婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
小さなアリアンを可愛がってあげてください。続編も公開しました。(タイトル等は後書きに記載)
6/12 21時。アリアンと律子が別人になっていたので、部分修正。学園の友人の話のところなど、他数箇所変更。少しは読みやすくなっていますように。またおかしなところに気づいたら直します。
*続編共々、異世界恋愛ではないということで、ジャンル変更しています。
あの人が帰って行った。
見送る私の存在なんて見えないかのように。
いつものように、振り向きもせず。
いつものように、無言で馬車に乗り込み。
いつものように、ただ前を向き、御者に「出せ」と命じていたあの人。
今日も一言も喋らなかった。
あの人はいつも通りの無言だった。
無言で私を拒否し。
無言で私を責めて。
無言で私を蔑んで。
いつも通り、無言のまま帰って行った。
次の茶会予定は、来月。
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。
場所はあの人の希望で、いつも我が家の庭。
今日は穏やかな過ごしやすいお天気。
庭でのお茶会に最適な日。
4ヶ月ぶりのお茶会。
雨の日、雨が降るかもしれない日。
雪の日、雪が降るかもしれない日。
暑い日、暑くなるかもしれない日。
寒い日、寒くなるかもしれない日。
風が強い日、風が強くなるかもしれない日。
日差しがきつい日、日差しがきつくなるかもしれない日。
曇りの日、曇るかもしれない日。
そんな日には庭でのお茶会など中止に決まっている!
常識だろう!
そんな悪天候の中、私に庭で過ごせと?
非常識な女だ!
あの人から、そんなことが書かれた手紙をもらったのは2年前のこと。
あの日は少し曇りがちな空だった。
だけど、雨が降る気配はなく、日差しが強いよりいいだろうと、庭での交流会の準備をすすめていた。
もしも雨になれば、サロンに場所を移せばいいだけだから。
まだたった3回目のお茶会。
前回も前々回も、お互いが緊張しすぎて、会話できなかったから。
きっと、今日こそはと、話しかけて貰えるはず。
私も頑張らないと。
淑女の笑顔で、話題を振って。
あの人と微笑みあって、将来の話をしたりするの。
我が家の侍女たちによって、美しく整えられていくガーデンテーブル。
1階のサロンからそれを眺めながら、あの人の到着を待っていた私。
だけれど、夕方になっても、あの人は来なくて。
事故を心配した私は、あの人が住んでいる学生寮に使いを出した。
ご両親は少し離れた領地に住んでいて、あの人は通っている王都学園の寮生だった。
私は、王都にある屋敷に住んでいるから、連絡は難しくない。
すぐに連絡がついて。
お茶会が中止になる天候条件が殴り書きされた手紙を渡された。
雨や雪はわかる。
馬車での事故が多いので、中止の連絡や出席の取り消しは、天候が回復してからで良いとされている。これは私も知っている常識だ。
庭に出れないぐらいの暑さや寒さなら、庭でのお茶会は厳しいだろう。それもわかるが、馬車で移動できないほどではない場合、屋内でお茶会すれば良いだけではないのか。
かもしれないと表現された天候の悪化は、どのような基準があるのか。
正直、使いの者に投げ渡されたという手紙の内容には、納得できなかったが、もしかして、自分が世間知らずで、同世代の中ではこれが常識なのかもしれない。自分が悪いのかもしれないと、黙って受け入れることにした。
お茶会の用意が無駄になるかもしれなくとも、約束の日には準備をして待った。
それから数ヶ月空けて、彼はやってきた。
その後もまた数ヶ月空けて、彼はやってきた。
その後もその後も。
不機嫌そうに、毎回無言でガーデンテーブルの席に座り、お茶を飲みほし。
10分程で帰っていく。
今日は前回から4ヶ月振りになるはずのお茶会の日だった。
彼にとっての、お茶会日和は年数回しかないようだ。
それでも。
来月こそは、彼が認めるようなお茶会日和になるかもしれない。
来月こそは、彼が、笑いかけてくれるかもしれない。
来月こそは、私に、しゃべりかけてくれるかもしれない。
見送る私に笑顔で挨拶し、またすぐに会いたいと言ってくれるかもしれない……
いや、いらないし!
もう、会いたくないし!
婚約者に無視されること2年。
婚約して2年なので、婚約以来ずっと無視されていた私、アリアン・ランバン17歳は、やっと目を覚ましました!
遅ぇよ!
だよね!自分でもそう思います。
アリアン、貴女、馬鹿じゃない?って!
もっと早く目を覚ませよ!と。
大人しいにも程がある。情けない。
あの舐め腐ったクソガキを増長させたのは、間違いなく、アリアン、貴女よ!!
