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VS鋏屋(シザー)5

5章 解氷。炎天。志を結んで。 

鋏屋シザーの件から1週五章間後、詠達のケガもあり、しばらく異能研究部は本格的な活動をしていなかったがようやく諸々が落ち着いたため、いつもの巾離高校の地下一階の部室に集まることになった。芥丸とひのりに感謝を直接伝えたがっていた二降は相当そわそわしていたが、今日この日、ようやくその機会が訪れる運びとなった。


「遅くなってしまったけれど、本当にありがとう二人とも。感謝するわ。これからも、異能研究部として一緒に頑張りましょう。」


「当然っすよ!これからもこの芥丸大我にお任せください!」

「もぉ。芥丸君調子に乗りすぎー。あたしはあたしでやれることを頑張ります!」


詠と医雀はそれを微笑ましそうに眺めていた。

「あれ?そういや医雀先生はその時、何をやってたんだ?ケガの手当てとかしてくれたのは感謝してますけども。」

芥丸がふとそんなことを言った。


「俺か?お前らがいつ帰ってきてもいいように包帯とか、薬とか色んなものを学校の備品からパクって…じゃなかった。用意してたり、蠍會の動向や組織のデータなんかをなんとか探してたりとかだな。悪いな。お前らみたいに俺も戦えたらいいんだが。」


「あ、いやいいんですよ。すんません。そんなつもりで言ったわけじゃないんすよ。」


「えぇ。医雀先生にはいつも助けられているわ。医雀先生が居なかったらこの異能研究部は存在すらしていなかったのだし。」

「えっそうなんですか?あ!それってこの前に医雀先生が言っていた話…。」


「皆、先生から聞いているようね。私からも説明させてほしいの。私が元は蠍會に居たという話は聞いているのよね。」

全員が頷く。信用に足る、このメンバーと共に戦っていきたいと判断出来たのなら自分の代わりに打ち明けてほしい。そう事前に医雀とは話を付けていた。そして今回は自分から打ち明けるべきだろう。そう二降は思っていた。


二降は夏空の炎天下の中、自らの秘密を打ち明けた。



「私が異能ミステルに目覚めたのは中学3年の頃、同じく異能ミステルに目覚めたクラスメイト。当時の親友に襲われたときよ。」


「!?」


異能ミステルに目覚めてまだ間もない。要するにハイになっていたのだけれど、私に勝つことが出来ないと知ると、特別な力を手に入れたはずなのにそれでも惨めに這いつくばる自分に絶望し、精神錯乱状態になった。その後彼女がどうなったのかは分からない。

当時は本当にパニックだったわ。望まず得た力をどう使うのかを誰にも相談できず、ただ自分だけで考えようとした。自らを焦がすような気持ちの悪い全能感が私の中に取り巻いていたの。そんな頃よ。蠍會からスカウトが来たのは。私は押しつぶされそうな不安の中、今の状況を変えるために蠍會に入った。」


部員たちはただ、二降の話を黙って聞いていた。ひのりの方からは鼻をすする音が聞こえてくる。


「そこには自分と同じく異能ミステルに目覚めてしまった人たちが他にもいた。その力を正しい方向へ使って世界を変えようと息巻いていたわ。実際異能ミステルを使って、犯罪者と思わしき人間に制裁を加えたり、それを正義の鉄槌だと称している人も多くいた。今思うとそれはとても扇動的で危険な思想だった。私刑は必ず軋轢を生む。正義の名の元に、人間としての理性のブレーキが徐々に緩み始めていくの。


私はそんな状況が怖くなって蠍會を辞めた。ヒエルという蠍會から与えられたコードネームも捨て随分遠くの学校、ここに転校したけれど、蠍會はここを特定しあの【氷河の夜】の出来事が起きてしまった。」



「でも悲惨なことばかりではなかったわ。いつものように自分のクラスがある2階で異能ミステルの訓練をしていると、偶然居合わせた医雀先生に見つかってしまったの。あの日の貴方達のようにね。」


「そうだったのか…。それで医雀先生と協力関係になったんですね。」


「えぇ。医雀先生は今まで会ってきた大人とは少し違った。先生自身も異能ミステル自体は私と出会うまで知らなかったものの、過去にそれ絡みの事件に遭遇していたの。」


自分の話をされている医雀は顎髭に手を当てながら、あまり見せない真剣な顔つきで黙って聞いていた。


「私たちはそこで対蠍會の組織、異能研究部を発足し、誰にも見つからない地下室を医雀先生が改造して部室という名の拠点にした。そして…貴方達と出会えた。今に至るわ。」


二降は途中、過去の経験を思い出し表情を曇らせながらもそれでも伝えた。それでも伝えたい仲間を得ることが出来たから。話し終えた二降は雲一つない夏空のような晴れ晴れとした顔をしていた。


