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そんな私はヴァンパイア  作者: 松栄
第12章 番外編 華麗なる新文化
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華麗なる新文化-9 カレーなる新文化

いよいよフィナーレ!

最終回です!


 記念すべきダイアモンドカレーの新発売を数日後に控えたある日の深夜。

 食事処金剛に、一つの事件が降りかかった。

 いや、事件などという次元の話ではないのだが……


 「いらっしゃいま……あれ!?波旬ちゃん!!」

 「あー!ホントだ!」

 「マジで!?あ、ホントだ!」

 「相変わらず怖いしカワイイな!」


 本当に突然、フラっと来店したのはあの波旬だ。

 私やウリエルは当然だが一気に緊迫感が高まり臨戦態勢に入ったのは言うまでもない。

 認識の無いグリペンやホワグテルでさえ、恐怖に体が固まってしまったのだ。

 喜んでいたのはディーナ達だけだ。


 「来たぞ。何だお前達のその恰好は。似合い過ぎてるな。」

 「ていうか波旬ちゃんも何そのカワイイ恰好!?」

 「ムフフ、良いだろう?これはココロが仕立ててくれたんだよ。餞別だと言ってな。」

 「餞別?」

 「うむ、私はもう自分の世界に還るのだ。最後にこの世界、そしてお前達に会っておこうと思ってな。」


 何のことはない、別れの挨拶に立ち寄っただけだと言うのだが、コイツは存在するだけでこの世の脅威なのだ。

 私やウリエルの力など、足元にも及ばないとも思える脅威。

 それはタカヒロや天照、サタンも同じように感じていたそうだ。

 そんなコイツにこれほどまでにフレンドリーに接する事ができるのは、恐らくはこの4人とココロだけ、なのだろう。


 「そうなんだ、自分の世界に、か……じゃあ、さ!」

 「だな、ハーちゃん、俺らも餞別、っていうにはアレだけど、俺らの料理を食べてってよ!」

 「お前達の料理?」

 「波旬ちゃん食べ物って」

 「私はかなりのグルメだぞ?未だかつて人間が食するもので満足したモノ、美味しいと思ったモノはない。」

 「ま、マジか!ハードル高そうだな……」

 「が、しかしだ。恐らくは私の最大の敵、脅威であろうお前達の料理とやらは興味があるな。」

 「あはは、じゃあ、待っててくれよ。今作るぜ!」


 たぶんだが、この波旬という存在に対して唯一相対できるのはこの4人だけ、なのだろう。

 というか、相対どころか波旬をも軽く消し去る程の力があるのだろうな。


 「お前、ルナだったな。良く解るな。あいつらはレベルとしてはもはや私をも上回る存在だぞ。それ故興味があったわけだがな。」

 「お前…そうか、とはいえあの4人以外にはお前こそ恐怖の対象でしかないんだがな……」

 「あはは、ま、そうだろうな。私自身それが何故かは知らないのだがな。

 だが、ココロにも言われたが、私も少し変化しているらしいな。それは私の力を弱めてしまうらしいけどな。」

 「あー、何となくだけどよ、解る気がするぜ……」

 「なるほどな……」


 「はい!おまたせしましたー!」

 「……これは、何だ?」

 「カレーライスです!」

 「カレーライス?」


 恐らくは、コイツは食事という概念、習慣は元々無いのだろう。

 そもそもそのような行為を必要としない存在なのだろうからだ。

 が、モノを食むという行為自体はできるらしく、その辺りは私達と変わりないらしい。

 というか、自身をグルメと言い切るくらいだからな。

 そんなコイツは目の前に出されたカレーライスの香りを嗅ぐと


 「なんだか“食欲”というものをいたく刺激する物体だな……」


 とつぶやいた。

 そしてディーナ達に勧められるまま、コイツはカレーライスを一口頬張った。

 その瞬間、動きを止めた波旬は、咀嚼して呑み込んだ後に告げる。


 「……人間というのは、やはりズルいな。」


 それだけ言って、3杯もお替りをした。

 その時の波旬の表情は、柔和な何とも言えない表情をしていた。

 

