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シーフード味のカップラーメン

パシャッ。翌朝、スマホのフラッシュとシャッター音で目が覚めた。……げっ、僕そんな酷い寝顔してた??


「おはよう、昨日はよく眠れた?」


寝起きで爽やかスマイルを見せてくるアサトは、今日も僕をいじめているからか何だか楽しそうだ。


「……うん、いや、そんなことより写真!!」


「ああ、"いい"寝顔だったから撮っちゃった♡」


「"いい"って、どうゆう意味の"いい"?」


「それは君の想像に任せるねっ!」


ってニカッて笑った。そして、スマホで撮った写真を見返しては、僕の前でわざとらしくにやけている。「何この寝顔〜!」って。


「僕にも見せてくださいいい"い"」


と両手を伸ばしても痛いし、ちょうどギリギリの届かない位置でスマホをいじっているから、本当に意地悪な人だとつくづく思う。

でもアサトは僕のためなのか一日のほとんどをこの研究室で過ごしてくれる。僕が退屈しないように色々と気遣ってくれているし、それにリハビリも手伝ってくれて、今の僕は身の回りのほとんどを全部アサトに任せっきりになっている。少しは外の空気吸って、息抜きしないと、と心配になるくらいだ。


「ホダカくん、何食べたい?」


「何でも、アサトの好きなのでいいよ」


「え?そしたら、カップラーメンになるけど良いの?」


って意地悪く笑ってる。だけど僕も好き嫌いなく食べられないと今後、迷惑をかけてしまうかもしれないと思って、


「うん、食べてみる」


って勇気を振り絞って言った。彼はそれを聞くと、シーフード味のカップラーメンにお湯を注いだ。そして、待つこと3分。うねうねしたちぢれ麺を箸で軽くほぐしてから、アサトはパソコン画面を見ながら麺を啜った。「んー、熱っつ!!」って口の中に入れたはいいが、熱すぎて飲み込めなくなってて面白かった。


「ホダカくん、猫舌ァ?」


「うん」


「じゃあ、ちょうどいいね!」


って言うと彼はせっかくお湯を注いだカップラーメンの中に氷何個かを入れ始めた。


「え〜っ、それ美味しいの??」


スタンダードもロクに食べたことのない僕だったが、そうやって懐疑的に彼に意見した。


「これが案外イケるんだよ」


って僕のために彼はフォークでクルクルと麺を巻いて、先端にイカかイカじゃないのか分からない食材を刺して「あーん」って言ってきた。恐る恐る口を開いて食べてみると、化学物質からできているような普通の生麺とは違う風味と味わいに、戸惑って美味しいか美味しくないのかは分かんないけど、氷で冷やされた部分と温かい部分がまばらになっていてその温度差は面白かった。


「美味しいけど、一口で良いや」


「あー、美味しくなかったんだ」


「味が、何か飽きちゃう」


「味変する?」


ってアサトはラー油を取り出して、その中に何滴も注ぐ。赤く染まったスープ、浮き出す油。身体に悪そう。またそれを一口もらったけど、今度は辛くて美味しいうんぬん言う前に口の中が痛かった。


「辛い辛い!み、みずぅ……」


と僕がせがむと「はいはい」と怠そうに立ち上がって、彼は水をウォーターサーバーから持ってくる。コップでその水を飲まされたけど、アサトが僕が飲むより早くコップを傾けていくから、口端から水がこぼれていった。ああっ、まだ口の中がピリピリする。


「あははっ、びちょ濡れじゃん!」


「アサトのせいだよ?アサトが水を……」


「分かった分かった、着替えようなァ?」


って軽くあしらわれて、Tシャツを着替えさせてくれる。アサトのTシャツは元々オーバーサイズ気味だから僕が着るとダボダボになってしまって、ワンピースみたくなっている。が、それが可愛くて何気に気にっている。


「これ可愛い、ありがとう」


「どういたしまして」


と彼は僕の頭を撫でる。その大きな手に撫でられる時が今の僕の幸福だと悟った。


「僕のニュースってもう報道されてない?」


「ん?見てみたい?」


とアサトは自分が見ていたドラマからニュースにチャンネルを切り替えてくれた。そこでは他の殺人事件や傷害、政治家の不倫、流行りの飲食店などのニュースが取り上げられていた。


「ふふっ、良かったね!これでみんなの記憶から薄れて」「何でそんなこと言うの?」


アサトは何故か静かに怒っていた。パソコン画面を眺めたまま仕事が進んでいない。


「え?だって、そっちのが、都合いい、じゃん……」


「何でこんな俺に肩入れしてんの?俺に拉致られて殺されて、モルモットにされてんだよ?理解(わか)ってんの!?」


僕に怒ってるみたいで、自分に対して怒ってる。非人道的な行いをしたって。そのことがアサトの心を縛り付けて、罪滅ぼしのように僕に優しくしてくれているのなら、僕はそれで良いと思う。


「分かってるよ。分かった上で、僕の人生が有効活用されてんならそれで良いかなぁ、って思ってんの。それに、アサトはモルモットにも優しくしてくれんじゃん?」


「優しかねぇよ……」


そう言って、彼は仕事に取り掛かろうとしたが、キーボードの音は聞こえなかった。

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