6話:白熱!ラクダレース
プリティダービー、開幕……!
砂漠の小さな村に立ち寄ったある日、奴隷商人はいつになく上機嫌でカリムとナディールに告げた。
「おい、お前たち。今日は特別な日だ!
この村でラクダレースが開かれるんだよ。
俺たちも参加するぞ!」
ラクダレースは砂漠の民たちにとって一大イベントだった。
騎手たちが自慢のラクダに乗り、砂漠の広大な風景を駆け抜ける。
それぞれのテクニックとラクダの速さを競い、誰が一番になるかを決めるレースだ。
観客たちは歓声を上げ、村全体が熱気に包まれていた。
「もちろん騎手はお前だ、カリム。
俺のために一等を取ってこい!」
奴隷商人はカリムを指差して笑った。
カリムは驚きつつも、次第にその挑戦を受け入れる決意を固めた。
「ラクダレースか……面白そうだな。
でも、レースで勝ったことなんて一度もないけど、大丈夫かな?」
カリムは自分に不安を感じながらも、ナディールの期待のこもった眼差しに背中を押された。
「カリムならできるよ!
君は僕が知っている中で一番頑張り屋だもの。
絶対に勝てるって信じてる」
ナディールの励ましに、カリムはやる気が湧いてきた。
「よし、やってみるか。
俺たちの力を見せてやる!」
****
レースの始まる時間が近づくと、村の広場には大勢の観客が集まり、騒がしい歓声が響きはじめた。
カリムは与えられたラクダに乗り込み、周囲の騎手たちを見渡す。
相手は屈強そうな男たちばかり。
経験豊富な騎手たちが揃っているようだった。
カリムの不安が少し膨らむ。
しかし、ナディールの声援が彼を支えていた。
「頑張って、カリム! 君ならできる!」
奴隷商人はその一方で、観客席から大声で檄を飛ばしていた。
「いいか、カリム!
もし負けたら、お前を売り飛ばしてやるからな!
俺の期待に応えろ!」
その言葉はカリムのプレッシャーを一層強めたが、彼は拳を握り締めて前を向いた。
「負けるわけにはいかない……。
家族のため、ナディールのため、そして俺自身のために勝つんだ!」
スタートの合図が響き、ラクダレースが始まった。
砂漠の広大なコースをラクダたちが一斉に駆け出す。
序盤、カリムは見事にリードを奪い、風を切って進んでいた。
「やった、カリム!
今のところ一番だよ!」
ナディールの喜ぶ声が風に乗って届く。
カリムはその声を力に変え、さらに速度を上げた。
しかし、そんな彼の前に思わぬ展開が待ち受けていた。
ライバルたちはグルだった。
カリムがリードしていることに気づいた一人の騎手が、他の騎手たちとアイコンタクトを交わし、作戦を決行した。
彼らは協力してカリムのラクダを取り囲み、徐々にスピードを落とそうとする。
「何だ、こいつら……!」
カリムは囲まれ、思うように進むことができなくなった。
前方では一人の騎手がスピードを上げ、他の騎手たちがカリムを妨害する間に逃げようとしていた。
「くそっ、こんなの不公平だ!」
カリムは悔しさを滲ませるが、周りを囲む騎手たちは狡猾に彼の進路を遮り続けた。
観客席からは奴隷商人の怒号が響く。
「何やってるんだ、カリム!
さっさと抜け出せ!
負けたら本当に売り飛ばしてやるぞ!」
その声がカリムをさらに焦らせる。
しかし、ナディールの目は違った。
彼はカリムの窮地を見て、精霊の力を使って彼を助けるべきか迷い始めた。
手をかざせば、風を操ってカリムの進路をクリアにできるかもしれない。
だが、同時に彼は、カリム自身の力を信じたいという気持ちもあった。
「カリム……君ならきっと、
自分の力でこの状況を乗り越えられるはずだ」
ナディールは手を下ろし、精霊の力を使うことを思いとどまった。
カリムがどうやって困難を切り抜けるか、彼の努力を信じて見守ることにした。
カリムは歯を食いしばり、囲まれている状況の中で冷静に次の手を考えた。
「ここで諦めるわけにはいかない。
少しずつでも、抜け出すんだ……!」
カリムはラクダを巧みに操作し、囲む騎手たちの隙をついて徐々に進路を開けていった。
一頭ずつライバルのラクダをかわし、狭い砂の道を抜け出そうとする。
「今だ……!」
カリムは全身の力を込めて手綱を引き、見事に一頭のライバルを追い越した。
続いて二頭目、そして三頭目……カリムのテクニックと根性が次第に実を結び、レースは終盤に差し掛かった。
「行け、カリム!」
ナディールはその姿に声援を送る。
そしてついに、カリムは最後の一頭を抜き去り、再びトップに躍り出た。
観客たちが歓声を上げる中、カリムは満身創痍ながらもゴールラインを駆け抜けた。
「やった……勝った……!」
カリムは息を切らしながらも、達成感に満たされていた。
彼の体は汗でびしょ濡れになり、疲労が全身を包んでいた。
そして、その顔には誇らしい笑みが浮かんでいた。
****
ナディールは大喜びでカリムに駆け寄り、彼に抱きついた。
「すごい、すごかったよカリム!
君は本当にすごいよ!」
カリムは笑いながら、ナディールの背中を軽く叩いた。
「ありがとう、ナディール。
君が信じてくれたから、俺は最後まで諦めずに頑張れたんだ」
その時、奴隷商人も大声を上げてカリムに近づいてきた。
「お前、やるじゃないか!
本当に勝ちやがったな!
今日は上等な酒でも飲ませてやる!」
奴隷商人は珍しく上機嫌で、カリムを労った。
カリムは疲れきっていたが、勝利の喜びがその全てを忘れさせていた。
「いや本当に……よくやった、カリム。
お前は期待以上の奴隷だ。
俺のためにまた頑張ってくれよな」
奴隷商人は笑いながら去っていった。
勝っても負けても、結局はいつも通りのようだ。
しかしカリムとナディールはお互いに微笑み合い、静かに喜びを分かち合っていた。
「これでまた一歩、自由に近づいたかもな」
カリムはそう言い、共に戦い抜いたラクダを撫でた。
彼らは勝利の余韻に浸りながら、また明日へと心を向けるのだった。
【続く】
ラクダ、頑張った……!