もうね?自分で自分にツッコミを入れまくってますよ、今。
アリアンの父は、王城に勤めている。
王都から馬車で2日の距離にある領地のことはまだまだ現役で若々しい祖父母に任せ、爵位を継いでいないので、貴族としての地位は、ランバン伯爵家子息なままだ。公には、ランバン次期伯爵、もしくは、王城での役職で、ランバン宰相補佐と呼ばれている。高齢宰相を支える補佐として、家に帰れない程の激務をこなす毎日である。
母もまた、王城に勤めている。
王妃陛下の侍女であり、専任乳母の怪我による突然の離職により、極短期間ではあるが王女殿下の乳母も務めたこともあるそうだ。現在も王妃陛下の右腕として忙しくしており、アリアンを妊娠出産した期間のうちの6ヶ月程を除き、ずっとほぼ自宅に帰ってこない。
父とは、王城に与えられた部屋で会っているそうだ。
クソガキの名前は、アレン。スチュード伯爵家の3男だ。
スチュード伯爵家の領地は、王都から半日の距離で、国に許可を取った上で、数代前に領地の大部分を売り、その金で織物の大工房施設を造ったそうで、農地などの管理はない家だ。ご両親はその工房の管理を、叔父夫婦が国内外への営業を担当されているとか。現在次男は叔父夫婦の下で勉強中、長男はその勉強を終え、ご両親の下で工房の管理の補佐をされている。
アレンは、織物に興味がないとかで、騎士団に入るか、どこかに婿入りをということで、我がランバン家に婿入りすることになったのだけど。
あ、ランバン伯爵を継ぐのは実子ね。
婿に継がせると、前当主夫妻が亡くなった途端、自ら乗っ取り行為をしたり、悪い女にのぼせ上がり、妻を排除したりという事件が結構あって、原則直系親族が爵位を継ぐことになったの。
前当主夫妻が亡くなった時に、後継が未成年の場合は、婿ではなく、代理の役目を得た叔父叔母が、後継者を亡き者にしたり虐げたりするケースもあったので、後継がいる場合は、国から代理人が派遣されるようになり、親族は代理人監視の元、後継のサポートはできるけれど、爵位関係のことには関われなくなったの。
そんなわけで。将来のランバン女伯爵、"家付き娘"であるアリアンの婚約者、アレンは、女伯爵の夫となる予定で、予定通り騎士になれれば、アレン卿、なれなければただのアレンとなる……私が継いだ後の家では旦那様ね。外でも気を遣って卿をつけることはあるそうだけど。
でもね。
私の父はまだ伯爵じゃないでしょ?
私は伯爵令嬢じゃなく、伯爵の孫だから、平民みたいなもの!とアレンは思っているの。冗談みたいだけど、これ、マジです。
父はそこそこ王城で出世していると思うのだけれど、王城勤めには次男以下が多いので、父のことも、将来伯爵になること確実な嫡男ではなく、おじさんの癖に、貴族の家から独立していない脛齧りで、私は脛齧りの娘になるんだって。寄生虫親子だとか。
ほぼ喋ったことないのに、何故こんなことを知っているか?
王都学園で、ペラペラ喋っているのよ。バカ丸出しで。
私だって、学園に知り合いぐらいいるのよ。だから、知ってる。
知ってて婚約者の行動に目を瞑り続けた、数日前までの私が、残念すぎることも知ってる。自分が見ていないことにしたいからと、心配して対応策を提案してくれていた学園の友人の行動を必死に止めていたのよ私ったら。誰にも言わないでとか。お互いに手紙を何通も出し合って。それでいて、会うのは都合が悪いとかなんとか言って拒否してたの。ほんと、どうかしてたと思う。必死になる相手や内容が違うよね。
まあ、知らないフリをしたまま結婚なんて、私と我が家が希望しても、多分……友人達が許さなかったでしょうけど。その時まで私が正気に返らなかったら。どうなっていたんだろう。私、死んでたかな?そんな気がする。
なんて、バカな私。でも、婚約者よりは、マシだと思いたい。同じだったら、ショック死しちゃうわよ。私は、脳みそのある人類でいたい。
脳みそが入ってない、アレンといえばね?
バカだから、汚ったない字の殴り書きを、年数回の無言のお茶会の後に捨てていくの。テーブルの上に。
証拠ゲットだよね。
婚約者からの手紙として全て保管していた私もバカだったけど、捨てずに保管していたのは、良かった!流石脳みそのある人類!ない奴とは違うね!
7日前の夜に、お茶会の日が良い天気になるおまじないとして、赤い布でつくった球体を窓の上部に吊るそうとして、椅子の上から落ちた、アリアン。頭をちょっと打ちました。
異世界版てるてる坊主を吊るすのには失敗したけど、その時に、日本人の九条律子だった前世の記憶を得ることには成功したのよ。やったね!
九条律子というのは、21歳のピチピチの現役大学生。「5人の弟妹を持つ、頼れる長女とは、私のことだよ!」という主張ツヨツヨな自己紹介が、前世の記憶の中で際立ってる人間だったわ。早死にしたみたいだけど。まあ、何にしろ、九条律子だった記憶のある、正気に返りかけてるアリアンにとって、今のこのバカみたいな状況は、放置できるものではないわけで。
情報過多だったのか、丸2日寝込んでしまったけれど、寝ている間の自力睡眠学習で、「私、どうして今まで耐えてたのかしら?バカじゃない?」と思えるところまで復活できました。
そこから、夜の睡眠時間に自力スパルタ教育をしまして。記憶の中のボスと程よく混ざり合いました。どうやら私、バージョンアップに成功したようです。
鉄の女アリアンちゃん、爆誕。
ボスと呼んでくれてもいいのよ?
はっはっはっ。
ちょっと言動が貴族のお嬢様ぽくない?
