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研究室では俺が神様だ

ラボに帰ってくると、アサトは僕のことをお風呂に入れてくれた。「これくらい、僕一人でできるよ」と僕は反論したのだが、「産まれたての小鹿みてぇに脚震わせてる奴が何言ってんだよ」って笑われた。その後はクリスマスデコレーションされたチョコレートケーキを一緒に食べた。


「アサト、今日のお出かけで何があったの?」


「あ?やっぱ気付いた?今日ね、ホダカを拉致ったところまで足を運んでみたんだ。そしたら、君の捜索ポスターを見つけてね」


「え、そんなのあるんだ……」


「きっと、君の学校の担任が作ったんじゃないの?電話番号書いてあったし」


「あー、たぶん、そうだね」


だって、僕の家族が作るわけないだろうから。


「で、そこに立ち止まってたら、ある外人風の男の子に声をかけられたんだ」


「……ル、ルイくん?」


と僕が動揺を見せたから、アサトはそれを面白がって笑った。


「あははっ、おそらくは、ね?『何か知っていますか?』って聞かれて」


「アサトは何て答えたの?」


「『いや、知らない』ってちゃんと答えたよ」


「……」


「『軟禁してる』って言った方が良かった?」


「……わかんない」


ルイくんに会いたくないわけじゃないけど、アサトとも離れたくないから、僕の心の中は二者択一で揺れているんだと思う。


「まあ、それでさ、ルイくんがその電柱に背負ってた鞄を置き始めたから、『何するの?』って聞いたら『探します』って言ってて」


「もう3ヶ月も経ってるのに??」


「もう3ヶ月も経ってるのに、毎日探してるんだって。だから聞いたんだ。『何でそんな一生懸命に探してるの?』って」


「そしたら?」


「『ホダカのことが好きだからです』だって!あははっ、震えちゃうよね〜っ!!それで、テンション上がってきて『もし殺されてたら?』って聞いちゃって」


「……」


「そしたら、『考えになかったです』って本気で答えてたよ。いやァ、愛されてんね〜っ♡」


「愛されてないよ、恋人じゃないもん」


「じゃなくてもさァ、普通はそこまでできないぜ?だから……」


「僕はもう人間じゃないの!!ルイくんだって、今の僕の姿を見れば、幻滅するに決まってる。なのに、そんな浅はかな考えで、僕を捨てないでよ……」


と泣き出すと「はいはい、分かったよ。不安にさせて悪かったなァ」と貴方は気だるげに謝罪をする。でもその後に切り替えて、またルイくんの話をする。正直、もう聞きたくない。


「それでさ、ルイくんが奇妙な話をしてくれて『以前、探していた猫の前足を見つけました。ですが、その2週間後に、その猫が生きているのを見つけました。ホダカも生きているのを見つけます』って言ってて、俺、『猫が生き返ったの!?』ってリアクション芸人しちゃって、『猫はただ前足を無くしてただけでした』って返されちゃって、まじで自分、墓穴掘ったなァって。あははっ、めっちゃ面白くね?」


「どうゆうこと?話下手なの?」


「だからァ、一般ピープルは『猫が生き返る』なんて思考回路がないんだよ。ただ前足を何かの拍子に無くしたって思うだけなんだよ。けど、俺はその猫を生き返らせてるから、あははっ、変なリアクション取っちゃったァ♡♡」


と窮地に追いやられれば追いやられるほどこの男は悦びを感じるのか、ただ不安を隠したいだけなのか、自暴自棄になって、馬鹿笑いする。


「大丈夫、そんなん誰も気にしないよ」


「俺の靴のサイズも身長もバレてたけどなァ♡♡」


って自分の不利な情報を掴まれてて、彼は嬉しそうにニヤつく。ルイくんから聞いたんだろうか。


「え?」


「意外と舐めてかかってたら、死刑かもね」


彼はチョコレートケーキをフォークで刺す。


「嫌だ、死なないで。僕、ずっとここにいたい……」


「どうしてそんなに帰りたくないの?」


「僕には双子の弟がいるから。ヒダカって言うんだ」


「一卵性?二卵性?」


「一卵性、だけど顔だけしか似てない。僕の家族みんな、僕のことは失敗作だって思ってる」


「は?意味分かんないね!」


「意味分かんなくないよ。だってヒダカは受験して、私立の中高一貫校に入れたのに、僕は落ちて、地元の公立で毎日担任に怒られてるし。運動神経だって、僕のが悪いし。ヒダカは女の子からモテモテで、彼女だっているのに、僕は誰からも愛されないし、恋愛対象、男だし……」


