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VS鋏屋(シザー)3

三章 毛布が嵐を呼んでくる

「キャップさんの予想が的中しましたね。天札詠。写真と少し目と髪色が違いますがまさか生きていたとは…。」

「あーまぁいろいろあってお陰様でね。」

「なぜです…?現れぬ待ちラビリンスラヴァーは発動中のはず。あなたがここに現れることは本来あり得ないはずです。」

「なるほど。諸悪の根源はあんたの能力ってことか。悪いけど俺も異能ミステルに関しちゃ浅学の身でさ。反省会は自分で後日やってくれ。」


「恐らく、こうよ。貴方の異能ミステルは縁の深い人物との接触を断つ能力。だけれど私はこの時、縁そのものを断って一人で闘うことを選んだわ。そのため接続が切られ、天札君がこの場に到着出来た。」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。ですが、状況はまだこちらが優勢です。モグコさん。」

「おー!」

モグコがまたコンテナを詠に向かって両手で押して引きずっていく。

ズガァン!!という衝突音がしたが、そこに詠は居ない。


詠はその頭上に飛び上がっていた。

「(やっぱり吠える暴狼フェンリルロード咀嚼チューイングは両足の跳躍力を高められる。だんだん分かってきたな!)」

そして着地と同時にコンテナを蹴り、モグコにタックルした。

「うにゃぁ!!!」

叫ぶとモグコは地面を転がりっていく。と同時にすかさずクノが制服のポケットから出したクナイを詠に向かって投げた。


ギィン!!

だがそれは詠の出した二本の氷の刀で弾かれる。

「なるほど。系統の違う2つの能力。いやもっとですか。特殊異能系とは珍しいタイプですね。」

「あんたの能力、性格、なんとなく理解した。二降先輩みたいに状況を的確に判断できるタイプ。そして違うのは裏方で暗躍して、いざという時はあの紫のキャスケットの人に代わって指示もできること。」

「…レンズさん聞こえますか。ターゲット変えます。異能ミステルの照準を彼に。はい。お願いします。」

「狙撃手に連絡してるのか。だったら早めに終わらせないとな。」

クノとモグコに刀を振りかざして突進する。


その瞬間、詠の左足に銃弾が激突した。


「っっ!?があああああああっ!!」


「天札君!?」

「おっと。君の相手は私だよ。」

「退きなさい!!!!!!!」

季節外れの猛吹雪がキャップや周りの全てを吹き飛ばそうとする。



が、キャップには雪の一粒すらかかっていなかった。

「悪いね。僕の、勇士の心得ダイヤモンドハートには攻撃そういうのは無意味だよ。」

「くっ!天札君が危ないのに…。」


「大丈夫…です。」

「!?」



「オレたちにはまだ、仲間がいる…。そうでしょ先輩。」

「(仲間?いや埋葬傷奈の報告では異能ミステル持ちはもういないはずだ。さてはブラフか。)」


「クノ!モグコ!このままそっちは頼むよ。二降澪奈には僕の異能ミステルが刺さる。作戦は続行だ。」



とある建物の屋上に女がライフルを持って寝そべっている。

「よし、着弾っと。流石に狙撃ポイントはまだ気づかれてないね。夜が更ければ更けるほど私はさらに見つかりづらくなる。追い風はこっちに吹いてる。」

おはぎをつまみつつ、異能ミステルで照準を合わせているレンズは傍から見れば大変シュールな光景だが、こう見えても鋏屋[シザー]の中では彼女は状況をひっくり返す切り札となり得る存在だ。

「(私の、首ったけ(スコーパー)は指定した人物の動向を、能力を解除するまでずっと左目に映し続ける。当時は異能ミステル酔いが酷かったけど、もう慣れっこだね。こうしておはぎもあるし。)」