ガサツな九条律子からの悪影響?うっさいわ!
下に5人も弟妹がいたら、こーなるのよ!
……ん?あら?私って、元からこんな感じだったかも?
おいおい。
貴族のお嬢様どこ行った?だよね。
ボケボケ時代、アリアンがお嬢様っぽかったのは、嫌われないように猫被りモードで固定してたからだわ。(冒頭ポエムアリアン参照)
まあ、とにかく、私は今アリアンなのよ。ボケボケ時代のこととかは、なんだか他人事みたいな感じはするけど。前世のこともね、自分の過去のこともね、こうなんだか自然に出てくるの。
アリアンな今の自分もまだ下に5人の弟妹がいる様な気がしちゃうし。
九条律子も、アリアンも、ボスだね!
てなことで、言葉は……まあ、気にしない?
しかし、今更だけど、令嬢にしては、おかしな言葉使いだよね。
気にしたことなかったけど。
ああ、そうだ、王女殿下だわ。
普段は勿論、ちゃんと殿下らしい威厳があって上品な喋り方をしているのだけど、私相手とか、気を使わない相手だと崩れまくるのよ。王女殿下の教師も変わった方が多かったし、下町学習とか、漁師町見学とかで、下町言葉を鍛えたり?外国語の授業の中に下町言葉が交ざってたらしいの。面白いでしょ?
そんな、今では下町言葉がネイティブな王女殿下の影響?……で、私もこんな感じの令嬢に仕上がりました。
ま、まあ、仲良しだし?
うつるよね、うん。
でも考えてみると、おかしいね。私は、王女殿下の笑い話レベルのなんちゃって乳姉妹で、将来は女王となられる王女殿下の側近候補として、小さな頃から学友として、一緒に教育を受けてきた、エリートなのに。
15歳で王都学園より上の教育を終えて、成人後の激務が始まる前に、婚約して?
うん、私は、成人してすぐ結婚して、城勤めを始める予定だったの。
妊娠は、王女殿下に合わせる予定で。乳母は専任の者が用意されるから、殿下の時のように数回だけあげてほしいと言われている。そうすれば、親子で乳姉妹になれるでしょ、と。まあ、同時期の妊娠を願っても自分で決めれることはないので、予定は未定だけど。
そんなわけで、私と婚約者は、15歳から18歳の婚約期間に仲を深め、結婚後は、侍女と騎士という職業で、お城で共働きする筈で。
んん?あら?
私って、どうしてこんなにボケボケになっていたのかしら?元からこんな?いや、そんなバカな。違う、違う。私は……違う。違うけど。
駄目だわ、思い出せない。
よし、お昼寝だ!
記憶の整理には、睡眠が一番!
明日は予定があるので、今日のうちに解決しておきたいのよ。
はい!おはようございます!夕方ですけれど。
あ、夕食は、お茶の時間に残しておいた、フルーツタルトです。
むふふ。私の前世、九条律子の好物ですのよ。その影響か、前世を自覚する前から、私の好物でもありました。
ああ、身体に染みるこの美味しさ!一口食べるごとに、力が湧き上がります。一口食べるごとに、九条律子の魂と記憶が、前世学習を終えた私の身体に染み込み、馴染んでいく感じがします。今なら何でもできそうです。
あ、私が、ボケボケになっていた原因がわかりました。
謎は解けた!というやつです!ビシッと指を伸ばしちゃうよ!誰もいない空間だけど。なんか睡眠学習の教材を売れる気がしてきたよ!売らないけど。
あの婚約者とは、顔合わせは、忙しいお城勤めの人が私用で使える城内応対室で済ませ、そこには、両家の親が同席していました。
で。毎月のお茶会に関しては、婚約者同士でってことで、第一回のお茶会の時から、2人きりだったんだけど。
私は、婚約者の到着の知らせを聞いてから、庭に出て、待っていれば良かったんだけど、この家に婿入りしてくる人だからって、初回は玄関で出迎えて、自ら庭まで案内したの。
婚約者はエスコートとかしてくれない様子だったし?戸惑うわよね、我婚約者ゾ?だよね。そう思いながらも、仕方がないから、斜め前を歩きながら案内したのよ。
そしたらね〜。
私を突き飛ばしたのよ!婚約者が!
有り得ないでしょ?
で、突き飛ばされて倒れ込んだ場所が運悪く、小さな頃の気弱なアリアンがよく“挟まっていた植え込みの間”だったと。背後から「くそ、何で俺が!お前なんかいらねぇ!消えろ!」という暴言付きですよ。
マジ、有り得ない!
お昼寝の間にゆっくり記憶を辿っていたら、婚約者の犯行を見つけたのだけど、その直前まで、アリアンがキリッとしてたので、幼少期まで記憶を辿ることになりました。
ありのおかあしゃま きょうかえりゅ?
おとしゃまは?かえりゅ?
アリアン様のお母様とお父様は、とってもお忙しいので、今日は帰れないかもしれませんね。
ありのおかあしゃま きょうはかえりゅ?
おとしゃまは?
今日も凄く忙しくて、帰れないかも……しれませんね?
ねえ、アリアンのおかあさまは、どうしていつもお家にいないの?
