃん。キミ、敵に何を話そうとしてんねん。」


デッドラインの語尾が急に鋭くなる。

「も、申し訳ありません!そうだ!あれは敵を油断させて戦線を離脱するための策なのです!これはボク個人のミス。処罰ならボク一人に!」


「いや、ならへんな。キミらチームやし。マックスに連帯責任や。」

「そんな…。」


「何となく遅かれ早かれ、こうなることは分かってたんとちゃうんか?鋏屋シザーリーダー、キャップ。いや阿世町あぜまち 古毬こまり?」

「っ!?」

「そして構成員クノ、砂海すなみ 空乃そらの。」

「くっ…」

「同じく構成員レンズ、音乞 レイ(おとごい れい)。」

「…。」

「同じく構成員モグコ、甲尊岳こうぞんだけ 睦子むつこ。」

「わたしのほんとうのなまえ…。」



「じゃあ、早速始めるで。可愛ええ女の子相手にこんなこと本当はしたないんやけど、マックス諦めてや。」


すると突然、鋏屋シザーたちの乗ってきた車が誰もいないのに低く唸り始めた。


「くの!あぶないっ!」

「きゃあっ!」


「ほなさいなら。」



ドガアアアアアアアアアアアン!!!!


凄まじい轟音とともに車が二台とも爆発した。




「熱っ…っみんな大丈夫…?」

「ぐっ…ボクは何とか平気だ」

「私も何とか…モグコさん、大丈」



クノが炎を上げている車の方を振り向くと、何か着ぐるみの一部のようなものが燃え盛っていることが確認できた。


「モグ…コさん?」

「ま、まさか…っ嘘…でしょ。」



「モグコォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

キャップの絶叫が夜の曇り空に響き渡る。


「貴様ァ!モグコを、モグコをよくもっ!よくもォォォ!!」

「キャップッダメッ!もう…モグコはっ」

「離せレンズっ!あいつはっ!ボクが、この手でっ!!!」


「…っっっっ!レンズさん!そのままキャップさんを担いで私と一緒に!」

クノたちはそのまま路地の方に走っていく。

「おいおい、逃がすわけないやろぉ。」


「現れぬ待ちラビリンスラヴァー!」


クノたちは狭い路地に入っていった。そしてデッドラインも駆け出し、そのすぐ後を追う。が、クノたちを一瞬で見失った。



「あー!しもた!やられた!やってもうた!クノちゃんは精神干渉系の異能ミステルやったわ…。俺がいくら追いかけても無理やん。一匹しか仕留められなかったって聞いたら針のむしろやで俺~。」

軽く凹む、デッドラインのスマホが振動バイブした。


「あーい、デッドラインです~。」

[デッドライン様。これより大幹部の方々全員とボスによる重要な会議が開かれます。地下二階の会食場までお越しください。]

「あーわかったで。おおきに。」


デッドラインは通話を切った。とほぼ同時に、夜空からは大粒の雨が降り出してきた。


「ははっ!久しぶりに全員集合、マックスに面白くなってきたやん。」


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