戦闘が続くが、鋏屋[シザー]の他3人を信じ、左目で詠を追い続ける。



そんな時、ビルの屋上のドアが突然勢いよく空いた。

「っ!君たちは…?」




数十分前。

「はぁ…。はぁ…。芥丸くん、どう?見つかった?」

「いや。まだだ。ただグループチャットに合ったメッセージを見るに、狙撃手は必ず近くにいる!映画で見るような感じなら、絶対にビルとかの高い建物だ!」

「でもこの辺りはマンションもショッピングモールもあるし、高い建物なんてそこら中にあるよね。どうやって探せば…。」

「あーあのさ、ひのり。それ、わざわざ持ってきたのか?」

芥丸が指摘したのはいつもひのりが持っている毛布。

「うん。この毛布は…上手く言えないけどあたしに勇気をくれるの。なんの取り柄もない私だって居ていいんだって。これまで、ずっとそうだったの。」

心の支えとなっている毛布を抱きしめるひのりの腕に力が籠った。

(ひのりちゃーん。それいつまでもってるの?)

(せんせー。豊花さんってばずーっと毛布持っているんだよ?へんだよ。)

(豊花さん。もうお姉さんなんだからそろそろ…ね?みんなも心配しているわ。)


「(嫌なこと…思い出しちゃったな。ってダメダメ!今は天札くんと二降先輩を助けるために自分のやるべきことをやるんだ!)」

「あっ!ごめんな!全然いいんだ。だってそれがお前なんだもんな。」

「えっ?」


「いや俺はさ。ヨミみたいに頭良くねぇし、二降先輩みたいなクールでかっけぇところもないし、ひのりみたいにみんなを笑顔にすることもできないし、医雀先生みたいな頼りにされるようなこともないからよ。俺からしたらみんなすげぇよ。」

「芥丸くん…。」

「兄貴たちはみんな優秀なのに何でお前だけこんな体たらくなんだってよく言われてさぁ。でも、俺はもう下を向かねぇ。みんなの姿まで見えなくなっちまうから。だから弱い俺のまま強くなって言ってやるんだ。」

芥丸はニッと笑い、


「すげぇだろ!って!」

それは芥丸なりの宣誓だった。異能ミステルもたらした非日常は本人だけでなく、周りをも変えていく。自らの変化を余儀なくされる環境に居続けるというのは必ず痛みを伴うもの。それでも、たとえそうだとしても。




芥丸大我という人間は、迷いなく変化を選ぶ。

「…似た者同士だね。あたしたち。」

「そうだなぁ。だから改めてよろしくな。ひのり!」

「うんっ!…あ、でもあたし、芥丸くんみたいに見境なく女の子を追いかけたりしないし、あくまでそこだけだからね。二降先輩の前は3年の美人の先輩だったし、その前は同学年の」

「もういい分かった分かった!そこだけ!その一点のみな!」




そうして辿り着き、勢いよくドアを開けたのはショッピングモールの屋上だった。

「うーんここじゃねぇか…」

「誰もいないね。ってあれ見て!」

ひのりが指さす方向にあったのは、すぐ隣のもう使われていない廃ビルの屋上。

そこに僅かだが光が見えた気がした。


パァン!!!

