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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第3章 修行の旅へ ~もう一つの世界編~
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第45話 ネモフィラお母様の唄

 幸いにして衝突による船体への致命的な損傷は避けられた、みたいなんだけど。

 相手の船首は大きく破損したみたい。

 あれ、このままじゃ沈んじゃうんじゃ?

 部屋のドアは開けっ放しで固定されているので、操舵室の声は良く聞き取れる。


 「キャプテン、左舷中部の外殻が損傷、微浸水している模様!」

 「左舷バルジも損壊、姿勢が不安定になります!」

 「操舵はできるか!?」

 「できますが、波が大きくバランスも悪いので思うように行きません!」

 「きばれ!乗員全員に救命具の再確認をさせろ!部屋から出るなと伝えるんだ!」

 「アイアイサー!」


 ちょっと、ヤバい状況、かな……

 でも、沈むことは無いみたいだけど、あっちの船はヤバいんじゃないかな。

 

 「ねぇ、ディーナ、あの船、ちょっとマズいよね。」

 「あ、ちょっと船首が下がってる?」

 「え?それ、船首から浸水してるんじゃ!?」

 「あっち、乗客がいっぱい居そうだけど、大丈夫なのかな?」


 とはいえあっちの船も心配だけど、こっちもこっちでもう大変だった。

 乗客は全員パニックになっていて、乗員もそれを抑える暇もないくらい慌てているし。

 何人かはこの嵐の中船外で救命船の準備をしているし。


 私達もちょっと、というか、かなり怖い。

 そんな周囲を他所に、ルナ様とウリエル様は寛いでいた。


 そんな状況が4時間程続いた所で、波風は少し収まったみたいだ。

 どうやら暴風圏を抜けたのかな、でも雨風が強く波がうねっているのは変わらない。

 ピークを越えただけ、だよね、これ。

 幸いにも私達の船は航行はかろうじてできるみたいだけど、並走していた船はもう普通の喫水線よりはるか上まで水面に沈んでいる。


 「キャプテン!救難信号です!」

 「ああ!見りゃわかる、ひとまず曳航の準備をしろ!」

 「このまま方位090を維持、時化の海域を離脱します!」

 「全速前進!」

 「ダメです、パドルが損傷しています!」

 「構わん!スクリューだけで少しでも進めばいい!」


 どうやらこちらも進む力があまり出せないみたい。

 でも、少しずつ嵐も収まってきている、というか嵐の外に向かっているみたいね。

 そしてしばらくすると……


 「船長さん!大丈夫ですか?」

 「怪我を!?」

 「ああ、すみません、なにせブリッジは大変だったものですから、それよりもう嵐の範囲からは出ましたのでご安心を。」

 「わかりました、ちょっと、ごめんなさい。」


 頭や腕をぶつけたんだろうか、怪我をして血を流している船長さんに治癒の魔法をかけた。


 「おお!これは!?」

 「治癒魔法です。私達は他の乗員を見てまわって救護をしたいと思うんですけど、いいですか?」

 「そ、それはありがたいのですが、あなた達にそんな事を……」

 「いいえ、させてください!」

 「わかりました、許可します。ただ、気を付けてください、まだ波は高くバルジも欠損していますので、不安定で揺れは大きいですから。」

 「「 はい! 」」


 私とシャルルは船内を駆け回って怪我人がいれば治癒してまわった。

 幸いにも怪我人だけで済んでいるけど、あっちの船が気にかかる。

 まだ風も強いけど、デッキに出てあっちの船を見ると、もう沈没寸前のようだった。

 曳航しているからそうなればこちらも引きずられるので、ロープの係の人は戦々恐々の面持ちで、切り離す時を待っている。


 「ど、どうしよう……」

 「このままじゃ、あっちの船の人、死んじゃう……」

 「でも、この天気じゃ、というか私達じゃ……」


 と、そんな悲観的な状況に悩んでいると、かすかに聞いたことのあるメロディーが聞こえてきた。

 こんな時に、乗員乗客の誰かが歌っているんだろうか。

 でも、そのメロディーは外から聞こえる?


 そのメロディーが聞こえてから、波はみるみる内に穏やかになり風も弱くなってきた。

 そして、その歌声はさらに大きく聞こえてきた。

 恐る恐る歌声の聞こえる方向、海面を見てみると……


 「こ、これって!?」

 「ネモフィラお母様!じゃないよね、でもマーメイド?」

 

 数十人の人魚の方たちが、歌を合唱しながらあっちの船の様子を見ている。

 と、一人の人魚が私達に気づいたみたいで


 「あちらの船に救命船を!その間荒れた海を抑えておきます!」

 「は、はい!」


 直ぐに船長さんへ報告し、救命船を下ろして客船へと救助班が向かった。

 客船にはそれほど乗客はおらず、最後にあっちの船長さんを救出した所で曳航ロープが切り離された。

 すると、客船はほどなくして沈没した。

 とにかく、助かったのね、あっちの人達も。

 ホッとして、人魚族の方にお礼を言おうとおもったら、もう誰も居なかった。

 人間にあまり姿を見られたくないのもあるだろうし、魅了の力も強いので色々と不都合も生じるんだろうなぁ。


 人魚族が姿を消してからしばらくすると、海は再び少し荒れた状態になった。

 でも、航行には支障はない、よね、きっと。

 すると


 「ルナ様、ウリエル様、ディーナ様、シャルル様、お知らせがあります。」


 航海士の一人だろう、先ほど船内を駆け回っていた人だ。


 「当船は航行が困難になりましたので、この先の島で緊急停泊、船体の修理にとりかかります。」

 「え?船が壊れたんですか?」

 「は、はい、少しだけですが、このままでは悪化する恐れがありますので。なので、目的地までの到着日時が4日ほど遅れます。」

 「それは良いのですが……」

 「では、失礼します。あ、それと、皆の救護、有難うございました!」


 航海士さんはそう言って戻っていった。


 「まぁ、ここは大人しくしておくしかないな。」

 「しかし、あれはネモフィラと同じ種族なのか?」

 「だろうよ。いっぱい居るんだな、意外と。」

 「人魚族って、あんな力があるんですね。」

 「ああ、アタイも知らなかったよ。」

 「私が聞いていたのは、逆に歌で船を沈めるって話だったがな。」

 「あの、それって誰に聞いた話なんですか?」

 「ああ、タカヒロだ。もっとも、この世界のマーメイドは違うとも言ってたが。」

 「色んな見方があるっていう事ですね。」


 でも、あの歌、いいえ、唄、かな。

 あのメロディーは間違いなくネモフィラお母様がブナガ様の墓前で唄ったのと同じメロディーだった。

 ふと、あの時の歌詞を思い出した。

 今、私が感じている無力感、それを痛感して落ち込む私を、励ますような歌詞だった、ような気がした。

 シャルルを見ると、同じ事を思ったんだろう。

 頭を振った後にこぶしを握り締め、力強く頷いた。

 気弱になっちゃダメだ、乗り越えて前に進もう!というサインだ。

 

 ネモフィラお母様の唄は、やっぱり心を揺さぶる凄い唄なんだなぁ。


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