ボマー・ゲーム3
二章 男女歩けば、異能に当たる。
夏休み初日。燦燦と降り注ぐ太陽の真下に天札詠は居た。
「(デッドラインが起こしているっていう爆破事件のことも調べないといけないけど、デートなんてしていていいのか…?というかオレ、そもそもデートなんて一度もしたことないんだよなぁ)」
普段愛用している黒のミリタリージャケットは、こういった天気の時は暑すぎて使えないのが難点。
流石にパーカーだけというのも忍びないので、簡単に白いTシャツにワイド丈のデニム、ネックレスでまとめてみた。というかそれしか無かった。
少し日陰に入りたくて屋根のある店先に入ると、数分後にこちらに赤いフレームの眼鏡女子が近づいてきた。
「お待たせしました。早いですね詠くん。まだ15分前ですが。」
現れた空乃は、黒のあまり露出のないシースルーに、白とカーキが混ざったような色のマーメイドスカートに涼しげなベージュのパンプス。首には猫のイラストが描かれた鈴がついたチョーカーを付けていた。
「どうですか?」
「えーと…どう、とは?」
「恰好です。こういうときは何らかの賛辞を女性に贈るものですよ。」
「あー、似合ってて綺麗…だと思います。空乃先輩。」
「ふふっ…嬉しいものですね。可愛いと言ってくれたら満点だったのですが良しとしましょう。さぁ行きましょうか。」
「はい。」
詠と空乃は並んで近くのショッピングモールまで歩きだす。
あの日、詠は別に空乃と付き合ったわけではない。
空乃から急に告白(?)された詠は流石に今の状況で答えを出すのは難しいと言い、ならせめてもの妥協案としてデートに誘われたのだった。
そしてそれを見つめる影が二つ。
「グッジョブです…空乃先輩!いい感じですよ~。あたしの見立てでは天札君は確実に空乃先輩にギャップ萌えを感じ、今まさに照れてるっ。」
「ひのり。もしかして空乃先輩の今日の服装って…」
「そうだよ芥丸君!私、豊花ひのりプロデュースのコーディネートですとも!空乃先輩ってば全然私服持ってないんだもん。だからあたしのを貸してあげたんだ。」
芥丸とひのりはあの二人の行く末が気になってしょうがなかったので、二人で様子を伺うことにしていたのだった。詠と空乃はもちろん知るはずもない。
「…なるほど、そういうことだったのね。」
「そうなんだよ~。って二降先輩!?なんであたしの後ろに!?爆破事件について調べるはずじゃ…。」
「医雀先生に言われて、街に出て様子を見てくるように言われたのよ。あの女…天札君を誑かそうとして何を考えているの…!事と次第によってはどうしてくれようかしら…。二人には悪いけれど私は今、冷静さを欠こうとしているわ…。」
二降から立ち込める怒りの冷気が、足元を凍り付かせていく。
「ちょっとストップストップ!先輩クールキャラでしょ!冷やすなら頭にしてくださいよ!白昼堂々異能使うのはヤバいっ!ひのり頼むっ!」
ひのりの異次元毛布で
二降の吹雪く花弁を包み込んで、なんとか事なきを得た。ギリギリ。今日はなかなかの炎天下だが、芥丸・ひのり両名の肝は対照的に冷えまくっていた。
「少しは落ち着きました?二降先輩。ってあれ?天札君たちがいないよ!!」
「やっべいつの間に!ほら二降先輩行きましょう!もう異能使うのは、なしっすよ!」
「~っ!猛省しているわ。行きましょう。」
「(なぜ、こんなに空乃さんに対して気持ちが逆立つのかしら…。そして天札君にも。)」
「楽しすぎますね。次はあの店に行きましょう。甘いものが欲しくなってきました。」
「ぜぇ…。ぜぇ…。はい…。」
ランチは中華。その後は怒涛のペースで店を回り、このソフトクリーム専門店に辿り着いた。詠も楽しんではいたが、いかんせんデートド素人の詠には強行軍すぎた。注文の順番が回ってくるなり、空乃は即答でレモンとストロベリーのミックス。詠は迷った挙句、結局バニラにした。
