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アサトの所見

僕の学校生活が再開した。僕はお気に入りのセーラー服から学ランへと衣替えすることになった。何故なら、この方が傷跡が目立たないからって。髪の毛も肩までつくセミロングだったけど、マッシュルームヘアにバッサリ切られた。


「全部、貴方のためなのよ」


そういう母の言葉が、ウザったい。


「ホダカ、大変だったな……」


って僕の気持ちに共感するみたいな言葉を、担任は適当に言って、僕の傷口を抉ってくる。社会的に大変なのは、子供は血の通った家族と一緒にいるべきという通説を、大人は疑わないことだ。僕はアサトとの毎日を楽しく暮らせていた。なのに、邪魔してきたんだ。


「やぐっちゃん、僕はここで何してればいいの?」


変に気を遣われて、保健室登校で様子見をされている。報道陣が家までほぼ毎日来ててうんざりだったから、学校に行かされたけど、学校まで報道陣は余裕で来た。たぶん僕の家族は、ハエ避けのため学校に僕というゴミを置いたんだと思う。じゃなきゃ、あんなに「行きなさい!!」って怒んないもん。


「学習プリント持ってくるから、それまで待ってて」


と担任はどっかいってしまった。僕は暇だから、ベッドにでも寝っ転がった。するとドンドンと下から振動がする。何だこのベッド!?っと吃驚して起き上がると、下からルイくんが顔を覗かせた。


「ル、ルイくん??何してんの?」


「ホダカに、ドッキリをしようかと思って……」


「あははっ、めっちゃ驚かされたよ〜っ!」


「ホダカは、何処へ行きましたか?」


とベッドの下から出てきて、制服のホコリを払うルイくん。これ、冗談じゃなくて本気で言ってんだなって、何だかニヤけちゃった。


「……え?ルイくん、ホダカは僕だよ??」


と前髪をあげて顔を見せると、


「Oh, really?」


ってちょっと落胆した表情を見せられる。ルイくんの思う僕の理想像を壊してしまったみたいで、少し罪悪感を感じた。けど、もうどうでもいいや。


「女の子だと思ってた?」


「うん……ホダカはとっても可愛かった……」


「男の子の僕は可愛くない?」


「……格好良いよ、イケメン」


ルイくんにお世辞を使われた。


「ふふっ、ありがと」


「ミイラ取りがミイラになったね。俺がドッキリ仕掛け人だと思ってたのに、ドッキリ仕掛けられ人になってしまった」


「今まで騙しててごめんね!」


僕としては騙してるつもりは無かった。僕の好きな服を着て好きな格好をして、好きに振舞っていただけだった。でも、こうしたちょっとした齟齬で、勝手に騙し騙されの関係ができてしまうのが、世の中がうまくいかない理由だと思う。善悪なんて誰も付けられない。