 「人間は、こういうモノを気心の知れた者と一緒に摂取する事が幸せと感じるのだろうな。

 私が人間を羨む要素の一つだ。お前達、本当にお前達は私にとって最大の敵性存在、なんだな……」


 私達が終始戦々恐々とした雰囲気の中、しばし4人と波旬は談笑し、そして波旬は還って行った。

 もう、この世界に来ることは無い、そして、最後にこの世界で素晴らしい時間を過ごせた事を、私達に感謝して。


 一気に緊張感が失せ静まり返った店内で、タカはポツリと呟いたのだ。


 「気心の知れた者と一緒に、か……」


 その言葉には、タカとヒロがこれまでに経験しえなかった家族団らんというものに羨望を抱いている事を浮き彫りにしたんだろう。

 それは、この二人のこれまでを知るディーナとシャルル、そして私達には痛いほど理解できた。

 何より、私自身も、この世界に転生するまで知り得なかった事なのだ。


 「このカレーライスが、そういう温かいモノに一役買えるんなら、さ……」

 「だな。オレ達はコレに、それ以上何も望まない、かな。」

 「タカ……」

 「ヒロ……」

 「誰かと一緒に、っていうのは、最高のかくし味だろな。このカレーに限らずな。」

 「ああ、最高のスパイスだぜ。」

 

 好き嫌いや体質との相性などもあるだろうが、一度に数人分作る事になるこのカレーは、確かにそういう場面の要素としてはこの上ない存在になるのだろうな。

 この世界に無数に存在する家族、あるいは、やむなくそうではない者に対しても。

 そういったかけがえのないモノに対して、この二人は羨望以上の想いをこのカレーに込めたんだと思う。

 そこは流石に勇者と言った所だろうな。

 何も戦闘能力が高いだけが勇者じゃないっていうのを、今まさに実感したよ。

 波旬、まさかそれを気付かせるために立ち寄ったのではあるまいな。


 ともあれ、そんな事もありつつダイアモンドカレー甘口、中辛、辛口は、数日後には全世界一斉発売となるのだった。

 



 ―――――



 「えーっとですね、出荷した初期ロット分10万食ですけど……完売しちゃったらしいです!」

 

 食事処 金剛の店内で、電話を受けたディーナがそんな事を言った。

 一斉発売して2日後のことだった。

 エルウッドのレイ商会30店舗でも即完売したらしく、マコーミックの流通経路で卸販売したルートでも同じだったらしい。

 購入した者からの評判も良く、惜しくも入手できなかった人々は相当悔しがっていたそうだ。

 その為各店舗では次回入荷の問い合わせが相次ぎ、ちょっとしたパニックになったそうだ。


 工場での生産は続いているが日産900食ではとてもじゃないが需要に追い付かないだろう。

 その知らせを受けて、トキワからティアマトへと打診というか指示が飛んだ。

 需要が落ち着くまで、工場稼働の2直体制を継続して増産するんだとか。

 資材在庫状況や入荷状況、設備メンテナンスもあることから24時間フル稼働はできないし従業員の確保も難しい事もある。

 とはいえ、それだけ評判になったという事で関連する工場などのスタッフ全員はやる気に満ちているようだな。

 

 ともあれ、こうしてダイアモンドカレーは人々に受け入れられたという事だ。

 それが食事処 金剛で提供しているカレーライスとは違ったとしても、だ。


 「完売するとは思わなかったなー。」

 「だよね。前評判とかそう言う話は聞かなかったもんね。」

 「アレかな、PR活動のお陰なのかな?」

 「そーかもねー……」


 そんな話をしている4人なのだが、その前評判というのは実は世界中に広まっていたのだ。

 もちろんそこには噂を広めるなど暗躍した者達も居たのだが、その者達とて実際に口にしてみたからこそ力を入れて広報したそうだ。

 また、これに付随して波及効果を生んだ所もあったりする。

 農業と畜産だ。

 ベーシックなカレーライスを作る際に必須というか推奨した具材、ニンジン、玉葱、ジャガタライモは若干品薄状態になるくらいまで売れたんだとか。

 牛肉や豚肉、鶏肉なども同じらしく、購入者はそれぞれ好みで使い分けているのだろう、チキンカレーなる亜種も流行の兆しを見せていたのだ。

 