「ぐすっ…二降先輩にそんなことがあったなんて…でもこれからはあたしが二降先輩を守りますからねっ!」

「ありがとう、豊花さん。私もあなたを守れるようにもっと強くなるわ。」


「…俺達も頑張ろうぜヨミ。」

芥丸が赤い髪をぐしゃっとしてから、右手をグーにしてこちらに向けてくる。

「あぁ。そうだな。期待には応えたい。それが心を許された奴の責務だからな。」

詠がグーでそれに応じた。



「(グラト。俺たちは改めて一つになった。いつかお前と一緒に、お前のことを紹介させてくれよ。待ってるからな。)」

詠はここにいない靄と口だけの化け物のために、彼にしか届かないエールを送った。


「全く、若人の成長は早いな。おっさんにはお前らの全力青春は眩しすぎるわ。」

医雀は遠い目をしながら、だが羨ましそうに、嬉しそうにぼやいた。二降の表情は初めて会ったときの、医雀が対面した[氷河の夜]と比べてもかなり穏やかになっている。

医雀の他にも理解者が現れ、真に通じ合える仲間ができた。それがたまらなく嬉しかった。

ここから少年少女が何を学び、何を得て何を失うのか。それを大人として、見守っていきたい。心からそう思った。


「ところで、話が変わるんだけどよ。鋏屋シザーの奴らって一体、どうなったんだろうな。」

芥丸がふと思い出してそんなことを言った。

「あの時は3人とも目の前で逃がしちまったからな。またオレたちの前に姿を現すかもしれないな。」


「そうね。この一週間、彼女たちも牙を研いでいることは間違いないわ。傷が癒え次第襲い掛かってくるかも…」

「いや…オレはその可能性はあまりないかもしれないと思ってます。」

「え?」

「あいつらが言っていた言葉、さそり園でしたっけ。あの頃を取り戻したいけど、もうあの頃には戻れない。って感じでした。[氷河の夜]に襲ってきた二人組と、鋏屋シザーは違うと思うんです。二降先輩と同じようにやり方に不満を覚えている人間もいる。蠍會全体を通して一枚岩かと言うとそうじゃないと思うんです。」


「でも、天札くん…。」

「あぁ。豊花の心配も分かるよ。埋葬傷奈、アイツみたいな危険な奴ももちろん多い。特にアイツとは、オレが決着をつけないといけない気がするんだ。」

[氷河の夜]のあの日、全てが始まったあの日、埋葬傷奈に天札詠の命は奪われた。でもグラトが救ってくれた。結果だけを見ればそう言える。


[…本当に…好きだなあ。ヨミ君。]

だが埋葬傷奈のあの時の言動といい、何か彼女のことを考えると胸がザワつくような、不確かな第六感が騒ぎだしてしまう。



先ほどから、医雀がなにやら座っている椅子の後ろでビニール袋をゴソゴソしているかと思えば、人数分の棒アイスやお菓子、炭酸ジュースを出してきた。

「よし、お前ら!今日はとりあえずここまで!こっからは決起会&祝勝会だ!さぁ飲み食いしろぉ!」


「わぁい!医雀先生ありがとうございただきまーす!」

「豊花…待ちきれず略したな。」

「まぁいいじゃんすか医雀先生!俺もいただくぜ!アイスはコーラ味もらいっ!」

「私、炭酸飲料飲めないのだけれど…。じゃあ私はこっちのコーヒー味のクッキーを。」

「あ、それ美味しそうですね。俺もクッキー貰おうかな。」



彼らにとって出会いと別れの、暑い夏が始まった。







終章 奏でるレクイМ 愚行と呼ぶ勿れ。

一縷の望みをかけてここへ辿り着いた。が、鋏屋シザーの拠点は既に破壊されていた。苦楽を共にしてきたあの場所はもう、存在しない。バーカウンターの角の壊れた破片が外にまで投げ出されていた。


¨致死毒¨のデッドライン襲撃から2時間半、強い雨脚の中、3人の少女が力なく踵を返して歩く。目的地に向かっているというよりは、途方もなく彷徨っているというべきか。


「…モグコ。」

「キャップさん、少しは落ち着きましたか。」

「クノ…あの時はすまなかった。あの時は奴への怒りで我を忘れていた。危うくボクたち全員が消し炭にされていたかもしれない。それだけのことをしてしまった。剪定の仕事をしながらいつかさそり園が蠍會になってしまった理由を突き止める。だが奴の言う通り、見抜かれて遅かれ早かれこうなる運命だったのか…。蠍會でのボクたちの居場所はもうない。ボクはリーダー失格だ…。」


「キャップ…。」

レンズはそれ以上何も言えなかった。何をどう言えばいいのか、そんなことないよ。と

いうのは逆効果な気がした。

「君の方がよっぽどリーダーに向いているよクノ。あの場面ですぐに脱出する手立てを考え、実行し成功して見せた。本当にありがとう。」

「いえ。不謹慎かもしれませんが、私はあの時キャップさんが本気で怒りを見せたことに対してやはりこの人がリーダーでよかったと思っています。」

「どうしてだい…?有事の際に感情が爆発してしまったし、ボクには異能ミステル的に、守ることはできても戦うことが出来ないんだよ?」



「それですよ。私はその感情の変化に乏しい。だから私は私が嫌いです。モグコさんが爆発に巻き込まれたとき、私はどうやってこの場から切り抜けるかを一番に考えていました。私は人の心を置いてきてしまったようです。

家族のように育ったのに、私達はお互いのフルネームも知りません。キャップさんの名前はデッドラインとの通話の時に初めて知りました。」


「私も…。デッドラインに、首ったけ(スコーパー)でデッドラインの動向を左目に映しながら無事を確認しながらここまで来た。モグコってコードネームを付けたのは私なのに、私って薄情だったんだなぁ。だからキャップは一番人間味があるんだよ。」


「みんな…。うぅっ…。くっ…。」

クノとレンズの言葉に、キャップは紫のキャスケットを深くかぶりながら、ただ泣いていた。大雨の中でもそれだけは分かった。


「そして私は一つ決めたことがあります。聞いてもらえますか、キャップさん、レンズさん。」

二人は大きく頷く。


「これからの目標はシンプルです。たとえどんなことが起きても、どんな手を使ってでも、そして修羅に落ちてでも」






「デッドラインを、殺します。」




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