校則違反
次の日、学校へ行くと、僕は特別学級に移されていた。ここでは自分に合った学習ができるので、わざわざクラスのレベルに合わせて暇をする必要がなかったし、何よりもルイくんがいる。
「ホダカ、起きて」
麗らかな冬晴れと適温な暖房。もふもふのニット。昨日の疲れも相まって、僕は勉強していると、うとうとと眠ってしまいそうだった。隣にいるルイくんが僕が寝そうになると、シャーペンでちょんちょんと腕をつついて、小声でそう言ってくる。
「ふふっ、ルイくん、くすぐったいよぉ♡」
僕は寝ぼけ眼でルイくんの方を見て、そんなことを言っていると、また頭がコクンと落ちた。やっぱ、眠い。学校まで一時間半以上かかるのは、ちょっとつらい。
「ホダカぁ、一緒にお昼寝しよ」
勉強時間が終わった後、ルイくんは毛布を被せるのとともに後ろから僕を抱きしめてきて、お昼寝に誘った。可愛い。する!!二人で床に堂々と寝転んで、その一つの毛布を共有する。ここの床は上履き厳禁で、みんな靴下で歩いているから、それほど汚くはない、と思う。タイルマットが敷き詰められていてふかふかだし。だけど、ルイくんは僕のことを腕枕してくれて、もはや彼氏みたいでキュンキュンした。
「ルイ、邪魔。こんなところで寝るな」
マサヤくんがルイくんの肩を軽く蹴ってる。
「そんなことないよ。俺とホダカが仲良しで嫉妬してるんだね?」
って、わざと僕に顔を近づけてきて、ルイくんは楽しそうにニヤけてる。確かにここは端っこだけどさ。そういうの、心臓に悪いから……。
「別にそんなんじゃない!!」
マサヤくんは少し怒り気味に本棚から本を一冊取り出して、自分の席に戻って行った。分かりやすい子だと思うけど、僕は押しに弱い人間だから、わざと引かれても、それには惹かれないタイプだ。
「ホダカ……俺が、キスしたの、覚えてる?」
僕の頬を撫でて、もはやピロートークのように、小声で囁いてきて、狸寝入りしてたけど、全く寝れてない。
「……覚えてるよ、僕のファーストキスだから」
寝言を言うように、僕は言葉を返した。だけど、体温は急上昇してて、心臓の音に負けそうだ。
「そっか、良かった」
彼は僕の答えを聞くと、それだけ言って、僕の頭を抱き寄せる。彼に抱きしめられると、あの時のことを自ずと思い出してしまう。
「ルイくんも、怪我したよね?」
僕も彼の頭を撫でようとした。けど、彼に抱きしめられている状況下では、動くのが難しく不器用だから、エアーで撫でた。
「大丈夫、軽い脳挫傷だったから。でも、ホダカが守ってくれてなきゃ、俺死んでたかも……」
彼は何ともないように死を口にして笑った。
「え、」
「ちゃんと覚えてるよ。ホダカがこうやって俺のことを守ってくれたこと」
より一層、距離が近くなる。お互いの体温を感じ合って、手脚が絡み合って温め合う。それが何かものすごく淫猥なことをしているような気がして、僕は顔を真っ赤に染めて呼吸を浅くする。変態かよ。
「あっ……ちょっ……ルイ、くん♡」
「やっぱホダカは可愛いね♡」
と彼の手が僕の重めの前髪をかきあげて、僕の髪の毛を撫でる。その目鼻顔立ちがしっかりとした綺麗な顔が、僕のりんごのように赤くなった顔を覗き込んでる。近い近い近い近い!!!
「こーら、お二人さん。不健全なことはしちゃダメよ?」
その一部始終を先生に見られてた。恥ずかしすぎて顔から火が出そう。身体を丸くして、毛布を自己中にも頭まで被った。
「してないよ!俺は健全にホダカを可愛がってるの!!」
健全を強く主張する彼の横で、僕は不健全にもそういうことを妄想してしまっていたので、僕だけは校則違反だ。ルイくんは僕のことを性的に見てないからセーフ、だよね?
「それにしては距離が近いみたいだけど……」
「ホダカとはすっごい仲良しなの!!許して??」
何でこんなに可愛いんだろう。僕と一緒にこうしてたいがために抗議する彼は。僕は毛布に覆われて知らんぷりしているけど、会話にはしっかりと耳を傾けていた。
「安藤くん、君はどう思うの?」
「……校則違反、って。やぐっちゃんに言われた」
「ルイくん、安藤くんの言う通りで、学校内ではあまりお友達にベタベタしちゃいけないの。分かった?」
「はーい」
ルイくんはしょんぼりしながらも元の席に戻って、僕はその場で少し毛布に包まって丸くなっていた。彼の香りと温もりが残るここから何となく動きたくなかった。けれども授業が始まれば否応なしに戻らないといけなくて、その毛布はひざ掛けとして使った。