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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第1章 勇者の航跡
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第9話 ネモフィラお母様は父上の墓前で歌う

 「それじゃ、行ってきます!」

 「行ってらっしゃい。」


 全員が駅まで見送りに来てくれた。

 というか

 領主邸近辺の商店街の人達まで。

 モイラさんなんてお弁当まで拵えてきてくれた。

 モイラさんのお弁当、とっても美味しいから大好き。ありがたいなぁ。

 ちょっと気恥ずかしいけど、みんな私達が心配なんだろうなぁ。


 「それじゃ、行きましょうか。」

 「はい、ネモフィラお母様。」

 「エストまでは一緒だね、二人とも。」

 「そうだね、コキア、アドニス。一緒に出掛けるなんてほんとに久しぶりだよね。」

 「ま、俺は護衛も兼ねてるからな。というかだな、母さんもディーナ姉もシャルル姉も、コキアもだ。」

 「ん?」

 「顔、隠しとけよ。今のうちに。」


 そう、人魚であるネモフィラお母様、その子であるコキアとアドニスには“魅了”の力がある。

 まぁ、私とシャルルにもあるんだけど、ネモフィラお母様のその力は私達を遥かに凌駕するほど。

 流石にそんな集団が一般の人の中に居たら大変な事になっちゃうな。

 とはいえ

 ネモフィラお母様は、その魅了の能力を封じる術を持っている。

 以前にウリエル様に教えてもらったんだって。


 そのウリエル様は、今は私達と一緒にいない。

 “ワールド”と称される勇者のみが装備できる装具。それがウリエル様の本体なんだけど、今は実体として顕現しているのでこの装具はいまは空き家状態だ。

 ルナ様と一緒に、どこかで私達を見ているんだと思う。


 列車に揺られる事4時間程で、エスト王国の王都の駅に着いた。

 昔は馬車で数日の旅だったけど、今じゃこんなに早く着くのね。

 つくづく鉄道っていうのは凄いと思う。

 

 「さあ、私は今から父上の墓前にいきますけど、ディーナとシャルルはどうしますか?」

 「私も行きます。」

 「そうね、私も。」

 「うふふ、では、行きましょうか。すぐ近くですからね。」

 「あ、母さん、あれ。」


 アドニスが指さす先には『ネモフィラ様御一行』と書かれた紙を広げている集団が居た。

 馬車を待機させ、中には兵士?みたいな人もいる。


 「あぁ、もう、ディノブ様ったら、こういうのは遠慮しますって言っていたのに……」


 ネモフィラお母様は少し困惑気味に嘆息する。

 現在のエスト王であるディノブ様は、ブナガ様のひ孫にあたるそうで、ネモフィラお母様をとても慕っているんだって。

 こうしてネモフィラお母様が来る度に、派手に出迎えるんだとか。

 実は、それをディノブ様に入れ知恵したのはお父様だったりする。

 何でも、『サプライズ』とか言っていた。


 「ネモフィラ様、コキア様、アドニス様、ようこそ、お待ちしておりました!」


 まだ若いディノブ様が直々に出迎えてくれた。


 「おお、今日はディーナ様とシャルル様も一緒ではないですか、ようこそ!」

 「「 お久しぶりです、ディノブ王。 」」

 「もう、ディノブ様、あまり派手な事は、というかお出迎えも遠慮しますと言ってますのに……」

 「何をおっしゃいますかネモフィラ様、これは当然の事なのです。というか、僕が出迎えをしたいのですから!」


 ちなみに、ディノブ様の奥方の一人は人魚族だ。

 女性に縁がないディノブ様にネモフィラお母様がお引き合わせしたらしい。 

 こんなにイケメンなのに縁がない、というのは、ブナガ様の血筋、とか言っていた。

 

 「ささ、早速墓地へと向かいましょう。どうぞ、馬車へお乗りください。」


 ものの10分程で王族の墓地へと到着した。

 墓地に入れるのは王族関係者のみで、一般の慰問者は柵の外でお参りするんだって。

 その中でひときわ立派な墓標が、ブナガ王のお墓だ。

 エスト王国において、人間と魔族の調和を果たした偉大な王、という事らしい。

 ただ

 その墓標の隅っこに、『本当は勇者を補助したただの偉い人』と彫られているのはお茶目なブナガ王らしい。

 

 墓前に来ると、ディノブ様達は墓標とネモフィラお母様に一礼し、一旦柵外へと移動した。

 ネモフィラお母様は、ここに来ると墓標に向かい歌を捧げるのが通例だ。

 その歌は決まっている訳でなく、時にはブナガ王を慕う歌、あるいはブナガ王を讃える歌、または今の幸せを感謝する歌、などなど沢山あるみたいだ。

 旋律は同じだけど、内容が違う。

 これはネモフィラ様曰く


 「その時に頭に浮かんだ事を歌にのせているのです。私が考えた言葉ではありませんよ。」


 との事だ。

 で、今回私達が付き添っているのには訳がある、とも言った。


 そうして、ネモフィラお母様は歌を歌い始めた。

 マーメイドと言われる人魚族のネモフィラお母様の歌声には、“魅了”の力がある。

 私やシャルル、お母様達の比ではないくらいの強力な能力だ。

 私達家族にはほとんど影響はないけど、他の者が聴くと大変な事になる。

 だから、ディノブ様達は柵外へと避難したんだ。


 ネモフィラお母様は歌う。

 その旋律はとても美しく、のびやかな声もあってとても心に染む。

 その歌の内容は、私とシャルルの頭に、心に、とても響いてきた。


 ほんの一小節だけの歌。

 けれど、凄く心に残った歌。

 ブナガ王への歌、というよりも、今の私達へ贈る歌のようにも思えた。


 歌い終えたネモフィラお母様は言う。


 「ねぇ、ディーナ、シャルル。この後はとても辛く厳しい事があるでしょうけど、その時は今の歌を思い出して、ね。」



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