その直後乾いた破裂音のような音が芥丸とひのりにも聞こえた。

「すぐ隣とはラッキー…とか言ってる場合じゃねぇな。早くいかないとやべぇ!」





「っ!君たちは…?」

「とうとう見つけたぜ。スナイパー!」

先に辿り着いた芥丸がレンズと応対する。


「彼らの仲間かな?よくここが分かったね。ん~、とりあえず自分で処理せずにキャップかクノに相談しよっと。」

インカムに手を伸ばそうとするレンズを待たずに、芥丸が先ほど拾った鉄の棒を持って走ってくる。

「おっと」

叩きつけられた鉄の棒を避け、それを片足で抑える。そして空いた長い足で芥丸の肩を二度蹴りつける。

「がっっ!」

そしてライフルを逆手に持ち、数回殴りつけ、蹴り飛ばすとフェンスに当たって崩れ落ちた。そして素早く芥丸に馬乗りになり、ライフルの銃口を突きつけた。


「残念だね。私より年下の若い子なのにこの子も剪定しなきゃいけないのかな。」

「くっそ…っ早すぎだろ…。へっ…。暗がりで遠くじゃ分からなかったけど、アンタ二降先輩に負けず劣らずの美女だな…。」

「ん、ありがと。よく言われる。おかげでみんなが色々な食べ物をくれるんだよね。ラッキー。ぶい。」

「だったら…なんでこんなことやってんだよ!あの日の夜、うちの学校に襲ってきたやつらとはアンタはまるで違うように見える。血も涙もない奴には到底見えねぇ。なんで」

「こんなこと、か。強いて言うなら…。こんなことをしないといけなくなっちゃった。からかな。」

「は…?」

「ところでさ。ドアのそばにいるのはキミの彼女さん?」

レンズが目も向けずに言うと、そこには毛布を抱えたひのりの姿があった。

「ひのりっっ!ダメだ出てくるな!逃げろ!」

ゆっくりとレンズがライフルの銃口をひのりに向けた。ひのりはそのまま微動だにしない。

「ごめんね。蠍會うちって徹底して秘密厳守なんだよ。だからキミみたいな可愛い女の子でも例外じゃなくてさ。」

「やめ…ろ。」


「ばん。」

「やめろォォォォォ!」






異次元毛布ワームロール!!」

「!?」

ひのりが広げた毛布の中に銃弾が吸い込まれ、包むと消えて無くなった。

銃弾タマが消えた…?あの毛布に包まれたからかな。物体生成系…いやあれは事象操作系か。」

「離せ。」

「え?」


「芥丸くんを…離せ!!」

ひのりが毛布を開くと銃弾が勢いよく飛び出し、レンズの肩口を掠めた。その直後血が滴り落ちる。力が緩んだため、芥丸はレンズから距離を取った。

「ぐっ!」

「ひ、ひのり…?お前、まさか異能ミステルを…。」

「うん…。あのお姉さんに芥丸くんが蹴られてるのを見てたら、本当に許せなかった。それを止められない無力なあたしも。そう感じていたらいつの間にか異能ミステルが使えるようになってたんだ。」

ひのりは異能ミステルに目覚めた高揚感というよりは、レンズや自分に対する怒りの感情で目覚めたようだった。芥丸はひのりが怒りを見せるところを今まで一度も見たことがない。というより学校中の誰も見たことがないだろう。そんな戦いとは無縁の明るい女の子にこんな顔をさせてしまった。芥丸は音が出るほど歯ぎしりをした。


「…ブランケット症候群。」

「…。」

「ストレスや不安から精神的な安定を得るために、特定のモノなどに強い執着を持ち、それから離れられない…だっけ。そのアイテムがそのまま自分の異能ミステルになっちゃうなんてね。しかもなかなか汎用性が高いね。私のと交換してほしいよ。私のはすごく趣味が悪いからさ。」

「あなたのことは知らないけど、芥丸くんのようにあたしもあたしのままで強くなる。豊花ひのり第二章は今日ここから始まるんだ。あなたを先へは行かせないっ!」


レンズがひのりに向かって走りながら2.3発の発砲。2発は毛布に当たり、1発は外れた。

「(うーん。右肩が熱くて痛いな。ちょっと照準エイムに支障が出てる。)」

ひのりの毛布がそれを吸収し、同じ威力と速度で投げ返す。が、レンズは上手く避けた。

「(となれば、検証スタートだね。)」


レンズはもう一度、ひのりに照準を合わせた。



と、見せかけてレンズはひのりにライフルを投げつけた。


「えっ!?」

レンズの投げたライフルがひのりのこめかみに直撃した。

「っ!痛っ!」

「ひ、ひのりっ!」

すかさず、鳩尾も蹴りつけて吹き飛ばす。

「っっっ!?!?」


「なるほど。強力な異能ミステルだけど、戦闘経験は0に等しいね。ブラフ入れて虚を付けば簡単に崩せちゃう。まぁさっきまで普通の女の子だったからしょうがないけどね。」


「(まずいまずいまずいっ!ひのりはアイツの言う通り、まだ異能ミステルに目覚めたばっかりなんだ…。俺が助けに行かないといけない…。いけないのにっ!)」


異能ミステルは優秀だし、キミは蠍會に連れて行こうかな。とりあえず気絶はさせるけどごめんね。」

毛布を取り上げて、レンズは持ったライフルを振り上げた。


と、同時に芥丸はレンズの元へ走り出す。

「んん?こっちに来た。」

「(今、この瞬間、ひのりだけは守るっ!俺はどうなってもいい…。俺のこの手にアイツを倒す力をっ!だからアイツみたいな…。)」



「武器をくれぇぇぇぇぇぇぇ!」


ドゴッッッ!