おとうさまも。お忙しくても、普通はおうちに帰ってくるものではないの?
ここは、おとうさまとおかあさまのおうちではないの?アリアンだけのおうち?
忙しいおじいさまとおばあさまは、たまにだけど、アリアンに会いに来てくださるわ?
このお屋敷は、お父様とお母様とアリアン様のお家です。
アリアン様のお母様とお父様は、お城で大事なお仕事をされているので、普段はお城に住まわれているのですよ。
お祖父様とお祖母様もお忙しいのですが、お城に用事があるときには、こちらに寄ってくださるのですよ。
お城にアリアンも行くの?
お父様とお母様も一緒?
そうですよ。
王妃陛下と王女殿下にご挨拶するのだそうですよ。
お家に帰るの?
アリアンだけ?
お父様とお母様は?
お父様とお母様は、お城でのお仕事がありますからね。
さあ、アリアン様、わがまま言わずに帰りましょう?
アリアン、頭が痛いの。
お友達は、お母様になでなでしてもらったら、頭痛いの治ったって言ってたの。
アリアンも撫でてほしい。
お熱がありますね。お医者様を呼びましょう。
お医者様に出していただいたお薬を飲んで、しっかり眠られたら、きっとすぐに治りますよ。
お母様はお忙しいので、また今度お会いした時にお願いしてみましょうね。
アリアン、いらない子なのかも。
お友達にも、王女殿下にも、お父様お母様がいるのに、アリアンの側にはいないもの。
アリアン、ここのおうちの子じゃないなら、もしかして、追い出されちゃう?
どうしよう。
あ、誰かがアリアンの名前を呼んでる……。
どうしよう。怖い。
小さなアリアンは、不安になると、庭の植え込みの間に挟まって隠れていた。
小さく丸まって、誰にも見つからないように。
誰かに、探してもらえるように。
アリアン、ここにいたのね?と抱きしめてキスをしてもらえたら嬉しい。
アリアン、ここにいたのか!と、抱き上げて、ぎゅっとしてもらえると嬉しい。
でも、誰も迎えに来ない。助けに来ない。
庭の植え込みの間に挟まっていても、危険じゃないから。
お母様は探してくれない。
お父様も探してくれない。
でも、きっと、アリアンが上手に隠れているからなの。
探していても、見つからないだけ。
きっとそう。
小さなアリアンは、小さく丸まって。
誰にも見つからないように。
いらない子だと、追い出されたりしないように。
小さく丸まった。小さく小さく丸まった。
少し大きくなって、お城に頻繁に呼ばれる様になった頃には、小さく丸まっていたことを忘れていた。
庭の植え込みの間に、不安を残したまま。
ということで。アリアンちゃんの淋しい幼少時代が判明。自分で思い出し号泣しました!
明らかに自分を嫌悪している様子の婚約者に突き飛ばされ、“庭の植え込みの間”へのダイブで、一瞬精神が不安定に。そこに背後から投げかけられたアリアンの存在を否定する暴言。それがトリガーになり、孤独だった幼少期のトラウマが大爆発。
15歳が5歳以下にそのまま退行したわけじゃないけれど、トラウマのせいで、消極的で受け身なアリアンちゃんになってしまったと。私、マジ可哀想!
成長した今は、両親からの愛情も感じられるし、実際の関係も良いけど、当時、仕事に集中するあまり、子育てを放棄していた親が一番悪いと思う。乳母任せが普通でも、大事な場面で愛情を示すことぐらいは、時間を作ってしなきゃダメじゃん。馬鹿だよね。
だけど、トラウマとか関係なしに、婚約者は、最低な野郎!
仮にこのまま結婚しちゃったとするでしょ?そうすると、婚約者とアリアンちゃんの子供は、忙しい母親には会えず、妻と子供を毛嫌いしている父親には、無視されちゃうと思うの。アリアンちゃん以上に寂しすぎる未来しか見えないわよね!ダメダメ、可哀想すぎるわ、マイベービー!
そもそも、当主となる私をサポートする気なし、できる能力なしな相手と結婚するメリットってあるの?いや、ない!断言できるよ!
ああ、むかつく。
すんごい、むかつく!
許せん!許してはいかん!
よし。天誅だな。
頼れる長女を舐めんなよ!
でも今日はなんだか疲れたし。明日頑張ろう。
私の大好物のフルーツタルト、半分大事に残してあるから……食べて力つけよ。
料理長には、明日行く予定の王城に持参するお土産用もお願いしてあるから。
明日も食べられるの!テンション上がるわ〜!
仲良しの王女殿下の分も、お父様お母様の分もあるから、安心!
予備含め、6ホール頼んであるからね!
勿論、私用も入っています。当たり前!
王城に遊びに来ました!アポはとってます!
