ボマー・ゲーム4
三章 ボマー・ゲームと命の秒針
長い透き通った茶髪が似合う女の子だった。はつらつとして元気だけど実は‥分かるのはそれだけだ。
ただ、あの時残ったのは悔やみきれない思いと涙だけ。理不尽だとは思わない。ただ今までの罰が回ってきただけ。
今更、この感情に名前をつけるなら初恋、になるのだろう。理由なんて他愛もない。隣の席でいつも明るく声をかけてくれる女の子がいたら、悪い感情なんて抱くはずもない。
「(…あの時の思いがあったから、オレは人と向き合いたいって思ったんだ…なぁグラト。)」
眩しさで目が覚めた。意識が外の世界へ向いていく。
「(…またあの時の夢か…。」」
「天札君!」
「詠くん!」
「ヨミ!よかった目が覚めたんだな!」
「ここは異能研究部の部室…?っ!そうだ!デッドラインの奴は!?豊花は!?みんなは無事なのか!?」
「みんなは一応無事だ。大きなケガをしている人もいねぇ。だけどデッドラインは、あいつはひのりをっ!あいつに攫われちまったんだ!すまねぇ…ヨミ!」
芥丸が土下座せんばかりの勢いで詠に頭を下げた。よく見ると芥丸の手にはひのりがいつも持っている毛布があった。
「天札君、私と空乃さんからも謝るわ。あのヘルメットの男は倒したけれど、あのパペットをつけた女は逃がしてしまった。」
「いえ、オレこそ途中でデッドラインにやられて、すみません。正直手も足も出なかった…。あれが劇毒なのか…ん?」
詠はここで二降の話について違和感を持った。
「あのヘルメットの男って銃弾が効かなかった奴でしたよね!?一体、どうやって倒したんですか?」
「正式に言うと倒したわけではないけれどね。芥丸くんの嵐式吸引拳銃が大きかったわ。私の異能でも全く効果がなかったから。」
「考えたんだよ。傷ひとつつけられないなら俺の異能で最大風力で吹き飛ばして戦線離脱してもらう方がいいって。めちゃくちゃ反動がすごくて今も腕痛いけどな…。」
話していると、爆破事件のことを調べていた医雀が戻ってきた。心配したぞと開口一番言われたので、もう大丈夫だと詠は答えた。
そして医雀は部室の机を4つほど用意して、連結させて一台の机にする。その上にA2の大きな紙を広げて話し始める。
「あの後、この近くのコインランドリー、携帯ショップが立て続けに爆破された。どちらも死者こそ出なかったものの多数の怪我人を出している。特に携帯ショップは被害がでかいな。間違いなく同一犯、デッドラインだろう。」
「貴金属店、中華料理屋、コインランドリーに携帯ショップ、あとはヨミと空乃先輩がいたソフトクリームの店か。なんか関係があんのかそれ?」
「私にも分かりませんね。店舗ということくらいしか絞り込めません。」
正直詠には、この事件に動機なんてものがあるのかどうかも怪しく思えた。分かろうとするほど頭からすり抜けていく気すらする。
「(オレは…あの男を知っていいのか…?)」
すると詠のスマホが鳴った。見知った番号ではないが念のためスピーカーに設定した。
「…もしもし。」
「(やぁ俺や天札詠。゛致死毒゛のデッドラインや。)」
「…っ!デッドライン!?」
「まぁまぁそんな警戒せんといてや。ひのりちゃんは無事やで。今はまだ、やけど。」
「てめぇ…ひのりに何かしたら絶対に許さねえからな!」
「タイガー!まずは相手が接触してきた意図を知るべきです。今は要求を聞きましょう。」
「クノちゃん流石♪話が早くて助かるわぁ。」
「もうクノではありません。私は砂海空乃として生きているんです。」
「じゃあ空乃ちゃんも含め、伝えるわ。今から3時間後、22時に今から3つの店のどこかを爆破する。
君達の現在地から見て、まっすぐ北のニューアイレス楽器店、南西の旅島時計店、南東の玉風堂和菓子店のどれか一つ。
これのどこかに異能持ちが5人以上入店して爆弾を探し出すことができれば、ひのりちゃんは解放したる。
だが条件を満たせなかった場合、その部屋は爆破してゲームオーバーや。ちなみに今回の爆破は今までで最大の規模になるで。」
「ひのりの命をお前の道楽に付き合わすんじゃねぇ!ふざけやがって!」
「(だから大チャンスあげてんねんけどなぁ。お仲間助けたいんとちゃうん?だったら俺のこのボマーゲーム。解いてみい。)」
「待て。デッドライン。やる前に豊花の無事を確認させてくれ。」
「(ええで。)」
電話の向こうでひのりの声が聞こえる。
「(ごめん!あたしが捕まっちゃったせいで…本当にごめん…。みんなは怪我とか無い?)」
「大丈夫だ。芥丸も二降先輩も空乃先輩も怪我はない。医雀先生も今地図で場所を調べてくれてるよ。」
「(よかったぁ。あの時はかなりの爆発だったから心配したよ…本当によかった。)」
「豊花さん。私、二降よ。心配しなくていいわ。絶対に貴方を助けるから今は自分の身を第一に考えて。」