レンズの右足が芥丸を蹴り上げた。

「…がはっ…」


倒れこむ芥丸を他所に、レンズは再びひのりに銃口を向ける。芥丸は意識を失っていた。

「じゃあこれでひのりちゃん?も強制仮眠タイムかな。また後でね。」


ところが、レンズはなにか銀色に光る小型の物体が落ちているのに気が付く。

「ん?なにこれ。なんかシューシュー言ってるけど。おもちゃかな?誰がこんなもの」




その時凄まじい突風が吹きレンズを弾いた。勢いよくフェンスに衝突する。

「っっ!痛ったぁ…。」

その銀色のおかしな形状のものも同時に吹き飛ばされ、カラカラ回りながら芥丸に当たって止まった。

「ぐっ…。やっべ…。意識飛んでた…。ん?なんだこれ。」

芥丸が拾ったのは掃除機とリボルバーが合体したかのような形状のもの。ハンマーの上のリアサイト部分には掃除機のノズル口があり、そこからグリップにかけて厚い無骨なホースが伸びている。傍から見れば謎の玩具にしか見えないが、彼だけは使い方を瞬時に理解できた。


「あー…。そういうこと。異能ミステル。君も目覚めちゃったか。」

「あぁ。そうだな。これが俺の、俺という名の嵐を打ち込む異能ミステル嵐式吸引拳銃ビリーザキッドだ!」



「へえ。バチバチの戦闘向き異能ミステルだね。物騒な子だなぁ。」

「さぁ、行くぜ!」


芥丸がハンマー部分を親指で下ろすと、掃除機のような吸引音が響いた。

そして引き金を引く。


「ぐっっっ…!?」

バヒュン!という高めの音が嵐式吸引拳銃ビリーザキッドから鳴り、レンズは先ほどのダメージで避ける間もなく腹に一発もらった。

さらに芥丸が追撃に3.4発放つが、レンズは辛うじて避けている。


「(くっ…そこらにある空気を吸い込んで弾丸にしているわけか…一発の威力はそこまででもないけど弾数はほぼ無限って言ってよさそう。これは短期で勝負を決めた方がいいかも。そろそろ決着つけよ。)」


「くっそ!当たんねぇーー!」

レンズは空気の銃弾を、ライフルを盾にしながら避け、芥丸の懐に潜り込もうとする。8発目にライフルに当たり、破損するもなんとか潜り込んだ。


「終わりだよ。」


レンズの蹴りが連続で芥丸の腋や方にクリーンヒットする。が、すぐに立ち上がりなぜかレンズに背を向ける。

「んーあの子だけでも守るつもりかな。でもやらせない。もうこれで本当に終わり。」


ガッ!ガッ!と蹴りを何発も芥丸に入れる。何発も。何発も。

そうしているうちに芥丸の膝が崩れた。


「これでわかったでしょ…。キミの銃弾はもう当たらないよ。はぁ。キャップに新しいライフル買ってもらわなきゃだ。」

「あぁ。もう狙いを定める元気もねぇよ…。でもその必要はねえ…。」

「?」


「避けられちまうなら、銃弾なんか必要はねぇんだよ。」



「俺自身が銃弾タマだ。」

「まさかっ…!!!」


芥丸は今まで溜めていた空気を



思いっきり、前に撃った。




凄まじい突風が吹き荒れその衝撃で、芥丸はそのままの勢いでレンズに激突した。

「…かっ…は…!?」

そして吹き飛ばされ、ついにレンズは意識を失った。




「はぁ、はぁ、悪いな…。俺の嵐は気まぐれだ。大切なもんを守るためなら、どこにでも吹き荒れてやるよ。」


鋏屋[シザー]の狙撃手を見事落としたのは、毛布の少女と掃除機拳銃の少年だった。



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