表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

4話:家族

奴隷人生、考えさせるん……!

ある日の午後、奴隷商人の一行はオアシスで休憩を取ることにした。

砂漠の風を感じながら、カリムは一人で井戸のそばに座る。

炎天下の労働の疲れを少しでも癒やすべく、彼はひと息つき、水を飲む。


するとふと、背後から軽い足音が近づいてくるのに気づいた。

ナディールだった。

彼はカリムの隣に腰を下ろし、静かに言った。


「疲れた? あまり無理しないでね、カリム」


ナディールは優しい声でカリムに話しかけ、彼の顔を覗き込む。

カリムは微笑みを浮かべ、軽く首を振った。


「大丈夫さ、これくらいの仕事、慣れてるよ。

でも、君が心配してくれるのは嬉しいな」


二人はしばらく静かに風の音を聞いていた。

ナディールは、ずっと気になっていたことをカリムに尋ねた。


「カリム、君って……どうしてあんなところにいたの?」


「あんなところ?」


「初めて会った時」


「ああ、あれは……」


カリムは返答を考えた。

素直に全て話せば、ナディールにいらぬ心配をかけてしまう。

とはいえ、嘘を作る気にもならなかった。

しばらく考えてカリムが話し始めたのは、根本的なところだった。


「俺の家族は、隣国の小さな部族に住んでいるんだ。

貧しいけれど、誇り高い部族でね。

でも、俺たちの暮らしは本当に苦しくてさ……

俺は何とか家族を裕福にしてやりたかったんだ。

それで、この国に来て、金を稼ごうと思ったんだよ」


ナディールはじっとカリムの話に耳を傾ける。


「家族のために……それで、なんであんなところに?」


「見積もりが甘かった。

旅の途中で金が尽きて、誰も助けてくれなくなったのさ。

ただそれだけだよ」


嘘か本当か、少し怪しいラインを踏みつつも。


「だけど、あんなとこでくたばる気はなかった。

俺は、家族を養うためならどんな仕事でもする覚悟で出てきたんだ。

だからここでも前向きにやれてると思うよ。

実際そうじゃない? どう?」


「……そうだね。

最初はちょっと抵抗してたけど」


「毛深い旦那様のすね毛処理からとはな!

抵抗ってより驚いただけだよ。

褒められたし」


「うん、褒められてたね」


うん、うん……と、ナディールは頷く。


「そっか……家族が、君を待ってるんだ」


ナディールが言うと、カリムは遠くの地平線を見つめながら微笑んだ。


「そうだな……

俺には弟と妹がいて、いつも俺の帰りを待ってくれてる。

俺が家に帰る日が来たら、

たくさんの贈り物を持って帰ってやりたいと思ってるんだ。

裕福な暮らしをさせてやるのが、俺の夢なんだよ」


カリムは単に生きるために働いているのではない。

家族への強い愛情と責任感を抱いているのだ。

それが彼をここまで強くさせているのだと、ナディールは感じた。


「カリム……君って本当に優しいんだね。

家族のためだから、こんなに頑張れてるんだ」


ナディールの微笑みに、カリムは少し照れくさそうに肩をすくめた。


「いや、優しいなんて言えるほどのもんじゃないさ。

ただ、家族のことを思うと、何もかも乗り越えられる気がする。

家族のためなら、どんなことでもやれるって思ってる」


「ふふっ、それはすごい魔法だ」


奴隷商人の声が聞こえる。

そろそろ休憩が終わるようだ。


「カリム。僕も、何かできることがあったら力になりたい。

君が家族に会える日を、少しでも早く迎えられるように」


ナディールの言葉に、カリムは驚いたように彼を見つめた。

その目には、ナディールの純粋な気持ちがはっきりと映っていた。


「……ありがとう、ナディール。

でも、無理はしないでくれ。

君がそばにいてくれるだけで、俺は十分に救われてるよ」


尻を叩きながらカリムは立ち上がる。

体力的にも精神的にも、すっかり回復していた。


「いつか必ず、俺は自由になって家族のもとに帰る。

そして、君にもその日が来るまで一緒にいてほしいんだ」


カリムはそう言い、ナディールの頭を軽く撫でた。


家族は、今どうしているだろう。

あの盗賊たちは、今度は誰に絡んでいるだろう。

色々なことを考えていた気がするが、ナディールと一緒にいると、彼のことばかり考えてしまう。

それは、ナディールが精霊だからだろうか?

それとも、もっと別の人間的な理由から?

原因はわからなかったが、確かに言えることがカリムにはあった。

ナディールと一緒にいれば、新しい未来を切り開けるかもしれない。

そんな希望が、心の奥底で確かに鼓動しているのだった。


【続く】

家族、大切……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