まずは、王女殿下にご挨拶。フルーツタルトを1ホール渡します。
そして、どうしましょうかと、婚約者のことを愚痴ります。
王女殿下の侍女が早歩きで部屋から出て行きました。
王女殿下と共に、王妃陛下のお部屋に呼ばれました。
側には勿論、お母様もいます。
まずは、王妃陛下にご挨拶。フルーツタルトを1ホール渡します。お母様にもそっと1ホールを渡します。
そして、どうしましょうかと、婚約者のことを愚痴ります。
王妃陛下が侍従を呼びました。侍従は早歩きで部屋から出て行きました。
お父様が、王妃陛下のお部屋に呼ばれました。
王妃陛下が、無言で私に合図を送ってきます。
なので、ご無沙汰しておりますと、お父様にご挨拶した後、フルーツタルトを1ホール渡します。
そして、どうしましょうかと、婚約者のことを愚痴ります。
みんなで、お茶入れのプロな侍女の美味しいお茶を飲みつつ、いろいろ相談します。
みんなイライラしているらしく、話しながらも、フルーツタルトを上品に、しかし、確実に消費しています。
私も自分の分を持っていますから、大丈夫。
思い出しイライラしながら、フルーツタルト1ホールを上品に、しかし、確実に消費しています。
1ホール、15センチサイズなので、余裕です。
あ、証拠の手紙も持参していますよ!はい、皆様、ご覧あれ!
お父様が、侍従に何か頼んでいます。
王妃陛下とお母様は何やらヒソヒソ話されています。
ニヤリ。楽しくなりそうですね。
私は、今日、王女殿下のお部屋に泊めていただきます。
宿代として、国王陛下にもフルーツタルトを1ホールお渡ししました!
王妃陛下に託したので、多分届いているでしょう。
今日は、家族全員仲良く、王城で寝ます!
別々の部屋ですけど。
翌日の午後。
運よく自宅にいたスチュード伯爵夫妻と、息子のアレンが、王妃陛下の呼び出しにより、登城しました。
お部屋は……国王陛下の執務室のあるフロアにある、応接室です。
王族の皆様は、この部屋の床から、椅子の座面ほどの高さにあるフロアの王族専用のカフェテーブルについて、お茶を飲まれています。そこから見下ろされる側の低い方の床には応接セットがあります。3人掛けの大きなソファーが2台。1つにはランバン次期伯爵夫妻に挟まれる形で私が座り、ローテーブルを挟んだ、向かい側のソファーでも同じく、スチュード伯爵夫妻に挟まれる形でアレンが座ります。
スチュード伯爵御一家は、王族の皆様にご挨拶した後、不安げな顔をしながら、ソファーに座りました。
「それであの、ランバン宰相補佐殿。我が家に関係する緊急事態ということで、家族で登城しましたが、一体何があったのでしょうか?そして、あの何故陛下たちが……」
「スチュード伯爵、当家の後継であるアリアンがアレン君と結んだ婚約から2年経ちましたね」
「はい?ああ、そうですね。我が家にとっても、アレンにとっても有難いお話で、来年の結婚を楽しみにしております」
「父上!有難いわけないじゃないですか!それに、どうしてそんなに謙る必要があるのですか!」
「ん?アレン、何を言っているのだ?」
そうですよね、何言ってんだ、コイツ!ですよね?
「スチュード伯爵、どうやら、アレン君は、我が娘アリアンや、親である私達夫婦のことが気に入らないらしいですぞ」
「ま、まさか、そんなそんな訳が!なあ、お前」
「そうですわ。アリアン嬢は素敵な方ですし、ランバン次期伯爵夫妻は非常に立派な尊敬できる方達ですもの」
「素敵?尊敬?何を馬鹿なことを、もしかして父上達は誰かに騙され!」
「こら、何を言い出すのだ!も、申し訳ござ」
「謝るのは向こうだろ!」
「ま、まあ、アレン、貴方何を……」
「何をって!」
婚約者は、おバカさんなので、ちゃんと自爆してくれます。えらいね!褒めてあげるよ!
「まず、アレン君は、私のことをランバン伯爵になれない、おじさんの癖に、貴族の家から独立していない脛齧りであると、見下しているそうで」
「は?ランバン伯爵になれない?見下す?」
「ランバン宰相補佐殿を?」
「事実だろ!」
「そして、婚約者であるアリアンのことは、脛齧りの娘だと」
「そうだ!」
「寄生虫親子だとか、スチュード伯爵ご夫妻を騙して、アレン君との婚約を結ばせた、詐欺師だとか」
「そんな馬鹿な……」
「……」
「そうです!父上達はこの寄生虫共に騙されているのです!」
「あ、アレン!」
「……」
「こいつらの悪行を、今日こそ裁いてやりましょう!」
「お前何をっ!」
「……」
顔色を悪くしたスチュード伯爵夫人は、既に言葉がでなくなっているご様子。伯爵も息も絶え絶えな感じですね。
「自分がランバン伯爵になってやるのは良いが、この無能な寄生虫を押し付けるのが条件なんて我慢できない!形だけでも結婚というのも冗談ではない。交流のお茶会など、時間の無駄。低能の病気がうつる。もしも結婚までに寄生虫を排除できなかった場合は、アリアンを地下室に監禁しても良いが、家で死なれると面倒なので、売り飛ばす予定だ。寄生虫のおじさんおばさんは、家に入れないことにすれば、そのうちのたれ死ぬだろう。こんなことを、アレンくんはこの2年、王都学園で吹聴しているそうで」
「……」
「ああ、アリアン伯爵令嬢じゃなく、伯爵の孫だから、平民みたいなもの!というのもありましたな。伯爵子息の自分が何故平民とあってやらねばならないのか!と、頻繁に愚痴っているそうですし。まあ内容がアホすぎて、外部に噂として流れたりはしていません。アリアンの幼少時の学友達も学園にはおりますから、アリアンには報告の手紙が何通か来たそうですが、大事にしたくないので、外部や家のものへの報告は待ってほしいとアリアンが(何故か必死に)頼んでいたそうです」
「それと、婚約者同士の最初の交流茶会では、庭に用意したガーデンテーブルまで案内していたアリアンを突き飛ばして転ばせ、何で俺が!お前なんかいらねぇ!消えてくれよ!という暴言を吐いたとか。自分勝手な、気分次第で変わるような茶会開催のルールを押し付け、両手に満たない回数しか来なかった茶会では一言も喋らず10分で帰る。喋らないくせに、罵詈雑言を殴り書きし丸めた紙を投げ捨てて行く。アレンくんの学園での発言と、茶会のルールや罵詈雑言を書いたメモのような手紙はこちらにあります。どうぞご覧になってください。別に、学園での発言と合わせて記録としてまとめたものがありますので、その冊子の方はお持ち帰りいただいて構いません」
震える手で殴り書きのメモを手に取り、読んでいくスチュード伯爵。ほんの数枚なので、すぐに読み終える。
夫人の方は、お茶会のルールを読みながら、ブルブルと震えている。
夫婦で読んでいたものを交換した後、スチュード伯爵夫妻は頭を抱えた。
まあ、抱えちゃうよね?