 「とにかく、これでカレーライスが誰でも食べられるようになったんだね!」

 「ああ、俺達の想いが、これで……」

 「なんつぅか、一仕事終えてホッとした感じだよなぁ。」

 「あは、でも、まだ終わりじゃないよね、きっと。」


 そうなのだ。

 この子達はもう次の事を考えていたらしい。

 

 こうして、瞬く間にダイアモンドカレーは大好評となり全世界で受け入れられた。

 新発売から一ヵ月後、私とウリエル、アルテミスはヒマを見つけてはあちこちに行ってそれを実感する事になる。

 ある家庭では夕食に家族で食卓を囲み、楽しそうに、美味しそうにカレーライスを頬張っていた。

 学校という学び舎で給食というシステムを運用している場所でもメニューに加わり、学童は美味しそうに食べていた。

 各国にある孤児施設でも、事故や病気で親を亡くした子たちの為に施設の者がカレーライスを作り、食卓を囲み皆笑顔で食べていた。

 

 カレーライスという、遥か昔に存在し一度は滅んだ食文化は、1万2千年の時を経て再び世界に定着したようだな。

 この状況を見て、アイツはどう思うんだろうな。

 ふと、そんな考えが過った。


 「でもよ、少なくともアイツも喜んでると思うぜ?」

 「そう…だろうな。それも、単にカレーが再現された事じゃないんだろうな、きっと。」


 簡易的なカレーライスを再現し、それを全世界へと広めた事は確かに凄い事だと思う。

 でも、だ。

 ディーナ達が求めていたのはその先にあるものだった、という所がよく理解できた。

 この前カスミが語ったカレーライスにまつわる家族の話。

 そもそもアイツがカレーライスを作って家族と食卓を囲んだ事。

 かつてアイツは私に言った事がある。

 

 「どんなに美味しい食事でもな、一人孤独にもそもそと食ってるとさ、美味しさなんか感じない、寂しさしか感じないんだよ。」


 それを聞いた時に思い当たる節はあった。

 200年ほど前にこの世界に転生して間もなく、一人であちこち行っていた時に私自身感じた事でもあるからだ。

 人は仕事などの事情で、時にはそうして一人でメシを喰う時もあるだろう。

 だからこそ、誰かと食卓を囲むというのは貴重で大切な、かけがえのない事なのだろうな。

 そんな貴重で尊い時間を最大限に演出できる食事、それがこのカレーライスに込められた想いだ。

 他ならぬタカとヒロが、そう願ったのだからな。


 “カレー”なる、新たな食文化。


 それを作り上げた功績は果てしなく大きなものだろう。

 だが、ディーナ達は言う。


 「あの封書の山が無かったら、これは無かったものね。」

 「ああ、俺達じゃねぇよな、人々の願いがコレを作ったんだな。」


 やはり、この子達はこういう者だと改めて実感したよ。

 もう、この子達には私やウリエルが居なくても充分だろうな。

 そう思った時、ディーナは言った。


 「次はシチューだよね!」


 ……4人の野望は止まらないようだ。

 何だろう、もう、この子達から目が離せない気がする。

 行く末を、このまま見届けなければならないと、今さらながらに思ったのだ。



 Fin




 短かったような、長かったような、どちらとも感じられますが。

 ともあれ、ここまでご拝読していただいた皆様には心からの感謝を。


 これで、「そんな私はヴァンパイア」は完結となりました。

 とても寂しく感じますが、こればかりは仕方がありません。


 次回作品は今の所白紙、でございます。

 が、近いうちに公開できるかも知れませんが、次の作品は全く違うモノになるかと。

 もしかすると、今作品、前作品との繋がりもあるかもないかも、です。

 

 それでは、本当にありがとうございました。

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