空乃が早速ソフトクリームを口に入れる。
「うん、鼻に抜ける爽やかなレモンの風味がストロベリーの甘酸っぱさを引き立てて美味しいですね。ちょっとした冒険でしたが、この暑さの中で食べるにはベストマッチです。」
「空乃先輩、食レポ上手いですね。」
「ありがとうございます。あ、天札君のも一口下さい。」
「え、あ、ちょっと!」
そう言うと、詠の了解も得ずにバニラソフトクリームにかぶりついた。
「やはり王道です。流石はバニラ。」
「(こういう人が所謂、おもしれー女。ってやつなのか…。)」
そこでようやく追いついた二降ご一行がその瞬間を店の陰から目撃していた。二降は、というともう語彙を失って二人を睨み付けていた。
「………。」
「えっと、二降先輩目が怖すぎです。ほら、あたしたちもソフト食べましょ!」
「一番俯瞰で見てそうな人が、なんで一番ご乱心なんだよ…。」
「なんだか冷たいものを食べたこととは関係のない謎の寒気が…あ、空乃先輩。次はどうします?」
「もうすぐ16時ですか。色々調べ物もありますし、詠さんが良ければですがあと1,2件でお開きにしましょう。」
空乃は立ち上がって沈み始めの夕日を見ていた。日差しが眩しくてよく見えないが、空乃が詠の方を振り返って言う。
「詠さん、この前私が伝えたことですが実は」
背後で何かが大きく弾ける音がする。
爆発が、起こった。
悲鳴と共にたくさんの人が我先にと散っていく。椅子などはほとんどすべて倒れたままになっていた。
「また爆発…⁉しかも今度はオレたちがさっきまで居た店で⁉」
「やーっと見つけたで。」
ゆっくりと背の高い男がこちらに近づいてきた。薄いオレンジ色の髪が夕日に映える。
「ついに来ましたか…デッドライン!」
「デッドライン。あいつがか。」
あの時の埋葬傷奈と、同じくらいの凄まじい圧を詠は感じていた。それこそまともに相対すれば、正攻法ではとても勝ち目がないと肌で感じる。
「おっとデート中やったん?可愛えぇやん。もしかしてクノちゃんの横にいる子とその後ろにいる3人が鋏屋潰したっちゅー異能持ち集団か?いつの間にお友達になったんやな。呉越同舟とはマックスに胸アツやん。」
二降達のことにも気づいていた。隠れていても無意味と考え、物陰から3人を顔を出す。
「えっ…みんな来ていたのか!」
「えぇ。ちょっと天札君たちが気になっていたから。それより…。」
二降がデッドラインに鋭い眼光を向ける。
「貴方、どういうつもりなの!こんな町中で堂々と、周辺の人の被害も考えずに異能を使うなんて!貴方達はなぜその強大な力を、人を救うためじゃなく人を傷つけるためにしか使えないの⁉」
「はははっ!オモロイこと言うやん。知ってるやろ?力を知らん奴が何も知らずにこの事件に巻き込まれたところで、ただの不幸な出来事で片がつく。
ちゅーか、せっかく手に入れた力を自分のために使わない方がどうかしてるで。
世の中、聖人君子なんかおらんのや。蠍會のボスだってそう。
どうしようもない連中も吐いて捨てるほどいる中で、そんな奴らのためにも異能を使え?キミ、見た目は大人びているかもしれへんけど、考え方はてんで幼稚やな。浅はかや浅はか。」
「っ!」
デッドラインは二降の訴えを吐き捨てるように言った。その心無い言い草に怒りを覚えた詠が反論しようとすると、それより先に一歩前に出た者がいた。
「確かに鋏屋もそうでした。元のさそり園を取り戻すために面従腹背で行動し、それは叶わずあなたの異能でモグコさんを失い蠍會をクビになった。
さぞあなた方には浅はかに見えるでしょう。ですが私は信頼できる新たな仲間を得た。あなたの爆発の能力を解き明かすために調べながらあえてこのように目立つ行動を取った。だから今日この日のためにこうして」
「あなたをこの場所に誘導した。」
ドキュンッ!!!!