「アレン……頭があまり良くないとは思っていたが、まさかここまでのバカ……勘違いで暴走した挙句、婚約者とそのご両親のことを悪様に吹聴して回る様な、愚か者だとは思わなかった」
「なっ!父上!まだ目を覚まされていないのですか!?」
「目を覚まさないといけないのは、お前だ。いや、もう永遠に寝ていれば良い。お前はもうスチュード伯爵家という名前を使って、就職や結婚できる様な人間ではない」
「え?俺、すぐにランバン伯爵になるのですか?」
「そこからか……親として責任を持って、お前が理解できるように説明せねばならぬのだろうが……最早私にはその自信がない」
「私にもありません」
クソガキの教育は難しいですよね!わかります!
仕方がないので、アリアンちゃん、頑張ります!
「まあそれでは、最後になるでしょうから、私から説明させて頂きますわ」
そう宣言すれば、観覧中の王族席から拍手が起こる。
はい、お任せください!
「まず、勘違いのスタート地点から。ランバン伯爵家の当主が何故まだ、祖父なのか。それは、ランバン伯爵家の領地が、王都から馬車で2日の距離にあるため、現在王城で重職についている我が父が当代ランバン伯爵を継いでしまうと、様々な問題が発生するからです。
領地での仕事を当主代理として祖父母にある程度任せたとしても、当主自ら判断する必要があることはありますし、用意せねばならぬ書類もたくさんあります。王城に提出するものだけでなく、当主の持つ印章が必要な書類が多数あります。そうなると、頻繁に領地に赴く必要が出てきます。それは、ここ十数年自宅にすら帰宅できない王城での激務を抱えている父には不可能です。
祖父母としても、いちいち現伯爵の息子にお伺いを立てる必要があるのに、激務の息子となかなか連絡が取れず、対応してもらう時間ができるまで更に待つことになります。
そうなるとわかっているのに、息子に伯爵位を譲る理由があると思いますか?幸いにも現ランバン伯爵はまだ50代前半です。数十年前は成人結婚年齢が14歳とまだ若かった為、成人後に直ぐ結婚し子供に恵まれた場合、孫が成人する年代になっても、まだ十年以上は当主の仕事ができます。我が父が、ランバン伯爵となるのは、10年後か15年後か、王城の仕事を引退してからのこととなる予定です。ここまでお分かりになりました?」
「ランバン伯爵家の仕事がこなせないから、当主を任せられないってことだろう!俺が言ってたこととあまり変わらないじゃないか!」
わからなかったみたいですね。まあ、そうでしょうね。
「次に、父は、ランバン伯爵家子息であり、ランバン次期伯爵です。父が貴族でないなら、スチュード伯爵子息の貴方も、貴族ではないことになります」
「俺は、おじさんじゃないから!子供は良いんだ!」
子供なの?貴方、来年には結婚できる年なのですけど。義理父になる予定だった貴族に向かって、おじさん呼ばわり。貴方の脳年齢は、5歳児、いや、3歳児以下なの?そうなのでちゅね。おしゃべりできてえらいでちゅね!
この後の説明が、3歳児以下にわかるはずがないですが、まあ、良いでしょう。中身はともかく、成人直前な年齢ですからね。
「私は伯爵令嬢じゃなく、伯爵の孫だから、平民みたいなもの……との発言ですが、後継以外の孫に関しては、婚姻相手が平民であれば、平民となることもあります。ただ、現当主から、当主を引き継ぐ者の子供に関しては、成人までは全員法律で貴族に含まれることになっています。嫡男は成人後も貴族です。私の場合も、父の次の当主ですから、成人後も貴族子女のままです。アラン様は、来年貴族と結婚するか、騎士になれなければ、あなたがバカにしていた平民になりますねぇ」
「お、俺は、ランバン家の後継だから、貴族だ!お前が継げるわけがない!俺が認めない!」
いつの間にランバン家の子供になったのでしょう?不思議ですね?3歳以下にしてもおかしいですね?思考能力が迷子でしょうか?人間やめたとか?こわいでちゅね?