今にも助けを求めたい、不安でどうしようもないはずなのに、こんなときにも豊花ひのりは豊花ひのりだった。
声だけは気丈に振舞って、助けての前に謝罪と他者への心配が先に出てくる。こんな人間はまずいない。だから、絶対に助け出す。そう彼らは誓う。
そしてしばらくして、通話は切れた。
「さて、豊花を救うためにこの3つのポイントのうちどこに行くかだな。」
医雀が地図と眉間の皺を広げながら言った。
「そのためにはデッドラインの異能を見極めることが鍵でしょう。3つのポイントはかなり離れていて、公共交通機関を使っても移動に1時間はかかります。爆弾を取り除く時間も入れると、場所を行き来する場合、間に合いません。」
「でも空乃先輩。あいつは目的地に異能持ちが5人以上がいることが条件だと言ってたっすよ。今ここにいる異能持ちは4人。人数が足りねぇ…。」
「大丈夫です。忘れていますよタイガー。彼女たちの存在を。」
「え…あ!そうか元・鋏屋の!」
空乃は軽く頷き、通話中にしておいたスマホを地図の上に置く。
「(やぁ。話は聞いていたよ。元鋏屋リーダーのキャップこと、阿世町古毬だ。)」
「(同じくレンズこと、音乞レイ。よろしくね。あ、この間は暴力振るっちゃってごめんね赤髪くん。)」
「いや全然気にしてないぞ。お互い様だぜ。こっちこそケガさせて悪かったな。でも今はめちゃくちゃ頼りになるな。また会えて嬉しいぜ。」
「古毬さん。あなたを入れて5人になりますので、場所が絞り込めたら現地で落ち合いましょう。レイさんはそのポイント付近で狙撃の準備をお願いします。」
「(了解。)」
そして二降が地図の上の3つの店にペンで赤い丸を付け、話し始める。
「人数問題はこれで解消したけれど、問題はデッドラインの異能の件ね。恐らくどこでも爆破できるような無差別な能力ではないはず。今までの爆破事故を洗い直しましょう。順番に貴金属店、中華料理店、ソフトクリーム専門店、コインランドリー、携帯ショップ。最も被害が大きかったのは携帯ショップ。だったわよね医雀先生。」
「あぁ。そうだな。」
共通点が絞り込めそうで絞り込めない。爆発の規模から絞り込めないか思案する。
そして30分経ったところ。
「…!医雀先生。私、分かった気がします。」
「何!?本当か砂海。」
「恐らく爆破が起こるのは、南西の旅島時計店です。」
空乃が、話を続ける。
「最も被害が大きかった携帯ショップ。そして聞いたところ一番被害が抑えられたといえる中華料理店。
この二つの爆破の差こそ、時間を知らせるものの数なんです。携帯電話は時計代わりに使える。
だから様々な携帯電話を一斉に爆破できる携帯ショップは被害が大きかった。今回の爆破は今までで最大の規模になると言っていたのも爆破させる火薬の数が一番多いからでしょう。
そして被害が少ない、中華料理店やソフトクリーム専門店ですが、その爆発物は昨日デッドラインも投げていました。」
「ん?確かに何か上に投げてたっすけど…。空乃先輩まさかそれって!」
「そう。昨日デッドラインが投げていたのは、キッチンタイマーだったんです。飲食店ならないはずがないですよね。」
空乃の推理では、恐らく遠隔で爆破させるにはそれを視認する必要がある。だから詠の前に姿を現したときはソフトクリーム専門店の近くにいた。ということだった。
「決まりね。じゃあ皆で時計店に行きましょう。今が20時24分だからあまり時間はないわ。」
「二降。お前ら。今回は俺も一緒に行かせてくれ。」
同行を申し出たのは、医雀だった。
「医雀先生。気持ちはありがたいですが、今回の相手は劇毒。危険極まりないです。」
「あぁ分かってるよ。ありがとな。お前らの邪魔にはならねぇようにする。どの口が言うんだって思うかもしれないけどよ。今度は生徒の命がかかってる。俺は教師だ。生徒が行くのに遠くで腰を下ろしてるわけにはいかねぇよ。今回ばかりはな。いいだろ二降?」
「狡い言い方ね。凍らせてでも止めたらこっちが悪者扱いじゃない。」
「狡猾、誘導。これが大人のやり方だぜ?異能がなくたってそうやって戦えるんだよ。お前らを守れない理由にはならねぇ。」
医雀は歯並びのいい歯を二降に見せつけるように笑った。
「…。」
「ん?どうしたヨミ。さっきからずっと黙ってるけど。」
「(空乃先輩の推論は確かに正しい。恐らく豊花とデッドラインが居るのは時計店であることに間違いはないはず。
だけど本当に…?本当に時計を爆破するのが奴の能力なのか?この違和感を見逃してしまったら、取り返しのつかないことになる気がする…!)」
「おーいヨミ?行くぞ?」
「え?あぁ。行こう芥丸。」
こうして違和感を残したまま、詠、二降、芥丸、空乃、医雀、阿世町は旅島時計店に向かった。
道中に誰が、何が待っているのか。それも知らずに。