言ってて惨めになってきた。優秀な弟がいると、ずっとそいつの影として生きている気分になる。自ずと比べられて、比べてしまって、劣等感を酷く味わう。だから、モルモットとしてでも僕のことを見てくれてる方が嬉しいんだ。


「だからって、失敗作って何だよ。ふざけんな。今後一切、自分に対してそんな悪い言葉を使ったら俺が許さねぇから」


「何でアサトがキレてんの?」


って僕はその状況が可笑しくて笑ってしまった。


「はあ?ホダカは成功してんだよ」


「モルモットとしてね」


と僕が言うと、アサトは立ち上がって、自分の食べかけのチョコレートケーキを手で掴むと、僕の口をそれで塞いできた。


「はい、ワンペナァ」


僕の口を塞げてご満悦な様子で、彼は僕を見下してくる。


「んんっ……」


まじで何してんの、この男。僕は目を白黒させながらも、頑張ってそのチョコレートケーキを食べようとしたけど、アサトが手を離した瞬間、かなりこぼれた。モルモットって、アサトが最初に言ってきたんじゃん。ムカつく。僕は口許がチョコレート塗れになりながらも、ちょっとムッとしていた。アサトは毛繕いをする猫のように自分の手を舐めていた。


「お前は人間だ、もうモルモットは卒業してんだよ」


「はあ?そんな勝手に……」


「俺が決めた俺がルールだ研究室(ここ)では俺が神様だ」


「はああ?!このエゴイスト変態クズ男っ!!!」


「あははっ、何とでも言えよ。そんな不細工な面に何言われてもノーダメだからァ」


不細工って言われた。


「う、ううっ、ムカつく……ムカつく!!」


こんな男に不細工と言われてショックを受けてる自分にもムカつく。逃げ場のない気持ちが涙となって溢れてくる。


「ああ、泣くな泣くな!俺が悪かったからァ……」


ってすぐ僕の元へと駆け寄ってきて、頭を撫でてくれる。でも、


「泣いてないし!!」


なんて僕が強がって、そっぽを向くと


「もろ泣いてんじゃん」


ってそれを弄って笑ってくる。そして、アサトが僕の顔を見ようと頬に手を伸ばしてきたから


「触んないで!!」


と僕は不機嫌に身を任せて、アサトの胸を押して、癇癪混じりに抵抗してみた。すると彼は


「あらら、今日は一段とご機嫌ナナメでちゅね〜♡」


ってお得意の赤ちゃん言葉を使って煽ってくる。ついつい、これには吹き出してしまって、


「ぷふっ、もう嫌や〜っ!!」


ってなあなあになってしまった。


「ほら、お顔見ぃして?」


「嫌だ、どーせ僕の顔は不細工だもん!」


「あははっ、ツーペナァ♡」


「何?」


「おら、顔見せろよ!」


って頭蓋骨掴まれて強引に回された。首がグキッていった気がする。


「痛っ、何すんっ、んんっ」


「せっかくの綺麗な顔が台無しだろ?」


アサトは僕の顔に付いた涙とチョコレートを手や袖口で拭ってくれた。不細工って言ったくせに何なんだよ。チョコレートケーキぶつけてきたのも、そっちじゃん。


「全部、アサトのせいじゃん……」


「あー、はいはい。んー、こりゃ取れねぇな。ちょっと待ってろ」


と言うと彼は僕を置いて、タオルを濡らしている。その間に、僕は自分のケーキをヤケ食いした。でも彼が持ってきた濡れタオルは温かくて、僕の凍てついた心も少しは溶けた気がした。はい、綺麗になった、って彼が僕の元から立ち去ろうとするから、僕は彼の服を掴んで引き止めて


「まだ残ってる」


って顔を真っ赤にしながら言った。自分で思い付いていながら、いざ実行するとなるとすごく恥ずかしい。


「何処に?」


彼は首を少し傾けて、もう無いだろ?って感じで、僕を小馬鹿にするみたいに微笑んだ。だから僕は舌をちろっと出して、そこで僕の体温で溶けているチョコレートを見せた。ここで普通に「そんなん普通に飲み込めよ!」って言われたら、もう立ち直れる気がしない。ああもう、何やってんだろ僕。脈ナシなんて分かりきってんじゃん!!アサトの反応が見れなくて、ずっと下を向いていた。この何もない時間がとてつもなく、痛くてつらくて苦しい。

