盛歌の監獄《サマーロック》3
会場全体を見渡せる関係者席に着いたのは雨雨レインの楽屋を訪れてから20分後。詠達が居るのは二階のアリーナ席。とは言っても周りには他のファンはおらず、心置きなくライブを楽しむことが出来る席だ。異能研究部の六人がそこに横一列に座る。
(左から順に医雀、空乃、詠、二降、芥丸、ひのりの順番)
正面には雨雨レインの主戦場であろうメンステ(メインステージ)。その背後には巨大モニターも三台並び、たとえ奥の席でも雨雨レインの姿を拝むことが出来る。
そしてそこから詠達がいる席に向かって伸びている「花道」を抜けて、丸型のセンステ(センターステージ)が用意されている。
一階ではライブ限定Tシャツを着たファン達がチケット番号に書かれた座席を探していた。
「初めて来たけど、やっぱり大きいな。芥丸は他にライブとか見に行ったことあるのか?」
「俺も初めてなんだよ。だからワクワク半分、緊張半分って感じ!不思議だよな~俺が歌ったりするわけじゃないのにさ。」
「確かにそれは分かるかも。」
1万人は収容できるこの会場。普段、家と学校の往復では見られない人の多さに、この近辺に居る人間がすべて入るのではないかという錯覚すら覚えるほど。
開始まで残り10分を切ったところで、一階のファン達が雨雨レインの名前を拍手交じりのコールで盛り上げ始めた。
「レイン!レイン!レイン!」
生配信用、後にDVDで発売される映像用のカメラも至る所に設置され、音響スタッフ達も万全の準備を整えていた。
「ついに始まりますね。詠くんお手洗いの方は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。さっき行ってきたので。」
「なら安心ですね。長丁場になりますので途中ではなかなか行けないですから。あと瞬き厳禁ですよ。」
「1時間半以上あるんで流石に無理です。」
大分無茶なことを言う空乃が、詠の腕に自分の肩をくっつけるようにしてきた。
「あの、ちょ…近くないですか。」
「そうですか?」
「ちょっと空乃さん、天札君に近づきすぎよ。天札君が困っているわ。」
「いいじゃないですかミオさん。仲のいい友人との距離感なんてこんなものでしょう。だったらミオさんもどうぞ。」
「なっ!?そ、そんなことしないわよ!」
珍しく素っ頓狂な声を出した二降が頬を赤らめる。
隣に居る医雀そっちのけで、空乃が詠に話しかけているため、医雀がほぼおひとり様状態で天井の照明を菩薩顔で見上げていることには誰も気づいていない。
「…にゃろうヨミ。ライブまで来て両手に華か。なんて羨ましい。」
「ん~?じゃああたしは何なんだい芥丸さんや?」
「いやひのりは‥あー‥ははっ。(乾いた笑い)」
「せめて何かコメントしてよ!?あたしも一応女の子なんだけど!」
そして、
「みんな~!!」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
雨雨レインが、メンステに現れた。
サプライズでも何でもない。現れない方がおかしい。ただ待ち焦がれたその存在ひとつで
会場が、揺れた。
「「「レインちゃーん!レイーン!!」」」
「みんな!今日は私、雨雨レインの初の単独ライブ、Rainbowに来てくれてありがとう!みんなのおかげでここまで来られた…。本当にありがとうございました!みんなまたね!」
深々と頭を下げ、即、踵|≪きびす≫を返そうとするレインに会場からツッコミと笑いが起きた。
「ごめんごめん!っていうのは冗談。でも本当に感謝してるんだ。私をいつもサポートしてくれるプロデューサーさん、今日のためにいっぱい準備してくれたスタッフさん、そして私を見つけてくれたファンのみんな。今日はきっと忘れない日になると思う。だから、」
「私が、虹を見せてあげる。」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
異能研究部はただ黙って、雨雨レインに釘付けになっていた。
「聞いてください。Raincarnation。」
大音量のサウンドが瞬く間にスピーカーを通して会場を支配した。
ズンッと腹のあたりにヘヴィな音圧が響く。
雨雨レインのデビュー曲にして昨年の№1ヒット曲。転生を意味する[Re-incarnation]と自身の名前を組み合わせた、人は変わることができるというメッセージが込められたアップテンポの応援ソング。雨雨レインの圧倒的な歌唱力も相まって、若者を中心に深く刺さった。