「婚約者や婚約者の家に対する暴言、暴力、悪評のばら撒き。婿入りした先で、将来の貴族家当主を地下室に監禁の上殺害、もしくは、人身売買、その両親の次期伯爵夫妻を屋敷から締め出し、財産を強奪。貴方は寄生虫ではありませんね」
「そうだ!俺はお前達寄生虫とは違う!」
「ですね。立派な凶悪犯です。慰謝料やらの賠償額がすごいことになるので、まずは労働刑からでしょうか。直ぐに死刑や漕役刑にはなりませんけど、とりあえず、学園にはもう通えないので、慰謝料の増額は無しになりそうでよかったですね!」
この異世界じゃないあっちの世界でも、暴行や窃盗はほぼ死罪の時代がありました。暴言や悪評のばら撒きも、大昔は大罪として厳しく罰せられたとか。日本でも悪口の咎で流罪とかありましたしね。まあ、ここでは悪口だけで死罪にはなりませんが、幾つもの罪を重ねている場合はどうなるのか。
アリアンの売り飛ばし方法を調べたり、買ってくれる業者を探したりと、口だけじゃなく実際に動いていたので、本気ではなかったという言い訳は最早通らないのですよ。
賠償請求で済ますものもありますので、死刑まではいかないでしょうけど、結構重い刑になるのは確実です。ばかでちゅね。
「し、死刑?そうえきけい?な!なにを言ってる!意味がわからん!」
意味を理解できる脳みそを持っていない婚約者は放置で、私は私の第一の目的を遂行する。
「私、アリアン・ランバンは、アレン・スチュードとの婚約を破棄すると共に、暴力暴言不名誉な悪評に対しての損害賠償を請求します。そして、ランバン伯爵家の乗っ取り計画と貴族子女の監禁殺害と人身売買計画未遂について、告訴します!」
婚約破棄するのは俺のほうからだ!とギャアギャアと騒ぐアレンは、陛下の前で手足を振り回して暴れたせいか、護衛騎士に拘束されて、部屋から連れ出されていった。この王城に牢屋などはないので、スチュード家に連れて帰られた後、処罰が決まるまで屋敷に軟禁となるだろう。
私は、王族の皆様が座っておられる方を向いて宣言した後、カーテシーをしてみせた。
「わかった。ランバン家からスチュード家とその子息アレンに対する婚約破棄と賠償請求を認める。貴族審議官に必要書類を提出するように。犯罪未遂に対しても、国の担当官を使うことを許す。アリアン嬢、もう書類は用意しているのだろう?それを後で提出しておくが良い」
鷹揚に頷き、許しと指示を与えた陛下に、再度カーテシーをしてみせた。アリアンの両側にいる両親も立ち上がって同じく礼をとっている。
「ありがとう存じます」
「スチュード伯爵、今後の話し合いについては、王城で、貴族審議官同席の上、執り行うことになる。縁がなくなった上に、この様なことになり残念ではあるが、我が家の婿としてアレンを迎える前に、相応しくない人間だとわかったのはまだしもの救いがあるというものだ。私もよく調べもせずに婚約させたことを反省している」
「……ランバン宰相補佐、この度は我が家の愚息が申し訳なかった。婚約の破棄は勿論だが、賠償金に関してもできる限りのことはさせていただく。……愚息に関しては、実は卒業にはまだ1年あるというのに、既に採用試験を受けられる人物にあらず、騎士科での学園卒業はできないので、他の科への編入試験を受けて、1年からやり直すか、退学しかないとの連絡が来た。此度のことがなくとも、アレンには、貴族家との縁組は無理だったようだ。剣で身を立てることもできず、家業の盛り立てや自領を治める手伝いすらできない上に、当主となる妻やその両親を害する気でいたなど……犯罪未遂に関しても、貴族家の名誉を傷つけたことも刑に含まれるだろうから、軽い刑罰にはならぬだろう。減刑など求めず、本人に償いをさせるつもりだ。アリアン嬢……」
最後に言葉を絞り出すかのようにして、父親同士の会話を終えたスチュード伯爵は、静かにアリアンに向けて黙礼をした。伯爵夫人は、もはや抜け殻の様で、声もない。夫婦は、そのまま侍従の案内で応接室を後にした。
「うむ。これで解決したかな?アリちゃん、大変だったねぇ」
王族の皆様と、ランバン家の者だけになったところで、国王陛下の口調がガラッと崩れる。ちっこい頃から遊びに来てたからね!親戚のおじさんみたいな感じです。6歳の頃は、王女殿下と一緒に、背中によじ登って遊んだものです。大きいから登り甲斐があって。
「いいえ!まだです!」
私の第二の目的を遂行しなくちゃなのだ。
「まず、お父様、お母様。あの様な、誰にも尊敬されていない、成績も態度も性格も悪いと王都学園入学数ヶ月後には既に有名だった大馬鹿者を、何故、私の婚約者に選ばれたのです?他に幾らでもいたでしょ?あれより上が!学園のほぼ全員があれより上ですよ!?」
「スチュード伯爵のところのアランが優秀だと聞いていたところに、息子の婿入り先を探していると聞いたのだ……」
アランとアレンは、似ているけれど、別人に決まってる。
〜のところ、〜の方はまるで詐欺師の引っ掛けみたいですね。お父様は自分で勝手に引っ掛かっていますけど。
「スチュード伯爵のところで働いているアラン・ジールド殿は優秀らしいですけれど、息子のアレンは、無能のクズですよね」
誰なの、ランバン宰相補佐が切れ者、有能だと言ってたのは。情報、大事ですよね?
