2話:都市の洗礼
カリム、どうなる……!
「貴重な品物が見つかれば……」
カリムは市場を注意深く観察した。
中には遠方から運ばれてきた宝石や香料、砂漠特有の珍しい動物たちが並べられている。
それらは高価なものであり、一攫千金の夢を抱く者たちにとっては魅力的な品々だった。
しかし、カリムの手持ちでは到底手に入らない。
「どうすれば……」
ため息をつきながらも、カリムは諦めることなく市場を歩き続ける。
考えながら歩き続けたので、彼はやがて人通りの少ない路地にまで来た。
見渡す限りの範囲にある露店はどれもやる気がなく、思わぬ掘り出し物を発見!
……できるような気配すら感じない。
人通りの多い場所に戻ろう。
そう考えた矢先、カリムは背後から不吉な気配を感じた。
ゆっくりと振り返る。
「……俺に何か用か?」
そこには、カリムを鋭い目で睨みつける数人の男が立っていた。
彼らの身なりはお世辞にも善良な一般国民とは言い難く、おまけに武器をちらつかせている。
「用って? オレらが? なんで!」
「あんたが先に声かけてきたんだろうが、兄ちゃんよぉ」
おまけのおまけに言葉まで荒っぽい。
カリムはついさっき聞いた噂話を思い出し、げんなりした。
「……もう一回聞く。俺に何か用か?
昨今このアサイルをお騒がせなさっている盗賊団の皆々様方」
盗賊たちはゆっくりと歩み寄り、カリムを囲み始める。
カリムに逃げ場はない。
周りの人々も、知らんぷりか野次馬ばかりだ。
「小僧、ここで何をしているんだ?
この市場は俺たちの縄張りだ。
お前のような貧乏人が入っていい場所じゃない」
リーダー格の盗賊が冷たく言い放つ。
カリムは怯えることなく、しっかりと相手の目を見据えた。
「買い物に来ただけだよ。
こんな貧乏人にも何かお恵みはないもんかなと思ってね。
もちろん、盗みはしない。
あんたたちと違って、俺は心までは貧しくないんでね」
その言葉に、盗賊たちは一瞬だけ静まり返った。
しかし次の瞬間、大声で笑い出す。
「ハハハ!
ここでお前が買えるものなんて、せいぜい砂粒くらいだぜ!」
盗賊たちはカリムを嘲笑しながら、彼を取り囲んでいる輪を徐々に狭めていった。
カリムは身構えた。
ここで逃げるわけにはいかない。
しかし、盗賊たちは圧倒的な数であり、武器を手にしている。
カリムは拳を握りしめ、何とか突破口を探そうとした。
「……くそっ!」
盗賊の一人がカリムに飛びかかってきた。
カリムは咄嗟に身をかわし、砂地に転がる。
彼の体は長旅で疲弊しており、盗賊たちの攻撃を受け流すのは困難だった。
それでもカリムは家族の顔を思い浮かべ、負けるわけにはいかないと自分に言い聞かせる。
「根性だけは一人前だってとこ、見せてやるぜ!
うおおおおおおおお!!」
****
意識を取り戻したとき、カリムは砂漠に倒れ込んでいた。
力の限り奮闘したが、盗賊たちの数に押され、ついに身ぐるみを剥がされてしまったのだ。
衣服や持ち物はすべて盗賊たちの手に渡り、カリムの体は砂で覆われている。
わざわざ街からここまで、カリムを捨てるために運んできたらしい。
「じゃあな、貧乏人。
二度と戻ってくるんじゃねえぞ」
そう言い残して、盗賊たちは去っていった。
カリムは一人、広大な砂漠の真ん中に取り残された。
しかし、彼の顔には不思議と笑みが浮かんでいた。
「……これくらいじゃ、負けないさ。
俺には大事な家族がいるんだからな」
カリムは小さく呟き、笑みを浮かべたまま空を見上げる。
彼はその逆境さえも楽しんでいるように見えた。
【続く】
カリム、一文無し……!