それが今、放たれる。
♪~雨足が 明日を隠してる
♪~心の水たまりから見えるのは あの日の自分自身
♪~生きていれば100点満点っていうけれど 生きてるうちに思えるのかな
♪~誇れる自分が見当たらないけど あの雲の先にでもいるのかな
♪~建前、本音、偽善、欺瞞、疑心
♪~ありのままでいいなんて綺麗事で
♪~涙が刻んだ頼りないBPM
♪~こんな私だから見える世界があるんだ
♪~Raincarnation!生まれ変わりたい こんな私から
♪~でも「私」だけは 「私」だから
♪~Raincarnation!出来る出来ないよりも「らしさ」を尖らせて
♪~雨模様もいつか虹に変わると
♪~信じさせてよ
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
会場の熱量がファンの声援により一つになり、一曲目の一番のパートが終わっただけなのにも関わらず音圧の嵐が吹き荒れる。心が揺さぶられるというのはこういうことのことをいうのだろう。
「すっげぇ…。」
これが、ライブ。
詠が横を見ると、空乃も医雀も水色のペンライトを振って意外にもノリノリ。芥丸とひのりもピンクのペンライトを持って、こちらには聞こえないが唇を読むと「レインちゃーん!」と言っていた。
ただ二降だけが黙って、何度も咀嚼するかのように頷きながら見ていた。
実の妹の晴れ舞台だ。詠としてもこんな表情の二降が見られるのは嬉しい。異能研究部も部員が増えて、初めて会った時とは比べ物にならないほど、表情が優しくなっている。
「ありがとうございました~!」
最初の曲が終わり、割れんばかりの大歓声と拍手に包まれる。
そしてレインのトークの時間が挟まれる。それも兼ねて次の曲のコール&レスポンスのリハーサルをするようだ。レインは丁寧に、歌詞のこのフレーズが来たらこう返してほしいと身振り手振りをしながら伝えていく。
「初日だからセトリないけどさ。絶対これ夏風ジュブナイルの振り付けだよな!推し曲キタ!えーとレスポンスは…」
「教えてあげるわ芥丸君、片思いというフレーズが来たら4回両手をクラップ。からの両思いというレスポンスを返すの。」
「ガチ勢!?二降先輩あざす!」
こうして2曲目、3曲目が終わったところで衣装チェンジのためレインは一旦退場。幕間となるが、次の曲までダンスチームのパフォーマンスがあり、気持ちを盛り上げることが出来た。
「んー、3曲目が【乙女関ヶ原】だったから、4曲目は恋と幻か?」
「いや、それは恐らくラストでしょう。次は荒々しく【Final Lap】だと思いますよ。」
医雀と空乃が次の曲の予想をしている。これもライブの醍醐味だろう。
「詠くんはどう思います?」
「うーん。確かにFinal Lapかな…。あ、始まるみたいですよ。」
ダンスチームの優雅で軽快なダンスも終わり、少し経って幕が開く。
「みんな~!!」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
雨雨レインが、メンステに現れた。
サプライズでも何でもない。現れない方がおかしい。ただ待ち焦がれたその存在ひとつで…。
「ん?レインちゃんの衣装なにか変わったか?」
「あれだよ芥丸くん。ツッコミ待ちなんだよ。いや変わってないじゃーんっ!って!」
「なるほどな!あははははっ!それは笑うわぁ。」
「みんな!今日は私、雨雨レインの初の単独ライブ、Rainbowに来てくれてありがとう!みんなのおかげでここまで来られた…。本当にありがとうございました!みんなまたね!」
深々と頭を下げ、即、踵を返そうとするレインに会場からツッコミと笑いが起きた。
それを理解した瞬間、思わず背中にゾワリと寒気が走った。
それは、強烈で鮮明なデジャヴ。
「ごめんごめん!っていうのは冗談。でも本当に感謝してるんだ。私をサポートしてくれるプロデューサーさん、今日のためにいっぱい準備してくれたスタッフさん、そして私を見つけてくれたファンのみんな。今日はきっと忘れない日になると思う。だから、」
「私が、虹を見せてあげる。」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
「聞いてください。」
「Raincarnation。」
雨雨レインのライブが
永遠に終わらない。