仕事から家に帰ると、役所に出す書類も学校に出す書類も読めない書けない、炊飯器も洗濯機も動かせない、脳が思考停止するポンコツ亭主関白か!冷蔵庫を開けて、丁度目の前にある目的の物を眺めながら、「ないぞー!」と叫ぶ男!何故見えぬ!と、九条家のラスボスがいつも怒っていました。
アラン・ジールドさんのことは、彼がスチュード家で働く前に名前を聞いたことがあります。友人の友人の友人が街で見かけて一目惚れし、ラブレターを出したとか。既婚者だったので撃沈したそうです。
「それと。私、アリアンが、2年もあのバカに大人しく従っていた理由がわかりました!あのバカに突き飛ばされた際に幼い頃、屋敷に放置されていた頃のトラウマが蘇り、自尊心が限りなく低くなっていたのです。数日前に目が覚めましたので、対処に動き出せましたが、あのまま結婚していたらと思うとゾッとします」
「そういえば、この2年、アリーの様子がおかしかったものね。呼んでもなかなか遊びに来てくれないし。私も帝王学の勉強で忙しくてあまり時間がとれなかったし。ごめんなさいね。本当に、目が覚めてよかったわ」
幼馴染の王女殿下が頷いております。まあそうだね。すまん。そして、ありがとう。
そこから、幼い頃の私の様子を話せば、王族3名号泣。
うちの父母も号泣。
王城勤めでも、家庭を「捨てた」かのような働き方は許されないと、しっかり責め立てておきました。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイと念仏のように唱えられてもね?そんなに簡単に許すわけがないでしょ?慰謝料?お金でいただいてもねぇ?
財産等の被害が実はない我がランバン伯爵家に、スチュード伯爵家から支払われる賠償金。ある程度はこの私がいただきますので、お金には困らない予定なのです。え?当然でしょ?一番の被害者ですよ、私。皆様、よ〜く、ご存知ですよね?
ええ、ですので、私がお金では買えないものを、キッチリとね?請求させていただきますよ。後ほど。ニヤリ。
黒い笑顔が冴えわたる、アリアンちゃんです。
ざまあ!
反省しろ!
多分、近いうちに、王城での勤務体制は改善されるでしょう。
え?私がするの?侍女の役目じゃなくない?
まあ、間抜けな父には任せられないし、ヨボヨボおじいちゃんな宰相にも無理言えないけど。
侍女勤務は来年からだから、今は暇な筈?
確かに。
あ、でも婿がいなくなったのですけど。
「侍女の仕事場より、良い男との出会いがあるかもよ?」
親友が何故か自信満々である。
良い男がいるの?マジで?
親は信用できないので、自分で見つけちゃうよ?
でもね。仕事の話はまた今度。とりあえず、今日は家族で家に帰りましょう。
王城からのお土産品、超高級ぶどうタルト6ホールを山分けよ。
宝石のようにキラキラ輝くぶどうが堪りません!
そして、明日は、小さな頃の気弱なアリアンがよく“挟まっていた植え込みの間”に3人で座りましょう。
はみ出してもいいの。
3人で座れるぐらいに隙間を広げたっていいの。
なんなら、座り心地の良いベンチでも置いちゃいましょうか。
ありのおかあしゃま きょうかえりゅ?
おとしゃまは?かえりゅ?
帰るよ。
お母様も、お父様も。
アリアンのところに。
アリアン、ここにいたのね?と抱きしめてキスをしてもらえたら嬉しい。
アリアン、ここにいたのか!と、抱き上げて、ぎゅっとしてもらえると嬉しい。
抱き上げてもらうのは流石に無理だけど。
ぎゅっとして。
ほっぺにキスぐらいはできるかも?
あ、だめ。きもいです。
キスは、ノーセンキューよ。
家族でのキスの文化はありません!いや、あるか。
もうちっちゃくない、乙女へのキスは未来の婚約者にとっておくよ!
夢の中で、小さく丸まっていたアリアンが、キャハハと笑って、手を伸ばす。
そっと抱き上げて、ぎゅっとして。
アリアン見ぃつけた!とキスをした。
fin
続編短編あり。断罪の怖い話です。親が気付けなかったアレンの暴走についてはこちらに書いています。
「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
https://ncode.syosetu.com/n4606jd/
*我が家の婿にアレンがおさまる前に→漢字が「納」でも「収」でも、良い意味になってしまうので、「おさまる」という表現自体を変更しました。
新作の短編(長め)なのを出しました。
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
https://ncode.syosetu.com/n9547jd/
*誤字報告に、感謝です!