一発のライフルの弾が着弾した。
のは、巨漢のヘルメットの男の体だった。
「なっ…。」
「跳弾…は大丈夫でござるかデッドライン殿。」
「ふー。焦った~。マックスえぇタイミングやでグルメット。」
突如デッドラインの前に飛び込んできた巨漢のヘルメットの男には傷ひとつついていない。確かに弾は腹に着弾したのに、だ。
「(デッドライン殿の人材の適材適所力は素晴らしい。拙者の異能がこんなに輝いたのは久し振りでござる…。
自分らに降りかかる一切の外的要因を無効化し、加齢以外の要因から今のままの姿を保ち続ける異能山伏。ただ解除の方法が分からないせいで一切ダイエットが出来なくなってしまったのが痛恨の極みでござる!)」
「(噓でしょ…完全に着弾したのに…ごめん空乃!失敗した!)」
「(…いいんですレンズさ…いえレイさん。あなたはこれでポイントを移動してください。」」
隠し持っていたインカムでレンズ。本名、音乞レイに連絡するとその瞬間、
デッドラインが様々な種類の色をした板状の物体を宙にばら撒いた。
「さて、俺らの方も仕上げや。ボンッ♪」
デッドラインが指を鳴らすと、連続で爆風が吹き荒れる。凄まじい熱風と音の弾幕に全員、吹き飛ばされていく。
「うわああああああああああああっ!」
そのうち、ひのりも爆風で砂煙が待った中にいた。
「けほっ!けほっ!みんなっどこにいるのっ!?」
そのとき、背後からレッサーパンダとジャイアントパンダのパペットを両手にはめた女が、近づき、ひのりに囁いた。
「ごめんなさいです。お仕事なので。」
ひのりは急いで持っていた毛布を女に被せようとしたが、女の方のレッサーパンダの方の右手が先にひのりに触れた。
「気儘な踊り子…スイッチ!」
視界から女が消える。いや、一瞬で位置が入れ替わったのだと気づいたころにはもう遅かった。ひのりの異次元毛布が何もない空を切る。そして今度はジャイアントパンダの方の左手でひのりに触れる。
「気儘な踊り子エスケープ!」
また入れ替わりかと警戒したが、今度はそもそも女の姿が消えていた。が、代わりに砂煙の向こうから伸びてきたのは男の腕、デッドラインの腕だった。
「ズーティアちゃんナーイス。さぁ捕まえたで。」
「っ…痛っ!」
ひのりを片手で抱え込んだデッドラインは大きくのけ反った。先ほどまで居たところに氷の刀が二つ入る。
「おっとぉ。」
「くそっ!豊花!今助ける!」
「キミなかなか筋ええな。名前は?」
「天札詠。別に覚えてもらわなくてもいいけどな。」
「いや覚えとくで。特殊異能系はボス以外にはあんまり聞いたことないからなぁ。さっきも急に俺の足元の摩擦が強なったり、急にキミの速度が速くなったり、おかげで真っ二つにされるところやったわ。」
「(!?見抜かれた…?今の一連の流れで!?)」
「あ、そんでもって、足元注意や。」
「なっ!?さっきばら撒いてたのがまだ残っ」
それは、勢いよく爆裂した。追撃とばかりに吹き飛ばされる詠に対して、殴打。そして壁側に押し付けて首を片手で締める。
それは瞬く間の制圧だった。
「天札くんっっ!」
「が……っ」
「複数の異能を扱える異能。これは新種やな。マックス気に入ったで。どうやキミ蠍會で働いてみいひん?」
「ふっ…ざけんな!オレは…この異能でオレと向き合ってくれた人を…守って、蠍會と戦うっていうレールに乗ってんだよ…!」
「窮屈でストイックやなぁ。息が詰まりそうやわ。」
「お前こそ…なんでこんなことやってるんだよ…。」
「そんなもん…楽しいからに決まってるやろ。」
「…は?」
心底嬉しそうに、デッドラインは答えた。
「血も涙もないだの、なぜ人のために異能を使わないのかだの、よう言われるわ。
でもそれはお前らの世界の理屈やろ。俺は自分に与えられた能力が大好きなんや。さっきまでそこに存在していたものが跡形もなくぶっ壊れる!
俺の深層心理が反映され、それがまさに目の前で行われる高揚感!異能での支配っちゅう蠍會の基本方針には同意してるけどなぁ。これだけは、この体験だけは俺だけのマックスや。」
目の前にいるこの男は一体何を言っているのか。詠には全く理解できなかった。今までの蠍會からの刺客は皆、人間性か目的があった。あの埋葬傷奈だってなんとなく理解できるような点がないわけではない。
だがこの男からはそのどちらも、まるで感じられない。自分の理解が及ばない怪物。この男はダメだと本能的に分かる。一つでも共感してしまったら自分自身も何かドス黒いものに飲み込まれてしまいそうになる。
この男を…知ってはいけない。
詠の意識はそこで途切れた。