彼に頬を撫でられ、吃驚して少し上を見ると、彼がちょっぴり困った様子で微笑んでるのが分かった。あ、ダメか。ダメだよな。彼の服から手を離すと、彼は普通に立ち上がった。このままどっか行くのかと思ったら、彼は僕の二の腕を掴んで、立ち上がらせ、クルッと場所交換して、彼は僕の椅子を奪った。


「……何してんの?」


椅子取りゲームじゃないんだけど。


「ここ、おいでっ♡」


と彼は眩しい笑顔で自分の太腿をポンポンっと叩いて、保育士さんみたいに僕にこの上に座るように指示する。僕が普通に座ろうとすると「逆」と笑われて、向かい合わせで座らせられた。何かこれ、ヤバいのでは!?めっちゃ顔近いし、腰抱き寄せられてるし、一瞬冷めたけど、また再加熱、いや過熱した。何このギャップ萌え!!さっきまで保育士さんだとばかり思ってたけど、今は大人の色気がすごい。アサトに身を任せて、唾を呑む。あ、やば、待って……チョコレート飲み込んじゃった☆


「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっとタイム!!」


「何?」


と長めの前髪をかきあげて、もう、わざと色気出してるってこれ〜っ、やられちゃうけど♡♡

僕はバレないように素早くチョコレートをフォークで取って補充して、臨戦態勢に入った。


「おけ」


「あははっ、それもう俺とキスしたいだけじゃん!」


不器用だからバレてた。対して素早くもなかったし。


「んーんっ♡」


図星で照れながらも、素直じゃないから否定した。それを彼は分かってるから、おでことおでこをくっ付けてきて、鼻先が触れてしまいそう。


「でもまあ、ケーキが無くなるまで付き合ったげてもいーよ?」


ああああ、何それ!!無理無理無理、壊れかけの心臓が持たないよ!!!僕が嬉しくてニヤけてると、彼も笑顔を見せてくれた。でも彼は大人だから、僕の鼻先や頬に軽くチュッとキスして僕をリードしてくれる。僕はキスされる度に笑みがこぼれてしまって、ダメになりそうだ。


「んっ♡」


と僕が唇を当てるだけの子供っぽいキスを彼にすると、リップ音すら出せない僕のキスに彼はたぶん面白さで笑って、キスはこうやってするんだよって教えてくれるみたいに、チュッ、チュッ♡とキスをしてくれる。


「舌、入れていい?」


僕は多幸感でもう既に絆されて、とっろとろになってしまっているのに、さらにその上、そんなことを小声で囁くから、全身がビクッってなって、幸福に狂わされそうだ。


「ぅん……」


「ふふっ、可愛い♡♡」


何その大人の余裕……好き!!!僕が顔から火が出るくらい緊張して照れてるから、リラックスできるように頭をゆったりと撫でて、そこから、僕の口端から舌を「んっ♡」と入れてきた。僕の咥内に彼の舌が入ってきて、お互いの唾液を絡めて、ジュル♡と僕のチョコレートを奪われる。


「んんっ…///」


「ん〜っ♡、美味しいの貰っちゃった♡♡」


可愛い!!!僕の今の脳内には、可愛い、やばい、好き、の3単語しかない。もはや頭の中が白くぼーっとしてきた。


「ふふっ、アサトぉ、だいちゅき♡♡♡」


と僕が気持ち良さに酔いながら抱きしめると、アサトはチョコレートはもうないのに僕とまた舌を絡めて、何度もキスしてくる。ああああ、酸欠になりそう。体温が高くなりすぎて、心拍数上がって、血中酸素濃度が低下してる。たぶん、適当。

アサトは気持ち良すぎてヘタってしまった僕をベッドまで抱っこして運んでくれた。幸せな夢の中にいる気分で、「今まで生きてて良かった♡♡」ってやっと思えた。人生の中で最も幸せな瞬間だ、と確信した。


「ホダカ、愛しているよ」


「僕の人生は、最高な人生だ。あははっ、ここにいれて幸せ♡」


今までの不幸は全部ここに集約するまでの布石にすぎなくて、僕の人生はここが最高潮でクライマックスだと思って疑わなかった。だから、僕に明日なんてない。いらない。……アサト、良いクリスマスプレゼントをありがとう。

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