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12話:王の企み

悪い王様、始動……!

砂漠の都アサイルは、カリムとナディールの活躍によってかつてない繁栄を遂げていた。

盗賊たちは撃退され、周辺の部族も和平を申し出てきた。

人々は二人を英雄として称え、王もまた彼らに厚い信頼を寄せているように見えた。


しかし王宮の奥深くでは、別の思惑が蠢いていた。

王は玉座に座り、眼前に広げられた地図をじっと見つめている。

その瞳には、隣国への野心が燃え盛っていた。


「カリムとナディールを利用すれば、我が国は砂漠全土を支配できる……」


王はそう呟き、冷たい笑みを浮かべた。

側近たちは不安そうに顔を見合わせたが、誰も王の意思に逆らうことはできなかった。


一方、カリムは宮廷での地位が急速に上がっていくことに戸惑いを感じていた。

任務は増え続け、その内容も次第に過激なものになっていった。

隣国の情報収集や軍備の強化、そして不穏な動きを見せる兵士たち。

カリムの胸には漠然とした不安が広がっていった。


****


ある夜、カリムはナディールと共に宮殿の庭園を歩いていた。

月明かりが二人を照らし、砂漠の夜風が静かに吹き抜ける。


「ナディール、最近の王の様子が気になるんだ。

何か大きなことを企んでいるように感じる……」


カリムがそう言うと、ナディールも深刻な表情で頷いた。


「僕も同じだよ。

王は僕の力を何度も求めてくるけど、その目的が見えなくて怖いんだ」


カリムは立ち止まり、ナディールの瞳を見つめた。


「もしかしたら、俺たちはただ……」


その時、遠くから足音が近づいてきた。

振り向くと、そこには王の側近が立っていた。

彼は無表情な顔で二人に告げた。


「王がお呼びです。

至急、玉座の間へお越しください」


****


玉座の間に入ると、王は既に待ち構えていた。

その表情は険しく、何かを決意したような目をしている。


「カリム、ナディール。

お前たちに新たな任務を与える」


王は地図を指し示しながら続けた。


「隣国への進軍を開始する。

お前たちの力で道を切り開け」


カリムは驚き、思わず声を上げた。


「王よ、それは戦争を始めるということですか?

私たちの目的は、国を守ることではなかったのですか?」


王は冷ややかな笑みを浮かべた。


「守るためには、攻めることも必要だ。

隣国は我々の繁栄を妬み、いずれ侵攻してくるだろう。

その前に我々が攻め入るのだ」


ナディールは不安そうにカリムの袖を掴んだ。


「カリム、これは良くないよ。

僕たちの力をそんなことに使うべきじゃない」


「ああ……全くだ」


カリムは王に向き直り、毅然とした態度で言い放つ。


「申し訳ありませんが、その任務はお受けできません。

私たちは人々を守るために力を使ってきました。

戦争に力を貸すことはできません」


「そうか……」


王の顔色は明らかな落胆の色を見せた。

そして一転、怒りに満ちた目で二人を睨みつける。


「ならば、お前たちは反逆者だ」


その言葉と同時に、王の周りに黒い霧が立ち込め始めた。

カリムは驚愕し、ナディールを守るように立ちはだかる。


「王よ、一体何を……」


王は冷笑を浮かべながら答えた。


「お前たちが力を使わないと言うのなら、私が使ってやる。

さあ……寄越せ!」


王はナディールに向けて手を伸ばした。

その手からは不気味なエネルギーが放たれ、ナディールの体を縛り付ける。


「なっ、なにこれ……カリム、カリム!」


「やめろ!

ナディールに手を出すな!」


カリムは必死に王に立ち向かおうとした。

だが、見えない力によって動きを封じられてしまう。


「くっ……なんだ、これは……!」


「くくく……はーっはっは!」


王はその様子を満足げに眺めると、懐から黄金の器を取り出した。


「精霊の力に干渉できるアイテムのひとつ――魔法のランプ。

眉唾ものだと思っていたが、取っておいて正解だったな。

まさか、本当に精霊などが存在したとは」


王はその言葉と共に、ナディールの力を吸収し始めた。

ナディールは苦痛に顔を歪め、叫び声を上げる。


「ぐっ、うううぅぅ……。

カリ、ム……助け……て……」


「人間の活躍にしては優秀すぎたな。

精霊はおとぎ話の存在と聞いていたが?

その男だけがなぜ特別なのか……まあ、今はそれもどうでもよい!」


「あっ、あああああっ……!」


カリムは何もできないまま、その光景を見つめるしかなかった。

ナディールの力を吸収するにつれて、王の体は異様な光を放ち始める。


「これが……これが精霊の力か!

素晴らしい!!

はははははははは!!!!」


王が狂喜乱舞すると、その力で玉座の間が崩壊し始めた。

壁は崩れ落ち、天井は吹き飛ばされ、宮殿は混乱の渦に巻き込まれてゆく。


「くそっ……!

ナディール、ナディール!」


黒い霧がナディールを解放する頃には、カリムもようやく動けるようになっていた。

一方のナディールは、力を奪われ倒れ込んでいた。


「ナディール、大丈夫か?」


カリムが駆け寄って揺さぶると、ナディールはかすかに目を開けて弱々しい声で答えた。


「カリム、ごめん……僕の力が……君を、守れなくて……」


「謝ることなんてない!

俺が守るから、安心してくれ!」


「でも……」


二人の会話を遮るように、崩れた天井がすぐそばに落下してきた。

幸い直撃は免れたが、次はどうなるかわからない。


「……ナディール、お互い言いたいことはあるだろう。

だが、今はとにかく脱出だ。

弱音も泣き言もここを出てからにしよう、さあ」


「……うん」


弱りきったナディールを背負い、カリムは走り出した。


****


綺羅びやかな王宮が砂のように崩れてゆく。

だがそれは終わりではなかった。

より強力で眩い富の、幸福の――人間の“欲”が、未来を書き換えていく。

その始まりに過ぎなかった。


【続く】

ナディール、生きて……!

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