10話:さよなら、毛深い御主人様
遂に、別れの時……!
盗賊団の壊滅は瞬く間に砂漠全土に広まり、王宮にもその報告が届けられた。
王はカリムの成功を聞いて大いに喜び、彼を再び宮廷に呼び寄せた。
「カリムよ、お前は見事に盗賊たちを撃退した。
約束通り、褒美を与えよう」
王はカリムの前に莫大な財宝を差し出し、さらに宮廷内での高い地位を約束した。
これまでの苦労が報われた瞬間だった。
カリムは深く頭を下げ、王への感謝を述べる。
「王よ、私にこのような栄誉を与えていただき、誠に感謝いたします。
私は今後も王に忠誠を尽くし、この国のために力を尽くす所存です」
王は満足そうに頷き、カリムにさらなる期待を寄せた。
しかしその一方で、カリムの胸には新たな野心が芽生え始めていた。
これまでに手に入れた成功と財産だけでは満足できず、彼はさらなる力と影響力を求めるようになっていた。
****
王から莫大な報酬を受け取ったカリムとナディールは、奴隷商人のもとへと戻ってきた。
ナディールはカリムの隣を歩きながら、ちらちらと不安そうに奴隷商人のテントを見つめている。
「本当に大丈夫かな、カリム?」
「心配するな、ナディール。
俺たちはもう自由になるんだ」
カリムは自信に満ちた表情で言い放った。
彼は報酬で得た金品を全て袋に詰め、しっかりと手にしていた。
奴隷商人のテントに入ると、そこには商人がいつもの冷たい笑みを浮かべて待っていた。
「カリムか。
盗賊を倒して、王からたんまり報酬をもらったんだって?
お前は本当に役に立つ奴隷だよ。
これからもお前の働きに期待してるぞ」
カリムは深呼吸をし、袋を商人の前に置いた。
「これを見てくれ。
これは王からもらった報酬だ。
全てあんたにくれてやるから、俺たちを自由にしてくれ」
奴隷商人は驚いた様子で袋を開け、中を確認した。
金貨や宝石がぎっしり詰まっており、その量は彼の予想をはるかに超えていた。
「ん、んん……んんん~~~~……」
「おい、どうなんだ」
「んんん~~~~……!!」
商人はしばらく袋の中を凝視していたが、やがて顔を上げて苦笑いを浮かべた。
「お前ほど優秀な奴隷を手放すのは惜しいが……
これだけの金品を前にして、取引を断るわけにはいかないな」
商人は金貨を袋に戻しながら、肩をすくめて言った。
「いいだろう。お前たちを奴隷から解放してやる。
ただし、もう二度と私のもとに戻ってくるなよ。
また手元に置いておきたくなる」
カリムはその言葉に安堵し、ナディールの肩に手を置いて微笑んだ。
「これで俺たちは自由だ、ナディール。
もう誰にも縛られない」
ナディールは目を輝かせ、カリムに抱きついた。
「ありがとう、カリム……!」
奴隷商人は二人を眺めながら軽くため息をつき、静かに宣言した。
「カリム、ナディール、今この瞬間から、お前たちは自由だ。
行きたいところへ行け」
****
夜、自由を手に入れたカリムは、ナディールとともに砂漠を歩いていた。
ナディールはやや疲れた様子でカリムを見上げた。
「カリム。僕たち、盗賊を倒せてよかったね。
でも……これ以上、僕の力を使い続けるのはやめた方がいいと思う」
「それはまた、どうして?」
「砂漠に異変が起きているのを感じるんだ」
カリムはしばらく黙っていたが、やがて軽く笑ってナディールの頭を撫でた。
「心配するな、ナディール。
君の力は素晴らしいし、俺たちはうまくやれてる。
このまま、もっと大きなことを成し遂げられるはずだ」
「……うん、そうだね」
だが、ナディールの心から不安が消えることはなかった。
【続く】
名前は、ラティーフ……!