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勝負パン

僕のいたラボは地下室だった。その上にアサトの豪邸みたいな家があって、ってのはもうどうでもいい。僕は素足のまま、アスファルトを駆けた。でも、僕の両脚は完全に治りきっていなくて、走ると直ぐに転けてしまった。周囲の人の視線が痛い。そりゃあそうだ。こんなツギハギの身体にダボダボなTシャツ1枚で、真冬の夜の空の下。だから言ったのに、僕には死ぬかモルモットとして生きるかの2択なんだって。悔しさで、両膝や足裏から血が出ても構わず、目的地も見当たらないけど、走り続けた。


「君、大丈夫?」


パトロールしてた警察官に見つかった。アサトの言っていた言葉が脳裏を掠める。「警察にでも連絡して、俺を死刑にすると良いよ」って見え透いた嘘。


「どうしてそんな格好してるの?」「ご家族は?」


と次々に質問されてしまって、怖くなって、とにかく「逃げなきゃ」って想いでいっぱいだった。肺が痛い。息が苦しい。つらい。脚がうまく前に出なくて、三度派手に転けた瞬間に「あーあ、僕何してんだろ」って心が折れた。


「うわあああん、うああ、ううっ、うわあああん、ひっく、ああああ、もう死にたい、僕の人生、最悪!!!!」


たくさんの人が行き交う知らない街の歩行者天国のド真ん中、僕は赤ん坊のように泣き喚いた。そして気持ち悪くなって、その場で吐いた。


「あーあ、派手にやったなァ」


「アサト……?」


と振り向こうとすると厚手の黒いコートを投げつけられて、視界が真っ黒になった。「うえっ」


「俺の可愛いフランケンシュタインくんのお披露目にみんなが釘付けだなァ♡♡ 俺だけの秘密なのによォ」


彼はいつものようにあの大きな手で僕の頭を撫でて、可愛がってくれる。モルモットの次はフランケンシュタインかよ。


「もう、生きていたくない……」


僕はアサトのパーカーを掴んで握りしめて手繰り寄せて、その胸で涙を拭いた。ただ彼に甘えたかった。


「ふふっ、俺もだよ。これから何したい?」


「ラボに……帰りたい……」


「そ、帰ろっか」


そう言うと彼は僕のことをお姫様抱っこして、堂々と街中を歩いていった。


「アサト……パンツ、見えちゃうんだけど……」


「良いじゃん、勝負パンなんだから見せとけよ」


「ふ、ふざけんな!このクズ男!!」


と僕がお姫様抱っこされながら、彼の肩ら辺を叩くと


「ああもう、不機嫌な赤ちゃんだなァ♡」


って嬉しそうにするから、やっぱ狂ってんだと思う。まあ、勝負パンなんだけどね。

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