「俺は、ホダカが女の子だとか男の子だとか関係ないよ!ホダカが生きて帰ってきてくれたのが、嬉しい」


ルイくんは男の僕を抱きしめてくれた。きっと彼の頬は赤くならない。でも僕には、彼の優しさが沁みた。


「ホダカぁ、プリント作って……君は?」


と何枚かのプリントを束ねたのを担任がひらひらさせながら保健室まで持ってきた。そして、抱き合ってるのを見られた。


「特別学級にいるルイ・デュランです。ホダカを元気づけようと思って……」


ルイくんは担任にそう弁明した。


「ありがとう。けれど、ルイくんは教室戻ろうね」


と心のこもってない感謝の言葉を述べて、担任はルイくんを保健室から追い出した。


「じゃあね」


って僕は追い出される彼に手を振った。


「大丈夫か?ホダカ」


「何が?」


「お前、男が好きなんだろ?」


担任がいらない詮索してきて、怒りなのか恥ずかしさなのか、僕は顔が真っ赤になってきた。


「あれは、友達としてのそれだし……ルイくんは友達としか見てないし……」


「だからって、校内でハグされるとな……」


「あれがルイくんの普通で、ルイくんなりの励まし方なんだよ。何が悪いの??」


「ホダカ、校則はこの学校の生徒ならその子がどんな子であろうと守るべき約束なんだよ。ホダカは早起きが苦手な子だからって、遅刻していいわけじゃないのと同じだ」


「それは、わかったよ……気を付ける……」


「よし!じゃあまたここ来るから、それまでにプリントやっとけよ?」


って担任は出ていってしまった。暇つぶしにプリントに手を付けたが、アサトが今どうしてるかのが、どうしても気になって、ネットニュースを漁ってしまった。


「殺した少年を蘇らせた!?恐ろしいゾンビ幹細胞とは?」


何それ?ゾンビ幹細胞??ネーミングセンス、だっさ。春原 麻人、こうゆう名前書くんだ。


12月25日午前、誘拐殺人の疑いで逮捕された春原 麻人 容疑者(32)は、9月某日に14歳の少年を誘拐して、麻酔で眠らせている内に、ノコギリで身体を切断。その後、彼自身の研究であるゾンビ幹細胞を少年に投与して、生き返らせたと供述している。このゾンビ幹細胞というのは、私たちの身体を構成している細胞の一種である幹細胞とは少し違い、第三の能力を持った細胞だと言われている。そもそも幹細胞は、自分と同じ特徴を持つ幹細胞に分裂できる「自己複製能」と、様々な細胞に分化できる「多分化能」の両方を有する細胞と定義されている。それに加え、このゾンビ幹細胞は、有性的で同じ特徴の細胞同士の間に子供ができる「生殖能」を有していることがわかった。この能力により細胞の自己複製の働きを軽減でき、より若々しく長生きできると述べられている。しかし、この細胞が「ゾンビ幹細胞」というおぞましい名前を付けられているのには、また別の理由がある。それは、細胞同士の親和性が非常に高く、あるマウスを使った実験では、半分に切ったマウスの身体をそれぞれ1メートル以内の離れた場所に置き、ゾンビ幹細胞を投与すると驚異的な細胞分裂により、身体が引き寄せられくっ付いたという研究結果が残されている。この光景がまるで『ぶった切られたゾンビみたいだった』という開発者である春原 容疑者の所見により、この名が付けられたらしい。したがって、少年が殺害された後に生き返らされた可能性は十分にあるとして、警察はこの件を殺人未遂罪から殺人罪に容疑を変更して捜査を進めていく方針だという。


……まあ、幹細胞のことはよくわかんないけど、アサトの所見、可愛すぎかっ♡♡ 小学生の感想にしか見えない!!名前の由来を知って、ゾンビ幹細胞というネーミングが一気に好きになった。研究チームのみんなとどんな名前にするかを、笑い合って意見し合ってるアサトが容易に想像できた。アサト、研究チームのみんなから愛されてるんだなあ。


「てゆーか、32歳なんだ。20代前半かと思ってた」


他にもテレビのニュースでアサトのことをやっているのを見たけど、


「ゾンビ幹細胞はまだ実証実験が十分になされていない。人体に大変危険な影響を及ぼす可能性がある」


「春原 容疑者のチームはとにかく、健康のまま若くして亡くなってしまった方のご遺体を切望してました。ですが、そんな簡単に手に入れられる代物ではありませんので、いつか人様を殺めるんじゃないかと噂されてましたね」


「細胞に知能や性別を与えるなんて、そんな無謀で馬鹿なこと誰も考えませんし、やろうとも思わないですよ」


とか何とか言って、アサトの天才っぷりに嫉妬しているおじいちゃんが何人もコメントしていた。可能性の話をしたらキリがないじゃん。勝手に言ってろ。誰もやろうともしなかったことをアサトは成功させてんだよ。凄いじゃん!!何でみんなそんな酷く言うの!?僕は自分がニュースを見て、こんな怒る日が来るとは思わなかった。酔っ払った父さんみたく、テレビの前であーだこーだ言う奴じゃないって思ってたのに。


「ホダカ、どうだ?進んだか??」


あっ……担任、帰ってきちゃった……


「見て!生物の勉強してた!」


と腹くくって、プリントの裏の白紙に書いた落書きを見せた。ゾンビ幹細胞、普通の幹細胞、その他の再生医療の細胞と、その特徴を色々とまとめて、如何にアサトが凄い奴なのか、を僕の脳内の知識をフル活用して知りたかったから、それを書いていた。


「そうか、ホダカは将来何になりたい?」


あれ?怒られない??ちょっと拍子抜けしたけど、怒られるよりも全然いいと思った。


「えーと、幼稚園年少さんの時はクワガタで、年中さんは蛙で、年長さんになってやっと、好きな人のお嫁さんになったんだ」


「それは今も変わらない?」


「変わらないよ。まあ好きな人と結ばれるなんて夢のまた夢だけど」


って薄笑いしながら、現実の厳しさに打ちのめされてる。


「ホダカ、料理できたっけ?」


「カップラーメン3分で作れるぅ」


自慢げにドヤ顔して、指を3本立てて、誇張して話した。最近、作れるようになったから、僕はずっと誰かに自慢したかった。


「それ誰でもできるやつ」


担任は微笑んで、そう柔らかくツッコミをいれた。


「あとね、卵の殻入りベーコンエッグなら作れるよ」


「ふふっ、殻入れちゃうんだね」


「はいっちゃうの〜っ!!」


「でもさ、ホダカは頭いいから、お嫁さん以外にもお仕事できるんじゃない?」


「えー?僕なんか、何も……」


テーブルを縦断するように両腕を伸ばしながら、謙遜というよりも自分を卑下していると、担任にその手を握られて、僕の心にずっしりと重く響くようにこう語ってきた。


「ううん、何でもできる。何にでもなれる。ホダカはまだ中学生なんだから」


「本当?」


「うん、絶対にやればできる。やりたいこと全部やればいい」


そう言ってもらって、オーディオブックの自己啓発を聴いているみたいな、安らぎを感じられた。根拠のない自信を与えられるような感覚。それはすぐになくなってしまうのだけど、今だけは何かを始めたくて仕方がなかったので、保健室を抜け出して、僕は不格好にも駆けていた。小石に躓いて転びそうになったけど、もう転けない!!いっつも担任には申し訳ないって思ってるけど、今回はやぐっちゃんが僕に火をつけたんだからね〜っ!!!

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